魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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第280話 (2) 魔理沙が忘れた記憶 魔理沙の軌跡⑧ 初代博麗の巫女⑤ 魔理沙の意図

 千絵は上がり込み、私も後についていこうとしたが、慧音に呼び止められた。

 

「待ってくれ魔理沙。色々と訊きたいことがある」

「なんだ?」

「どうして千絵さんを連れて来たんだ? いや、そもそも何処で千絵さんと私の関係を知ったんだ? 私の記憶が確かなら、魔理沙に話したことは無かった筈だが」

 

 慧音の疑問は至って当然だ。私が千絵を知ったのは時の回廊に記録された情報によるもので、以前の私であれば知るきっかけも無いし、興味も抱かないからな。

 

「それに霊夢とマリサの話では、タイムトラベラーとして色々な活動をしてきたそうだな。正直な所時間移動については半信半疑だったが、こうして目の前に現れた以上、疑う余地もないだろう。少し話を聞かせてくれないか?」

 

 そういえばこの歴史の慧音は、西暦215X年9月19日に輝夜と一緒に私の家を訪ねて来た時の出来事*1を忘れているんだったか。この時は幻想郷の滅亡の未来を変える為に動いていた歴史で、霊夢が仙人、マリサが魔法使いになった事で記憶が無くなってしまったんだな。

 さて、ここで慧音の疑問に答えるかどうかで今後が変わってくるのだが、未来視を使うまでもなくここは正直に話した方がいい。慧音と千絵は友人関係であり、適当にはぐらかしてしまうと心証が著しく悪くなってしまい、私と敵対することになるのでそれは望むところではない。

 更に歴史家の彼女はタイムトラベラーの私を調査する為に、わざわざ私の家を訪れるくらい好奇心と正義感が高く、今回の疑問は友人として、そして歴史家として私の意図を探るものである事は明白だ。彼女の性格を鑑みるに、この情報を悪用する事は無いし、誠意を持って対応すれば少なくとも悪い事にはならないだろう。

 一部同じ話をまた霊夢達にする必要が出てくるが……まあ仕方ない。

 

「そうだな、順を追って説明するぜ。だがその前に前提部分の共通認識を持っておきたい」

「分かった」

「まず私のタイムトラベラーとしての活動についてだが、実は改変前の歴史の西暦215X年9月19日にも同じ用件で私の家に訊ねて来ていたんだ」

「確かに私の性格ならあり得るだろうが、その記憶はないぞ?」

「今からその歴史の記憶を思い出させる。構わないか?」

「そんなことが出来るのか!? あぁ、やってくれ」

 

 慧音の差し出してきた右手を握り、この時の歴史の記憶を時の回廊から慧音の脳にダウンロードする。一旦手を離すと、慧音は何度か瞬きながらフリーズしていたが、状況を理解したようでようやく目の焦点があった。

 

「……うん。過去の私が納得しているのなら特に言うべきことは無いな。今お前がここにいるって事は、未来の幻想郷は安泰なんだな」

「あぁ。この件については終わった事だ。次に私が千絵を知るきっかけについてだが、第二宇宙で時間の超越者になったからだ」

「第二宇宙? 時間の超越者?」

「それについては、タイムホールとメビウスの輪が発生した二つの歴史の出来事が関係している。今度はその記憶を思い出させるぜ」

「またか? なんだか随分と歴史改変をやっているみたいだな」

 

 慧音が再度差し出した右手を握って、改変前の歴史――タイムホールとメビウスの輪が発生した時の記憶を慧音の脳にダウンロードする。私が手を離すと、彼女は目を見開いたまま、一瞬よろけた後、慌てて空を見上げた。

 

「なんて……ことだ……! こんなことがあったのか……!」

「空の穴はタイムホールと言ってな、簡単に言うと異なる時空を繋げる時間の歪みなんだが、私の能力の暴走で起きてしまったことなんだ」

 

 私は紀元前38億9999万9999年8月18日と19日の未明に起きたリュンガルトとの出来事と、第二宇宙で時の神になった未来の私と交わした話をする。重要な話と察した慧音は、手帳を取り出して私の話を書き留めている。

