魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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第289話 (2) 魔理沙が忘れた記憶 魔理沙の軌跡⑧ 初代博麗の巫女⑧ 修行12~18日目 幽香との再戦

 博麗神社に到着した後、私と霊夢とユリで昼食を作っていく。今日のメニューは山菜キノコ鍋だ。三人で手際よく調理を進めていき、出来上がる頃に杏子が帰ってきたので、いつもの和室でちゃぶ台を囲みながら山菜キノコ鍋に舌鼓を打った。

 食後の片付けを終えた後、杏子は境内に出て封印結界の習得に向けた修行の続きを始めて、霊夢とユリは付きっ切りで指導を行っている。もう既に千絵が封印結界を習得したので、今の杏子が頑張る必要は無い――歴史改変によって、代々の博麗の巫女に伝わる封印結界の修行を幼い時から行って習得した過去が出来上がる――のだが、本人がやる気に満ち溢れてるわけだし、それを指摘するのは野暮だろう。

 一方私と千絵は、霊夢達に妖怪退治に出かけてくることを告げて、博麗神社を飛び立っていき、1時間ほどでつつがなく終えて帰っていく。随分と描写があっさりしてると思うかもしれないが、私が妖怪の出現ポイントに案内して、時間通りに現れたところを千絵が封印結界で瞬殺するという流れを2回繰り返しただけなので、特に語ることが無いのだ。

 幽香には手も足も出なかったが、彼女が強すぎるだけで、その辺の雑魚妖怪に千絵が負ける道理はない。

 

「おかえり、どうだったの?」

「問題なく終わったけど、まだしっくりこないのよね。欠点を直す必要があるわ」

 

 声を掛けてきた霊夢に千絵は短く返答した後、杏子と合流して休む間もなく修行を再開する。

 千絵が思う欠点とは、封印結界を発動するまでに10秒程の時間が掛かることと、相手を狙い定めて発動しないと命中しない事の二点だ。前者は自身の熟練度不足、後者は術式の改良が関わってくるので一朝一夕では終わらないだろうと結論づけて、まずは即座に発動できるように反復練習を繰り返すらしい。

 千絵は時々杏子にも助言を行いつつ、何度も何度も封印結界を繰り返していき、徐々に術の発動までの時間と霊力の流れが洗練されていく。魔法使いで例えるならば、上級魔法を連発しているようなものなのに、千絵の霊力は一向に落ちる気配はない。霊夢も規格外の霊力を持っているが、千絵も負けず劣らず膨大な霊力を持っているな。

 神社の縁側に座り、自分で淹れたお茶をすすりながら眺めていると、午後2時を過ぎた頃に慧音が階段を登ってきた。まっすぐこっちに向かって来たので私は湯呑を縁側に置いて応対する。

 

「よう慧音。今日はどうしたんだ?」

「ようやく仕事がひと段落してな。千絵さんの修業の様子を見に来たんだ」

「それはいいタイミングで来たな」

「?」

「お~い千絵ー! お前に客だぞ~」

 

 大声で離れた場所にいる千絵に呼びかけると、修行を中断してこっちに歩いてくる。ちなみに霊夢と杏子も反応したものの、慧音と私の姿を一瞥しただけで再び修行に戻っていった。

 千絵は慧音の正面で立ち止まると、彼女を見据えながら言った。

 

「上白沢慧音。私に何か用?」

「千絵さんの修行の様子を見に来たんだ。順調に進んでいるのか?」

「修行は成功したわ。ついさっき封印結界を習得したところよ」

「それは凄いな! 千絵さん、よかったら見せてくれないか?」

「構わないわよ」

 

 千絵は開けた空間に体を向けると、博麗の札が貼られた幣を構える。少し集中した後に、幣を振り下ろしながら宣言した。

 

「封印結界!」

「なるほど……確かに強い力を感じるな」

 

 慧音は淀みなく出現した結界に近づいて、興味深そうに観察していたが、その反応に千絵は疑念を抱いた。

 

「上白沢慧音、貴女はこの技を見たことがないの?」

「ん? どういうことだ?」

「そこの霧雨魔理沙の話では、今より少し未来の私が開発した奥義らしいのだけれど」

「いや、私は初見だぞ?」

 

 慧音は困惑しながら私を見てくるので、二人に説明することにする。

 

