簡単なあらすじ (第5章第189話以降)
アプト星に遊びに来た魔理沙達。途中で女神咲夜とも合流し、観光を楽しんでいた。
VRゲームを楽しんでいた魔理沙に、身に覚えのない記憶が蘇り、現在の歴史が改変された後の歴史だと知る。
戸惑う魔理沙に、更なる記憶が蘇った。
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――紀元前38億9999万9999年8月18日午後6時35分(協定世界時)――
「――っ!?」
反射的に飛び起きた私は、すぐに状況を確認する。
私達を囲むように超高層ビルが立ち並び、現実世界と重なるように半透明に映る宇宙ネットワーク内には様々な業種の店が軒を連ねて、数多の人々でごった返している。
中心には天高く聳え立つトルセンド塔。背後には私をじっと見つめる咲夜。少し離れた場所には、空中に投影したマセイト繫華街の地図を見ながら、霊夢、マリサ、にとり、妹紅、アンナが話し合っている。どうやら今日の晩御飯を食べる店を選んでいるようだ。
「ここは……トルセンド広場なのか……?」
空を見上げても青く澄んだ空が広がっていて、タイムホールの影も形もなく、人工太陽ラケノが接近していることもない。勿論前方に見えるトルセンド塔は無傷で、周囲の超高層ビルも健在だ。
「どうしたの魔理沙? 凄い汗をかいてるわよ」
「ああ、いや……」
心配そうに近づいてきた霊夢に、私には生返事しかできなかった。
例えるなら、自分が死ぬ夢を見て飛び起きた時のような嫌な感覚が依然として纏わりついていて、気持ちが落ち着かない。
(今の記憶はなんなんだよ……!?)
アンナの自宅に招かれた直後に起きたリュンガルトの襲撃から始まり、タイムジャンプの暴走による巨大なタイムホールの発生の後、様々な年代の幻想郷からやってきた霊夢達から聞かされたメビウスの輪による時間軸の破壊。そしてタイムリバースによる私の自滅……。
6時間足らずの出来事とは思えない。
(私は……生きてるのか?)
私は自分の身体をペタペタと触りつつ、魔力を流してチェックする。未だに動悸が止まらないが、身体は至って健康体だった。あの時の身体が消えて無くなるような嫌な感触はない。
(そうだ。今は何時何分だ?)
脳内ですぐに時間を確認すると、B.C.3,899,999,999/08/18 18:37:04と表示された。正確な時間を計測した訳ではないが、これまでの例から鑑みるに記憶が想起してから1分も経っていないのだろう。
(それにしても、またリュンガルトなのか……)
私なりに策を講じたつもりだったのだが、結局リュンガルトに見つかってしまい、西暦300X年の私の警告を活かせなかった。この時空に来るべきではなかったのだろうか……。
「魔理沙、まさかまた記憶が……?」
「なんだなんだ、どうした?」
私の異変を聞きつけて、マセイト繁華街の地図を見ながら次の目的地を探していたマリサ達までこっちにやってきた。
分からない事ばかりでどう説明したものかと思っていた時。
「見つけたぞ霧雨魔理沙!」
「!」
私を呼ぶ声に振り返ると、トルセンド塔の正面に群青色の制服に身を包んだ眼鏡男が立っていた。
彼には見覚えがある。リュンガルトの司令官兼スパイで、名前はレオン。他の通行人のように半透明ではなく、この現実世界に実体化しており、白銀の光線銃を構えて私に照準を向けていた。
「死ねぇ!」
「魔理沙っ!」
叫ぶ霊夢。
反応する間もなく一筋の光が迫り――、私の目と鼻の先で直角に折れ曲がって、足元が焼け焦げる。いつの間にか私の隣に移動していた咲夜が懐中時計を握っていて、どうやら私の手前の空間を曲げたようだ。
「なんだとっ!?」
「やらせないわよ」
「いたぞ! 確保しろ!」
雑踏の中から現れたサイバーポリスが次々と実体化し、レオンに向かって飛び掛かる。逃げる間もなく、四人の警察官によって拘束された。
「おい、大人しくしろ!」
「クソッ、私の襲撃さえも貴様達の計算の内だったというのか! どこまで人をおちょくれば気が済むんだ!」
レオンは地べたに這いつくばりながら剝き出しの殺意を向けているが、私には何のことか身に覚えがない。まさか改変前の記憶があるのか……?
