魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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第51話 魔理沙の閃き

(待てよ? 確かテラフォーミングコロニー計画とかいうものがあったな)

 

 柳研究所で見たあの計画は、端的に言えば他の星を自分達が住めるように改造してその星に移り住むという計画だった。

 資源不足の結果戦争が勃発し、その過程で幻想を解明する技術が発展してしまうのであれば、人間達の目を宇宙に向けさせてしまった方が良いのではないか?

 発想が飛躍しすぎているような気がしないでもないが、割と筋道が通っているようにも思える。

 

「その案、悪くないな。外の世界の人間達に居なくなって貰おう」

「「えっ?」」

 

 妹紅と紫が驚きながら私を凝視するので、こう語った。

 

「妹紅、紫。柳研究所を襲撃した時、私がテラフォーミングコロニー計画についての文章を読み上げたのを覚えているか?」

「ああまあ……大体は」

「でもそれがどうしたの?」

「あの計画で人間達は宇宙に飛び立とうとしてたんだ。それを月の都によって邪魔されて結局地球に留まるしかなかった。実際に〝過去の紫″も、宇宙開発がとん挫したことで地球上の資源の消費が加速して、天然資源が豊富な幻想郷に目を付けられた――と語っていた。つまりだ。月に行って人間達の邪魔をしないように月の民を説得するって作戦はどうだ?」

「私は賛成だな。取り敢えずやってみる精神は大事だし、まあ失敗したらまたやり直せばいいんだしさ」

「……特別反対する理由はないけれど、月の連中を動かすのはかなり手強いわよ? あなたにそれが出来るの?」

 

 気楽な態度で賛成する妹紅に対し、紫は慎重な姿勢を崩さなかった。

 その言葉には暗に『この私でも出来なかったのに』という言外が含まれているように思える。

 

「そんなのやってみないと分からないだろ。案ずるより産むが易しってことわざもあるくらいなんだし大丈夫だって!」

「……あなたのそういうお気楽な所は羨ましいわ」

「それは褒めてるのか? けなしてるのか?」

「さあ、どうでしょう。それよりもいつの時代に行くか決めてあるの?」

 

 上手くはぐらかされたような気もするが、私はそれを追求せずに答える。

 

「テラフォーミングコロニー計画のレポート、そして紫が遺したメモリースティックの話によると、20世紀後半には宇宙開発は始まっていた。そして私達が第二次月面戦争で乗り込んだ年は2006年。これ以前に行くと色々と整合性が取れなくなるし、私がなかったことにした霊夢の自殺の事実が改変されるかもしれない。それを踏まえて出来るだけ早い時間の方が好ましいだろう」

「つまり?」

「月に向かう年は200X年にしようと思う」

 

 2006年――それは、霊夢が自殺してしまった200X年の一年前だ。

 

「なるほどね。ちなみに月までどんな手段で行くつもりか、ちゃんと考えているのかしら?」

「問題はそこなんだよな……、紫、お前の力を貸してくれないか?」

「嫌よ」

「はあっ、なんで?」

 

 即答されてしまったので、思わず理由を聞き返した。

 

「第二次月面戦争の結末は、知っての通り私達の大敗だったでしょ。月の連中に土下座までして許してもらったんだから、もうあまり関わりたくないのよ」

「そんなこと言わずに協力してくれよ、な? 幻想郷を救う為だと思ってさ」

「……よく考えてもみなさいよ。魔理沙の作戦が確実に成功するとも限らないし、それが正しいと決まったわけでもない。あなたの行いで月の連中の怒りを買って幻想郷がさらに危機に晒されるかもしれないのよ? 私が貴女の立案に反対しないことが、最大限の譲歩だと思いなさい」

「うぐっ」

 

 紫にしては珍しく弱気な発言に私は説得を試みたものの、ここまで言われてしまっては、無理に強要することは出来なかった。

 

「とにかく別の方法で行ってちょうだい。それこそ、あの時紅魔館の連中が造ったロケットみたいにね」

「ロケットか……」

 

 紅魔館のロケットは月で大破しちゃったからもうないし、また造ってくれるように頼みこんでも紫と似た理由で断られるかもしれない。月で痛い目にあってたし……。

 だから一から造らないと行けないんだけど、私にはそんな技術なんてないし、勿論月へ行けるような都合の良い魔法もない。

 ロケットにしろなんにせよ、何か方法はないだろうか。

 

(誰か協力してくれそうな人はいないかな。技術者とか…………)

 

 と、思考を巡らせたところで、ある人物の顔が思い浮かんだ。

 

(……待てよ? 確かにとりが『来るべきときが来たら私の元へおいで』って言ってたな)

 

 あの時のにとりは、明らかに訳知り顔で、まるでつい最近〝私″と出会ったことがあるような感じの態度だった。

 来るべき時が今なのかはわからないけど、どん詰まりの現状を打破するためにも、きっと何かヒントがあるかもしれない。

 

「妹紅、今から215X年に飛ぶぞ」

「へ? 急にどうしたんだ?」

「前に私が250X年の博麗神社から215X年に戻った時にたまたまにとりに会ってな、『来るべき時が来たら私の元へおいで』って言われてたんだ。ちょっとその件について確認しておきたいんだ」

「いや、でも……それは……」

 

 今まで時間移動に積極的だった妹紅が珍しく渋る様子を見せていた。 

 

「……もしかして、ここに残りたいのか? なら無理にとは言わないが」

 

 思えば前回も、私が215X年に跳ぶって話をしたときに、何か思わせぶりな事を言っていた。

 妹紅にとってこの年に何があるのだろうか?

