魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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第40話 話し合い

「いや~美味しかったよ。ご馳走様」

「クス、お粗末様です」

「た、食べ過ぎた……。ウップ。動けない……」

 

 漫画張りに膨らんだお腹をさすっている妹紅に「親父かお前は。食い意地張りすぎだろ」とツッコミを入れた。

 その後食事の後片付けを手伝い、それが終わってひと段落ついた頃、どこからか紫の声が聞こえて来た。

 

「はぁい。約束通り来たわよ~」

「うわっ!」

 

 ちゃぶ台の下から現れた紫に、私は不覚にも驚いてしまった。

 

「紫さん、おはようございます!」

「おはよう。麗華は今日も元気ねぇ」

 

 そう言いながら紫は私の正面に座り、私から左に妹紅、右に麗華、正面に紫という座席順になっている。

 

「お前さあ、普通に出てこれないのかよ?」

 

 苦言を呈すが、紫は「え~だってインパクトがあった方が面白いじゃない」と、愉快そうにするばかり。

 

「そんなの誰も望んでないから」

「つれないわねぇ」

「彼女の言う通りです。紫様、御戯れも程々になさってください」

「あなたまでそんな事を言うのかしら。お堅いわねえ」

 

 ここにいる誰でもない凛とした声が響き、紫が背後に視線を向けた先には、横一直線に開かれた新たなスキマ。

 それがざっくりと開くと、中から尻尾を生やした一人の女性が現れた。

 

「……藍か」

「こうして会うのは久しぶりだな霧雨。貴様の事情は紫様から聞いているよ」

 

 彼女は鋭い目つきで、私達を見下ろしていた。

 

「わぁっ! 藍さんいらっしゃい!」

 

 八雲藍の姿を見た途端、麗華は彼女の尻尾に飛び込んだ。

 

「ふわぁ、このモフモフとした感触は、最高ですねぇ」

 

 なんとも心地よさそうに尻尾を撫でている麗華に、藍は首だけ後ろに向けて言った。

 

「麗華、いきなり飛び込んでくるのはやめてくれないか」

「いいじゃないですかー。あたしと藍さんの仲でしょう?」

「……触っても構わないが痛くしないでね」

「はーい」

 

 そして藍はそのまま紫の隣に正座した。

 

「普段は裏方に回るお前がここに来るなんてどういった風の吹き回しだ?」

 

 私の問いかけに答えたのは紫だった。

 

「藍を呼んだのは私よ。貴女がこことは異なる時間軸を生きる〝彼女″を一緒に連れて来るなんて、余程未来が深刻な事態に陥ってると思ってね。そうでしょう?」

 

 紫は私と妹紅を見比べながら、自分の推測は正しいと言わんばかりの顔。

 

「……流石に察しが良いな。実はな――」 

 

 私は西暦300X年で体験した出来事や話を事細かに話した。

 

「――と言う訳。残念ながら幻想郷は滅びてしまい、世界から妖怪はいなくなった。そしてこれは未来のお前が遺した形見の品だ」

 

 ポケットからメモリースティックを取り出し、ちゃぶ台の上にそっと置いた。

 

「まさか外の世界の人間達がそこまでやってのけるなんてね。これは想定外だわ」

「にわかには信じがたい事です」

 

 普段から見せている余裕たっぷりな態度を珍しく崩す紫と、苦い顔をする藍。

 さらに妹紅は発言する。

 

「あの時の悪夢は今でも時々思い出すんだ。あんな未来は認められない。そんな思いで私は魔理沙についてきたんだ」

「……なるほどね。魔理沙、この記憶媒体の中にあるデータを見ても良いかしら?」

「構わないぜ。そこのボタンを押せば作動するようになってる」

 

 紫はスキマを使いちゃぶ台の上に置かれたメモリースティックを手元に移動させたのち、ボタンを押した。

 路地裏で見た映像が再び映し出され、彼女は私に向けて語っている〝自分″のメッセージを真剣な面持ちで聞いていた。

 

「「…………」」

 

 メッセージの再生が終わった頃には、紫と藍は何とも言えない苦々しい表情をしており、場の空気が重くなる。

 やがて自動的に柳研究所のデータが空中にざっと映し出されると、紫は画面を触り、データを読んでいく。

 

「妖怪を実数として表すことで存在意義の崩壊を起こす……? 何よこれ、妖怪の天敵じゃないの。他にも音波の反響によって、幻の揺らぎを見つけだして……?」

 

 眉をひそめる紫の隣で、藍が発言する。 

 

「船や潜水艦などに付けられているソナーのような機械もあるようですね」

「『幻想を幻想と至らしめる畏れこそが我らの天敵たりうる。然らば、人類の英知をここに集結し新たなステージを迎える。』<中略>『最終的には仏教における解脱を分析・解明して輪転を掌握。死後の世界を構築する事に成功し、人は死の束縛から解き放たれた』か。……へぇ、随分と興味深い話ね。たかが人間が生命の理を捻じ曲げるだなんて、神にも等しい所業じゃないの」

「輪転は確か地獄の女神とその手先である地獄の裁判長が管理していた筈。人間は彼女達ですら凌駕してしまったのでしょうか」

「300年後の〝私″が遺した記録ですもの。間違いはないでしょう」

「私から言わせてみれば、不死なんてつまらないだけだけどな。なんで人間達がそこまで生に縋りつくのか理解できん。何度死にたいと思った事か」

「形のない生こそまさに不毛。もしかして蓬莱人の本質ってそこにあるのかしら?」

「さあどうだろうな。それを知りたいのなら永琳が適任だろう。最もアイツがすんなりと教えてくれるとも思わないが」

「今は蓬莱人の在り方に付いて議論している場合ではないでしょう」

「それはさておき――」

 

 その後も紫と藍と妹紅の3人はデータを見ながら真剣に話し合っていて、外の世界についての知識が乏しい私はひたすら聞き役に徹していた。

 ちなみに麗華は、イソギンチャクのようにうねうねと動く藍の尻尾を、猫じゃらしに興味を示す猫のように手を伸ばして捕まえようとしていて、ついつい目を奪われてしまう。

 

「――この幻想郷の未来の為にも、私と藍も協力した方が良さそうね」

「助かる。紫と藍がいれば百人力だ。280X年の時とは全然状況が違うし、此方から先手を打って出ればどうにでもなるだろう。後はその場所なんだけど……」

「この研究所はN県F市の――住宅街から少し離れた森の奥に建っているみたいね。ここからだと遠いけど、まあ私のスキマを使えば一発で行けるわ」

「うん、移動面は問題なしだな。次はどうやってあの研究所を潰すかなんだが……っておい魔理沙、さっきからずっと黙りこくってるけど、ちゃんと話聞いてるか?」

 

 妹紅に突然話を振られた私は、藍の尻尾から視線を戻す。

 

 妹紅に突然話を振られた私は、藍の尻尾から視線を戻す。

 

「え? お、おう聞いてるぜ。そうだな、魔法かなんかでドカンと爆発させちゃえばいいんじゃないか?」

「それが一番手っ取り早いな。採用だ。それじゃ早速襲撃を掛けよう!」

 

 ウキウキで乗り込もうとする妹紅に、紫が待ったを掛ける。

 

「待ちなさい。事はそう単純にはいかないのよ」


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