魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

287 / 313
第VII話【第268話 (2) 】魔理沙の欠けた記憶 時間の超越者

「――私からの説明は以上だ。ここまで何か質問があれば受け付けるぜ」

 

 新たな紅茶を淹れなおし、これまでの長話で酷使した喉を労わるかのように味わう彼女に、私は遠慮なく質問をぶつける。

 

「時間の超越者ってのは何だ?」

「私や女神咲夜のような、時間の流れに囚われない存在の事だ」彼女はティーカップを置き、「魔理沙、お前が認識する“現在”はいつだ? 西暦から答えてみろ」

「西暦215X年10月1日だ」

 

 約39億年前のような地上に生命が発生していない過去だったり、第二宇宙なんて途方もない未来に跳んだとしても、私の帰属時間はここにある。

 

「何故その年月日なんだ?」

「何故って……それが普通だろ?」

「時の流れに囚われた生命ならばその答えは正しいが、お前は唯一無二のタイムトラベラーだ。過去にも未来にも行ける存在に、主観時間なんて起こり得ない」

「いやいや、そう言われてもな」

 

 彼女の質問は、例えるなら普段どうやって呼吸をしているのかと訊ねているようなものだ。そんな当たり前を深く考えたことなんて無かったぞ。

 

「ふむ……なら質問を変えよう。魔理沙、過去と現在と未来の違いを説明できるか?」

 

 また急に哲学的な話になったな。私は少し考えた末にこう答えた。

 

「過去は過ぎ去った時間、現在は私が今いる時間、未来はこれから訪れる誰も経験したことがない時間じゃないか?」

「それは時の流れに囚われた生命の答えだな。お前が“現在”と認識する主観時間とは、お前が生まれた西暦1993年〇月△日~西暦215X年10月1日までに積み重ねてきた経過時間によって蓄積された経験と記憶に過ぎない。一方で未来にはそれらが無く、真っ新だ。謂わば時の流れと主観時刻が連動している故に、過去・現在・未来という区分が付く」

「……つまりどういうことなんだ」

「時間の超越者になると、“現在”は無くなり、全てが等しい時間となる。客観的な時刻では宇宙の始まりから終わりまでを認識し、お前の肉体に付属する意識としては、西暦215X年9月15日午後1時5分~お前が死を選択した時刻に至るまで、全ての時間において全ての記憶を持つ」

「!?」

 

 全ての時間において全ての記憶を持つ……? そんなことが有りえるのか? しかもその時間は、私がタイムジャンプ魔法を完成させて、初めて時間移動した時刻じゃないか。

 

「お前の誕生日から全ての時間と記憶を共有する事も可能だが、お勧めはしない。何故ならタイムトラベラーになるお前と、普通の魔法使い霧雨マリサの分岐が無くなって、最初からマリサが存在しなかった事になるからだ」

「!」

「時の神としての視点から言えば、同一人物が同一の時空に複数存在する事は明確な歴史の歪みであり、是正するのが望ましいが、だからと言って彼女を消すのは本意ではないだろう?」

「当然だ」

 

 異なる歴史を歩んでいてもマリサは私だし、なんだかんだで姉と妹という関係を気に入っている。自分殺しは絶対にやってはいけない。

 

「より正確に言えば、お前とマリサの分岐点は西暦200X年7月22日。最初の歴史において、霊夢が自殺した翌日だ。“最初の歴史”限定でその日~西暦215X年9月15日午後1時5分までの時刻。西暦200X年7月22日より前の日時なら、一時的にその時点での霧雨魔理沙に憑依するような形で、時間の超越者になったお前の意識と記憶を移動する事ができるが、こんな手間をかけるくらいなら普通のタイムトラベルを行った方がいいだろう」

「??」

 

 意識と記憶の憑依……タイムリープみたいなものだろうか? いや、あれは一方通行の時間移動だった気がする。

 

「時間の超越者になれば、今回のような袋小路に至る選択を選ぶことはなく、自らの思い描いた通りの歴史を構築できるぜ? なんせ全ての選択肢と、それらの選択肢を選んだ先の未来が見えるんだからな。今までのように歴史改変に試行錯誤する事もない。しかも時間の超越者になることで、“霧雨魔理沙”という人間が第一宇宙の楔になり、女神咲夜もおいそれと手出しができない存在になる。まさに一石二鳥だろ?」

 

 彼女は楽しそうに語っているが、まだ私には全てを理解できていない。現在が無くなる事なんてあり得るのか?

