誤字報告もいつもありがとうございます。
翌日の10月22日。前日の戦闘の影響か千絵は全身が筋肉痛に陥っていて、軽い運動すら辛そうな状況だったが、休むことなく日課となりつつある霊力操作の修行を続けている。
しかし悪いことばかりでは無い。昨日に比べて千絵の霊力が飛躍的に向上していて、霊力弾も洗練されていた。様子を見に来た紫と阿音が驚くくらいで、紫曰くすでに全盛期と同じくらいの強さになっているらしい。
恐らく自分より格上の相手に死と隣り合わせの戦闘を行った事で、潜在能力が開放されたのだろう。千絵の時代の幻想郷は、妖怪と出会ったらどちらかが生きるか死ぬかの非常に厳しい世界だ。気軽に“失敗”が許される環境だからこそ、彼女の成長が早まったのかもしれない。
さて私もそろそろ、千絵に渡す退治してはいけない妖怪のリストの準備をしておこう。本来の歴史よりも千絵の実力が高くなったので、私や霊夢の知り合いが退治される可能性が高くなったからな。
10月23日~28日の期間については特に目立った出来事は無いので、【千絵と杏子が修行に励み、霊夢と私とユリがそれを見守っていた。】の一文で終わってしまってもいいのだが、それだと少し味気ないので神社に来た妖怪達について描写しよう。
23日は文と慧音が博麗神社に訪れた。文は新聞のネタ不足ということで、何か面白い話は無いかと霊夢と私に聞いてきたので、私はユリを紹介してやった。末代の博麗の巫女という肩書きは文の興味を大いに惹いたようで、様々な事を取材して満足そうに帰っていった。彼女がどこまで新聞記事にするかは不明だが、この歴史はもう改変されることが確定しているので影響は無い。
慧音はまた千絵とお出かけしたかったようで、二人を笑顔で送り出してやった。たまには息抜きも必要だろうしな。
24日。早速今日の文々。新聞を読んでみると、昨日ユリが語った終末の幻想郷の話が載っていた。だがしかし、この話は情報源を提示しておらず、未来の幻想郷の予測のような形で記事が記されていたので、ユリを知らない人妖から見るといまいち信憑性に欠ける内容となっている。恐らく文なりに未来の歴史への影響を危惧したのだろう。
25日。今日は姉さんとアリスとパチュリーが神社にやってきた。彼女達は私に会いに来たようで、いつもはアリスの家か私の家か紅魔館の大図書館でやっている魔法談義を、今回は神社の居間で行うことになった。
皆がそれぞれ研究中の魔法に対して、お互いに意見を出し合い、改善点を見出していく。勿論私は彼女達の研究結果を全て知っているが、それを口にするような真似はしない。彼女達がそれを望んでいないし、何よりも魔法使いとは探求する生き物だからだ。
杏子と千絵はいつものように修行に励み、霊夢は二人を指導していたが、ユリは私達の魔法談義に興味を持ったようで、居間に座って私達の会話を熱心に聞いていた。まあユリの時代だと魔法使いは私とフランしかいないし、顔を合わせても互いに魔法使いとしては完成されているので魔法の話をする事は滅多に無いからな。
後はそうだな。アリスがユリに人形をプレゼントすると子供のようにはしゃいでいて、微笑ましい場面もあったな。今日は友人達とお喋りできて久々に楽しかった気がする。
26日。幻想郷内の神社を転々としてきたあうんが久々に博麗神社に帰ってきたが、異なる時代の博麗の巫女を見て驚いていた。千絵の時代のあうんはまだ人型になれる状態では無かったが、千絵の事を覚えていたようで、旧知の友人と再会した時のように挨拶していたが、彼女は神社の狛犬が妖怪少女だった事に動揺していた。一方ユリは、あうんが元気に動き回っているのを見て感激し、まるで自分の妹のように可愛がっており、あうんは嬉しそうにしていた。
27日。萃香が最近宴会が無くてつまらないと霊夢に文句を言いに来たが、修行中の一言で一蹴される。一方千絵は博麗神社に現れた鬼に警戒を抱き、彼女の名前を聞いた瞬間封印結界を用いて退治しそうになったので、慌てて霊夢と杏子が止めに入った。
二人が事情を聞くと、伊吹萃香は平安時代に恐れられた鬼であり、安部晴明の占いの元、源頼光らによって退治されたと土御門家に伝承として記録されており、生存している事が問題なのだと言う。そういえば、萃香も含めた鬼達は、博麗大結界成立と同時に旧地獄に潜ったんだっけか。
それに対して霊夢は、萃香は幻想郷のルールを守っているので退治してはいけないと説得し、千絵は渋々矛を収めた。
そんなやり取りを見ていた萃香は、千絵の気骨ある態度を面白がり、初代博麗の巫女と聞いて関心を抱いたのか、模擬戦をやることになった。千絵は果敢に攻めていったが、萃香の能力に終始翻弄され続け、まるで子供のようにあしらわれていた。1時間ほど戦ったところで萃香は飽きたようで旧地獄に帰っていき、千絵は悔し気に背中を見送っていた。
28日。萃香との戦いを経て、千絵は幻想郷が強力な妖怪が跋扈する恐ろしい場所であると再認識し、より強くなる為に精進し続けることを決意したようだ。
そして10月29日、修行26日目の日の事。珍しく一緒に神社に来た姉さんの一言で、イベントが発生した。
