魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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第261話 (2) 女神咲夜の分析

 ◇   ◇   ◇

 

 

 

「魔理沙ー!」

  

 異変にいち早く気付いた西暦215X年10月1日の博麗霊夢は、タイムホールに呑み込まれる時間旅行者霧雨魔理沙に向かって駆け出して懸命に手を伸ばしたが、彼女に触れることは叶わず、消えていった。

 時間旅行者霧雨魔理沙を中心に発生したタイムホールは異質なものだった。

 周囲の空間にはタイムホール発生の余波で亀裂が走り、その隙間からは青白い光が漏れ出していた。

 タイムホールの中の空間は宇宙空間のように広く、螺旋状に歪み、古今東西に存在した時計が無数に浮かんでいた。中心に立っていた時間旅行者霧雨魔理沙の肉体はねじれ、傍から見れば助からないように思えるものだった。

 彼女と直接手を繋いで力を譲渡していた二人の霧雨マリサ、アリス・マーガトロイド、十六夜咲夜は成す術なく呑み込まれて、この時空から消失。術者とその協力者が全員消えてしまったことで、タイムリバースの効果は消えて、時間が未来に向かって進み始めた。

 

「……」

 

 タイムホールの奥を睨みつけていた博麗霊夢は、屋上の手すり付近に佇む女神咲夜の元に駆け寄っていく。彼女はタイムホールが発生する寸前にその場を離れていたため、被害を免れていた。

 

「ねえ咲夜。居なくなっちゃった魔理沙達を助けられないの?」

「…………」

「ちょっと、何とか言いなさいよ」

 

 博麗霊夢は話しかけるが、女神咲夜は沈黙を貫く。

 勿論博麗霊夢に負の感情を抱いているわけではない。あるがままの歴史を観測するために、自身の存在による歴史への波及を最小限に抑える目的の為、心苦しさを感じながらも無視している。

 時間旅行者霧雨魔理沙に手を貸したのも、彼女の観測者としての姿勢によるものだ。観測対象に積極的に関与することはないが、求められた時に否定することもない。

 

「もーなんなのよ……!?」

 

 呆れ果てた博麗霊夢が踵を返そうとした時だった。彼女が持つ未来予知にも似た直観が働き、咄嗟に女神咲夜にしがみつく。

 その直後、空間の亀裂が破壊されて屋上全体にタイムホールが広がる。今後のことについて話し合っていた八雲紫達は足元を失い、逃げる間も、能力を使う暇もなく囚われ、時空の彼方に落ちていった。

 

「そんな……なんてことなの……」

 

 目の前で起きた出来事に博麗霊夢は愕然と呟く。

 かくいう二人も下半身がタイムホールに囚われていたが、女神咲夜のみが螺旋状に歪むことなく、その場に安定して立っていた。

 今まで見たことがない異様なタイムホールに気味悪さを感じながらも、女神咲夜を見上げる。

 

「ねえ、これからどうするのよ」

 

 博麗霊夢には、女神咲夜から少しでも離れればタイムホールに落ちる確信があった。下半身が存在する感覚こそあるものの、全く動かせず、奥に引っ張られるような感覚が続いているからだ。

 しかし女神咲夜は依然として答えることなく、タイムホールの深潭に視線を固定しながら、時間旅行者霧雨魔理沙の行動を分析していた。

 彼女が導き出した時間を巻き戻す選択は満点に近い回答だった。推論通り、メビウスの輪は従来の時間移動では絶対に解決できない事象であり、世界の再構築が必要だからだ。

 それだけに、今回の顛末は非常に惜しいものだった。

 時間旅行者霧雨魔理沙が失敗した原因は一言で言ってしまえば、彼女の実力不足にすぎる。彼女は時間旅行者(タイムトラベラー)であって、時間創造者(タイムクリエイター)ではないのだ。もし充分な時間と、力の性質の変容が起きていれば、結果は大きく違っていただろう。

 

「…………」

 

 結果だけみれば、時間旅行者霧雨魔理沙の“失敗”は明白だ。歴史の初期化は決定事項であり、この時空に留まる意味はない。

 しかし女神咲夜は、目の前で起きた出来事に引っかかりを覚えていた。

 時間旅行者霧雨魔理沙が起こした異質なタイムホールは、時の力の暴走であることが明白であり、大した事ではない。問題は彼女の行方だ。

 女神咲夜が至近距離から直接目視で観測していたにも関わらず、彼女が飛ばされた時空点を把握できなかったのだ。タイムホールと時の回廊の狭間で“空白”が発生し、霧のように搔き消えてしまった。

 これは奇しくも事前に導き出していた未来予測と一致していた。

 

「……確かめる必要があるわね」

 

 既に結果を観測しこの時空に滞在する意味はない。このタイムホールはやがてこの星を呑み込んでしまうだろう。女神咲夜は、タイムホールを見下ろしている博麗霊夢に声をかける。

 

「霊夢、今から時の回廊に帰るわ。それまでしっかり捕まってなさい」

「ええ」

 

 女神咲夜に抱き着いている博麗霊夢の腕の力が強くなったことを確認した後、浮上してタイムホールから抜け出す。

 そして目の前の空間を人差し指でなぞるようにしてタイムホールを開き、時の回廊に帰還していった。

 

 

 

 女神咲夜が始まりの時計塔に降り立った後、博麗霊夢は彼女から離れる。身体に異常が無いことに安堵しつつ、博麗霊夢は訊ねた。

 

「これからどうするつもり?」

「まずは行方不明になったタイムトラベラーの魔理沙を現在の時間軸上から捜索するわ。それまで現状維持よ」

「もう歴史の初期化は確定事項なの?」

「……弁解の余地くらいは与えるつもりよ」

 

 そう言いながら、女神咲夜は透過スクリーンを出現させると、時の回廊の観測記録から時間旅行者霧雨魔理沙の情報を探していく。興味を抱いた博麗霊夢は覗き込んだが、見た事の無い言語と記号の羅列にすぐに理解を諦めた。

 

「ねえ、魔理沙以外も助けてあげて――」

「ええっ! 噓でしょ!?」

「何があったの?」

 

 透過スクリーンに表示されている文字を見て、女神咲夜がひどく驚いていたが、博麗霊夢には意味が分からなかった。

 女神咲夜が人差し指で画面の表面に触れると、一瞬で日本語に変換される。

 

『現在全ての時間軸において、時間旅行者霧雨魔理沙の存在は確認されていません』

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