魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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第275話 (2) 魔理沙が忘れた記憶 魔理沙の軌跡⑦ 紅魔館の午後

 それから昼食をご馳走になり、仕事に戻るレミリアと咲夜にお礼を告げて別れた私は、折角紅魔館に来たのでパチュリーの顔でも見ていこうと思い、地下の大図書館へと歩みを進めていく。

 入口の扉を開け、天井まで伸びた無数の本棚と、敷き詰められた本に見下ろされながら奥に向かうと、開けた空間に設けられた読書スペースで、パチュリーとアリスが対面して座り、テーブルの上に本を開きながら雑談をしていた。

 

「よう、パチュリー。アリス」

 

 私が声を掛けると、二人は会話を中断して顔を此方に向ける。

 

「あら、魔理沙じゃない」

「今日はどうしたのかしら?」

「レミリアに呼ばれた帰りにここに寄ったんだ。特に用事がある訳じゃないぜ」

 

 そんなことを言いながら私はアリスの隣に座る。

 

「レミィが魔理沙を呼ぶなんて珍しいね。どんな話をしたのかしら?」

「聞きたいのか? まあ構わないが――」

 

 私はレミリアとの対談について二人に話していくと、最初に感想を述べたのはアリスだった。

 

「まるで雲をつかむような話ね。レミリアは何を伝えたかったのかしら?」

「いつもの事よ。レミィは煙に巻くような話をするのが好きだからね」

「魔理沙は意味が分かったの?」

「まあな。だが私の未来に関わる話になるから、悪いけど今は言えないぜ」

 

 レミリアの能力についてはいずれ検証したい所だが、こんな事を考えている時点でそれは失敗に終わるんだろうな。

 

「ところでお前らは何の話をしていたんだ?」

「研究中の魔法について話していたわ」

「魔法か。パチュリーは知らんが、アリスは完全な自立人形の製作を目指して研究しているんだよな」

「そうだけど、何よその説明口調は?」

「特に他意はないぜ」

 

 ええと、いつもはこういう時にどんな話をしていたんだっけな。こんな些細な事に異時間の私との記憶同期や未来視は使いたくないし、目的の無い雑談って難しいな。

 

「そうだわ! 魔理沙からも意見を聞かせてくれない? 最近、研究が行き詰っているのよね」

 

 アリスの頭上に乗っていた上海人形が私の前にゆっくりと降りてくると、ペコリと頭を下げた。

 

『こんにちは魔理沙』 

「事前に命令しておいた行動をスムーズに行ったり、言葉を流暢に話せるようにはなったんだけど、そこから先が中々上手く行かないのよねぇ」

 

 私はちょこんと座る人形の頭を撫でて挨拶を返しつつ、アリスに言った。

 

「意見を聞きたいってのは、どの程度だ?」

「どの程度って?」

「私は今アリスが探し求めている答えどころか、研究の完成形まで知っている。お前が望むのなら、それを伝えてもいいんだが」

「ええっ、そうなの!?」

 

 思いもよらない言葉に、アリスは驚愕している。

 アリスが目標とする完全な自立人形の製作。それは科学風に言うなら、人間と同じ性能のAIを搭載したアンドロイドで、現代の外の世界ではごく普通にありふれた存在だ。

 とはいえ、一個人の力だけで完成一歩手前まで到達しているのは凄い事だ。150年以上の研究を重ねている彼女は、科学と魔法のアプローチの仕方こそ異なるものの、いずれ同じ答えに行きついて10年後には研究を完成させる。今ここで伝える事は、完成する未来が少し早くなるだけで、タイムパラドックスが発生する訳では無い。

 

「アリスには改変前の歴史で心配させちまったからな。このくらいお安い御用だ。もちろん、この情報を聞くことによる歴史の齟齬やタイムパラドックスは発生しないから安心してくれ」

 

 アリスはしばらく考え込んでいたが、「……ごめんなさい。やっぱり聞かないことにする。私は自力で研究の完成にこぎつけてみせるわ」と意志を込めた瞳で私を見つめてきた。アリスらしいな。