 

「――という訳だ。ちなみにこの話は霊夢、姉さん、アリス、咲夜、紫、文、輝夜、隠岐奈、杏子も知っている」

「なるほどな。それで時間の超越者か……。ううむ、なんとも壮大な話だな」

 

 慧音は手帳を見ながら難しい顔で唸ってしまっている。

 

「この話はお前を信用して打ち明けたんだ。他言無用で頼むぜ」

「構わないが、情報の精査はさせてもらうぞ」

「ああ、いいぜ」

 

 それで本人が納得してくれるなら充分だ。

 

「さてここからが本題だ。私が千絵を知ったのは幻想郷の歴史を観測した時だ。私は霊夢の幸福と、幻想郷を永遠に存続させる目的で行動しているんだが、その過程で初代博麗の巫女の存在に目が止まってな。今の幻想郷の礎となった彼女の生き様に感銘を受けた私は、志半ばで亡くなった彼女にお礼を伝えに行こうと思い、西暦1885年4月12日に時間遡行したんだ」

「そうだったのか。確かに千絵さんは亡くなる前年まで、人々の為に身を粉にして働いていたからな」

「ちなみに、この日のお前とは稗田家の前で一度会ってるんだが覚えているか?」

「稗田家…………ああっ! 思い出したぞ! 私が寺子屋の教師になる事を認めてもらった時の事だな?」

「そうそう。ちょうど日にちが被ってたから、ついでに見に行ったんだぜ」

「全然気付かなかったな。そうか、思い返してみれば、魔理沙はあの人によく似ているな」

 

 慧音の反応からして、やはり私の変装は完璧だったようだ。

 

「話を戻すぜ。私は千絵にお礼を伝えにいったんだが、やはり不審がられてな、退治されそうになった」

「あの頃の千絵さん相手に、無茶な事をするんだな」

「私は彼女への対応を考えた末に、この時間の博麗神社に連れて来る選択をした。その後、杏子とたまたま居合わせた霊夢と姉さんと紫と――」

 

 私は今日この日の博麗神社で起きた出来事を話していく。

 

「――という訳で、人里に来たんだ。話が長くなってしまったが、私は彼女に自分の選択した未来を見せて、希望を持たせたかったんだ。この時期の彼女は、博麗の巫女としての生き方に迷っていたからな」

「なるほどな。確かに晩年の千絵さんから聞いた事はあった。しかし結果から見れば彼女は自ら迷いを断ち切り、博麗の巫女として幻想郷に尽くす道を選択した。わざわざ未来に連れてくる必要はあったのか? それに半端に希望を見せる事で、元の時代に帰った時に現状に絶望しないだろうか?」

「彼女はそんな人間じゃないさ。乗り越えるべき壁が困難であればあるほど、燃え上がるタイプだと私は見ている。なんせ、初代博麗の巫女だからな」

 

 紫の誘いに乗って、縁もゆかりも無い幻想郷に来るくらいだ。彼女にも思うところがあるのだろう。

 

「それに今回の場合重要なのは結果じゃない。そこに至る過程だ。人間の意志の力は凄いんだぜ。たった一人の力でも、連鎖的に波及して世界を変えてしまう事だってあるんだ」

「何が起きるんだ?」

「その前に博麗千絵の人生について軽くおさらいしよう。ここでは人生の転換点となる出来事だけ挙げるぜ」

 

 慧音は頷く。

 

「西暦1885年3月25日に幻想郷を訪れて、初代の博麗の巫女となった。そして西暦1890年10月7日に人里の男性とお見合い結婚をする。二年後に娘が産まれ、西暦1904年8月5日に博麗の巫女を引退。以降は陰陽師として活動し、西暦1947年12月11日に老衰で亡くなった。享年76歳。生涯で彼女が討伐した妖怪は1000体を越え、彼女が救ってきた人物は2000人を越える」

