魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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高評価と誤字報告ありがとうございます。

【お詫び】
 第5章のサブタイトルで、前前回は「第269話 (2) 魔理沙が忘れた記憶 魔理沙の軌跡(前編)」前回は「第270話 (2) 魔理沙が忘れた記憶 魔理沙の軌跡(中編)」、そして今回は後編になる予定だったのですが、書きたい内容が増えて前中後の3編では終わらなくなってしまったので、数字のナンバリングに変更します。
変更後は前編が①、中編が②となります。申し訳ありません。


第271話 (2) 魔理沙が忘れた記憶 魔理沙の軌跡③ 展望

 

 私の提案に、場の空気がしんと静まり返り、紫と隠岐奈は真剣な表情で見つめ返した。

 

「詳しく聞かせてもらいましょうか?」

「私は時間の超越者としての力を、霊夢やお前達の幸せな未来と、私達が愛する幻想郷を永遠に存続させる為に使うと決めた。それでだ、これから先の時代で、幻想郷滅亡の原因になる出来事が発生する前に、歴史改変を起こすつもりでいる。その時に私を信じて協力して欲しいんだ」

「幻想郷滅亡の原因って、貴女の話では、26世紀と31世紀の歴史改変で既に潰したのではないの?」

「ああ。直近の原因については対処したが、私が言いたいのはそれよりも遥かに未来。具体的には西暦5000万年以降だ」

「……随分と先の話なのね」

「深刻な顔で何を言うかと思えば、肩透かしを食らった気分だぜ」

 

 呆れたような顔の紫はぼそりと呟き、マリサは苦笑している。

 

「そんな先の事を今話しても仕方ないと思うけどねぇ」

「えぇ。5000万年後の未来なんて、想像ができませんし、明日の予定を考えた方がよっぽど有意義ですわ」

「まあこの中だと、咲夜が一番忙しそうだしなぁ」

 

 それも当然の反応だろう。仮に私が逆の立場でも、同じ事を思っている。

 

「ふと思ったんだけど、ここに居る全員の年齢を足しても、5000万年に届かないんじゃない?」

「そうでもないわよ、アリス。5000万年前の私は月の都に住んでいたわ」

「そういえば、貴女はそうだったわね」

「だが、逆説的に考えたら、5000万年先まで幻想郷の存続は保障されているのか」

「その通りだぜ隠岐奈。これから先も、数多の異変や天変地異が発生するが、そのどれもが博麗の巫女や幻想郷の賢者を含めた、幻想郷の住人達で解決できるものばかりだぜ」

 

 外の世界の人類が宇宙に進出する現在の歴史においては、地球人と、その遺伝子を持つ種族が隆盛する。愛星心の強い彼らが、外敵の侵略や致命的な災害等の、地球存亡の危機から星の寿命を迎える時まで保護してくれるため、改変前の歴史を繰り返す事はない。

 

「未来を知っているならさ、最初から異変や災害が起きないようにしないの?」

「異変は幻想郷の妖怪達にとっては娯楽にもなる。それを前もって潰したら、不満を抱く妖怪が増えるし、何より博麗の巫女の存続理由が危ぶまれる。“異変が発生して、それを博麗の巫女が解決する”一連の流れこそが、幻想郷に博麗の巫女が必要である事を周知させる絶好の機会なんだ」

「確かに……そうね」

 

 複雑な顔で私を見る杏子と、霊夢をスルーして言葉を続ける。

 

「災害については、その時代の人妖の知恵・技術・能力で対処可能だろう。まあ火山の噴火や、氷河期到来による地球全体の凍結、巨大隕石の衝突といった、幻想郷が崩壊しかねない規模の天変地異については、外の世界の科学を利用して対策を講じるつもりだ」

「なんかさらっととんでもない事言ってませんか!?」

 

 文の驚愕の声を無視して私は語る。

 

「だがそれにも限界がある。幻想郷を存続させる為には、地球から脱出して、他の惑星に移住しないと駄目なんだ」

「それはどうして?」

「5000万年後に何があるのよ?」

「未来の情報を知ることになるが、構わないか?」

「まあここまで聞いてしまったら、最後まで聞きたいわね。中途半端に話を切り上げられても、気になるわ」

 

 紫の言葉に反対意見は無かったので、私は続きを話す。

 