 

「咲夜から時の超越者になったと聞いていたけれど、本当なのね。貴女は何処まで知っているのかしら?」

 

 私達のやり取りを見守っていたパチュリーが、じっと私を見つめながら口を挟んできた。

 

「全て視えているな。例えば、お前が今開発中の魔法だって知っているぜ」

 

 私が魔法の序文を少しだけ言うと、「……まだ誰にも話していないのに、本当に知っているのね。なんだか心を暴かれた気分だわ」とムスッとした顔で言われた。

 

「気を悪くしたのなら済まないな。だがな、私がここまでこれたのも、最初の歴史でパチュリーとアリスの協力があったおかげだ。お前達には感謝しているんだぜ」

「……話には聞いているけれど、その出来事については全く覚えていないのよね。貴女は寂しくならないの?」

「ふむ、そうだな。寂しくならないと言えば嘘になるが、私に協力してくれた人々があって今の私があるからな。そういう段階はとっくに通り過ぎている」

「……ねえ魔理沙。私も、改変前の歴史の記憶を取り戻せないかしら?」

「可能だが、急にどうした?」

「単純な興味よ。深い意味は無いわ」

「そうか。何処までを知りたいんだ?」

「改変前の歴史全てよ」

「分かったぜ」

 

 アリスが此方を見る中、私はパチュリーに向かって手を伸ばし、これまでの改変分の歴史――私がタイムジャンプ魔法の開発に勤しむ最初の歴史~タイムホールが開きメビウスの輪が完成した歴史――の記憶を復活させる。

 パチュリーは一瞬だけ顔を顰めたものの、澄ました表情を崩さない。

 

「終わったぜ」

「…………」

 

 うつ向いたパチュリーから返事は無い。彼女の脳内では、150年分の情報の相違点が波のように押し寄せ、スポンジのように吸収されている。定着するまでに多少の時間が掛かるだろう。

 

「ちょ、ちょっと魔理沙。大丈夫なの?」

 

 心配そうに訊ねるアリスに、「今は少しだけ記憶が混乱しているだけだ。115秒後に治まるさ」と答える。案の定、115秒後にパチュリーは復活し、現状を確認するように一度だけ辺りを見渡している。

 

「一応現在の歴史を伝えておくぜ。現在時刻は西暦215X年10月2日午後1時35分。私がタイムジャンプを習得し、霊夢は仙人、もう一人の私が種族としての魔法使い、咲夜は吸血鬼になった。そして私はタイムトラベラーから時間の超越者になり、タイムホールとメビウスの輪を修正したぜ」

「……魔理沙。ええ、そうね。一応この目で確認させてもらうわ。小悪魔~! 監視用の水晶玉を持ってきてちょうだい!」

 

 パチュリーが南の方角に向かって呼びかけると、本棚の奥から「かしこまりました~!」と声が聞こえ、すぐに大事そうに水晶玉を抱えた小悪魔がやってきた。

 

「魔理沙さんもいらっしゃってたんですね! ゆっくりしていってください♪」

 

 私に気付いた小悪魔は一度立ち止まり笑顔を見せた後、パチュリーの前に水晶玉を慎重に置いた。

 

「ご指定の物を持ってきましたよ!」

「ご苦労様」

「はい! それでは失礼しますね!」

 

 彼女は笑顔を振りまきながら、職務に戻っていった。

 パチュリーは早速水晶玉に手を翳して、紅魔館の外の景色を次々と映していく。秋の晴れた空と陽射しに照らされて光り輝く庭園、門の前でチルノとお喋りしている美鈴、屋上で乾いた洗濯物を取り込んでいる咲夜。普段と何ら変わらない霧の湖に、草原と森。タイムホールから水が降り注いだ形跡や、超高層ビルが地面に突き刺さった痕跡も無い。いつもの日常が過ぎていた。

 やがて水晶玉から手を離したパチュリーは、私の顔をじっと見て、一人納得したように頷いた。

 

