魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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第283話 (2) 魔理沙が忘れた記憶 魔理沙の軌跡⑧ 初代博麗の巫女⑥ 時の賢者

 夕食をご馳走になり、神社に泊まり込む霊夢と千絵と別れて姉さんと一緒に帰ろうとしたが、玄関先で紫に声を掛けられた。

 

「ねえ魔理沙。少し話がしたいのだけれど、今から私の家に来てもらえないかしら?」

 

 とうとう来たか。ここで紫から切り出してくるとは、やはり千絵の件で結論を早めたのだろう。

 

「分かった。姉さんは先に帰っててくれ」

「あぁ」

 

 紫の真剣な空気を感じ取ったのか、姉さんは何か聞きたそうにしながらも自宅へ飛んで帰っていった。

 

「ついてきてちょうだい」

 

 紫がスキマを開いて中に入り、私も彼女の後に続く。無数の目が見つめる異空間を通り抜けて、マヨヒガにある紫の家に到着した後、玄関で待機していた藍に応接間へと案内される。

 蛍光灯でぼんやりと照らされた和室には、高価な調度品が並び、部屋の中央の座卓の前には隠岐奈が座っていた。

 

「お前も来てたのか」

「私がここにいる理由、もう知っているのだろう?」

「まあこのメンバーで大体察しがつくな」

 

 隠岐奈に答えつつ、私は紫と対面するように着座する。

 

「今日私を呼んだのは、時の賢者になってもらいたいんだろう?」

 

 先んじて発言すると、隠岐奈は紫に「もう事情を話したのか?」と訊ね、紫は「いいえ。まだ何も話していないわよ」と首を振る。その反応を見た隠岐奈は思い立ったように言った。

 

「なるほど。それも時の超越者としての力か?」

「まあな」

「なら遠回しに言う必要も無いな。一昨日のお前から改変前の歴史と未来の展望を聞いた後、私と紫は幻想郷の賢者を集めてお前の処遇について会議を行った。様々な妖怪が住む幻想郷においても、時間移動は破格な能力だからだ」

 

 時の流れに囚われた人妖は歴史改変には抗えない。その事実を身をもって経験した事で、危機感を覚えたのだろう。

 

「会議の中では魔理沙を危険視し、幻想郷から追放すべきとの声もあったが、最終的に私達は魔理沙を幻想郷の賢者として迎え入れる事で合意した。時間移動の能力は危険ではあるが、利用できるのならば絶大な利点となる。幸いにも私達とお前の目的は一致している。互いに損はない筈だ」

「全くもってその通りだ。これから私達が築き上げる未来にはお前達の力が必要だし、むしろ此方から頼み込もうと思っていたくらいだ」

「なら決まりね。これから貴女は時の賢者霧雨魔理沙よ」

 

 西暦215X年10月3日午後7時22分。紫の宣言をもって私は時の賢者になった。随分とあっさりしているかもしれないが、大々的に祝うような事柄でもないのでこんなものだ。

 

「時の賢者になっても私達の役割は今までと変わらない。お前も普段通りの日常を過ごして構わないが、私達が幻想郷に纏わる事柄で大きな決断を迫られた時、お前の能力を用いて有用な選択を導き出してもらいたい」

「ようはアドバイザーみたいなことか。勿論、協力は惜しまないぜ」

「今回の千絵みたいに、幻想郷の歴史を覆しかねない行動をされては困るわ。今後歴史改変を行う時は、事前に私達に話を通してもらうわよ?」

「分かった。それなら、お前達も私の歴史改変を認識できるようにするぜ」

「そんなことが可能なの?」

「あぁ。歴史改変が起きた際に、その相違点を時の回廊から引き出せるようにするぜ。既に慧音と阿音にも同じ措置を施してきたからな」

「また勝手に……まあ良いわ。すぐにやってちょうだい」

 

 紫に促され、隠岐奈からは反対の意見も無かったので、二人にも歴史改変を認識できるようにする。とは言っても、スペルカードの宣言みたいに特別な行動を取る訳ではなく、その場に座ったまま一瞬で終わってしまう。

 

「終わったぜ」

「特に変わった様子はないな?」

「今はな。歴史改変が起きるタイミングに改変前の記憶を思い出すから、直近だとちょうど1か月後に千絵が元の時代に帰る時に発生するぜ」

「ふむ……」

「その口ぶりだと、千絵の修行の成功はもう保証されているのね」

「そうじゃなかったら、彼女をこの時代に連れてこないぜ」

 

 私が導き出す未来絵図に失敗は有り得ない。全ては規定事項だ。

 