 

「あまりピンと来ていないようだな」

「私の主観はどこに存在するんだ? まさか過去~未来の全ての時間において、主観が分裂するわけじゃないだろう?」

「当然だ。イメージとしてはそうだな……。タイムリープってあるだろ?」

「意識だけの時間移動のことだな」

 

 ついさっき連想していたこともあって、即座に答えが出た。

 

「あれは術者の主観時刻までの知識や記憶までしか移動できない。例えば今のお前が西暦215X年10月1日から150年前のお前に遡ったとする。すると西暦200X年にいながら、150年分の記憶を持つことになるが、西暦215X年10月2日以降の出来事はその時間になるまで経たないと知りえない。これは150年後の未来に置き換えても成立する。幻想郷や外の世界で起きた出来事は歴史書を読み解く事で知識を得られるが、お前自身の経験や記憶については、親しい人間からの証言や、自身が残した記録でしか知りえない」

「そうだな」

「だが時間の超越者は、その制約が取り払われたものだと思ってくれ。お前が活動する西暦215X年9月15日午後1時5分以降、過去や未来の情報が常に共有されてくる。過去の経験や選択は言わずもがな、未来のお前の経験した物事も過去に向かう。今までのように過去から未来への一方的な意識や記憶の形成は無くなるんだ。何らかの理由でお前が赤子に戻ったとしても、最期の可能性となる瞬間まで、常に俯瞰した状態で全ての時間を等しく観測できる」

「!」

 

 ようやく彼女が言いたい事が分かってきた気がする。

 人も、妖怪も、誕生した時からの月日の流れによる体験や得た知識によって、自意識や認識が形作られていく。例えば子供の頃好きだった食べ物が、大人になったら嫌いになったり、その逆もあるだろう。

 しかし時間の超越者は最初から100を知り、完成した状態になるのだろう。恐らく今の私よりも遥かに成熟した精神になり、大局を見れるようになる。その反面、未知が無くなって、常に既視感を抱くようになるのかもしれない。

 そして未来の知識を持つということは、過去の私自身の行動も変化することになる。

 未来の幻想郷の滅亡を阻止する為に、何度も幻想を解明する研究所を襲撃する必要もなくなるし、私の為に巫女を辞める霊夢の影響で、マリサとの関係がこじれる事もなく、もっとスマートに説得できるだろう。勿論変化を望まないのであれば、元の歴史をなぞるように振舞えばいい。全ての因果が判明するのであれば、間違えることは無くなり、常に最適な選択を行える。

 考えれば考えるほどとんでもないな。私は今の異常事態を解決できればいいし、そんなに大きな力は要らないんだがな。

 それに気になる点も幾つかある。

 

「過去から未来までありとあらゆる情報が入ってきたら、脳がパンクしそうだが」

「時間の超越者になればそれを受け入れられるようになるし、そもそも全てを視る必要はない。適宜情報を取捨選択すればいいだけだ。私や咲夜のようにな」

 

 いまいち想像が付かないな。“そういうもの”として受け入れるしかないのだろうか。

 

「咲夜との関係はどうなる? 彼女と敵対関係にはなりたくないぞ」

「安心しろ。今のお前にとっては未来の話になるが、この件については彼女の同意も得ている」

「そうなのか? だが咲夜は第二宇宙を知らないんじゃないのか?」

「お前を救出した際に、咲夜は第二宇宙の存在を知覚した。そして私と咲夜は時の流れに定まらない存在だ。現在のお前の主観から見て未来で起きる事も、私達にとっては過去の出来事になることもある。……というか、そうじゃなかったら今のお前はここに居ないぜ? お前は第一宇宙出身で、過去から未来まで地続きで歴史が続いているんだから」

「……確かにそうか」

 