「……ああ、そうだな」

「それを踏まえた上で、今回この時代に連れてきた事による影響について話そう。まず未来を見据えた行動を取るようになり、妖怪による事件を未然に防ぐ事もあるだろう。彼女は人々からまるで予言者のように崇められて、博麗神社と博麗の巫女の肩書きに箔がつくことになる。少しは参拝客も増えるだろうな」

 

 守矢神社や命蓮寺程賑わう訳ではないが、年がら年中閑古鳥が鳴くような状況にはならなくなるだろう。

 

「次に未来を見た彼女のモチベーションが高まり、より躍起になって妖怪退治を行うようになる。まだ歴史が変動する可能性があるので、具体的な数値は前後するが、妖怪の討伐数は1.5~2倍に増加し、救出人数は2~3倍になるだろう」

「……すさまじいな」

「ああ勿論。私やお前の知人、友人が討伐されることはない。スペルカードルール導入後に起きた異変において、霊夢以降の博麗の巫女が出会った妖怪達には全く影響がないぜ。あくまで悪さを働く木っ端の妖怪だけだ」

 

 そうじゃなければ、私は彼女を未来に連れてくることは無いからな。

 ちなみに人里の人口が多少増える事で、良くも悪くも様々な出来事が起きる――例えば本来死亡していた人間が生存する事で、人間関係に変化が生まれて色々な人間ドラマが起こったり、中にはその人物の生き方や配偶者・子孫にも影響が出る場合もある――が、私の主な目的である「霊夢の幸福」と、「幻想郷の存続」には影響しないので考慮しない。

 何が幸福で何が不幸かは、人それぞれの価値観なので一概には言えないが、少なくとも私は生きているだけで素晴らしい事だと思っている。まあ外の世界と違って人里は閉鎖的な共同体なので、歴史改変により新たに発生する問題も、人里の長老達や慧音、時の博麗の巫女が解決するのが分かっている。全体の幸福の総量は減っていない筈だ。

 

「これによって、正史では二代目や三代目の博麗の巫女が討伐する予定だった妖怪まで滅ぼし、幻想郷の情勢が史実よりも早く安定する。加えて生きる意志が強まる事で彼女の寿命は飛躍的に伸びる。具体的には四代目の博麗の巫女の博麗椿(つばき)さんの誕生を見届けることになるだろう」

「霊夢の母親か! 待て、彼女の生誕日は確か1970年2月4日だったはずだ。そんなことが起こりうるのか……!?」

「あぁ。千絵は西暦1993年の霊夢の生誕を見届けるつもりで生き続けていたんだ。しかし残念な事に、彼女は西暦1975年に老衰で亡くなってしまうがな」

 

 とはいえ幻想郷基準で見るならば、純粋な人間が104歳まで生きたのは充分凄いだろう。

 

「ここまでが、私がこの時代に連れて来た時点でほぼ確定した歴史だ。だがこの歴史にはまだ派生形がある。千絵がこの時代に残って修行をしたいと提案を行い、霊夢が彼女に協力して上手くいった場合。上述した歴史の先の時代において変化が起きる」

「ふむ」

「時代を越えた博麗の巫女同士の修行による相乗効果と、彼女のいる時代では出来ない実戦形式に近い模擬戦闘を行う事で、実力が更に向上するんだ。さっき話した妖怪の討伐数と、救出人数は更に増加するし、千絵の指導を受ける二代目、三代目、そして四代目の博麗の巫女の能力も上昇する。ここで重要なのは四代目の博麗の巫女だ」

「霊夢の母親に何が起きるんだ?」

「博麗椿さんは吸血鬼異変の際に深刻な怪我を負ってしまい、それが祟って若くして亡くなってしまった。だがこの歴史では、博麗の巫女を引退する程度の怪我に治まる。つまり彼女が天寿を全うするようになるんだ」

「なんと……! それは喜ばしいことだな! 仮にそうなった場合、歴史の流れはどうなるんだ?」

「多少調整する必要はあるが、吸血鬼異変をきっかけに、霊夢がスペルカードルールを考案する歴史は変わらないし、その後の数多くの異変の発生と、様々な人妖が幻想郷に流入する流れにも変更は無い」

 