「では早速だが私から提案がある。一昨日お前達に話したように、私は幻想郷を永遠に存続させる目的がある。そこで、この時間のお前達にも協力して欲しい」

「詳しく聞きましょうか」

「何をするつもりなんだ?」

「簡単な事だ。今後私は今回の千絵の件のように不可解な行動を取ったり、意味の分からない指示を出す事があるだろう。そんな時にもなるべく私を信用してもらいたいんだ」

 

 歴史は絡み合った糸のように様々な要因によって成り立っており、その時代の当事者が歴史の転換点となる選択を見きわめるのは非常に困難だ。実際に起きた出来事を後世の人間が分析することで判明する場合が多い。西暦300X年の幻想郷の存続の鍵が月の都に在った事がその最たる例とも言える。

 

「信用……か。簡単なようで難しい事を要求してくるじゃないか」

「そうね。魔理沙を全く信じない訳じゃないけれど、妄信するつもりは無いわ。私達を納得させる材料を提示してもらえないと困るわ」

「当然ながら、未来に影響が及ばない範囲内で説明はするつもりだ。ちなみに私は今より先の未来において、お前達から協力の意思を得ている。今提案しているのは、その道筋をなぞっているだけに過ぎないんだが」

「……そう言われてもねぇ」

 

 難色を示す紫と首を振る隠岐奈。ならばこの一手で行くか。

 

「証拠として――」

 

 私は幻想郷の賢者しか知らない博麗大結界の構造と、幻想郷の管理情報、更に紫と隠岐奈の間にのみ伝わる秘密のキーワードを話す。これは幻想郷の根幹をなす最重要機密情報であり、悪意を持った妖怪が利用すれば簡単に幻想郷が壊れてしまうものだ。

 

「むむ、確かにその情報は私と紫しか知りえない筈のものだ」

「未来の私達がそこまで貴女に明かすなんて驚きね」

 

 驚きを隠せない様子の紫と隠岐奈に私は淡々と答える。

 

「未来でお前達の信頼を得たからな。仮にもしお前達が居なくなったとしても、幻想郷を存続させる自信はあるぜ」

 

 現在は共同で管理している幻想郷も、宇宙末期の時代にもなると、幻想郷の管理者権限が私に移譲される。その時に幻想郷の記録を受け取った為、彼女達しか知らない情報を持っているのだ。

 まああの時代で自由に外の世界に出られるのは私と蓬莱人だけだからな。如何に幻想郷の賢者といえども、幻想郷に“適応”しなければ生きていけないのだ。

 

「未来で何が起きるのか気になるのだけれど……、どうせ訊ねても答えるつもりはないのでしょう?」

「いや、お前達が望むのなら情報を明かしてもいい。――ふむ、そうだな。百聞は一見に如かずという言葉がある。紫、隠岐奈、私が思い描く未来を実際に見てみないか?」

「どういう事?」

「幻想郷が地球を離れてサイケラ星に向かう西暦2499万6000年と、宇宙の終末時代の幻想郷歴3億1500万年の幻想郷。私が目指すゴールがはっきりと分かれば、そこに至る道程を築くことに疑念は生まれないだろう」

「! 宇宙の終末の幻想郷だと? それは滅亡してるって事なのか?」

「いいや、宇宙船地球号――21世紀の地球を再現した惑星型宇宙船の日本列島エリアにきちんと存続しているぜ」

「幻想郷歴って何よ?」

「宇宙の終末時代において、宇宙船地球号が完成した年を幻想郷歴1年とした暦だ。西暦と同じ24時間365日で1年経過するようになっている」

「……西暦何年後の未来なのよ?」

「悪いがそれ以上は明かせない。もっと知りたいなら、調律された歴史を受け入れて、定められたレールの上を歩く“覚悟”が必要になってくる。お前達にその覚悟があるならば、未来を案内するぜ」

 

 私が問いかけると、紫は少しの逡巡の後私の目を見据えながら「……いいでしょう、貴女の誘いに乗ってあげる。幻想郷の賢者として、私には知る責務があるわ」と答える。

 一方隠岐奈は首を振り「紫が行くのなら私は止めておこう」と断った。

 

「それじゃあ靴を持ってくるからちょっと待っててくれ」

 

 そう言って一度玄関に行き、靴の履き口を掴んで戻って来る。襖の前で待っていた紫の隣に立った私は、簡単に注意事項を述べる。

 

「まずは西暦2499万6000年からだ。今の時代と違ってかなり暑いから注意してくれよ」

 

 そうして私は脳内で術式を構成してタイムジャンプを開始する。

 

「タイムジャンプ発動。西暦215X年10月3日午後8時00分の八雲家から西暦2499万6000年12月20日の博麗神社へ」

 