 先程彼女は『今回は女神咲夜の主観をお前と同じ時間に縛った上で、彼女自身を時の回廊から引きずり出して時間軸全体の監視の目を逸らした隙に、お前を第二宇宙に連れてくることが最大の目的だった』と語っていた。

 つまり今回のような事態は異例であって、普段ならば怪しい兆候が起こる前に芽を摘み取れるのだろう。

 

「その通りだ。女神咲夜は、『第二宇宙の観測証明』と『第二宇宙の時の神となった私の存在』に加えて『お前の人間性』を信用すると話した」

「それぞれ理由を聞いてもいいか?」

「いいぜ。まず第二宇宙の観測証明についてだが、これはさっき話した蓬莱人達が関わってくる。女神咲夜が第一宇宙の終末において蓬莱人達に接触したのは、“無の時間”に囚われる彼女達への慈悲だけではない。第一宇宙が滅亡し、無限に等しい時が流れた先に誕生する可能性がある新たな宇宙で、第一宇宙の存在を示唆する痕跡を残す事で、私のような時の神が接触してくる事が狙いだった。原則として、未来よりも過去の方が観測し易いからな」

「そしてそれは見事に成功した訳か」

「ああ。更に彼女は私が構築した第二宇宙の時間法則を見て、私を信用に値する神だと認めた。細かい差異はあるが、私の宇宙は第一宇宙に非常に近いからな。そして先程も話した通り、私はタイムトラベラー霧雨魔理沙の“来世”だ。いわば高確率で行きつく可能性がある未来が保証されている」

「ふむふむ」

「加えてお前のタイムトラベルは分をわきまえている。仮に私が咲夜の立場だとしても、同じ判断をするだろう。私の場合は失敗に終わったし、お前を選んだ咲夜の慧眼には恐れ入るぜ」

「随分持ち上げるんだな?」

 

 咲夜も彼女も私にかなり好意的だ。そこまで好かれるような行動をした覚えはないんだがな。

 

「幻想郷という宇宙でも類を見ない特殊な環境出身で、種族としての魔法使いとなり、科学ではなく魔法を使ってタイムトラベラーになった。その点だけでも、かつて存在した有象無象のタイムトラベラー共とは大きく異なる」

 

 そういえば、第二宇宙にはタイムトラベラーが居ないって話していたな。あの時は聞き流していたが、今更になって少し気になってきた。

 

「かつての第二宇宙はな、現在のように制限を掛けることはなく、時間移動の法則を発見もしくは開発した生命全てに自由に行動させていた。お前のように愛する人を助ける目的でタイムマシンを開発した者もいれば、ギャンブルや株で莫大な財産を築いた者、政敵を排除して時の権力者として君臨した者まで、彼らの行動原理は様々だった」

「へぇ」

 

 タイムトラベルを金儲けや権力闘争の道具に使う発想は無かったな。名利を否定するつもりはないが、そのタイムトラベラーは随分と俗物だな。そんなズルをして得た名声と富に価値はあるのだろうか。

 

「だがな、結果的に見れば失敗だった。彼らは皆力に溺れ、私利私欲の為に歴史を混乱に陥れた。タイムパラドックスは当然のように頻発し、結果として時間の連続性が途絶えて、過去と未来が同時に存在するようになってしまった星まで有った」

 

 例えるなら子供の自分と大人の自分が同じ時間に現れるようなものだろうか。タイムパラドックスが深刻化すると時間の歪みを引き起こすとはな。

 

「特に、時間移動は時の流れに囚われた生命にとっては禁断の果実のようでな、タイムトラベラーが出現した時空では、必ずと言っていいほどに醜い争いが起きている。とある星では、ある国家が開発したタイムマシンを巡って世界規模の戦争が勃発して、星全体が荒廃してしまった事があった」

「……」

「タイムトラベラー本人も総じて悲惨な末路を迎えている。先程挙げた例で言うと、婚約者を交通事故から救ったタイムトラベラーは、後日その婚約者に謀殺された。財閥を築いたタイムトラベラーは国家に殺され、一国を掌握して独裁者として君臨したタイムトラベラーは、あらゆる時空の支配を試み、私をも抹消しようとしたため、やむなく存在を消した」

