魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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第270話 (2) 魔理沙が忘れた記憶 魔理沙の軌跡② 歴史改変

 ――西暦215X年10月1日午前7時――  *1

 

 

 

 時刻は西暦215X年10月1日午前7時。場所は魔法の森の自宅前。暖かな朝の日差しに、普段から見慣れた森と瘴気が混じった湿り気のある空気が私を出迎える。

 従来のタイムジャンプを真・タイムジャンプ魔法に改良して、この時点での最新の主観時間に戻って来た場面だったか。肉体時間的には約13時間くらいしか経っていないのに、精神的には随分久しぶりに故郷に帰って来たような気がする。

 これは間違いなく遥か未来の幻想郷の姿を知っているからだろう。どの時代の幻想郷も、時代に合わせて変化こそするものの幻想郷としての在り方を貫いている。しかし私にとっては霊夢が博麗の巫女だった頃の時代と、仙人になった霊夢と再会できた頃の幻想郷に強い思い入れがある。あぁ、やっぱり幻想郷は素晴らしいな。

 ……なんて感慨に耽っている時に、選択肢が私の前に現れる。後ろから忍び足で近づいて、今にも私を捕まえようとするマリサへの対応だ。

 

 

 

 ――――――

 

 

 

 未来を知っていた私は一歩前に進み、流れるように振り返る。マリサが自分の胸を抱きしめるような姿勢で私を見つめ、一瞬気まずい空気が流れる。

 

「ちぇっ、ばれてたのかよ。上手く気配を消したつもりだったのになぁ」

 

 口を尖らせてつまらなそうに愚痴るマリサに、私は淡々と訊ねる。

 

「何の用だ?」

「昨日の夜の6時頃、宇宙飛行機に乗って宇宙へ飛んでいっただろ!? 忘れたとは言わせないぜ~?」

 

 

 

 ―――――― 

 

 

 

 限りなく0に近い時間の中で、可能性未来を視て理解した私は判断を下す。

 

(まあ誤差の範囲内ではあるが、ここは大人しく捕まっておいた方が心証が良くなるだろう)

 

 その場でじっとしていると、私の背後から腕を回され、柔らかい感触が背中に伝わる。

 

「捕まえた!」

 

 首だけ後ろを見ると、悪戯っぽい笑みを浮かべるマリサの顔があった。三度目だし流石に驚かないぜ。

 

「何の用だ?」

「昨日は何処に行ってたんだ?」

「……」

「夜の6時頃に宇宙飛行機に乗って宇宙へ飛んでいったじゃないか。しかも一緒に乗ってた妹紅は未来人だろ? 私をのけ者にして面白そうなことしやがってずるいぞ!」

 

 マリサは子供のように目を輝かせながら訴えていたが、私は「悪いがその件は中止になった」と却下する。

 

「なんでだ?」

「詳細は西暦300X年7月10日に置いてきたにとりを迎えにいってから話す。これは私と幻想郷の未来に関わる話なんだ。そこでお前に頼みがある」

「……なんだよ?」

「今日の午前10時に間に合うように、霊夢、アリス、紫、咲夜、輝夜、隠岐奈、文、杏子を連れて来てくれないか?」

「なんだその人選?」

「歴史が改変される前の私の協力者だ。その中にはお前も入っている。私には、事の顛末を説明する責任があるんだ」

 

 私が言及せずとも、彼女達が歴史改変前の壮絶な経験を思い出すことは無いが、敢えてそれはしない。真実を伝える事が、私なりの精一杯の誠意だと思っているからだ。

 それに加えて、ここで私の秘密を打ち明ける事で信頼関係が生まれ、紫達と協力関係を築けるようになる。何故なら幻想郷を存続させる為には、紫達妖怪の賢者との協力が必須条件であり、私が強引に事を進めようとすると、内部分裂が起きて幻想郷が二分される。それは私の望むところでは無いし、出来る限り円滑な妖怪関係を築いていきたいと思っている。……こういう打算的な思考による選択を行うのは、なんだか嫌だな。

 そんな私の複雑な感情が顔に出ていたのか、マリサの顔から笑みが消える。

 

「……お前の雰囲気が変わった事と関係があるのか?」

「あぁ。この時刻なら全員の都合が付くはずだ。彼女達の居場所についてだが、霊夢・アリス・紫・咲夜・輝夜・杏子は自宅にいる。文は人里の鈴奈庵近くで取材中、隠岐奈に関しては紫が連れてくる筈だ」

