魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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2016年最後の投稿になります
良いお年を


第32話 藤原妹紅が語る幻想郷の結末

 

「はあっはあっはあっ」

「こ、ここまで来ればもう大丈夫だろうっ……!」

 

 血塗れの妹紅と街の中をしばらく走り続け、執拗に追いかけて来る警察官達をようやく振り切る事が出来た私は、ビルとビルの間の細い路地裏に隠れて一息付く。

 道中通行人たちが皆有り得ないものを見るような目つきをしていたが、逃げるのに必死で人の目を気にしている余裕はなかった。

 

「くうっ」

「だ、大丈夫か?」

 

 気が抜けてしまったのか、いきなり倒れ込んでしまった妹紅に私は慌てて声を掛ける。

 よくよく考えてみれば、彼女は立ってるのが不思議なくらいの大怪我を負っていたので、こうなってもおかしいことではない。

 

「ちょっと離れていてくれ、一回死んでリセットする」

「う、うん」

 

 妹紅の指示に従い、私はその場から少し離れた。

 それを妹紅が確認した後、地に伏せたまま妹紅は自爆する。

 直後、先程と同じように不死鳥の形をした炎が巻き起こり、その中から怪我一つない姿の妹紅が現れた。

 

「相変わらず妹紅のリザレクションは凄いな。流石蓬莱人といったところか」

「はは、こんな能力あまり嬉しくないんだけどね」

 

 妹紅は自嘲するように呟いた。

 

「ついでに魔理沙の汚れた服も、綺麗にするよ」

 

 妹紅は手の平に透き通るような青い炎を生み出し、それを私に近づけた。

 すると私の全身が炎に包まれるも、火傷する程熱い訳でもなく、まるでお風呂に入っているかのような心地よい暖かさだった。

 やがて青い炎が消えると、私の服に付いていた血痕や、ついでに汗や汚れなんかも綺麗になった。

 

「これは浄化の炎って言ってな、体を清める効果があるんだ」

「そんな技があるのか。サンキュな。この服どうしようかと思っていたところだったんだ」

「私の方こそ、もうちょっとスマートに受け止めることができれば、こんな大事にならずに済んだけどな」

「いやいや、それでもお前が身を挺して守ってくれたおかげで私はこうして生きている。ありがとう」

 

 文字通り命を投げ打って私を受け止めてくれた妹紅には、本当に感謝しかない。

 

「止せよ、別に大したことじゃないからさ。ところで魔理沙、どうしてあんな高い所から降って来たんだ?」

「それが私にも分からないんだ。何故か魔法は使えないし、確かに博麗神社からこの時代に跳んだ筈なのになあ」

 

 タイムジャンプ魔法は空間座標の指定が出来ない――つまり、時間がどれだけ変わっても跳ぶ前と全く同じ場所に出てくる事になっている魔法だ。

 なのでここは幻想郷の筈なのだが……、それにしてはどうも文明が発展し過ぎている気がするし、魔法が全く使えなくなってるのがおかしい。

 200X年⇒250X年の時と、250X⇒300X年でこんなにも色々と変わってしまうのだろうか?

 そんな事を考えていると、妹紅からこんな質問が出てきた。

 

「ねえ、この時代に跳んだっていうのは?」

「実はな――」

 

 私は妹紅にこれまでの経緯を簡単に説明した。

 

「……成程な。紫の言っていた通りか」

「その口ぶり、妹紅は何か知っているのか?」

 

 妙に納得したような態度で頷く妹紅に私が聞き返すと、彼女は少し逡巡するような態度を見せてから答えた。

 

「……そうね、結論から言いましょうか。幻想郷は200年前に完全に滅びてしまったんだ。……外の世界の人間達によってね」

「滅んだ!?」

 

 淡々と話す妹紅の言葉に、私は動揺を隠せなかった。

 

(何故だ……何故滅んでしまったんだ? 紫の指示した通り確かに結界を直した筈なのに)

 

 しかも元の歴史では幻想郷が滅亡したのは293X年の筈だが、今回は280X年と130年も滅びの時が早まっている。

 この違いは一体何なのだろうか?

 それに加え、最後に妹紅が話した言葉も私にとっては聞き捨てならないものだった。

 

「しかも外の世界の人間達にってどういうことだよ?」

「言葉通りよ。今からちょうど200年前、幻想郷に突如外の世界の軍隊が侵略してきてな。あれよあれよという間に科学の手が入って、今ではこんな無機質なコンクリートジャングルに生まれ変わってしまったという訳」

「なんだって……!?」

 

 最悪な事に、私が今いるこの場所は200年前まで幻想郷だった土地のようだ。

 

(……成程、私が空から落ちて来たことにも納得がいった)

 

 タイムジャンプ魔法は割と手軽に使える時間移動だけれど、前述のとおり空間座標がそのまま動くことがないのが唯一の欠点だ。

 これはあくまで推測だが、博麗神社は山の上に建つ神社なので、200年の間にその山や神社が取り壊されてしまった為に空から落ちるはめになったのだろう。

 

「……紫は? 八雲紫はどこにいるんだ?」

 

 一体何故こんな事になってしまったのか。

 あいつに会ってもっと詳しい話を聞きたい――その思いは、妹紅の言葉によって砕かれることとなる。

 

「……彼女は200年前に亡くなったよ。最期まで幻想郷を守る為に奮闘していたけれど、外の世界の科学力には敵わなかった」

「……噓だろ?」

 

 紫が亡くなったって?