「惨い話だな」

 

 私もリュンガルトに襲われて、結果として死にかけた――いや、一度死んでいるらしいし、不幸になるってのは事実かもしれない。

 

「だが私と咲夜は、お前が彼らの二の舞となる事はないと信じている。彼らと違って、お前は人の欲望に呑まれず理性的に時間移動を行い、今回の件を除いて、極力時間軸に混乱を巻き起こすような事態は起こさなかった。お前こそ、時間の超越者に相応しい」

 

 私も結構自分の欲望に従ってタイムトラベルしてきたと思うんだが、二人は問題ないと判断したようだ。やはり時の神の物差しは違うな。

 

「仮にもし、ここで私が時間の超越者になる提案を断ったらどうなる?」

「その場合は、残念ながら死が待っている。今のお前の実力じゃメビウスの輪の解消はできないし、そうなれば女神咲夜もお前の存在を許さない。時間の連続性の断絶――第二宇宙に来る前の時間にいる、“タイムトラベラーの霧雨魔理沙”を消去する。既に第二宇宙の存在が発覚してる今、お前を救出した時と同じ手はもう使えないからな」

「そうなのか」

 

 つまり選択権は無いんだな。これは腹をくくるしかなさそうだ。

 

「最後に聞かせてくれ。私が時間の超越者になった後、お前はどうなるんだ? まさか消えるのか? ……いや、そもそも来世の私って事は、私はいつかどこかで死んだ後、お前になるんだよな?」

 

 ここまでの会話で、『お前が死を選択した時刻』や『最期の可能性となる瞬間』とかちょくちょく私の死を匂わせる発言をしていた。魔法使いは不老長寿ではあるが、蓬莱人のように不死身ではない。私もいずれ生涯を終える時が来るだろうし、それが自然の摂理である以上不満はない。……まあ、いまいち実感が湧かないから、こんな事が言えるかもしれないが。

 そして彼女が“来世”であるならば、私の死後は既に確定しており、文字通りの意味で第二の人生が待っていることになる。そうじゃなければ、今の私がここにいる因果が崩れるしな。

 

「一つ目の質問についてだが、結論から言えばお前がどんな選択をしても私の在り方は変わらない。二つ目の質問についても“お前の選択次第“だとしか言えん」

「んん? 随分曖昧だな?」

「まず大前提として、第一宇宙も第二宇宙も“最初の歴史”が基礎になって成り立っている。そして私の出自はさっきも言った通り、第二宇宙が誕生して、時間の概念が発生した時に、私としての自我が芽生えた。この一連の歴史は私や女神咲夜でさえも変えられない絶対的な歴史だ。もし変わってしまったら、現在の宇宙の法則が壊れるからな」

 

 まあそうだろうな。自分の誕生を改変したら深刻なタイムパラドックスに陥るだろうし。

 

「そこから私が“霧雨魔理沙”になる歴史も実質的な決定事項だ。私がそう在りたいと思っているのもあるが、私が“霧雨魔理沙”で在る事前提で第二宇宙の時間法則を造り替えたから今更戻せん」

「私個人でそんなに変わるものなのか?」

 

 私が居ても居なくても何も変わらない――とまで卑下するつもりはないが、私を中心に宇宙が成り立っているとまで言われると戸惑うばかりだ。いくら何でも買い被り過ぎじゃないか?

 

「お前が思っている以上にお前の存在は大きいぜ。ここで私とお前が話している事が大きな結果であり、私が“霧雨魔理沙”だからこそ、第一宇宙の女神咲夜と友好的な関係を築けたのは事実だ。きっと私が霧雨魔理沙の姿で誕生したのも、宇宙創成の際、第一宇宙に記録された唯一のタイムトラベラーの情報の残滓が影響したのかもしれない。――確認のしようがない荒唐無稽な仮説だがな」

 

 彼女はそれとなく“運命”だと言っている気がする。

 

「……話を戻すぞ。私は“霧雨魔理沙が死亡する可能性”から続いている存在であり、魂の繋がりは在っても肉体的には同一ではない。だから私は変化しない」

 