 周囲に聞こえるように淡々と告げ終えると、私と紫はこの時代から消えていった。

 

 

 

 

 西暦2499万6000年、そして幻想郷歴3億1500万年の幻想郷の案内を終えて、出発から5分後の西暦215X年10月3日午後8時5分の八雲家応接間に帰還すると、紫はその場にへたり込む。

 

「帰って来たか。……おい、紫。何があった?」

 

 隠岐奈が怪訝そうに訊ねると、疲れ切った表情の紫は言葉を選ぶように答える。

 

「……幻想郷があったわ」

「いやいや、それだけじゃ何も分からないぞ?」

「……西暦2499万6000年の幻想郷を取り巻く環境は本当にギリギリだったわ。外の世界の四季は崩壊し、異常気象によって大地の殆どが荒廃して地上に住む人は存在しなかった。幻想郷が持ちこたえていたのは、各地に設置された環境安定化装置と、献身的な妖怪と神の能力によるものだったわ。母星を捨てるのは苦渋の決断だったと思うけれど、その時代の“私”は覚悟が出来ていたわ」

「少し聞くだけでも状況が悪そうだな」

「でもね、幻想郷歴3億1500万年の幻想郷にはもっと衝撃を受けたわ」

「聞かせてくれ」

「幻想郷が成立する前の日本が再現されていたの。全国各地に村や集落があって、今とは比べ物にならない人数が暮らしていたわ」

「ほう? それは凄いな」

「ただその頃と違うのは、幻想郷は江戸時代のように鎖国していて、私達妖怪が進化の過程の末に、幻想郷に完全に“適応”している所ね」

「進化……? それはつまり、妖怪が本来の姿に戻ったという事なのか?」

「いえ、そうではないわ。あの未来でも、幻想郷の人間も妖怪も姿は今と何ら変わらないのよ。幻想郷を創った時から考慮していた未来が現実になっていただけよ」

「ふむ……」

 

 隠岐奈には思い当たる節があるみたいだな。

 幻想郷への適応とは、文字通り幻想郷で暮らす為に自らの在り方を変化することだ。かつて猿が人間に進化した時のように、自身が生存する為に幻想郷の恩恵を最大限に受けられるように適合したのだ。

 妖怪達は幻想郷から出られなくなったが、人間との共存を完全に果たしている。

 

「幻想郷は時代に合わせて姿形を変えていく。終末宇宙の幻想郷は、自然に産まれ落ちた魂の有る生命体最後のユートピアなんだ」

「随分と含みのある言い方だな?」

「今はまだ言えない。この時代で明かすと、輪廻転生のサイクルを否定する事に成りかねないからな。紫も、未来の情報は誰にも言わないでくれよな」

「ええ、そうね」

 

 紫は消え入るような声で返答する。流石にこの時代の紫には刺激が強すぎたか。今の時代は平和だからな。

 

「さて、紫。私を信用してくれるか?」

「魔理沙。貴女が真に幻想郷を想っている事はよく理解できたわ。絶望的な状況において、貴女は最適な選択をしたのでしょう。無条件とはいかないけれど、貴女の行動を支持するわ。隠岐奈はどうするのかしら?」

「紫が支持するのなら、私は特に反対はしない。だが意見はさせてもらうからな」

「サンキューな」

 

 とりあえず協力を取り付けることができたか。

 

「では早速だが今後の展開について話すぜ。まず明日から1ヶ月、千絵、霊夢、杏子の修行を見守っていくつもりだ。1週間後にユリも連れてくる」

「ユリって、まさか彼女を!?」

 

 驚く紫に私は「あぁ、そうだ。前々から彼女はこの時代に興味があったしな。これもちょうど良い機会だろう」と答える。

 

「知っているのか紫?」

「博麗ユリ。末代の博麗の巫女よ」

「末代だと!?」

「興味があるのなら会ってみるといいぜ。彼女は1週間くらいかけて幻想郷を観光するつもりだからな」

「ふむ、考えておこう」

「そして1ヵ月後、私が千絵を元の時代に連れて帰った時に発生する歴史改変の内容についてだが――」

 

 私は約30分くらいかけて説明を行ったところ、隠岐奈と紫からは反対意見は出なかったので、つつがなく歴史改変が実行できそうだ。

 その後互いの連絡手段を共有した後、今夜はお開きとなった。紫の家を出た私は、早速明日の朝6時に跳ぼうと思ったのだが、星空を見ていたら考えが変わった。

 こんなにも清々しい夜なんだし、今日は久々に自宅のベッドで眠る事にするか。私はタイムジャンプをキャンセルして自宅に向かって飛んでいった。

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