「慧音の話は事実だぞ千絵。何故なら千絵がこの時代に来て、霊夢達と修行をする事で封印結界を覚えるからな。この時間移動による歴史改変が、今の私達が居る現歴史線では発生していない。目の前にいる慧音は、千絵が封印結界を覚えなかった歴史の慧音だからな」

「そう言われてもよく分からないわ」

「千絵が元の時代に帰った後に歴史改変が発生するから、その時にこの時代の慧音も歴史改変の影響を受けると思ってくれ。この慧音は、お前が封印結界を覚えなかった場合の歴史の未来なんだ」

「……まあいいわ。どちらにしても、彼女が上白沢慧音である事に変わりはないのでしょう?」

「その解釈でいいぜ」

 

 小難しい話を嫌って理解を放棄したように話を切り上げた千絵だったが、本質的な部分は直感的に分かっているようだ。こういう部分も霊夢に似ている気がする。

 慧音は私の説明に得心が行ったようで、千絵を優しい眼差しで見ながら言った。

 

「この時間での経験によって、私の知らない過去になるんだな。千絵さん、良かったら色々と話を聞かせてくれないか?」

「構わないわよ」

 

 二人は博麗神社の縁側に並んで座り、私が給仕したお茶を飲みながら、千絵は修行中の事を話していく。

 

「――という感じね」

「なるほどなぁ。末代の博麗の巫女のユリから教わった奥義が実は今よりも未来の千絵さんが開発したものなんて、時間移動とはつくづく不思議なものだな」

「私はあまり深く考えないことにしているわ。霧雨魔理沙のやり方はともかく、私自身の強化には役立っているのは確かだしね」

「魔理沙。そのユリという少女は今もこの時代にいるのか?」

「あそこにいるぜ」

 

 私が指さした先には、本殿近くの広場で杏子を見ながら霊夢と話し込むユリの姿があった。

 

「ふむ。途方もない未来でも、姿形は私達と変わらないのだな。少し話をしてみたいところだが……」

「呼んでやろうか?」

「あぁ頼む」

 

 そんな話をしていた時、ユリがこっちにやってきた。

 

『あ~喉渇いた~!』

 

 縁側に置かれた自分の湯呑を取ったところで、ユリは慧音の姿に気づいて驚きの声を上げる。

 

『あれっ、もしかして慧音さん!? わぁ~本物だぁ!』

「ん? 私を知っているのか?」

『そういえば、自己紹介がまだだったね。私は西暦100溝年の博麗の巫女、博麗ユリだよ! よろしくね!』

 

 人当たりの良い笑みを浮かべながら元気よく挨拶するユリに慧音も微笑み返す。

 

「ふふ、元気だな。私は上白沢慧音だ、よろしく」

「ちょうどさっきまでお前と千絵の話をしてたところなんだ」

『そうなの? なら話は早いね。慧音さんの事はもこちゃんから色々と聞いてるよ! そっかぁ、この時代の人だったんだねぇ』

「妹紅が……! そうか。まだ私の事を覚えていたんだな」

 

 慧音は果てしない未来に思いを馳せるように言葉を漏らす。一方千絵は妹紅の名前に思い当たる節があるようだ。

 

「妹紅って、よく竹林にいるあの銀髪の女の子ね。いい友達を持っているじゃない」

「あぁ、そうだな。ユリ、妹紅は元気なのか?」

『うん! 永遠亭でえーりんの手伝いをしているよ!』

「そうなのか! どうやらわだかまりは解けたようだな」

 

 ユリは湯呑に残っていたすっかりぬるくなってしまったお茶を一気に飲み干すと、慧音の隣に座る。

 

『慧音さんと千絵ちゃんはお友達なの?』

「ああ、千絵さんは私の友人だ」

『わぁ! 千絵ちゃんのエピソード聞きたいな~?』

「そうしたいのは山々なんだが、魔理沙に千絵さんの未来に関する話をすることは止められているんだ」

『う~ん、それなら仕方ないか。じゃあ慧音さんのことを色々聞かせて?』

「私か? ううむ、急に言われても何を話せばいいのか」

『なんでもいいよ!』

「慧音。話すなら21世紀以降の出来事で頼むぜ」

 

 慧音は少し考えた後、過去に自身が関わった異変や、自分の教師としての仕事、妹紅とのエピソードトークをしていく。それが存外に受けたようで、千絵は真剣に、ユリは楽し気に聞いていた。