 

 眉を顰めるマリサの目を見据えながら答えると、彼女は腕を解いて私から離れ、近くに置いていた箒を拾い上げる。

 

「……分かった。お前の身に何があったのか、ちゃんと話してもらうからな!」

「勿論だ」

 

 マリサは箒にまたがると、霊夢の自宅へ向かって飛んでいく。この調子なら全員揃うな。

 私はそれを見届けて、この時代のにとりが滞在する時空にタイムジャンプしていく。

 

 

 

 ――西暦300X年7月10日午後4時30分―― *2

 

 

 

 ――幻想郷東海岸の魔理沙の別邸――

 

 

 

 一瞬で場面転換が終わり、この時間の私が所有する別荘のリビングに移動した私は、テーブルの前に座るにとりに声を掛ける。

 

「迎えに来たぜ、にとり」

「魔理沙? い、いつの間に」

 

 音もなく現れたことに一瞬だけビクッとしていたけど、すぐに落ち着きを取り戻す。

 

「タイムジャンプは完成したの?」

「あぁ。だが、アプト星への旅行は中止だ」

「えぇ~中止!? 急にどうしたのさ?」

「詳細は元の時代に帰ったら話す。行くぞ」

「なんだよ、折角準備したのにさ」

 

 にとりは不満げに席を立つと、床に置いていたリュックサックを背負い、一緒に別荘を出る。肌を刺すような陽射しと、サウナのような暑さと共に妹紅が待ち構えていた。

 

「よう、魔理沙。私がここに来た理由について分かるか?」

「あぁ。そういう約束だったな」

 

 私は妹紅の額に向かって腕を伸ばし、彼女に向かって時の回廊に記録された歴史改変前の情報をダウンロードする。記憶の想起が終了した妹紅はパチパチと瞬きした後、ふうと息を吐いた。

 

「……なるほどな。そういうことだったのね」

「この時代まで待たせて済まなかったな。タイムスタンプ的に、西暦215X年10月1日のお前に伝える訳にはいかなかったんだ」

「いいって。長年の謎がようやく解けたし、また父上の顔が見れただけで充分よ。それじゃ私は帰るね」

「おう」

 

 淡白なやり取りを交わして、妹紅は迷いの竹林の方角に向かって飛んでいった。メビウスの輪が発生していた歴史において、私が第二宇宙に飛ばされた時、彼女もまた時間移動に巻き込まれて、西暦714年8月1日の平城京に飛ばされていた。

 そこで彼女は父親と再会し、同時刻に飛ばされた西暦215X年10月1日の輝夜とも遭遇して一悶着あったが、結局彼女は今の自分を選択したようだ。

 私が妹紅を見送っていると、にとりが私の服の裾を引っ張り、「ちょっとちょっと、今の会話何? 妹紅といつ約束したのさ」と不思議そうな顔。

 

「これから話す予定の“詳細”を伝えただけだぜ。妹紅はこの時代の人間だから、タイミングが今だっただけだ。それよりもさっさと乗ろうぜ」

 

 いつまでも炎天下の中、強烈な陽射しを浴び続けるのはしんどい。にとりは腑に落ちない様子ながらも、私と共に麓の砂浜に駐機中の宇宙飛行機に乗り込む。こいつに乗るのも随分と懐かしい気がする。

 そして機体の発射準備を手早く終えたにとりは、宇宙飛行機を起動し、日本海と近くの森を見渡せるくらいの高さまで浮かび上がる。

 

「元の時代に戻ったら、宇宙飛行機をお前の家に駐機してから私の家に来てくれ。マリサ達が待っている」

 

 私の自宅の前には、ジャンボジェット機並に大きな宇宙飛行機を駐機できるスペースは無いからな。

 

「了ー解」

「んじゃ行くぜ? タイムジャンプ! 到着時空は西暦215X年10月1日午前9時45分のにとりの自宅上空!」

 

 宣言と同時に、宇宙飛行機はこの時空から姿を消した。

 

 

 

 ――西暦215X年10月1日午前10時――

 

 

 

 ――魔法の森の魔理沙邸前――

 

 

 

 時間移動を一瞬で済ませて目的地に到着した後、にとりの家のガレージに宇宙飛行機を停めて、二人で自宅に移動する。到着する頃には事前に伝えておいた約束の時間になった。

 

「帰って来たぜー!」 

 