 蓬莱人という例外を除いて、人も妖怪もいずれ死亡する。即ち私がいつかの未来で死んだ時、第二宇宙の時の神として輪廻転生するのだろう。

 そう心の中で結論付けたのだが、彼女は「いや、そうとも限らないぞ?」

 

「先程も言ったように、お前の人生はお前の選択次第でいくらでも変化する。お前=私だが、お前の未来≒私なんだ」

「どういうことだ? お前は私の未来を知っているんだろう?」

 

 時の神霧雨魔理沙は、言ってみれば私の人生の終着点だ。過去や未来に起きる全ての時間移動と歴史改変を知っていなければおかしいじゃないか。

 

「私が観測できる確定した未来は、“お前が時間の超越者になり、第一宇宙に帰還する瞬間”までだ。それ以降の歴史は、お前の行動次第で如何様にも変化するから観測できないし、記憶も無いんだ」

「記憶が無い……?」

「不確定状態とでも言えばいいか。お前が時間の超越者になった時に、どのような選択を取るかで私の在り方が変わる。時の流れに囚われた生命と違って、未来を知り、過去を覆す力を持つ存在の歴史は定まらない。現在のお前の主観における現時点での私は、お前が死を選んだ歴史の上に成り立っている」

「それって、まさか私が将来自殺するって事か!?」

「そうではない。不確定だと言っただろう? 時間の超越者に寿命は無く、お前が第二宇宙に到達する未来まで生存すれば、私とお前は同時に存在することになる。お前が生きる意志を未来永劫持ち続ければ、そのような未来は回避できるんだ」

「同時に存在するっておかしくないか? 私やマリサのようなケースとは違うだろ?」

 

 先程も彼女が言及していたが、私とマリサは、謂わば霊夢が生存するか死亡するかで分岐した歴史の違いだ。霊夢の自殺なんて歴史が無ければ、私がタイムトラベラーになる動機は消え失せる。実際に霊夢の自殺を防いだ後の歴史改変では、霊夢は人として天寿を全うし、“私”も普通の魔法使いとして人生を歩み、種族としての魔法使いになることなく、生を全うした。

 しかし私も彼女も、霊夢が自殺した歴史の延長線上――彼女は一度死亡しているが――に成り立っている。上述の理屈は通用しない。

 

「その疑問については、お前は既に答えに辿り着いている」

「?」

「どんな生き物にも必ず死は存在する。蓬莱人や私のような時の神でさえ、死の可能性はあるんだ。このごく僅かな“可能性”がある限り、私とお前は同一の存在にならない」

「なるほどな……」

 

 彼女は私が死亡した可能性未来の延長線上の存在だから、私が生きている限り同一にはならないって事か。そして私の死後であるにも関わらず、私の歴史を観測できないのも、私がタイムトラベラーで過去と未来が常に変化し続けるからだと。

 現在の未来――メビウスの輪の修正失敗で初期化された歴史――の延長線上にあるのが第二宇宙の時の神になった私で、今から私が時間の超越者になることで、その未来は変わる。

 長々と話していたけど、一言で纏めると『時間の超越者になってみないと分からない』だな。

 

「もう質問は無いな」

「あぁ」

 

 これ以上の問答は不要だろう。私が頷くと、テーブルの上に浮かんでいる画面が切り替わり、文字列が表示される。

 

『タイムトラベラー霧雨魔理沙。主観時刻は西暦215X年10月1日、午前7時35分。第一宇宙で発生中のメビウスの輪を解消するために、タイムトラベラーから時間の超越者に昇華する』

 

「これが現在の記録だ。さあ、私の手を取ってくれ。今のお前なら――“一度失敗したお前”なら、私の力(時の力)を適切に利用して時間の超越者になれる筈だ」

 

 そう言って、彼女は右手を差し出した。

 この手を掴めば、きっと私は私で無くなるだろう。怖くないと言えば嘘になるが、今回のような悲劇を繰り返さない為にも私はやるしかない。

 

「ああ」

 

 私は彼女の手を取り、力を受け入れ――宇宙になった。




今回の話で魔理沙の章に一区切りが付きました。
次の話から第五章に戻ります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。