魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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第274話 (2) 魔理沙が忘れた記憶 魔理沙の軌跡⑥ レミリアとの対談

 ――西暦215X年10月2日午前10時40分――

 

 

 

 ――幻想郷、紅魔館―― 

 

 

 

 幻想郷の空をのんびりと飛び続けて、つつがなく紅魔館の門の前に到着した私は、此方に手を振っている美鈴に声を掛ける。

 

「よう美鈴」

「おはようございます! え~っと、貴女はマリサの妹さんですね?」

 

 私のポニーテールを見ながら訊ねる美鈴に「ああ、そうだぜ」と答える。私と姉さんは見た目も声も全く同じなので、髪型で違いを出さないと分からなくなるからな。

 

「レミリアに会いに来たんだが、入ってもいいか?」

「構いませんが、お嬢様にご用があるとは珍しいですね?」

「お嬢様が魔理沙を招待したのよ」

「咲夜さん!」

 

 時を止めて私達の近くに出現した咲夜が、自然な流れで会話に混じってきた。

 

「今日はちゃんと仕事してますからね!」

「ええ、ちゃんと見ていたわ。いつもその調子でお願いね」

「はい!」

 

 元気よく返事する美鈴に微笑んだ咲夜は、続いて私を見ながら言った。

 

「良く来たわね魔理沙。お嬢様の元に案内するわ」

「助かるぜ」

 

 レミリアの能力の影響を受けた現在の時間帯において、私の未来視は不安定になっている。闇雲に屋敷内を探索する手間が省けそうだ。

 私は美鈴に別れを告げて、咲夜と一緒に庭園を歩いていく。色とりどりの花々と、秋風によって運ばれる香りを楽しみつつ私は咲夜に訊ねる。

 

「突然の訪問だったのに、よく分かったな?」

「お嬢様が近い未来に貴女が来ることを予測していたのよ。私が貴女を見つけたのはたまたまだけどね」

 

 未来の予測ねぇ。それは必然だと思うのだが、指摘するのも野暮だろう。まあそれよりも、咲夜に言っておきたい事があるんだ。

 

「咲夜。メビウスの輪が完成した時の歴史ではありがとな。特にお前には、取り返しのつかない事をしてしまった」

 

 昨日、私が開いたタイムホールで迷惑を掛けてしまった少女達に謝罪したが、特に咲夜と輝夜に関しては謝罪してもしきれないくらいに負い目がある。

 何故なら過去の私を見つける為に時間遡行したものの、結局私を見つけられず、約39億年もの長い時間遡行に精神が耐え切れずに自死を選ぶ歴史があったからだ。もし西暦200X年7月20日13時52分に、私に扮した女神咲夜が介入しなければ、現在の歴史に辿り着く事も無かったし、記憶のフラッシュバックによって、精神的に大きな傷を負っていた事だろう。

 その事について不可解な顔をする咲夜に説明すると、彼女は難しい顔をしていた。

 

「今の私には、貴女が話した歴史を経験した記憶が全く無いから何とも言えないわ。でも、その事について悔いているのなら、同じ失敗を繰り返さないようにして欲しいわね」

「……あぁ」

 

 優しい声色で答えてくれた咲夜に私は頷いた。

 それから玄関の扉が開き、エントランスホールの正面の階段を使って2階に上がり、左に曲がった廊下の一番目の扉の前で咲夜は立ち止まる。ここは応接室だったな。

 

「お嬢様、咲夜です。魔理沙がいらっしゃいました」

「入っていいぞ」

 

 ノックをした咲夜が扉を開き、中に入る。

 20畳程の広い部屋には、風景画と観葉植物が飾られていて、中央には上質な皮のソファーとガラス張りのテーブルが置かれている。レミリアは霧の湖が見える窓に背を向けるように、ソファーに座って足を組んでいる。テーブルの上には湯気が立ち昇る紅茶が入ったティーカップと、カットされたチョコレートケーキが乗った皿が置かれている。先程の未来視通りの光景だな。

 

「よく来たわね魔理沙。さあ、座りなさい」

「あぁ」

 

 レミリアに促されて私は彼女の正面に座る。程なくして、私の前のテーブルにも、時を止めた咲夜によって紅茶とケーキが一瞬で提供される。

 

「サンキューな」

「それでは私はこれで」

 

 一礼して立ち去ろうと懐中時計に手を掛けた咲夜に、レミリアは「待ちなさい咲夜。貴女も魔理沙の隣で話を聞いていきなさい」と呼び止める。咲夜は「かしこまりました」と私の隣に座り、三度時を止めて自分のお茶菓子を用意していた。

 

「で、私に何の用だ?」

「うふふ、そう結論を急ぐ必要もないでしょう? 一度貴女の運命をこの目で見てみたかったのよ。構いませんでしょ?」

「好きにすればいいぜ」

 

 紅茶に口をつけていたレミリアはティーカップを置くと、私をじっと見据える。その眼は私に向けられているようで、私ではない何かを見ているようだった。

 彼女の運命を操る程度の能力が何処まで通用するのかは分からないが、私が確認する限り、道筋が操作されたような痕跡は無い。言葉通り私の歴史を見ているのだろう。

 早速暇になってしまったが、咲夜は律儀にレミリアの一挙手一投足を見守っていて話せるような雰囲気じゃないな。チョコレートケーキを楽しみながらレミリアの運命視を待っていると、食べ終わる頃に彼女は呟いた。