「……なるほどね。あの時のレミィの予言と、時の神の咲夜の行動は、今の歴史に繋がっているのね」

「あぁ。“昨日”は咲夜に力を貸してくれてありがとうな。今私達がここにいるのも、お前のおかげだ」

「そんな大したことはしてないわよ。でも、素直にお礼は受け取っておくわね」

「ちょ、ちょっと。何の話をしているの?」

 

 パチュリーはアリスに、メビウスの輪が完成した歴史の西暦215X年10月1日午前9時に起きた出来事――時間が止まった世界で、時の回廊からやってきた女神咲夜に出会い、この時間から時間遡行した咲夜と輝夜、紀元前38億9999万9999年8月19日午前0時の私の歴史を変える為に、変身魔法を使用した事――を話していく。アリスは理解したように頷いていた。

 

「魔理沙。改変前の記憶の復活は、常に出来ないのかしら?」

「それは無理だな。改変前の記憶を覚えている知的生命体が多ければ多い程、彼らの行動次第で歴史が変化し、望んだ歴史にコントロールするのが難しくなる」

「確かにそうね」

「なんだか嫌な言い方だわ」

「他にもお前が体験したように、タイムトラベラーでは無い知的生命体の恒常的な改変前の記憶の維持は、脳に負担が掛かる。私はこれから霊夢の将来と幻想郷の維持の為に、幾度となく歴史改変を実行する予定だ。全てを覚えていたら、異なる歴史の記憶に埋もれて、現在の歴史の“自分”を見失うぞ」

「そんなに歴史改変をするつもりなの?」

「幻想郷が内部から崩壊する可能性は、紫達妖怪の賢者が管理を怠らなければまず起こりえない。問題は外の世界だ」

「何があるのよ?」

「今は紫によって幻想郷がある土地の権利書を押さえているが、体制の変化による権利の剥奪がいつ起きるとも限らない。加えて、今の幻想郷が平和なのは、“妖怪”や“神”といった人外が迷信扱いされているからだ。しかし彼らはやがて“神”の存在を証明する。科学の分野を突き詰めていけば、覆すことが出来ない時間の理と、人知を越えた真理に行きつくからだ」

「……つまり、遠い将来に幻想郷が危なくなるの?」

「いいや、その逆だ。成熟した文明が“神”のような超常的な存在がいる事を意識するようになった時に、幻想郷がある地域を、“神”が住まう神聖な土地として、自然保護区域への指定と信仰の対象にする事で、何者をも近づけない陸の孤島にする。その歴史の流れを作る為に、私は未来に歴史の改変を行う予定だ」

 

 かつての私は、科学技術による幻想の解明による幻想郷滅亡の流れを防ぐ為に歴史改変を行ってきたが、今回はその逆になる。勿論過去の私を否定する訳では無い。西暦300X年の幻想郷が存続するには最良の選択だし、私が上述した行動を行わずとも、日本列島がユーラシア大陸とぶつかって崩壊する時代までは幻想郷は安泰だ。

  言わばこの施策は、第二、第三以降の地球で、幻想郷の存続確率を上げる為のものだ。

 

「神が住まう神聖な土地ねぇ。まあ嘘は吐いてないけど」

「かなり先を見据えた話なのね」

「――とまあそういう訳でな。色々とやらなければならない事があるから、今はこの程度しか話せないし、当事者以外の歴史改変の記憶復活は出来ないんだ。歴史は大雑把でもあり繊細でもある。お前達にこの未来の流れを教えた事が、私から出来る最大限の誠意だと思って欲しい」

「ふ~ん?」

「……まあいいわ。でも、その話は霊夢やマリサにもしてあげなさいよ」

「魔理沙。私達は貴女の味方よ。いつでも頼ってくれていいからね」

 

 アリスの言葉に頷くパチュリー。

 

「あぁ。ありがとうな、パチュリー、アリス」

 

 私は心からのお礼を伝える。なんだか会う妖怪達から気遣ってもらってばかりいるが、そんなに私は危うく見えているのだろうか? 心に留めておくことにしよう。

 それから私達は魔法談義や弾幕ごっこを楽しんだりして、時間が過ぎていき、夜になる頃に解散となった。

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