「今夜宴会やろうぜ!」
確かにここのところ修行づくめで、宴会を開催していないのは事実。千絵とユリが滞在する期間において最後の土曜日ということもあり、人も集まりやすいだろう。
姉さんの提案に霊夢とユリと私は賛同したが、千絵は修行を優先したいと否定的だった。しかし姉さんは「もうすぐ元の時代に帰るんだろ? 絶対にいい思い出になるぞ」と熱心に説得し、千絵も参加することになった。
早速未来視を行った結果、今回の宴会は久々の開催ということもあってか幻想郷のあちこち――天界や旧地獄のような異界も含めて――100人近い人数が来る事が分かった。流石にその人数の料理と酒を用意するには設備も時間も人手も予算も足りないので、私は「宴会やることを知らせてくるぜ!」と箒に跨って今にも飛んでいきそうな姉さんを呼び止めて。
「今日の宴会はかなりの人数が来そうだ。参加者には酒と料理をなるべく持参するように伝えてくれ」
「そりゃ楽しみだな! 分かったぜ!」
箒で飛んでいく姉さんを見送り、私と霊夢は宴会の準備をすることにした。
まずは人里に降りていき、大量の食材と酒を買い込んだ後、皆で手分けして宴会用の料理を作っていく。その合間に境内にブルーシートを敷きつめていき、私の自宅から座卓を三十台、クッションを百個――一台の座卓と四枚のクッションを異なる時間の自宅から呼び寄せて数を増やす裏技だ――持ってきて均一に並べていく。
やがて姉さんが帰ってきて、一緒に宴会場の設営に加わり、つつがなく準備を進めていく。夜になる頃には座卓には私達が作った料理と買い込んだ様々な酒がずらりと並んでいた。
参加者が続々と幻想郷の至る所から集まっていき、喧騒と共に宴会が開始される。和洋中、古今東西様々な国の食文化と酒が集まり、宴会と言うよりも食の展覧会と言ってもいいかもしれない。
神社のあちこちから料理と酒を味わいながら談笑する声が聞こえてくる。私は博麗神社の参道に近い場所で、主に霊夢、アリス、姉さん、杏子、ユリと酒を味わっていた。途中から咲夜、にとり、妖夢も合流したな。
宴会の様子を全部取り上げる事は出来ないので、今回は霊夢、姉さん、ユリ、杏子、千絵の5人に絞ろうと思う。
まずは霊夢。人気者の彼女の傍には色んな妖怪達が絶えずやってきていて、個人的な話からただの雑談まで様々な話をしている。
姉さんは最初は一緒に飲んでいたけど、やがて席を立ち色んな妖怪に絡みに行っていった。鬼と飲み比べしたり、近くの妖怪達をけしかけて上空で無差別弾幕ごっこをやったり――地上では大盛り上がりだった――、あれはもう完全に酔っぱらってるな。
ユリもまた自己紹介と共に色んな妖怪に話しかけて、一緒に酒を飲んでいた。やはり末代の博麗の巫女という肩書きには皆驚いているようで、私にも話しかけてくる妖怪がどんどんと増えてきていた。ユリから見るとこの時代に生きる妖怪達はとても新鮮なものに見えるのだろう。
杏子は私達と一緒に景気よく飲んでいたのだが、すぐに酔いが回って眠ってしまったので、神社の奥の部屋で眠っている。多分歴代の博麗の巫女の中でも酒に弱いほうだろうな。
そして千絵については、妖怪達の喧騒に混じらず神社の縁側の隅で一人飲んでいたのだが、彼女と関係がある妖怪が続々と隣に行って日本酒片手に話しかけていく。ユリの時代から関係がある慧音、紫、阿音、幽香。一昨日ひと悶着があった萃香とその友人の勇儀。幽々子と映姫は千絵の死亡時に強い印象が残っていたようで、生き様を高く評価する話をしていた。
「はぁい、千絵。楽しんでいるかしら?」
「八雲紫……。これだけ多くの妖怪達が集まるのは落ち着かないわ」
「戸惑うのは無理はない。千絵さんの時代では起こりえないからな」
「そう思うと、今の時代は平和になったわね」
「ふふ、あの頃の殺伐とした幻想郷も嫌いじゃなかったけれど、やっぱり今の時代がいいわね」
「そう思うのはあんたくらいだよ幽香」
「骨のある人間は嫌いじゃないさ。初代博麗の巫女がこんな人間だとわかっていたら、私も地下に行かなかったのになぁ」
「だな。最近の人間は腑抜けているのが良くないねぇ」
「あらあら、鬼に好かれるなんてやっぱり霊夢のご先祖様なのねえ」
「博麗千絵は他の人間と比べても、魂の輝きが強い人間でしたね。こうしてまた会えるとは思いませんでしたよ」
「あら、地獄の閻魔様もそんなことを思うのね」
「私は血も涙もない妖怪ではありませんよ紫」
「なあ初代博麗の巫女。萃香と戦ったんなら、私とも戦ってくれよ~」
「今は嫌よ。また日を改めてから来なさい」
「そうかい。それは楽しみだねぇ」
「随分と好戦的なんですね」
「私は妖怪に負けないくらいにもっと強くならないといけないのよ」
「貴女の貪欲な所、嫌いじゃないわ」
「あんたに好かれても嬉しくないわよ、風見幽香」
様々な種族の妖怪に囲まれて、最初は不愛想な態度を貫いていたが、彼女達と話すうちに酔いが回ってきたのか会話が弾んでいた。……本当に会話が弾んでいるのか? しかし席を立たない所を見る限り、千絵も満更ではなさそうに思える。
こうして賑やかな夜が更けていった。