 

「――ああもういいよ! 私も一緒に行くから! うん!」

「? ならいいけどさ」

 

 半ば自暴自棄のような口調で答える妹紅に、私は首を傾げるばかりだ。

 

「そうだ。今まで聞かなかったけどさ、紫も一緒に来ないか?」

 

 彼女が味方になってくれるのなら私としても心強いし、こんな人間の科学が発展してしまった未来にいても面白くないだろう。

 そんな気持ちでかけた誘いだったが、紫はこのように返した。

 

「私はいいわ。過程がどうあれ結果的に幻想郷の崩壊を止めることが出来なかったんですもの。過去に戻っても悲しいだけですわ。私は、ここで未来が変わるのを待つことにしますわ」

「……分かった」

 

 寂しそうに呟く紫の心には、きっと複雑な思いが渦巻いているのだろう。

 

「それと、にとりに会うのなら一つ助言をして差し上げますわ」

「助言?」

「私の記憶ではあの子の企みは失敗に終わって、失望のまま幻想郷に帰って来ていたわ。99%ではなくて100%必ず成功する方法を取りなさい」

「……ん? もしかして紫はにとりが何をするのか知っているのか?」

「ええ、もちろん。私も彼女の企みに乗っかって多大な出資を投じたんですもの。それに今なら分かるわ。これもまた未来へと繋がる布石だったってことがね」

「なんだよ~気になるなぁ」

「行けば分かることよ。その方が先の楽しみがあって面白いでしょう?」

 

 この時代ではもうすっかり過去の出来事なのに未来の楽しみとはこれいかに。

 それから私達は博麗ビルの屋上へと向かい、私と妹紅は時間移動の準備に入った。

 近くで紫が神妙な面持ちで見守る中、妹紅に一つお願いをする。

 

「妹紅、悪いが私を抱えてもっと高く飛んでくれないか? 215X年の神社は妖怪殺しの結界があるんだ」

「うん」

 

 妹紅は背中から炎の翼を生やしてゆっくりと飛び上がり、私はビルの屋上からさらに高い場所、おおよそ50mくらい上昇した。

 

「このくらいでいいよ。ありがとう」

「うん……」

「どうした? 元気ないみたいだけど」

 

 思えばここに来るまでもちょっとフラフラとしていたような気がする。

 

「いあ、なんか疲れて眠くなってきちゃってさ。ちょっと頭がぼんやりとしてきた感じ」

 

 言われて見れば田中研究所辺りからずっと連戦続きだったので、碌に休んでもいなかった。

 こうして時間感覚が狂ってしまうのも、時間移動の弊害なのかもしれない。

 

「それは良くないな。折角だし私の家で休んでいってくれ」

 

 妹紅のためにも、私は跳ぶ時間を少し変更することにする。

 

「――タイムジャンプ! 行先は西暦215X年9月18日午後9時!」

 

 空中に浮かぶ足元に歯車模様の魔法陣が出現し、光に包まれて過去へと跳んで行った。

 

 

 

 西暦215X年9月18日―――

 

 

 

 やがて時間移動が終わり、空気が変わった事を察知した私は魔力を放出する。

 

「……着いたか。ありがとう妹紅」

 

 お礼を伝えながら妹紅からすっと離れ、自らの魔力でその場に浮かんだ。

 満開の星空が広がる空の元、真下には結界で囲まれた博麗神社があり、見た感じ何も変わっては居なさそうだ。

 

「へぇ、これが魔理沙の言ってた結界って奴か。凄いことになってんな」

「妹紅は知らなかったのか?」

「私は基本こっちのほうには来ないからな。霊夢が巫女だった頃に、たまに宴会に参加した程度さ」

「ふーん……」

 

 と、ここで冷たい秋風が私達の体を襲い、妹紅は震えていた。

 

「ううっ、寒いな。さっきまで暖かかったから、寒暖の差が余計身に沁みる」

「そうだな。早く帰るか」

 

 そうして私と妹紅は、魔法の森にある自宅に飛んでいった。

 

 

 

「大丈夫か?」

「あーなんかすっごく眠くなって来た。ちょっとヤバイかも」

 

 自宅に着いた頃にはもう、妹紅はおぼつかない足取りになっており、気を抜けば倒れてしまいそうだった。

 

「二階に上がってすぐの突き当りの部屋が寝室になってるから、そこ使ってくれ」

「悪いね。それじゃおやすみ~」

「おやすみー」

 

 そして妹紅は階段を上がって行き、部屋の扉が閉められる音が響いた。

 一人残された私は、薄暗い家の中を見渡すも、特に何も変わった様子はない。

 

「……私もシャワー浴びて寝ようかな。起きててもしょうがないし」

 

 そうして浴室へと向かって体を洗い流し、いざ寝ようと思った時、妹紅に私のベッドを使わせているので自分の寝る場所がないことに気づく。

 少し考えたのち、ソファーに寝転がることに決めた私は、自分に睡眠魔法を掛けて深い眠りに落ちて行った。 


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