「結論から言うと、地球規模の気候変動による環境の変化と、日本列島の消滅が重なり、幻想郷が維持できなくなる。少し解説するがいいか?」

「ええ」

「まず前提として、この時代になると地殻変動の影響で、現在の世界地図にある六大陸は、ユーラシア大陸に集まり始める。勿論日本列島も例外ではなく、徐々に徐々にユーラシア大陸に近づいていくんだ。それが西暦5000万年頃にもなると、日本列島は、ユーラシア大陸とオーストラリア大陸に挟まれるような形で砕かれて消滅する」

「オーストラリア大陸って、南半球にある大陸じゃない。あんな遠い島がアジアまで来るのね」

「まさか、幻想郷は海に沈むの?」

「正確には、ユーラシア大陸とオーストラリア大陸の間に出来た僅かな海の間に、諸島となって存在することになるから沈む事は無い。だが、この時代の幻想郷は、現在の日本で例えると関東地方並の面積がある。幻想郷もバラバラになって、只では済まない」

「……確かに、そうね」

「ちなみにこれが西暦5000万年の世界地図だ」

 

 西暦5000万年にいる私から、地図データが入った携帯型デバイスを取り寄せて、テーブルの上に起動すると、立体的な映像が浮かび上がる。今の七大大陸は原形を留めておらず、ユーラシア大陸に近づいている。

 

「今の世界地図とは全然違うわね」

「影も形も無いわ」

「ちなみに西暦2億5000万年頃にもなると、パンゲア・ウルティマ大陸と呼ばれる超大陸になるんだが、かつて幻想郷があった場所はこの辺りになる」

 

 西暦2億5000万年の地図に更新し、一つの巨大な大陸の中心部に近い土地にある険峻な山脈を指差す。山頂部は針の先のように鋭く、頂上部には常に雪が降り積もっていて、過酷な環境になっている。

 

「この山脈は富士山よりも高い標高4000m級の山々なんだが、人間が住むにはあまりにも厳しい環境だ。だが見て分かる通り、大陸の中心部は広大な砂漠となっていて、此方も人が住むには適さない。現在で言う北極と南極辺りが、住みやすい気候になるのだが、既にこの時代の特権階級が肥沃な土地を抑えていて、幻想郷が移住できる土地はない」

「前もって押さえる事はできないの?」

「確かにやれなくもないが、それも問題の先送りにしからならない。どれだけ手を尽くしても、最終的には西暦50億年頃に地球は膨張した太陽に呑み込まれるからな。こればかりは、いくら科学が発達しても回避できない、絶対的な星の終わりなんだ」

「星の終わり……」

「だから私は、日本列島がまだ形を保ち、環境の急激な変化に耐えられるまでの間――具体的には西暦2500万年までに、地球から幻想郷を丸ごと脱出させたいと思っている」

「どういうこと?」

「具体的には、幻想郷が丸ごと収まるサイズの宇宙船を用意し、紫と咲夜の能力を応用して、宇宙船内に移動させる。その後、ここから3700万光年離れたサイケラ星にワープし、ジュサトエイ島に幻想郷を丸ごと移転させる。サイケラ星の取得や周辺銀河諸国への周知、宇宙連邦への根回しも含めて、私が全ての下準備を済ませておくから、この作戦の実行に理解を示して欲しい」

「え、待って。紫はともかく、私の力も必要なの?」

「あぁ。お前の時間操作能力はこの宇宙で唯一無二だからな」

「それも貴女が視た未来の情報なの?」

「あぁ、そうだ。居住可能な惑星に移住し、星の寿命や居住限界を迎えた際にまた別の惑星に移住する。それを繰り返し、全ての星が死ぬ宇宙の終末が近い時代になった時、方舟計画を実行する」

「方舟計画?」

「地球を模した宇宙船を私達で建造し、幻想郷エリアに幻想郷を移転し、それ以外のエリアにその時代を生きる外の世界の人々を住まわせる予定だ。当然ながら、第二宇宙に到達した時に再生できるように、種と星の記録も忘れない。改変前の歴史の宇宙の終末の時代において、永琳と月の民達が行った計画の改良版だな。永琳の頭脳と月の民達の科学技術、そして輝夜の能力が肝になる」

「途方も無く壮大な話ね」

「ふふ、いいじゃない。永琳なら間違いなく実行するでしょうしね」

「月の民と協力できるのか?」

「今の時代では多少のわだかまりがあるだろうが、この時代にもなるとそんなことも言っていられなくなるぜ? 収縮する宇宙の、僅かな生存圏と資源を巡って、常に争いが勃発しているからな。その戦争を終わらせる為に、幻想郷を戦争に巻き込ませない為にも、宇宙船地球号が必要なんだ」

