魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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第260話 (2) 魔理沙の記憶③  致命的な誤算

 タイムリバースを宣言した瞬間、世界が大きく揺れる。いや、揺れているのは私なのか。

 まるで大岩に押しつぶされているかのような強烈な負荷が掛かり、気絶しそうになるものの、気合で意識を保つ。

 

「皆さん見てください! 時間が止まってます!」

 

 アンナの声で宙に浮かぶ時計を見ると、午前0時26分15秒で数字が停止している。

 周囲を見れば超高層マンションの融解が止まり、空を見上げれば今にも落ちてきそうな太陽も動きを止めていた。

 

「へぇ、これが時間が止まった世界か」

「本当に全てが止まっているのね。不思議だわ」

「咲夜はいつもこんな景色を見てるのねぇ」

「う、宇宙ネットワークに繋がりません。こ、こんな事があるのですか……!?」

「仕組みはよく知らないけど、私達以外の物質の運動が止まっているんでしょ? 宇宙ネットワークを構築しているサーバー? も止まっているんじゃないかな」

 

 しかし時間を停止しただけで、戻らなければ意味が無い。

 私は咲夜の時間操作能力を駆使して時を戻そうと試みるが、時刻がチカチカ点滅するばかりで上手くいかない。現状、辛うじて時間の進行を食い止めているだけで、じわじわとカウントが増えている。

 

「くっ……!」

 

 明らかに出力が足りてない。いや、それだけではなく時間操作の練度も足りてないのだろう。普段の咲夜なら造作も無く時を止めるのに、私は既に一杯一杯だ。

 やはりぶっつけ本番なのがまずかったのだろうか。あるいは私の魔法式にミスがあったのかもしれない。いずれにせよ反省する時間も、やり直す機会も無い。今はとにかくこの魔法を成功させないと、全員お陀仏だ。

 

(さて、どうする?)

 

 二人の〝私”とアリス、咲夜の顔色は芳しくなく、これ以上力を引き出そうとすれば倒れてしまうかもしれない。

 一方女神咲夜は顔色を変える事無く、私を見定めるかのような視線を送っている。流石に時の神なだけあって、まだまだ余裕があるようだ。

 私は女神咲夜から更に時の力を引き出すべく、意識を向けようとした時、全身に悪寒が走る。この感覚は言葉で表現するのは難しく、第六感とも言うべきか、理屈ではない何かの警告だと直感的に理解した。

 

(でもやるしかない――)

 

 私は本能の警告を無視して、女神咲夜の時の力に意識を向けた時だった。突如として私の意識は真っ暗な宇宙の中に飛ばされる。

 

(んなっ!?)

 

 宇宙空間の中には星の代わりに、様々な形の時計盤が無数に浮かび、全てがデタラメな時間を指している。いつかどこかで見た光景だ。確か時の回廊が真の姿を現す前だったか……。

 しかしあの時と違って、私の意識は金縛りにあったかのように動かない。なんとかならないかと悪戦苦闘していると、いつの間にか中心に女神咲夜が立っていた。

 彼女は此方に向かってゆっくり近づき、私の目の前で立ち止まった。

 

『まさか貴女が私の世界に入り込むとはね。表層の私は余程気に入ってるのかしら』

 

 表層の私? まさか彼女は女神咲夜の心の中の人格なのか? 

 

『これ以上進むと後戻りできなくなるわよ。本当にいいの?』

 

 それはどういう意味なのか? そう問いかけようとしたが声が出ない。

 

『…………』

 

 女神咲夜は私の答えをじっと待っているみたいだけど、本当に声が出せないんだよ。一体どうしろと言うんだ。

 とりあえず心の中で念じてみる。(私は覚悟は出来ている)と。

  

『それが貴女の答えなのね。いいわ、力を貸しましょう』

 

 私の心が通じたようで、咲夜は私の両手を優しく握る。彼女から冷たくも温かい不思議な力が流れてきて、視界の奥に銀色の懐中時計が映る。

 

『また貴女と再会できる事を願っていますわ』

 

 平衡感覚を失い、全てが逆さまになるような感覚。気付けば私の意識は現実に帰還していた。

 

(今のは――いいや、それよりも)

 

 私は時の力の奔流に吐きそうになりながらも叫んだ。

 

「クソッ、戻れぇ!」

 

 反転時計魔法陣の輝きがより強くなり、時間が少しずつ戻って行く。

 頭上の太陽はだんだん遠ざかって行き、融解した超高層マンションは元の形を取り戻していく。

 

「時間が戻ってるわ!」

「すごいね! 逆再生で映像を見てるみたいだ」

「その調子よ魔理沙!」

 

 霊夢達から喜びの声が上がるが、まだ午前0時20分までしか遡れていない。既に私の思考は真っ白になりつつあるのに、あと7時間もある事に心が折れそうだ。

 身体が燃えるように熱く、筋肉が軋んで悲鳴を上げている。これ以上続けてはいけないと、脳が警告をしている。

 しかしそれでもやらなきゃいけない。せめてメビウスの輪から抜け出さないと、タイムジャンプが使えない。

 

「うおおおおおお!」

 

(戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ!)

 

 歯を食いしばって苦しみに耐えながら、一心不乱に念じ続けて――身体の感覚が無くなった。

 

(あれ――)

 

 揺れる視界、霧散していく思考。刹那の瞬間において辛うじて理解できたのは、私の内側から発生したタイムホールによって、私が呑み込まれたということだ。

 

「キャア!」「な、なんだよこれ!?」「魔理沙!?」「巻き込まれるわ! 離れて!」「駄目だ。逃げられない!」

 

 誰かの叫び声が聞こえるが、状況を把握できない。

 ああ、いったいどうしてこんな事になってしまったのか。〝時間を巻き戻す”のが正解では無かったのか?

 ただ一つ言えるのは、私は失敗してしまったという事だ。

 

「魔理沙ー!」

 

 薄れゆく意識の中、最後に目に映ったのは私に向かって手を伸ばす霊夢の姿だった。

 

 

 

 

『やれやれ、しょうがないな』

 

 タイムホールの中で誰かが私を引っ張り上げたような気がした――。

 

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