魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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第278話 (2) 魔理沙が忘れた記憶 魔理沙の軌跡⑧ 初代博麗の巫女③

 ――西暦215X年10月3日午後2時15分――

 

 

 

 ――博麗神社――

 

 

 

 つつがなくタイムジャンプが終わり、元の時間に帰って来た瞬間、千絵の強烈な回し蹴りが私の脇腹に入る。大きな衝撃が入るが、私はそれを見越して魔力の壁を作って防御力を上げておいたので、肉体へのダメージは無い。

 手ごたえが無いと感じた千絵は追撃しようと更に踏み込んできたが、私の魔法で閃光を発生させると、千絵は後ろに大きく跳んで距離を取る。互いに向かいあうような形となり、千絵は幣を突き付けながら私を睨みつける。

 

「私に何をしたのかしら?」

「お前を西暦215X年10月3日の午後2時15分に連れて来たんだぜ」

「いったい何を――」

「えっ、魔理沙さん!? 其方の女性と何があったんですか!?」

 

 博麗神社の縁側から杏子が慌てた様子で此方に駆けてきて、姉さんも「お前、初代博麗の巫女を連れて来たのか!?」と甚く驚きながら近づいてくる。千絵は姉さんの顔を見て驚愕していた。

 

「二人目!? 神社から妖怪がくるなんて……! ちっ、面倒ね」

「!」

 

 千絵は姉さんに向かって陰陽玉を放ったが、それに気づいた杏子と瞬間移動した霊夢が姉さんの隣に移動し正面に結界を展開。陰陽玉は跳ね返されて千絵の手元に戻っていった。

 

「あぶねっ。助かったぜ霊夢、杏子」

「マリサさんにお怪我が無くて良かったです」

「随分と穏やかじゃないわね。無理矢理連れてくるなんて、貴女らしくないじゃない?」

「それは済まないと思ってる。だがこの方が手っ取り早かったからな」

 

 霊夢とそんな話をする一方で、千絵は霊夢と杏子の結界に目を見開いていた。

 

「その結界術は……! 何故外部の人間と妖怪が我が家の術を……!」

「えっと、もしかしてこの人は博麗千絵さん?」

「あぁ」

 

 私が頷くと杏子は「この人が……!」と感心していた。一方霊夢と姉さんは私に非難の目を向けていたので、事情を説明しようとするも、千絵がそれを許さない。

 

「くっ……!」

 

 千絵が苦虫を嚙み潰したような顔で走り出し、私達に霊力弾を放出。霊夢と姉さんと杏子が武器を出し、迎撃しようとした時、紫のスキマが開いて霊力弾を全て吞み込むと、私達を庇うようにスキマから紫が登場する。

 

「待って千絵! 彼女達は敵じゃないわ!」

 

 紫が叫ぶと、千絵は足を止めて険しい表情で睨みつける。

 

「……八雲紫。これはどういうことなのかしら? 私に何の相談も無しに新たな博麗の巫女を立てて、神聖なる博麗神社に多くの妖怪を招き入れるなんて、私を裏切ったのかしら?」

「裏切ってなんかいないわ! 私も事情が分からないのよ! ――魔理沙、ちゃんと説明してちょうだい!」

「分かってる」紫に睨まれた私は、改めて千絵に向き直る。

 

「よく聞いてくれ千絵。ここはお前から見て272年後の幻想郷。西暦215X年10月3日の博麗神社だ」

「またそんなふざけた事を――」

「いいから聞いてくれ。証拠はある。周りをちゃんと見てみろ」

 

 私達に警戒しながらも周囲を見渡していく千絵に、解説を入れていく。

 

「お前の時代では新築だった博麗神社は年季が入って老朽化が進んでいる。新設されたばかりの参道も風化が進み、汚れてくすんでいる。太陽は高い位置で輝き、満開の桜の木々は色鮮やかに紅葉し、暖かかった気温も残暑が残る気候になっている。これらの変化は一朝一夕で起きえない」

「…………」

 

 確認を終えた千絵は、否定も肯定もせずに私を見据えている。

 

「そして決定的な証拠がある。杏子、陰陽玉を出してくれ」

「え? はい」

 

 杏子が懐に仕舞っていた陰陽玉を見せると、千絵は驚きの声を上げる。

 

「どうしてそれが……!」

「世界に二つとない博麗神社の陰陽玉がここにある事が、未来に時間移動した明確な証拠になるぜ」

「ちょっとあんた、それ貸しなさい」

「は、はい」

 

 ずかずかと近づいていき、半ばひったくるように杏子から陰陽玉を奪い取った千絵は、自身の持つ陰陽玉とじっくり見比べている。霊力を込めて比較も行っていき、最終的に彼女はふうと息を吐いた。

 

「本物……みたいね」

 

 杏子に陰陽玉を返した千絵は、紫に言った。

 

「……最後の確認をしたいわ。八雲紫、幻想郷の外の新聞を見せてくれないかしら?」

「残念だけど、外の世界にはもう紙の新聞は無いのよ。幻想郷の新聞ならあるわ」

「それでもいいから見せてくれない?」

 

