魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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第33話 八雲紫が語る幻想郷の結末と人間の歴史

「『……19世紀後半に起こった産業革命をきっかけに人間達は爆発的な進化を遂げて来たわ。それ以降文明の発展と共にあらゆる贅を尽くして行った』」

「『それでも人間の欲望は飽き足らず、20世紀後半にもなると今度は宇宙に目を向け、そこに眠る膨大な資源目当てにこぞって宇宙開発に乗り出し始めたの』」

「『しかしそれを快く思わなかった月の民は、宇宙ステーションの破壊・人工衛星の撃墜等数々の手を講じて妨害を行ってきたわ。……恐らく地上の生物が宇宙に進出することで、月に穢れが貯まると思ったのでしょうね』」

「『21世紀半ば頃、ようやく人間達は月に何かしらの知的生命体が存在する事に気づき彼らが宇宙開発を阻害していた事実を知るも、人間達は宇宙への進出を諦めず技術開発を続けて行ったわ』」

「『とある国は月に向けて、和平交渉のメッセージを送ったけれど、月の都はそれに応じなかった』」

「『また別の国は有人ロケットを月に送り出したけれど、途中で月の都からの攻撃に遭い、宇宙の藻屑となって消えていった』」

「『終いには月の裏側目掛けて核ミサイルを発射した国もあったけれど、月の都の防衛システムによって核融合すら起こらない素粒子レベルにまで分解されてしまってね、さらに報復としてその国に数十個の弾道ミサイルが降り注いだのよ』」

「『月の都は幻想郷に張られている博麗大結界と同じような結界が張られているから、物理的な干渉は全く届かないし、地上からは見えないようになっているの。だから当時の人間達は、月人達の技術力に恐れおののいていたわね』」

「『そんな月からの度重なる妨害にとうとう人間達は折れて、24世紀にはもう宇宙開発を行う国は無くなっちゃってね、それを話題に出す事すらタブー視されるようになったわ』」

 

(何というか、凄い話だな……)

 

 私もかつての異変で月の都に行った事があり、その技術力の高さに感心したことがあったけれど、まさかここまで凄まじいものだとは思わなかった。

 

「『一方変わって21世紀以降、地上では宇宙開発と並行して行われていたノアの箱舟計画が成功し、世界の人口は徐々に減って行った。28世紀に突入する頃にはもう、日本の人口も最盛期の1億2800万人から2000万人まで減少したの』」 

「『だけど、これまでの宇宙開発や科学の発展に伴って、地球が何億年と掛けて蓄積してきた天然の資源が枯渇気味になってしまい、世の中には〝合成品″が溢れ〝天然物″はほぼ失われてしまったわ』」

「『合成品は天然物と外見や性能、味や栄養素も全く変わらない。とはいえ生物としての本能か、はたまたその稀少さ故か、愚かで強欲な人間達はひたすら天然物を求めて行った』」

「『――その結果、西暦275X年に人間達は幻想郷の存在に辿り着いてしまったの』」

 

 淡々と外の世界の世情を語っていく紫。

 幻想郷とはあまりにスケールが違いすぎて言葉の意味が所々分からない部分もあるけど、何とか自分なりに解釈していった。

 紫の話はまだまだ続いていく。

 

「『そもそも幻想郷は〝幻と実体の境界″と〝博麗大結界″の二つに包まれているの。これは外の世界の〝常識″に対して幻想郷を〝非常識″とする結界でね。これによって幻想郷に存在するものは、外の世界が迷信・幻とする非常識となるわ。だから本来は、外の世界が繫栄すればするほど、〝非常識″の側である私達妖怪の勢力が大きくなって幻想郷はより〝幻″に近くなるの』」

 

 その話は私も聞いたことがあるものだった。

 さらに紫の話を補足するならば、この結界によって、外の世界からは幻想郷の存在を確認することはできず、幻想郷内に入ることもできないし、同じ様に幻想郷の中からも外の世界の様子を確認することはできず、幻想郷から外へ出ることはできなくなっている。

 ……その筈なのだが、何故外の世界の人間達に発見されてしまったのだろうか。

 