 私が玄関を開けると、リビングには既に全員が集まっていて、ざわめきが収束していった。流石に人数が多かったので、長テーブルが二つくっついていて、ソファーが四つ用意されていた。

 

「魔理沙、待っていたわよ!」

「魔理沙さん。おかえりなさい」

「もう既に集まってるぜ」

「あぁ。ありがとう」

 

 私に最初に気付く霊夢、出迎える杏子、リビングを見回しながら喋るマリサ。

 

「時間通りの到着ね」

 

 懐中時計に視線をやりつつ給仕する咲夜。

 

「お邪魔してるわよ」

 

 人形を器用に操作しながら咲夜を手伝うアリス。

 

「魔理沙の家に呼ばれるのは、随分と久しぶりな気がするわね」

 

 輝夜はソファーに深く腰掛けながら紅茶を味わい。

 

「魔理沙、話って何? わざわざ私を呼びつけるなんて、よほどの事なのかしら?」

「つまらない話だったら、流石の私も怒るぞ」

 

 紫と隠岐奈は怪訝な表情で私を睨んでいる。

 

「今からちゃんと説明するぜ」

「にとりも来てたのね。もしかして、魔理沙と何処かに出かけてたの?」

「うん。西暦300X年に行って、宇宙飛行機を改良してたんだ」

「ほうほう? その辺の話も後で詳しく聞かせてくださいね」

 

 カメラを首からぶら下げた文は、手帳に書き込みながら自然体なにとりに訊ねていて、二人の会話を聞きつつ、空いている席に着く。

 すかさずアリスが紅茶を淹れてくれたので、お礼を述べて有難く頂戴する。このフレーバーはローズティーかな? テーブルの上にはケーキ、マカロン、シュークリーム等大量の洋菓子がずらりと並んでいて、既に楽しんでいたようだ。11人分のお茶菓子を用意してくれたアリスには、頭が下がる思いだ。

 アリスと咲夜が席に着いた事を確認してから、私は切り出した。

 

「皆、今日は集まってくれてありがとう。早速本題に入るぜ」

 

 全員の顔を見回してから、私は言った。

 

「結論から言うと、私は現在の正常な世界に戻すために歴史改変を行い、それは見事に成功した。ここに集められた者達は、私の歴史改変の協力者で、改変前の歴史について忘れている。私は感謝と謝罪の意味を込めて、お前達の記憶を復活させたいと思っているんだ」

「改変前の歴史?」

「興味深い話ですねぇ」

「いったい何があったんだよ?」

 

 疑念の目を向ける紫、手帳にペンを走らせる文、興味を示すマリサ。私は言葉を選びながら語っていく。

 

「端的に言うと、私のタイムトラベルの暴走で、当時の私が滞在していた紀元前38億9999万9999年8月19日のアプト星と、今日の午前9時の魔法の森がタイムホールによって繋がり、二つの時空間の相転移現象と、メビウスの輪が発生してしまった」

「この事態にお前達はタイムホールを通り、時の回廊を移動して私がいた時空に来て、異常事態を知らせにきたんだ。それでだ、私はお前達の力を借りてタイムホールの修正に試みたんだが、失敗に終わり、私は第二宇宙に飛ばされて、お前達はお前達と縁が深く、安全な時空に飛ばされたんだ」

 

 一瞬の静寂の後、彼女達の間に困惑が広がる。

 

「待って。突然言われても理解が追い付かないわ。色々と訊きたいことがあるのだけれど、まずタイムホールって何よ?」

 

 眉を顰める紫。

 

「アプト星ってどこにあるの? マリサは知ってる?」

「それはな咲夜。今から約39億年前の地球から1億光年離れた場所にあるらしいぜ?」

「いやはや、宇宙人って実在したんですねぇ。これは一大スクープの予感がします!」

「時空間の相転移現象ってどういうこと? 本来の意味だと、同一の物質が温度や圧力の変化等の環境によって、物の様態が変わる現象なんだけど……」

「ねえねえ、メビウスの輪ってまさか永遠を意味するのかしら? 私の能力と関係性はある?」

「私達は無事だったの?」と霊夢。

 

 矢継ぎ早に出される質問に、私は「詳細は記憶が戻れば全て分かる。歴史改変前のお前達は、強い覚悟と意志を持って決断と実行を行っていた。私はお前達の気持ちに応えたいと思っている。……というか、お前達が抱く疑問について、全部改変前の歴史で話したし、ぶっちゃけ同じ説明を何度もするのは大変だから、改変前の記憶を受け取ってほしい。少なくとも、思い出して損をするような記憶では無いことは保証するぜ」と答える。