「霧雨さん、お怪我はありませんでしたか?」
さっき別れたはずのフィーネが私の前に実体化してきたので、「大丈夫だ」と短く返す。もちろん咲夜にお礼を伝えるのも忘れない。
「助かったぜ咲夜。ありがとな」
「ちょっと、あいつは一体なんなのよ? いきなり魔理沙を殺そうとするなんて!」
「彼の名はレオン。リュンガルトの部隊長です。どうやら先程の情報は誤りだったようで……危険な目に遭わせてしまい、申し訳ありません」
フィーネは私達と別れる前、アンナの『この近くにもリュンガルトがいるの?』という質問に『今の所は確認されてないから大丈夫よ』と答えていた。遠い昔の出来事のように感じるが、実際はあれから10分も経っていない。
「リュンガルトだって? お前達と同じ制服を着てるじゃないか」
「それは……お恥ずかしい話ですが、あの男はリュンガルトのスパイで、警察内部の情報を横流ししていました。匿名の通報が無ければ、今も情報漏洩が続いていたかもしれません」
「まさか身内の不祥事ってのは」
「はい……藤原さんの想像通りです」
妹紅の追及にフィーネは気まずそうにしている。
「魔理沙、あの男に心当たりはあるのか?」
「いや、面識はないな」
あの男とひと悶着あったのは改変前の歴史での出来事なので、嘘ではない。こんな話をしてる間にも、サイバーポリスの宇宙船が到着する。
二人の警察官によって身体を起こされたレオンは、光の手錠と緊箍児のようなもので拘束されて「私は嵌められた」とか、「あのタイムトラベラーこそ悪だ! 霧雨魔理沙を捕まえろ!」と喚いていたが、周囲のサイバーポリスは聞く耳を持たず、宇宙船に向かって連行されていった。
「レオンのこれまでの容疑からして、二度と霧雨さんの前に現れることはないでしょう。では私はこれで」
「お仕事頑張ってね。フィーネ」
フィーネが宇宙船に乗り込んだ後、この場から転移していった。
「なあ咲夜、聞きたいことがあるんだ」
そう切り出すと私の真剣な雰囲気を察したのか、咲夜は時間を停止する。私と咲夜以外の全てが止まり、賑やかだった街は無機質な超高層ビル街に早変わりする。
「貴女の言いたいことは分かっているわ。今まで見ていた記憶が全てよ」
「待ってくれ。分からないことが多すぎる。私はあれからどうなったんだ? 霊夢達は無事だったのか? それとも……死んだのか?」
私が見た最後の記憶は、自らがタイムホールに呑み込まれる瞬間だった。あれから助かったとは思えない。
「本当にそう思う?」
問い返された私は少し考えて。
「――いや、なんだかんだでメビウスの輪の解消をやり遂げたんだろうな。じゃなかったら、今の私はここにいない」
咲夜は優しいが、非情な決断もできる少女だ。散々念を押されたし、特別扱いはされていないだろう。
「一つだけ言えるのは、貴女の記憶に穴があるのは、改変前の歴史の貴女が望んだのよ」
「なに?」
いったい何があったのか非常に気になる所だが、ここで聞いてしまえば未来の私の意図が崩れてしまうだろう。このジレンマに陥る私を見透かしたかのように、咲夜は言った。
「聞きたい?」
「……いいのか?」
「『この歴史改変が起きた後、私は必ず失った記憶についてお前に訊ねるだろう。その時になったら私に教えてやってくれ』――かつての貴女はそう言ったわ」
一旦整理しよう。
この台詞から分かる事は、私はタイムホールに呑まれて死んだわけではなく、何らかの形でメビウスの輪を解消したということ。改変前の私が記憶を消す選択をした理由は不明だが、本当に消してしまいたいくらい嫌な記憶なら、こんな言い方はしない。
つまり――
「改変後の歴史にいる私、つまりこの私の記憶を消す事が目的だった――ということか?」
「ええ。主観的に体験した鮮烈な記憶と、貴女から伝聞した話とでは大きく違うわ。尤も、私の話を聞いたことで、多少の影響が出る可能性は否定できないのだけれど」
ううむ、全く想像が付かないな。博麗神社で咲夜と輝夜にアドバイスした件といい、未来の私は隠し事が多すぎる。本当に改変前の歴史で何があったんだよ。
「さて、どうするのかしら?」
「勿論聞かせてくれ」
何も知らないでいるのは気持ち悪いし、私は常に真実を求めてきた。今更怖気づくわけにはいかない。
「貴女の選択を尊重するわ。時刻は紀元前38億9999万9999年8月19日午前0時21分12秒。貴女がタイムホールに落ちた後の事よ――」
咲夜はそう前置きして、私の欠けた記憶を語りだした。
次の話は『第260話 (2) 魔理沙の記憶③ 致命的な誤算』の続きとなります。