「『木を隠すなら森の中ということわざがあるように、幻想郷は人目の付かない山の奥深くに創ったわ。そうする事で緑溢れる雄大な自然と博麗大結界の相乗効果で、存在を上手にカモフラージュしてくれたのよ』」

「『……でもね、人間達はその自然を私利私欲のために次々と破壊してしまったの。27世紀頃にはもう、雄大な自然は幻想郷がある山を除いて日本から失われてしまったわ』」

「えええっ!?」

 

(外の世界の人間達は何考えてるんだよ……。森がなくなったら暮らしていけないだろうに) 

 

「『博麗大結界はあくまで幻想郷の存在を隠すだけ。幻想郷がある山を隠すことは出来ないの。それ故に『日本で唯一太古の昔から現存する広大な原生林』として日本中から注目を浴びてしまい、沢山の人々が押し寄せた……』」

「『私は持ち前の能力を駆使して、人間達の手が入らない様に必死に手を尽くしたわ。それはもう、寝る間も惜しむくらい。……今思えばこの過程で、『あの原生林には科学では解明出来ない何かがある』と思われたのかもしれないわね』」

 紫は憂いた表情で呟いた。

 

「『そして西暦280X年、私達は大きな転機を迎えてしまった』」

「『日本の【柳研究所】に所属する研究チームによって、霊魂や迷信といったいわゆる〝非常識″なものが解明され、完全に数値化されたデジタルデータとして記録されるようになってしまったの』」

「『それにより私の力は弱体化してしまい、幻想郷を覆っていた二つの結界は消滅。外の世界の常識が流入してしまったが為に〝非常識″を拠り所としている妖怪達は皆消滅してしまったわ。私達は人間の畏れがないと、存在する事が出来ないからね』」

 

(…………)

 

 語られていく言葉に、私は開いた口が塞がらなかった。

 だって非常識を科学的に解明するなんて、予想の斜め上を行く行為だし。私の使う魔法だって、感覚的に〝そう″だと理解するのであって、科学的にそれを捌いてしまうなんて有り得ない。 

 

「『だから、魔理沙には〝非常識″を解明したこの憎い研究所を潰して欲しいわ! こいつらさえいなければ、私の能力でどうとでもなったのよ!』」

 

 紫は怒りを露わにしていた。

 

「『詳細なデータはこのメモリースティックの別領域に入ってるわ。この映像が終わった後、ボタンを短く2回連打すれば表示されるから、後で確認してみてね』」

「『……私はこれから最後の悪あがきに打って出るわ。魔理沙がこの映像を見てる頃には、恐らく私はもうこの世に居ないでしょう。後のことは全て貴女に託します』」

「『絶対に280X年に来ちゃダメよ! ……この時代に来てももう、手遅れだから』」

 

 そして映像が途切れ、少し待っても画面には砂嵐しか映らなくなった。

 私は再びスイッチを押して電源を切る。

 

「どうやら物凄く大変な事になっちまってるようだな……」

 

 外の世界の情勢、そして科学力……、人間は何故ここまで貪欲なのか。

 元人間として吐き気がするような思いだ。

 私と同じことを思ったのか、隣で映像を見ていた妹紅も涙ながらにこぶしを握り締める。

 

「……私はどうしても外の世界の人間が許せない。不老不死になって人々から忌み嫌われながら生きて来た私を、幻想郷は暖かく迎えてくれた。私に取って唯一の居場所で、思い出深い場所だったのに。それをアイツらはっ……!」

 

 怒りに震える妹紅。

 

「だから魔理沙。私はどんなことでも協力するつもりだ。遠慮なく言ってくれ!」

「ああ。こっちこそよろしく頼むぜ!」

 

 打倒柳研究所に向け、私と妹紅は固く握手を交わした。








 ≪【柳研究所】⇒国内外から集まったエリート科学者集団が所属する。オカルトや神などの、いわゆる非科学的存在を科学的に解明する事に成功し、幻想郷を壊滅させた。しかしそれと同時に、外の世界のあらゆる宗教は教義を失い滅亡することになる。30世紀、科学によって人々の願いまで解明されてしまった今、心は貧層になり、夢や希望が語られる事のない世界となった≫







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