時間の神を名乗る私から衝撃的な発言が飛び出した後、私達は自宅に移動して、リビングのソファーに向かい合うように座っていた。
勿論本物の自宅ではない。未来の私が創造した我が家であり、ご丁寧にも私の主観時間に合わせた内装になっている。窓の外には鬱蒼と茂る魔法の森が広がっていて、再現性の高さに舌を巻くばかりだ。
目の前の私が軽く手を叩くと、正面のテーブルにケーキタワーとティーセットが出現する。ティーカップからは湯気が立っていて、紅茶の香りが私の鼻腔をくすぐる。
「どういう仕組みなんだ?」
「言っただろう? ここは“魔理沙の世界”。何もかもが
「いや、それが分からんのだが」
そんな当たり前の事みたいに言われてもな。世界が自分の思い通りになるのは空想か妄想の中だけであって、それを実現するのは不可能に近い。
「私は時の神であり、時間の概念そのものだからな。まあ一言で言ってしまえば時の回廊と同じだ。あの場所も咲夜の匙加減で如何様にも変化するんだぜ」
時の回廊……。私は全てを知っているわけではないが、あの空間のとんでもなさは理解しているつもりだ。
「そんなものを私が創造できるのか?」
「お前の身近な例で言うと、時間に関する能力を持つ咲夜と輝夜だ。咲夜は時の止まった“咲夜の世界”を、輝夜は須臾をかき集めた自分だけの世界を構築している。彼女達に出来て私に出来ない道理はない」
「ふむ、そういうものなのか」
「まあ想像が出来ないものは再現できないがな。遠慮無く食べていいぞ」
目の前の私に促され、イチゴのショートケーキを小皿に持ってきて食べてみるが、案外普通だな。この紅茶もいつも飲んでる味だし。
「ちゃんと味があって、腹が満たされるんだな」
「“過程”を省いているだけでこれは私が用意した“本物”だからな。お前の宇宙に存在する味を再現するの結構大変だったんだぜ?」
私は紅茶を一気に飲み干してソーサーに置き、先程から気になっていた事を尋ねる。
「ここが私の世界だと言うことはまあ理解した。次の質問なんだが、お前が言う第二宇宙ってのは並行世界って解釈で合ってるか?」
かつての女神咲夜は並行世界の存在を否定していた。しかし彼女が観測していなかったとするならば辻褄はあう。脳内時計がエラーを叩き出したのも、彼女が管理する世界では無いからだろうし。
そうなると、目の前の私は、私と似た経緯を辿ってきたことになるが……。
「いや、違う。私の知る限り第一宇宙にも第二宇宙にも並行世界は存在しない」
「なに? じゃあここはどこなんだよ?」
まさか本当に私の妄想の中の世界じゃないだろうな? 夢オチは勘弁して欲しいぜ。
「ここは第一宇宙――つまり、お前が生まれた宇宙が滅んだ後に誕生した宇宙だ」
「えっ!? そんなこと有り得るのか?」
「当然だ。人間、妖怪、神、地球……森羅万象全てのものには始まりがあれば終わりがある。謂わば寿命だ。この宇宙だっていずれは滅びる時が来るだろう」
(マジかよ)
信じられない話だが、目の前の私は至って真面目に話しているし、本当なんだろう。
私のタイムジャンプは時の回廊を利用する関係上、第一宇宙の範囲内の時間しか移動できない。途方もない未来に来てしまったようだ。
(もう私の知り合いも居ないし、幻想郷も無くなっちゃってるのか。なんだか寂しいな。……あれ? でも待てよ?)
「さっき会った永琳はなんなんだよ? 私の事を知っているような口ぶりだったが」
「彼女は第一宇宙から生き続けている唯一の例外だ」
「あの永琳は私の知り合いだったのか!? ってことは、輝夜と妹紅もいるのか?」
「勿論だ。二人は基本的に永琳と行動を共にしている。時代にもよるが、傾向としては地球に非常に近い環境の幻想郷に似た文化・文明がある星に定住し、診療所を開設して医者として働く永琳の手伝いをすることが多いようだ」
「なるほど……」
考えてみれば彼女達は不老不死なのだから当然と言えば当然なのだが、それでも驚きを隠せなかった。
いったいどれだけの年月を生きてきたのだろうか。宇宙の滅亡から誕生に立ち会ってきたなんて、普通の人間なら発狂してもおかしくなさそうだが、蓬莱人というのは存外にも精神性が強いらしい。
「最後の質問だ。お前はさっき、自分の目的を
どういう過程を辿ったのかは知らないが、私はいつかの未来で時の神となり、咲夜に代わって時間の管理をするのだろう。なのに未来の私の口ぶりでは、まるで私がとうの昔に死んでいるみたいに聞こえる。
「言葉通りさ。オリジナル――つまりお前の復活だよ」
「ん? お前は私の延長線上の先にある未来じゃないのか?」
「それは違う。私は霧雨魔理沙だが、お前ではないんだ」
「えっとつまり、タイムトラベラーの私と、普通の魔法使いのマリサのような歴史の違いって事か?」
「それも違うな。彼女のように、お前の歴史改変によって単一時空上の霧雨魔理沙から派生した存在でもない」
「んんん?」
私の頭は疑問符で埋め尽くされる。自分の事なのに全く理解が追い付かない。
「明確な相違点は出自だ。お前は第一宇宙の西暦1993年〇月△日、幻想郷の人里に居を構える霧雨道具店の一人娘として、父□□と母◇◇の間に誕生した。そうだな?」
「ああ」
「しかし私は第二宇宙が誕生して、時間の概念が発生した時に、私としての自我が芽生えた。まあこの辺は女神咲夜と同じだな」
「!」
「もっとも、誕生した頃の私は、私が霧雨魔理沙だという認識もなく、名前も記憶も無かった。私がお前の存在を知って霧雨魔理沙になったのは、
普通に考えたら、彼女は私の姿をした別人だろう。だけど私には彼女が他人とは思えなかった。
なんていうか、私から見たマリサのような感覚に近い。なぜ彼女が
「ああ、聞かせてくれ」
私の答えに何処となく安堵したような笑みを浮かべつつ、彼女は語りだした。
サブタイトルにローマ数字で表記されている話数は、魔理沙視点における第二宇宙内での経過時間です。
アラビア数字で表記されている話数は、この小説の物語をストーリーに沿って並べた順番となります。