 

「実際は後半部分が本音でしょ?」

「ねえ、魔理沙。どうやって記憶を復活させるつもりなの?」

 

 霊夢の疑問に私は「私の力でお前達の脳に時の回廊に記憶された情報をダウンロードする。イメージ的には、天啓が降りてくるような感じだ」と答えると、「なるほどねぇ」とすんなり理解した様子。

 

「いやいや、そのイメージが全然湧かないんだけど」

「あ、でも何となくわかる気がします」

「博麗の巫女には伝わるのかしらねぇ」

「というか、魔理沙ってそんな能力持ってたっけ?」

「記憶の復活って、大丈夫なの?」

「そこは私を信じてくれとしか言えないな。少なくとも、今回の記憶について人格や意識が変わる事は無い。……私は無理強いをするつもりは無いぜ。記憶の復活に抵抗感があったり、そもそも興味無い奴は立ち去ってくれて構わない」と断言する。

 

 さて、霊夢達は私の提案を受け入れてくれるだろうか? 私は彼女達の相談に聞き耳を立てる。

 

「どうする?」

「私は構わないぜ。アプト星の旅行を急遽取りやめるくらいだ。何かあったんだろうさ」

「私も魔理沙を信じるわ」

「霊夢様が全幅の信頼を置いているのなら、私も賛成します」

「私も霊夢に賛成ね。今回の件についてもお嬢様が示唆されていましたから」

「私も聞きたいわ。魔法の森が巻き込まれたなんて、他人事とは思えないもの」

「私は別にどちらでもいいのですが、これもいい記事のネタになりそうですし、受けましょう。きっと改変前の歴史とやらの私も、好奇心で突っ込んだのが分かりますから」

「魔理沙の話気になるんだよなぁ。せっかく宇宙飛行機の整備をしたのに、ちょっと納得がいかないよ」

「あら、意外に賛成派が多いのね。それだけ妹の魔理沙に対する信頼が厚いのかしら」

「そういう輝夜はどうなんだよ?」

「勿論賛成派よ? だってそっちの方が面白いじゃない」

「お前は相変わらずだな」

「紫、お前はどうするんだ? タイムトラベラーの魔理沙は信用できるのか?」

「受け入れるつもりよ。そう言う隠岐奈は?」

「魔理沙の話には実感が湧かんが、単純に興味があるな。ここで魔理沙を見極めることにしよう」

「……話はまとまったようだな?」

 

 私の問いかけに異論は出なかった。

 

「それじゃ記憶のダウンロードを開始する。一瞬で終わるからすぐだぜ」

 

 私はテーブルの中心に向かって手を伸ばし、時の回廊にアクセスを開始。私を除いたこの場にいる全員を指定し、直近の歴史改変前の記録を記憶として彼女達に降ろす。 

 記憶を復活させた彼女達の反応はまちまちだった。

 

「ここは――魔理沙っ! 大丈夫なの!?」

「私はこの通り無事だ。済まなかったな、アリス」

 

 右隣に座るアリスはキョロキョロと辺りを見回して、私の顔を見るなり、縋り付いてきたのでしっかり抱き止める。彼女の漂流時空は、西暦1998年11月5日の幻想郷旧魔界入口か。迷惑を掛けてしまったな。

 

「あ、そ、そうね。感極まっちゃったわ、ごめんなさい」

 

 アリスは少し恥ずかしそうに私から離れていった。

 

「……そっか、無事に成功したのね。おかえり、魔理沙」

「あぁ。また会えたな霊夢」

 

 左隣に座る霊夢は、優しい微笑を浮かべている。霊夢から見ると、時の回廊から一瞬でここに移動したように感じるだろう。

 

「――ふぅ、帰って来たか。全く、初代博麗の巫女があんなにおっかないとは思わなかったぜ」

 

 ソファーに深く腰掛けながら安堵の息を漏らすマリサ。西暦1885年4月10日の博麗神社に飛ばされたんだっけか。この時代の幻想郷は結構殺伐としているから、博麗の巫女が妖怪に風当たりが強いのも仕方ないな。

 

「あんた、なんか失礼な事したんじゃないの?」

 

 霊夢がツッコミを入れると、マリサは首を傾げながら「そんな覚えは無いんだがなぁ……。ってあれ? なんか変だな。記憶が二つあるぜ」

 