 紫がスキマから取り出したのは、今日発刊されたばかりの文々。新聞。内容ではなく、今日の日付が書かれた箇所を確認した千絵は、新聞を返した後、渋い表情で言った。

 

「……どうやら、あんたの話は事実のようね。時間移動なんて突拍子の無い現象も、ここまで証拠を見せられたら、認めざるを得ないわ」

「分かってくれて何よりだぜ」

「だけど私を未来に連れてきた意味が分からないわ。こんなに妖怪を集めて、何が目的なのかしら?」

「私達にお前を害するつもりはない。私はお前が博麗の巫女になる決断をした先にある未来を見せてやりたかったんだ」

「……意味が分からないわ」

「博麗の巫女制度反対派の妖怪達による連日連夜の襲撃。人里の人々との信頼関係の構築。没落した実家の心配と、博麗家のお家問題。今のお前はこれらの懸案事項が重なり、今の生き方に迷いが生じているだろ?」

 

 普段の彼女は見敵必殺と言わんばかりに妖怪を退治して回っているのに、タイムホールから迷い込んだ姉さんや、私が会いに行った時は警戒しながらもちゃんと会話が成立したのが証拠だ。

 

「!? どうしてそれを……!」

 

 事情をぴたりと当てられた千絵は、息を呑む。

 

「ここはお前から見て未来だ。調べようと思えば、過去の出来事を知る事は容易い。紫だって、晩年の彼女から聞いていたんじゃないか?」

「ええ、そうね。今思い返してみれば、当時の私は新体制を維持する事に東奔西走していて、貴女への補助が足りていなかったわ」

「私はお前の迷いを解消する手助けをしてやりたいと思ってな。強引に連れて来させてもらったぜ」

「……余計なお世話よ。妖怪のあんたに心配される筋合いは無いし、その上から目線の態度が気に入らないわ。私はやることが沢山あるのよ。さっさと元の時間に帰しなさい!」

 

 千絵は態度を硬化させて、取り付く島もない。霊夢と姉さんも、ほら言わんこっちゃないと目で訴えてくる。

 

「分かった。無理やり連れて来て済まなかったな。だが最後に彼女達の紹介だけをさせてくれないか?」

「……聞いてあげるから、早くしなさいよ」

 

 彼女から許しを得たので、私はこの場にいる少女達を紹介していく。

 

「彼女は博麗杏子。この時代の博麗の巫女で、14代目になる」

「杏子です! 初代博麗の巫女様に会えて光栄です!」

「まあそんな感じがしていたわ。頑張ってね」

 

 あまり興味が無さそうにぶっきらぼうな返事をする千絵に、杏子は少しショックを受けていた。

 

「次に私の姉さんの霧雨マリサだ」

「あんたらって姉妹だったのね」

「妹が迷惑を掛けてすまんな。後でちゃんと言っておくから許してくれ」

「最後に彼女」私は霊夢を差しながら、「名前は博麗霊夢。5代目の博麗の巫女で、お前の末裔だ」

「末裔ですって?」

 

 千絵は興味を示し、霊夢をじろじろと見つめる。対して霊夢は「そういうことらしいわ」と他人事のように答える。

 

「お前と少し顔が似ているし、陰陽道の系統も同じだ。代々の博麗の巫女は、土御門家の陰陽術を使用しているからな」

「それは、将来の私が次の博麗の巫女に教えたのかしら?」

「察しがいいな、その通りだ。二代目の博麗の巫女はお前の娘だ。その娘は更に自分の娘にお前の術を教え、現在に至るまで引き継がれているんだ」

「……そう」

 

 じっくりと観察した千絵は「……否定は出来ないわね。もし本当に私の子孫なら、あんたに言いたいことがあるわ」と詰め寄り「どうしてあんたは妖怪になったのよ? 博麗家の跡継ぎなら、私達に課せられた使命があるでしょう。それを忘れてしまったのかしら?」と疑問をぶつける。

 

魔理沙(マリサ)と生きていきたいと思ったからよ。だから私は博麗の巫女を辞めたわ」

 

 きっぱり言い切る霊夢を補足するように紫は「霊夢は博麗家の妖怪として、代々の博麗の巫女の手助けをしてもらっているわ。彼女は人間側の妖怪なのよ」

「人間側の妖怪ですって?」

 

 懐疑的な態度の千絵に紫は「千絵。今の幻想郷は人間と妖怪が上手に共存できているのよ」と優しい声で答える。

 

「……それは本当なの?」

「ええ。昔に比べて、人間が妖怪に襲われる事件は格段に減ったわ。その大きな要因は西暦2003年に霊夢が考案したスペルカードルールによるものなのよ」

「スペルカードルール? なによそれ?」

「弾幕ごっことも言う。よし、私が解説してやろう」

 

 姉さんが話に割り込み、得意げに話していく。

 

「へぇ、素敵なルールじゃない。人間側にも勝てるチャンスがある上に、命のやり取りをせずにすむのが大きいわ」

「そうだろ? 百聞は一見に如かずだ。実際にやるから見ていってくれ。霊夢、やれるか?」

「いいわよ」

 

 霊夢はふわりとその場から浮かび上がり、姉さんは神社に立てかけてあった箒を取りに行った後それに跨って飛び上がる。かくして弾幕ごっこが始まった。

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