 アイツは殺しても死なないような、それこそ不老不死なんじゃないかってくらい強力な大妖怪だ。

 そんな彼女が亡くなったなんて、到底信じられるものではない。

 だが妹紅は、そんな私の心情を汲み取ったかのように。

 

「信じたくない魔理沙の気持ちも良く分かる。だけど私は、紫がこの世から消えていく瞬間をこの手で看取ったんだ」

「…………」

「紫にかかわらず〝幻想″が崩壊し、世界の全てが科学によって解明されてしまった今、最早幻想郷の住人で生き残っているのは私だけさ」

 

 妹紅は吐き捨てるように言った。

 妖怪達は人間の〝非常識″によって存在する事が出来るという。

 ならばもはや幻想郷が無くなってしまった今、この世界には神も妖怪も居ないのだろう。

 

「……永遠亭の連中はどうしたんだよ?」

 

 あそこにいる永琳ともう一人……名前なんだったけか。そいつらも確か妹紅と同じ蓬莱人だったはずだ。

 

「……永琳と輝夜は200年前に月の都に帰っちまったよ。私も誘われたけど、地上でやる事があったから断ったよ」

「そうか」

 

 妹紅は悔しいような、寂しいような複雑な表情をしていた。

 

「……私はね、紫の遺言を元に、この町でずっと魔理沙が来るのを待っていたんだ」

「え?」

「『もう幻想郷は持たない。今から200年後の5月6日、博麗神社に私達とは別の未来を歩んだ霧雨魔理沙が現れるわ。彼女ならこの未来を変えてくれるはず。私にはもう貴女しか頼れる人がいないの。どうか力になってあげて』ってな」

「!」

「最初私は何のことかさっぱりわからなかったさ。だけどね、紫の話通り今日この日に魔理沙が現れてビックリしたよ。運命ってのは本当にあるんだなって」

 

 妹紅は続けてこう言った。

 

「だからさ、魔理沙。世界を変えてくれやしないだろうか? 600年前に逝ってしまった慧音の為にも、私は元の幻想郷を取り戻したいんだ」

「勿論だ。私だってこんな未来を望んでいない。頼まれるまでもないさ!」

「ありがとう……! 嬉しいわ」

 

 懇願してくる妹紅に私は快諾した。

 こうなったら何が何でも元の幻想郷の姿を取り戻してやる! そう決意を深めた私だった。

 

「……とはいっても、何をどうすれば戻せるんだろう?」

 

 妹紅は『外の世界の科学力によって幻想郷が滅んでしまった』と話していた。

 科学力とは一体何なのだろう?  

 

「その事だけどね、紫からメッセージを預かっている。これを見た方が早い」

 

 そう言って手渡してきたのは、手の平に収まるサイズの黒くて細長い機械で、中心には丸い溝で縁取りされたスイッチが取り付けられていた。

 

「これは?」

「ソイツは【メモリースティック】と言ってな、真ん中のボタンを押すと中に予め記録された映像と音声が空中の透過ディスプレイに流れる仕組みになってるんだ」

「分かった」

 

 私はその説明を受け、ボタンを押してみる。

 すると、メモリースティックの上に四角く囲われた半透明な画面が現れ、そこに八雲紫の姿が浮かび上がった。

 その背後は四角いコンクリートの壁に覆われており、彼女がどこにいるのか分からない。

 さらに遠くから爆発音のようなものが時折聞こえてくるので、一体外がどうなっているのか気になる所だ。 

 

「『ハアイ魔理沙。元気?』」

「ああ、私はこの通り元気だぜ」

「魔理沙、その映像に話しかけても返事は来ないぞ」

「そんなの分かってるよ」

 

 ただ、ディスプレイの中の紫は、何となく無理して元気そうに振舞っているようにも見えたから。

 

「『もう妹紅からある程度事情を聞いてると思うけど、魔理沙には過去に戻って、幻想郷が崩壊する原因――つまり人間達が幻想を暴いてしまうのを防いでほしいのよ』」

 

(そういえばそんな事言ってたな……。しかし、幻想を暴くとはどういう意味だ?)

 

 幻想とは夢、夢といえば幻想のように、言ってしまえば人の考えや気持ちと言い切ってしまってもいい。

 そんなフワフワとしたものを暴くとはどういう意味なのか?

 心の中の疑問に答えるように、画面の中の紫は説明を始めた。

 


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