(どうしたもんかな……)
こんな未来を見せつけられてしまってはすぐ215X年に戻るのは躊躇われる。しかし幻想郷の創造主たる八雲紫がこんな調子ではどうすることも出来ない。
そんな時、ふと彼女がじっと私を見つめている事に気づく。
「……それにしても、どうしてこのタイミングで魔理沙が現れたのかしら。地獄も白玉楼もまともに機能してない今、彼女の魂が出てくることは有り得ないのに……」
「紫。私は215X年から時間移動して来たんだ。博麗杏子に結界の中で襲われてな、とっさにタイムジャンプを使ったらこの時間に漂着しちまった。この惨状に驚きしか出ないぜ」
「時間移動ですってぇ!?」
八雲紫の独り言に返事をしたその時、澱んだ目をしていた八雲紫に光が戻り、急に立ちあがる。
さらに私に詰め寄りながらこう言った。
「う、嘘!? そそそ、それって本当なのかしら!?」
「お、おうそうだ。今から過去に遡ることもできるし、もっと未来に行くこともできるぜ」
突然の態度の変化に戸惑いながらそう答えると、彼女は踊るように喜んでいた。
「なんて事……! 幻覚だと思っていた魔理沙が本人で、しかもこんなチャンスが訪れるなんて――!」
そして完全に正気を取り戻した様子の八雲紫は、私の手を取った。
「ねえ、魔理沙。お願いがあるの! あなたにしかできない事なのよ!」
「な、なんだよ」
「今から500年前の西暦250X年5月27日に戻ってその時の私にこう言ってほしいのよ! 『A-10とNH-43の部分を修復するように』って! それだけで昔の私ならすぐピンと来るわ!」
「いや、待て待て。引き受けても構わないが、それをすることで一体何がどうなるんだ? 悪いがその辺を説明してくれないか?」
崩壊した幻想郷、過去の自分への伝言……。
これだけで何となく彼女の頼みについて見当はついたが、直接その理由を聞いておきたかった。決して意地悪なんかじゃない。
「……いいわ。説明してあげる。この幻想郷が崩壊してしまったのはね、博麗大結界の維持管理が行き届いてなかったからなの」
そう前置きをし、彼女は手を放してから語り始めた。
「私がこの異変に気付いたのは今から70年前の11月11日。あの日突然幻想郷を覆う博麗大結界が破れて、外の世界の〝常識″が大量に雪崩れ込んできてね、この世界の法則が乱れてしまったわ」
「なんとか延命できはしないかと、ありとあらゆる手を尽くしたけれど、結果はご覧の有様。千年以上に渡って積み上げてきた全てがパーよ」
両手を広げるようなポーズを取る八雲紫。彼女の口はまだ止まらなかった。
「こんなことになってしまった原因を調べたらね、その崩壊のきっかけが500年前にできた小さな小さな結界の綻びだったみたいなの」
「それが何百年もかけてどんどん広がっていってしまって、気づいたときには手遅れだったってわけ。だから500年前に戻って結界を修復してくれれば絶対幻想郷は崩壊しないはずなのよ! うぅ……」
「……なるほど、要するにお前の管理不行き届きの結果こうなってしまったって事なのか」
話を聞き終えた私がそう言うと、彼女は罰が悪そうに答えた。
「……まあそう言われても仕方ないわね。言い訳させてもらうと、定期的な見回りにも気づかないほどの見えない綻びだったのだけれど、結果こうなってしまったものね」
「ああ、いや。別に責めるつもりじゃなかったんだ。済まなかった」
「別にいいわよ。……それで、どうかしら? やってもらえる?」
「任せておけ! 確かに伝えておくぜ!」
おずおずとした感じでお願いしてきた彼女に私は快諾した。私としてもこんな姿の幻想郷は見たくないし、こんな未来は認めたくない。
「ありがとう。よろしく頼むわよ」
少し涙目になった彼女の言葉に頷き、私は頭の中で時間移動の式を構築していく。
「タイムジャンプ! 行先は500年前! 250X年5月27日正午!」
私は彼女の目の前で500年前へ跳んで行った――。