 やがて日が暮れ始めた頃、慧音の提案で千絵と明日人里に出かける約束を交わし、彼女は帰っていった。ちなみにユリも誘われていたが、二人の空気を察して断っていた。

 

 

 

 10月16日。今日は千絵が慧音との約束で朝から人里に出かけたこともあり、霊夢が修行の休みを提案したので、私と霊夢とユリは神社でまったりと過ごすことになった。

 杏子がこの場に居ないのは、久々の休みということで博麗神社を霊夢とユリに任せて家族が暮らす人里に帰省しているからだ。現在の歴史は霊夢が杏子の母親を救った過去がある為、家族仲が非常に良好だ。彼女にとっていい気分転換になるだろう。

 いつもの和室でくつろいでいると、ユリは霊夢に昔話を聞きたいと言い出したので、霊夢は幼い頃の私と一緒にあったエピソードを語りだした。

 二つ例を挙げると、こっそり霊夢の巫女服を着て霊夢の真似をしていた事と、お泊まり会をした時、霊夢の怪談話でお化けが怖くなって一人でトイレに行けず、寝てる霊夢を起こしてついてきてもらった事だ。恥ずかしい感情よりも、よくもまあ160年以上も前の出来事を覚えているもんだと感心してしまう。

 話しているうちに熱が入ったのか、はたまたユリが楽しげな反応をするからか、他にも私の恥ずかしいエピソードを色々と語っていったけど、私の名誉の為にもここでは割愛させてもらおう。

 なんなら私も霊夢の恥ずかしいエピソードを知ってるし、幾つか披露してやろうとしたら、霊夢は顔を真っ赤にしながら遮ってきたぜ。まああまり言い過ぎたら可哀そうだし、ほどほどだな。

 他にも話題は私と霊夢に纏わるタイムトラベルのエピソードや、ユリの身の上話などに亘り、時には弾幕ごっこでなまった身体を動かしたりして楽しい一日が過ぎていく。

 夕方頃に帰ってきた千絵も楽しい時間を過ごしたようで、慧音が見立てた赤色のイヤリングが似合っていた。

 

 10月17日~20日は特筆すべきことは無い。千絵は封印結界の改良、杏子は霊力操作の修業、霊夢とユリはアドバイスを送り、私は彼女たちを見守るだけだからだ。

 何人かの来客――咲夜、妖夢、アリス、妹紅――がいたが、咲夜とアリスと妹紅とは世間話で終わり、妖夢は修行をしただけなので細かく語る必要は無いだろう。

 それでも敢えて言及するなら、ユリの馴れ馴れしい態度に対し距離感に困ってる妹紅や、咲夜に興味を示し紅魔館の事や吸血鬼の習性まで色々と訊ねる千絵とユリ、偶には顔を見せに来なさいと私に言うアリス。そして妖夢は封印結界を見てまるで自分の事のように喜び、新たな必殺技を考案すると息まいていたくらいか。妖夢の新技は果たして成功するのだろうか。

 

 イベントが起きたのは10月21日。修行18日目の日の事だった。

 千絵はとうとう封印結界を即座に発動できるようになったようで、初見の妖怪に対してはかなりの高確率で結界に閉じ込められるようになったようだ。自信を得た千絵は、神社の縁側に座っている私の元にやってきて言った。

 

「霧雨魔理沙、一つ頼んでもいいかしら?」

「なんだ?」

「風見幽香を連れてきてもらえないかしら? 彼女に再戦を申し込みたいのよ」

「分かった。時間は?」

「いつでもいいわ」

 

 条件を聞いて私は博麗神社を発つ。今の時間なら自宅にいるようなので、彼女の家にまっすぐ飛んでいき、自宅の前にゆっくりと降りていく。

 彼女の家は季節の花々が咲く花畑に囲まれた場所に建っており、幽香自身は露台のガーデンテーブルに座り、自作のハーブティーを味わいながら花々を眺めている。

 

「お~い幽香ー!」

 

 玄関先から大きめの声で呼びかけてみたが、幽香は全く反応せず、椅子に深く背中を預けながらハーブティーの香りを楽しんでいる。

 敢えて気づかない振りをしていると見た私は、露台にずかずかと上がり込んで彼女の隣まで来たが、それでも私が存在しないかのようにリラックスしている。

 

「幽香。くつろいでいるところ悪いがちょっといいか?」

 

 肩に手を掛けながら話しかけると、流石に無視はできなかったようで、私の手を振り払いながら顔を上げた。

 

