「もういっちょ! 不死《火の鳥-鳳翼天翔-》!」
「スターダストレヴァリエ!」
警報音が鳴り響き、天井から雨のように水が降り注ぐ中、研究所内の施設を手当たり次第に破壊していく私達。
しかしやはり建物の規模が大きいために、中々スムーズに壊し切れない。
「なあ紫もスペルカードを使ったらどうだ?」
破壊行為を繰り返す私達をただ黙って見守るだけの紫が気になった。
「あら、私も参加して良いの?」
「何を遠慮してるのかは知らんが、手伝ってくれ。私と妹紅だけじゃ手が足りん」
「うふふ、なら私もド派手に行かせてもらいましょう」
紫は右手の平にスキマを出現させると、そこからせり出してきたスペルカードを掴み、宣言する。
「《廃線「ぶらり廃駅下車の旅」》!」
巨大なスキマが紫の横に開くと、踏切の鐘の音と共に連結した電車の車両が猛烈な勢いで飛び出す。
壁に激突すると同時にものすごい轟音が生じ、建物が大きく揺れた。
「うひゃぁ~、すっごい威力」
「こんなの当たったらひとたまりもないな」
電車の通った跡は壁や障害物などおかまいなしに壊されていて、その果てには外が見えていた。
「なんだ今の音は!」
とその時、フルフェイスマスクを被った集団が電車の通った跡から現れた。
その数は7人で、全員が銃を抱えていることから、紫の情報にあったこの施設を守っている警備員なのだとすぐに分かった。
「侵入者だ! 生かして返すな!」
警備員の一人が言うと、皆規則正しい動きで銃を構える。
「撃て!」
「やばっ!」
とっさに回避しようとした瞬間、私の正面にスキマが出現し発射された銃弾はその中に消えていった。
「なっ……! 消えた?」
「ななな、なんだあれはっ……! ギョロギョロとした目がっ!」
少なからず動揺した様子の警備員達を見て、紫は愉快そうに微笑む。
「うふふふふ」
紫が右腕を振るった瞬間、彼らの真後ろにスキマが開き、そこから飛び出した弾丸が腕や足を貫いた。
「ぐわああああああ!」
「ぐううっ!」
彼らはうめき声をあげながらその場に崩れ落ちていき、最早立つことすらもままならない様子。
「お、おい。流石にやり過ぎなんじゃないか」
「大丈夫よ、麗華との約束ですもの、ちゃんと致命傷は避けてあるわ。……さあ、そのまま帰りなさい」
紫が左腕を振るうと、今度は彼らの足元にスキマが開いた。
「うわああああああ!!」
彼らは悲鳴と共にスキマの中に吸い込まれて行き、何事もなかったのように閉じられた。
「あいつらどこへやったんだ?」
「近くの病院に送り届けてあげたわ。きっと今頃お医者様のお世話になっていることでしょう」
「お優しいことで」
その後残りの警備員を適当にあしらいつつ次々と施設内を壊していくと、やがてそこかしこでミシミシと軋む音がしはじめ、建物が大きく揺れていった。
「あら、そろそろ崩れてきそうね」
「冷静に観察してる場合か!? 外に出るぞ!」
「流石に生き埋めはしゃれにならん」
そうして、床に散らばる瓦礫などを乗り越えていきながら駆け足で外に出て行った。
ある程度離れた所から柳研究所を振り返ると、壁や天井の至る所に穴が空いて煙が昇り、いつ倒壊してもおかしくないくらいにボロボロになっていた。
「後一撃で崩壊しそうだな」
私はマナカプセルを飲み込み、八卦炉を構える。
「んじゃ、最後にトドメの一撃加えてやるぜ! マスタースパーク!」
私の手に持った八卦炉から超極太な虹色の光線が発射されて空の果てに消えていき、その軌道上にあった建物は完全に呑みこまれた。
やがて徐々に出力が弱まり完全に消えた頃、後に残されたのは、瓦礫の山と下火になりつつある炎だけだった。
「終わったわね」
「ここまで破壊し尽くせば、再起するにもかなりの時間を要するでしょう」
「は~一番のトリを持ってかれちゃったか。私が壊したかったのになぁ」
「悪い悪い。つい、な」
そして余韻に浸る間もなく遠くの空からサイレンの音が聞こえてきて、何やら騒がしくなりそうな雰囲気が出て来た。
「紫様、そろそろ退散した方が宜しいかと」
「そうね。人間達に見つかる前に帰るとしましょう」
紫はスキマを開いて中に入り、私達もその後に続いて行った。
スキマを通じて再び幻想郷の博麗神社に戻って来た私達。
月明りに照らし出された境内はしんと静まりかえり、夜空には流星群が見えていた。
「ん~やっぱ幻想郷が一番落ち着くわねぇ。外の世界は窮屈で仕方がないわ」
「紫様と同意見です。ここは私達の故郷ですからね」
「んじゃ、私はこれから妹紅を連れて未来が変わったかどうか確認しに行くから、ここで一旦お別れだな」
「ええ、よろしくお願いするわね」
「ご武運を祈ります」
「元の時代に帰ったら何しようかなぁ。自由に歩き回ってみるのもいいかなぁ」
「おーい妹紅、跳ぶからこっち来てくれ」
「分かった!」
そうして私と妹紅は再び抱き合う形となる。
「500年後、またここで会いましょう」
「ああ、それまでまたな紫。タイムジャ――」
(……待てよ?)
いざ時間移動しようとしたその時、一抹の不安が頭をよぎり、言葉が止まる。
(まずないと思うけど、もし、もしも未来が変わってなかったとしたら……)
前回この位置から未来に跳んだ時、ものすごく高い所から落ちる羽目になり、あの時は今までの人生で五本の指に入る程焦った。
そのトラウマが、私に躊躇いを生じさせる。
「……どうした魔理沙? 跳ばないのか?」
抱き着いている妹紅から不思議そうな声が聞こえてくる。
(流石にまた落ちるってことはないか。……ないよな? うん、ないない)
映像の紫の中のお願い通りに動いて、幻想郷が滅びる原因をたった今この手で壊滅させてきたところだ。
きっと私の考えは杞憂に過ぎないだろう。
「いや、何でもない。タイムジャンプ!」
例のごとく、足元に時計の形を模した魔法陣が出現する。
「行先は西暦300X年5月7日、午後1時!」
歯車が回り始め周囲の光景が歪み始めたところで、私は目をつむった。