 言い方は悪いが、私が直接介入して博麗椿さんを助ける――即ち、彼女が吸血鬼異変を解決すると、霊夢の博麗の巫女就任が遅くなるだけでなく、スペルカードルールの発案が行われなくなってしまう。そうなるとスペルカードルール制定以降に起きた異変の首謀者や、その組織に属する人妖達が幻想郷に来なかったり、退治されてしまう妖怪が出てきてしまう。この場合の幻想郷の歴史は今とは完全に別物となり、人間と妖怪のバランスが崩れて1000年もしない内に滅亡する。

 なので寿命が縮まない程度の怪我を負って、霊夢に博麗の巫女を譲る形になるので、私にとっては理想的な形となる。

 唯一の欠点は、椿さんが生存する事で、西暦200X年7月20日前後に霊夢を苦しめていた夢の中に入り込んで殺す妖怪を未然に解決してしまう事だ。霊夢の自殺が無くなるので良い事のように思えるが、この出来事が私以外の人間に解決されてしまうと、私がタイムトラベラーになるきっかけが無くなってしまい、これまで築き上げてきた歴史改変が全て白紙になる。

 私は歴史の特異点化しているので、自身の存在が消えるような事にはならない。しかし咲夜の件や西暦300X年の幻想郷、霊夢の仙人化と姉さんの種族としての魔法使い化の歴史が消滅してしまうので、再びこの日に遡って、椿さんが事件を解決しないように霊夢から遠ざける必要はある。この点以外は細かい差異はあれど歴史の大まかな流れは現在と変わらないので、その手間を加味しても悪くない。

 何故リスクを負ってまでこんな事をするのかと言われると、私の母親は物心付く前に亡くなり、父親とは最後まで分かり合えず、魔法の森に逃げて来たばかりの頃は寂しい思いをした。幼い頃の霊夢も、母親が亡くなった時は一時的に塞ぎ込んでいたし、親子仲が良好だった霊夢には、私のような思いをして欲しくない。

 この事を慧音に解説すると、彼女は神妙な表情で言った。

 

「……なるほどな。この話は霊夢には伝えてあるのか?」

「いや、まだだ。これからする予定だぜ」

「ちゃんと霊夢の意思を確認しておくんだぞ。彼女の人生に大きく影響する話だからな」

「ああ、分かってるぜ」

 

 私は善意の押し付けをするつもりはない。今回の歴史改変をどこまで行うかの選択権は霊夢に委ねるつもりだ。

 

「千絵にはこの話をするなよ?」

「分かっているさ。それにしても、随分と雰囲気が変わったな魔理沙。以前は必死に歴史を変えようとしていた印象があるが」

「あの頃は何もしなければ滅びが確定している未来において、どのように歴史改変すれば望む未来に繋がるか答えが分からない状況だった。それが今じゃ何でも分かっちまうからな。前提も比較対象も全然違うぜ。別に失敗したとしても世界が終わる訳じゃないしな」

「ふむ、それもそうだな」

「今日の話と、お前が思い出した改変前の歴史については、今後私がどれだけ歴史改変を起こしても記憶していられるようにしておくぜ。歴史改変が起きる度に何度も同じ話をするのは面倒だからな」

「……他人の記憶を操作するのも自由という事か」

 

 眉を顰める慧音に、「そこは私を信用してくれとしか言いようがない。大体、お前だって似たようなことが出来るだろう」

 

「私は魔理沙程完璧には出来ないさ。……まぁ、霊夢とマリサと杏子がお前を受け入れているのなら、私が否定する事もあるまい。くれぐれも力の取り扱いに気を付けるんだぞ?」

「分かってるって。じゃあそろそろ私は行くぞ」

「私も行こう。千絵さんの様子が気になるからな」

 

 結構な時間慧音と話し込んでしまった。改めて寺子屋の中に入り、玄関から一番近い教室に入っていった。

*1
第三章52話掲載。





第5章の連載が始まってもう7年目になるのですが、ここまでちゃんとした年表を出してない事に気付いたので、近いうちに校正してから投稿したいと思います。
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