「あまり生きやすい時代では無いのね」

「そして宇宙の死が訪れる時に、女神咲夜と同じ方法――方舟を虚数時間に凍結し、第二宇宙が開かれる時まで無の時間を通過する。これが私の計画の大まかな流れだ。勿論すぐに行動しなければならない問題ではないし、ぶっちゃけ未来の話は忘れても構わない。だが遥か遠い未来において、私が行動を起こさねばならない時が来た時、私を信じて欲しいんだ」

 

 私が視た限り、幻想郷の存続が危ぶまれるような脅威は天変地異くらいしか存在しない。私達が勝ち取った平和な時代は、人間の物差しでは測り切れない程長く続く。

 

「……いいでしょう。魔理沙、未来の私がそうしたように、私は貴女を信じるわ」

「少なくとも、魔理沙の精神に揺らぎはない。お前と私の利害は一致するし、反対する理由は無いな」

「助かるぜ」

 

 幻想郷の賢者二人からの言質を取り、とりあえず一安心だ。改変前の歴史の記憶を思い出し、私の能力の利便性と危険性を認識した事が、今回の結果に結びついたとも言える。

 

「一つ聞かせて欲しい。私と紫がお前の話を承諾する事や、ここに至るまでの歴史は全てお前のシナリオなのか?」

「……ああ、そうだ。私は、私の望む歴史に導くために立ち振る舞いや言動を変えている。だが、私の気持ちに嘘偽りが無い事だけは信じて欲しい」

「成程な。全てがお前の掌の上って事か。気に食わないが、これも必要な事だろう」

 

 隠岐奈は至極つまらなさそうに呟きながら席を立ち、後ろ戸の国へと帰って行った。続けて私は、残った少女達に向かって言った。

 

「お前達も、幻想郷の有事の際には協力してもらいたい」

「当然よ」

「なんだかんだ言って、幻想郷は居心地がいいからね」

「そもそも私達が生きている保証があるのかしら?」

「幻想郷の環境内ならば、生きる意志さえ持ち続ければ、命の灯が消えることは無いぜ」

「そういうものなの紫?」

「……分からないわ」

 

 紫は首を傾げているが、私には既に知っている。妖怪の在り方が変化し、幻想郷に完全に適応することを。だがそれを敢えて言及する必要はない。時間は充分にあるのだから。

 続いて私は、熱心に手帳に記録している文に話しかけた。

 

「文、今日の話は記事にしても構わないが、私が時間の超越者である事は隠してくれないか? 無用な争いの火種を生みたくないんだ」

「えぇ~なんですかそれ! 肝心な部分を隠したら、事実ではなくフィクションになり下がってしまいますよ! ……と言いたいところですが、記憶が復活した今では、確かに一理ありますね。分かりました、約束しましょう」

「サンキュー。メビウスの輪が発生した歴史の事なら好きなだけ記事にしてくれて構わんぞ」

「そうしたい所ではありますが、現在の世界では起こらなかったことになってますし、私が撮った写真と書き留めた文章は全て消えてしまったので、記事にしても只の妄想扱いされるだけなんですよねぇ」

「昔に比べたら、あんたの新聞は結構信頼されているものね」

「信じられない話だぜ」

「ふっふっふ、これも努力の賜物ですよ」

 

 この調子なら私の要望が通るだろう。文が明日発行する新聞には、今日の話の核心となる部分は上手くぼやかされている。

 

「私からの話は以上だ。今日は忙しい中集まってくれてありがとうな。これで解散にするぜ」

「貴重な話が訊けたし、来た甲斐があったわね」

「ええ、そうね」

「ねえ、折角集まったんだし、お喋りでもしましょうよ。時間はまだあるでしょ?」

「私は良いわよ」

「私はそろそろ戻るわ。藍に仕事を押し付けてきてしまっているもの」

「残念だわ。またね紫」

 

 紫は足元にスキマを開いてその中に消えていく。続いて咲夜も席を立つ。

 

「私も仕事が溜まっているから、紅魔館に帰るわ。魔理沙、お嬢様が今の貴女と会いたがっているの。時間があるときに是非紅魔館まで来て頂戴」

「あぁ」

「またね~」

「じゃあな、咲夜!」

 

 咲夜は私達に一礼した後、時間を止めて紅魔館に帰って行く。残った私達は、アリスのお菓子を食べながら談笑して穏やかな時間を過ごし、日が傾きかけた頃に解散となった。

 

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