――しかし、結果は変わらなかった。
西暦250X年以降、何度過去に戻って研究施設を壊滅させても、また別の研究施設が幻想を解き明かす法則を見つけ出し、幻想郷へと侵略してきてしまう。
紫自身も未来の自分の末路を聞いて対策を立て、(外の世界の情勢を調べたり、結界を強化するなど)警戒をより強めてはいたものの、やはり最後は人間達によって幻想郷は壊滅させられてしまう結果になってしまっていた。ならばと今度は妹紅が外の世界の情報機器を使い、怪しい研究施設を見つけては次々と破壊していったが、逆にそれが人間達の警戒心を強めてしまったのか、当初よりも幻想を解き明かす法則が発見される時間が100年も短くなってしまい、幻想郷の滅亡が更に早まってしまっていた。
人間達が発見する幻想を解き明かす法則は、私達の天敵のようなもので、どれだけ強い妖怪であっても抗う事の出来ない強力な法則のために、事前に準備して人間達を迎え撃つという作戦は取れなかった。
そんな失敗を10回ほど繰り返した頃、いつまでも終わる気配が見えないいたちごっこに私は疲れ果ててしまった。
「……どうやら今回も駄目だったようね」
「すまん……。はあ~……どうすればいいんだこれ」
再びこの時間に帰って来た私を冷ややかな目で見てくる紫に返す言葉もなく、頭を抱えるばかりだ。
現在時刻は300X年5月7日、午後3時。場所は博麗ビルの屋上に建つ博麗神社の前。
座り込む私の隣には、無機質な鉄の床にくたびれた様子で座っている妹紅と暗い顔をした紫がいて、口数も少ないまま重い空気が流れる。
(いったいどうすればいいんだ……)
どうやっても人間達の侵攻を止めることが出来ず、もはや打つ手がない状況に私は辟易としつつあった。
そんな時、ぽつりと妹紅が呟いた。
「潰しても潰してもまた別の研究所が現れて、幻想郷が滅亡する未来へと収束してしまう……もしかして、幻想郷の滅亡は定められた運命なのか?」
その言葉に、私は立ち上がり真っ向から反論する。
「運命だって……? そんなのあるわけない! だって過去が変わったからこそ紫が今ここにいるし、霊夢だって自殺しなかったんだ!」
霊夢が自殺する過去を変えたのは言わずもがな、紫が死んでいたのは私が二回目に西暦300X年に来た時間軸だけで、それ以外の時間軸では常にこの博麗ビルの屋上で待ち構えていた。
これも、私が最初の時間軸で未来の情報を教えたからで、未来が変わった結果だと言える。
「私は運命なんて陳腐なものは絶対に認めないからなっ!」
そう啖呵を切った私に紫が口を開く。
「でもね、私の視点からみれば何度も何度も未来の失敗を聞かされて、自分なりに変えようと様々な手を尽くしても、結局未来が変化しなかったのよ? この現状に対する絶望感は半端なものではないわ」
「……紫には本当に悪いことをしたよ」
ここまで計11回、一番最初の世界線――250X年の小さな結界の解れが発生していたあの日――から協力してもらってきた。
私の中では過去に抱いていた〝何を考えているか分からない胡散臭い妖怪″という評価は覆り、〝幻想郷の為に身を粉にして働く妖怪″という評価にまで爆上げされている。
紫のためにも、そして今は亡き幻想郷の住人達のためにも、ここで諦める訳には行かない! ――そう強い決意を固めつつ、私は口を開いた。
「ここまで失敗が続くとなるとさ、もっと別の原因が幻想郷滅亡のトリガーを引いているんじゃないか?」
「ええ? でも今まで外の世界の人間達に〝幻想を暴かれて″幻想郷が滅んでいるんだぞ。他に何の理由があるっていうんだよ?」
「それは分からないけどさ……、でもこんだけ沢山失敗してるんだし、そうとしか考えられないじゃん」
「むう」
「原因ねぇ……」
妹紅は唸り、紫も考え込んでいる様子なので、私も座り今までの出来事を整理して考えてみようと思う。
まず事の発端は215X年、何気なく訪れた博麗神社で博麗杏子に襲われた事だ。
あの時は妖怪の力を封じる結界が張られていた為にタイムジャンプ魔法しか使えず、しかも切羽詰まっていたので時間指定を忘れており、その結果として辿り着いた時刻が西暦300X年だった。
最初に辿り着いた300X年の幻想郷は、空が真っ赤に壊れて大地が腐り、生き物が全くいない死の土地になってしまっていた。
そんな壊れた幻想郷の博麗神社に座ったまま悲観に暮れていた紫曰く、こうなってしまった原因は250X年に入った僅かなひびが広がったからだ、と言っていた。
私はすぐに250X年に戻ってその時代の紫に事情を説明して直して貰い、未来を確認するために改めて300X年に跳んだ。
ところが今度は、幻想郷が外の世界に侵食されて文明が大きく発展した大都会になってしまっていて、妹紅に助けられていなければ私も死んでいるところだった。
そうなってしまった原因が、今度は人間達の科学によって幻想が解明されてしまったことで、博麗大結界が効力を失った事によるものだった。
私は妹紅と共に再度250X年に戻り、紫にまたまた事情を説明して協力を願い、そして発端となった研究所を破壊してデータも完全に消去した。
今度こそ三度目の正直かと思えばそうではなく、幻想郷の未来は人間達によって踏みにじられており、その原因が潰した研究所とは別の研究所が幻想を解明した事によるものだった。
その後何度も過去に戻って研究所を潰しても、しばらくすればまた違う研究所が解明してしまい、幻想郷は消滅してしまっている……。
ここで私が思うに、最初の〝生命がいない土地″になってしまった幻想郷と、人の手により大都会になった元幻想郷の歴史の違い――もしかしたらここに何かヒントがあるのかもしれない。
BADENDっぽい終わり方ですがまだまだ話は続きます