「何よ魔理沙。私の時間を邪魔するなんて、つまらない用件だったらただでは済まさないわよ?」

 

 私に声を掛けられたことで若干不機嫌になった幽香は、並みの人間なら震えあがるような眼光で睨みつけてきたが、意に介さずに告げる。

 

「千絵がお前との再戦を望んでいる。其方の都合の良い日に博麗神社に来てほしいと言っていたぜ」

 

 彼女の名を出すと、幽香の機嫌は持ち直したようで、ティーカップをソーサーに置いた。

 

「あら、思ったよりも早かったわね。再戦するのは構わないけど、また前みたいにすぐ終わったらつまらないわよ?」

「お前に負けた後、千絵は修行をして強くなったんだ。あまり舐めていると足を掬われるぜ?」

「へぇ……興味が出てきたわ。今から行くことにしましょう」

 

 幽香は自然な動作でティーカップを手に取り、残っていたハーブティーを飲み切る。そして席を立ち、柵に立てかけていた愛用の日傘を手に取って博麗神社へと飛んでいく。私も幽香の後を追っていき、少し遅れて到着した。

 千絵は幽香の到着を察し、修行を中断して彼女の前まで歩いていく。

 

「もう来たのね」

「あら、少しは強くなったようね」

「あんたに負けてから、私は必死に修行したわ。さあ、やりましょうか」

 

 千絵は幽香から距離を取り、二人は神社の境内で相対する。模擬戦を察した霊夢と杏子とユリは二人から離れて、神社の縁側に座っていた。

 

「審判は私がやるぜ」

 

 私は二人の間に立ち、審判役を買って出る。

 

「今回の模擬戦は前回のルール――相手の殺害の禁止に加えて、どちらかが降参するか、相手の技によって戦闘続行が不能になった場合も負けになる。二人ともそれでいいか?」 

「構わないわよ」

 

 千絵も幣を構えたまま無言で頷く。幽香は貴族の令嬢のように日傘を差したまま悠然と佇んでいる。

 私は二人から離れて宣言する。

 

「模擬戦開始!」

 

 決着は一瞬だった。

 開始の合図と同時に千絵が封印結界を発動し、幽香を結界の中に閉じ込めたからだ。

 さしもの幽香も虚を突かれたようで、目を見開きながらもすぐに状況を察し、脱出を図ろうと結界の内側に手を伸ばしたが、20枚の博麗の札が貼られた結界に阻まれて動けずにいた。次に日傘の先端を結界に突き刺したが、彼女の妖力は霧散する。

 

「……!」

 

 無言で驚く幽香。対照的に千絵は幣を幽香に向けたまま脂汗を流している。恐らく退治しない程度に彼女の力を抑えることに全力を注いでいるのだろう。

 私は幽香の近くに歩いていき、淡々と告げる。

 

「お前が結界に閉じ込められてもう5分が経過した。相手の技によって戦闘続行が不能になった場合も負けというルールが適用される。いいな?」

「……」

 

 幽香は反論することなく日傘を降ろした。

 

「お前の勝ちだ千絵。もう解除していいぞ」

「分かったわ!」

 

 千絵が封印結界を解除した途端、幽香から湧き出した妖力が暴風のように吹き荒れ、境内を荒らしていく。生命力の弱い生き物なら即死しかねない圧力に、何とかその場に踏みとどまりながら神社の縁側を見ると、黙って観戦していた霊夢達が危機感を覚えた表情で立ち上がって、幽香に厳しい視線を向ける姿があった。

 幽香は大きく息を吐いた後、妖力を収めていき、無風になったところで霊夢達は席に着くのが見えた。

 私はいつもの調子で幽香に話しかける。

  

「だから言ったろ? 舐めていると足を掬われるってな?」

「……ええ、そうね。今回は完全に油断していたわ」

 

 長い沈黙の後に渋々答えた幽香は、警戒しながらも近づいてきた千絵に「いい攻撃だったわね。今の技が貴女の修業の成果かしら?」と訊ねる。

 

「そうよ。名前は封印結界。未来の私が開発する凶悪な妖怪を無力化する博麗の巫女の奥義……らしいわ」

「ふぅん?」

「千絵がこの時代に来たことで歴史が変化したんだぜ」

「そう。気に入ったわ。貴女はまだまだ強くなれるのね」

「風見幽香。もう一戦やれるかしら?」

「構わないわよ。次は油断しないわ」

 