「あれ、私も……。マリサ、あんた1999年5月28日の博麗神社に居たんじゃないの? 私のお母さんと話していたじゃない」

「おう。んん? 1885年と1999年に滞在した記憶があるな? 杏子もいたよな?」

「はい! 幼い霊夢様はとても可愛らしかったですね」

「これはどういうことなのかしら?」

 

 記憶の混乱が起きているマリサと霊夢に、私はすかさずフォローを入れる。

 

「どっちの記憶も正しいぞ。今のお前達には、西暦2008年4月5日の博麗神社から時空Aに来たタイムホール発生後の歴史の自分と、西暦215X年10月1日に私と一緒に宇宙飛行機に乗ってアプト星に来た自身の二つの記憶があるんだからな。歴史改変の影響で、二つのお前達が一つになったんだ」

「あぁ、そういうことなの。なんだかややこしいわね」

「自分が経験した覚えのない記憶があるってのは、なんだか奇妙な感覚だな」

 

 流石に飲みこみが早いな。さて、他の連中はどうだ?

 

「ここは……魔理沙の家? あれ? 仲間は何処に?」

 

 にとりは呆然としながら、天井を見上げている。彼女は西暦597年3月19日の(ずい)東の黄河(こうが)流域、現在の済南市(さいなんし)辺りに飛ばされていたようだな。……ふむ、この時代の大陸には河童の集落があったのか。残念ながら彼らの殆どは幻想郷を訪れる前に、時代の流れで命を落としてしまったみたいだが。日本出身のにとりが集落に上手く馴染めたのも、翻訳機と彼女の人柄だろう。

 

「あら、戻って来たのね。ふふ、まさかまたあの人達に会えるなんてね。妹紅が居ないのは残念でならないわ」

 

 輝夜は郷愁を漂わせるような笑みを浮かべている。彼女は西暦714年8月1日の平城京に転移していたのか。育ての親の竹取の翁と再会し、同時刻に飛ばされた西暦300X年の妹紅とも遭遇して、ひと悶着あったようだが……。

 

「飯綱丸様……ありがとうございました」

 

 文は片手を胸に当てて、頭を下げていた。文が飛ばされた時空は西暦1171年10月15日の京都にある鞍馬山か。遮那王(しゃなおう)に稽古をつけていた若き日の龍に出会い、天狗の村に滞在していたんだな。

 

「記憶の復活とは奇妙な感覚ですわね。体験した筈なのに、経験した事の無い記憶が存在するわ」

 

 咲夜は何処か感心したように独り呟く。彼女は西暦1503年9月9日のルーマニア公国ワラキア地方に移動し、そこでレミリアの両親と遭遇したようだ。この年はレミリアが生まれた年だな。

 

「……」

「ふむ」

 

 紫と隠岐奈は私をじっと見つめながら考え込んでいる。二人は西暦1555年6月13日の、将来幻想郷になる集落に飛んだようだ。彼女達は今、頭の中で私の処遇を決めかねているのだろう。

 

「現在の時刻は西暦215X年10月1日午前10時12分だ。メビウスの輪は私の力で修復して、正常な時の流れに戻された。今から3時間前、私がアプト星に行かない選択を行った事で歴史改変が発生し、お前達は元の時空に戻っていったわけだ。……お前達には多大な迷惑を掛けてしまったな。済まなかった」

 

 私は頭を下げる。

 

「過ぎた事を責めても仕方ないわ。それよりも、貴女はタイムホールに呑み込まれたように見えたけど、あの後どうなったの?」

「それはな――」

 

 私がタイムホールに呑み込まれた後、第二宇宙で起きた出来事を全て話す。

 

「そんなことがあったのね……」

「第二宇宙とは、途方もない話ですねぇ」

「少なくとも、人間の私は絶対に死んでいますね」

「時間の超越者って、もしかして、これから先に起きる未来も全て分かっているのかしら?」

「あぁ、そうだ。私には全てが見えている。お前達の過去や未来だけでなく、幻想郷の行く末も、宇宙の死も全てだ」

「ほらを吹いている雰囲気では無さそうね」

「えぇ。とんでもない事だわ」

 

 私に対する視線が厳しくなるのを感じる。

 

「そこで、私は紫と隠岐奈に提案したいことがある」

「何かしら」

「私はこの力を使って、幻想郷を未来永劫存続させたいと思っている。だが私一人では無理だ。協力関係を結びたい」

*1
『第188話 魔理沙の選択』参照

*2
『第188話 魔理沙の選択』参照

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