 

「ふぅん。確かに今までの魔理沙とは違うのね。無数の可能性未来が分岐しているようで、実際は一筋の線しか無く、終着点は決まっているのに、結末を選んでいない。面白い運命だわ」

「満足したか?」

「ええ、とっても。だからこそ、貴女の胆力に敬服するわ。無限に等しい過去と未来を観測し、天秤に掛けて選択しながらも、未だに人間としての心を保っている事にね」

 

 ニヤリと笑うレミリアの鋭い指摘に、私は紅茶を飲み干してから答えた。

 

「“起きなかった”未来に気を揉んでも仕方ないし、私には霊夢がいるからな。霊夢が望む限り、私は私であり続けるぜ」

 

 膨大な歴史を観測しても、私が(霧雨魔理沙)という人格を失わないのは、霊夢が心の支えになってくれているからだ。それは、たとえ遥か彼方の未来においても変わらない。

 

「美しい友情ね。それだけに貴女が時間の超越者になってしまったのが惜しいわね。昔の貴女の方がまだ可愛げがあったわ」

「余計なお世話だぜ。話が終わりなら帰るぞ」

「あら、気分を損ねてしまったのかしら? おかしいわね、貴女は既に知っていた筈でしょう?」

「知識があっても感情が揺れ動かないとは限らないぜ。それはお前自身が一番良く知っているんじゃないか?」

 

 私の仮説では、レミリアの能力は未来の分岐点が視えるものだと思っている。根拠としては、私が初めて霊夢の歴史を改変する時や、タイムホールとメビウスの輪が発生した時の紫に対する言動だ。

 私は西暦200X年7月20日に遡り、いざ霊夢と接触しようという所で、自らの行動に迷いが生じていた。しかし『貴女は将来大きな決断を迫られる事となるでしょう。その時が来たら自分の心に従い、後悔のない選択肢を取りなさい』という言葉を思い出し、それが後押しになって、霊夢の自殺という歴史改変に踏み出した。

 そして紫には、タイムホール発生の歴史では、『世界はもう間もなく終焉を迎える運命にある。唯一の希望は魔理沙よ』と。そこからメビウスの輪に変化した歴史では『私達は世界の終焉にまた一歩前進した。〝希望″を求める猶予は殆ど残されていない』との言葉を残している。

 これらの言葉の後に起きた出来事を考えると、未来が視えているとしか思えないのだ。

 

「ふふ、分かっているじゃない。人生の先輩としてアドバイスをしてあげようと思ったのだけれど、どうやら必要はなさそうね。つまらないわ」

 

 レミリアはあくまで高慢な態度を崩さない。彼女の言わんとすることは分かる。要は、不確定の未来を視ても必要以上に気にするな。と、未来を視てもそれが絶対的ではなく、人々の感情で変化する可能性が有るから、言動には気を付けろ。何か起きても一人で抱え込まずに他人を頼れ。と言いたいのだ。まさかレミリアが私を気にかけてくるとはな。

 

「逆に私からも質問だ。私の未来を視たのなら、私がこれからやる事も理解したはずだ。それを知った上でお前はどう動く?」

「別に何も。私は身内にさえ影響が無ければ静観に徹するわ。約2500万年後の幻想郷の移転のように、互いに利害が一致するのなら、協力することもやぶさかではないわよ?」

 

 それだけ言ってレミリアはチョコレートケーキをフォークで切り分けて口に運んでいく。

 これは彼女なりの忠告だ。レミリアは紅魔館とその住人達をとても大切に思っている。そんな彼女達の歴史を安易に改変しようとすれば、絶縁状態になるし、私の計画を全力で妨害してくるだろう。咲夜を同席させたのも、この会話を聞かせたかったからだろうな。

 幻想郷を存続させる為には、咲夜の力が必要不可欠だ。吸血鬼は無限に近い寿命を持つ数少ない種族であり、第一宇宙の最後においても、今と近い性質で在り続ける。まあ元より敵対するつもりは無いが、きちんと肝に銘じておくべきだろう。

 

「それは助かるぜ。これからも友好的で在りたいものだ」

「ふふ……。これもいい機会だし一つだけ予言してあげるわ」

「……なんだよ?」

 

 急に何を言うつもりなんだ?

 

「貴女は遠い果ての未来で、最後の決断を迷っているみたいだけど、貴女は必ず今の能力を捨てる決断をするわ」

「どうしてそう言い切れるんだよ?」

 

 未来の私でさえ決めかねているというのに。

 

「私の知る魔理沙はそういう人間だからよ。貴女が後天的に得た性質は人の手には身に余る。貴女が魔理沙としての心を失っていなければ、そういう選択をするわ」

 

 レミリアは、まるで未来が分かっているかのように自信満々に断言する。もしかしたら、彼女には私が知らない未来が視えているのかもしれない。

 

「……覚えておくぜ」

「今はそれで良いわ。貴女の未来は貴女が創っていく道。死なない程度に精々頑張りなさい」

 

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