 再び二人が距離を取り、行われた二度目の模擬戦は激しいものだった。

 私の開始の合図と共に、千絵は先ほどと同じように封印結界での封じ込めを狙ったが、それを読んでいた幽香は飛び上がって回避すると、さながら絨毯爆撃のごとく弾幕の嵐を博麗神社の境内に浴びせる。

 私が神社と霊夢達を護るように魔力壁を張り巡らせるのと、千絵が空中へ回避行動を取ったのは同時だった。

 幽香から繰り広げられる暴力的な弾幕は、弾幕ごっこのような鮮やかさも、見る者全てを魅了するような美しさも無いつまらないものだが、千絵にとっては大きな脅威となっていた。なんせ空を覆いつくさんばかりの弾幕一発一発が人間では――なんなら下手な妖怪でも直撃したら即死しかねない威力だ。回避するのが精一杯で、攻撃に転じる余裕は無い。

 というか、模擬戦だってこと忘れてないか? このままいくと未来視するまでもなく千絵が死ぬ未来しか無いぞ。

 同じ事を思ったのか、私の隣に駆けつけた霊夢が深刻な顔で言った。

 

「魔理沙。このままだとまずいわよ」

「そうだな。頃合いを見計らって止めるつもりだから私に任せてくれ」

「頼んだわ」

 

 私は未来視でこの戦闘の顛末を確認した後、地上を離れて二人の戦闘を見下ろせる高度で滞空し、戦況を注意深く見守っていく。

 千絵は自身の前に結界を盾のように展開して、何とか幽香に近づこうとするが、弾を3発受けただけで壊れてしまう為、上手くいかないようだ。

 幽香は通常弾幕に加えて元祖マスタースパーク――勝手に私が命名しているレーザー光線――を連発しており、まるで力が衰える気配も無い。千絵は神経を擦り減らしながら回避に専念していたが、とうとう集中力の限界が来てしまったようで、15本目の元祖マスタースパークを避ける際に態勢を崩してしまい、幽香から一瞬目線を切ってしまった。

 幽香はその隙を見逃さず、一瞬で距離を詰めて千絵の懐に潜り込むと、彼女の頭目掛けて日傘を振りかぶる。避けられないと悟った千絵が防御態勢に入ろうとした時、私は刹那のタイムトラベルを行って二人の間に出現。時間の膜で保護した右腕で幽香の一撃を受け止めた。

  

「そこまでだ幽香。今の一撃が当たっていたら死んでいたぜ。これがあくまで模擬戦だって事を忘れるなよ?」

「ふふ、そうだったわね。つい熱くなってしまったわ」

 

 悪びれる様子も無く日傘を引っ込めた幽香は、狩人のような笑みを浮かべている。

 

「次からは気を付けてくれよな」

「はいはい」

 

 幽香が私に背を向けて離れていくのを確認してから、背後からふうと息を吐く声が聞こえた。

 

「……助かったわ、霧雨魔理沙」

「気にするな。それが私の役目だ」

「あれが風見幽香の本気なのね……。全然勝てる気がしないわ」

「幽香は幻想郷の中でも上位の強者だからな。だがお前もまだまだ発展途上だ。これから強くなっていけばいい」

「ええ、そうね」 

 

 千絵を元気付けつつ私は彼女から離れ、ある程度距離を取ったところで改めて模擬戦の再開を宣言する。

 私の注意が効いたようで、幽香の攻撃は先ほどよりも緩慢になり、威力も弾幕ごっこと同じくらいに抑えられていた。千絵も攻撃を行う余裕が出てきたようで、私の前では幽香の弾幕に自身の霊力弾をぶつけて相殺する場面が映っている。うん、この調子なら大丈夫だな。

 

「幽香の攻撃を止めてたけど、身体は大丈夫なの?」 

 

 近づいてきた霊夢に心配されたが、私は右腕をひらひらと振ってアピールする。

 

「時間の膜って言う、衝撃を別の時空に逃がす技を使ったから問題ないぜ」

 

 そうじゃなかったら私の腕は折れていたことだろう。

 それから特に大きな問題が起きることなく、二人の模擬戦は夕方になるまで続き、疲労困憊の千絵に対し、幽香は「久々に楽しめたわ」と満足した様子で帰っていった。




今年もありがとうございました。
かなり不定期更新ですが読んでくださる皆様には感謝しかありません。
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