「輝夜、少しいいか?」
「ん、なあに?」
「未来の話についてなんだが……」
「さっきの滅亡した幻想郷がどうのこうのってやつ?」
「そうそう。今私と妹紅はさ、300X年の幻想郷を救うために色々と画策していていな、そのうちの一つとして月の都に行きたいんだ。輝夜、何かいい方法を知らないか?」
輝夜は元々月の都に住んでいたと聞く。
もしかしたら何か有意義な方法を得られるかもしれない、という期待を込めての質問だ。
「う~ん、そうねぇ。まず月に行くには主に4つの方法があるのよ」
彼女は指を四本立てた。
「4つ?」
「まず一つ目は、空に浮かぶ月を追いかけて行く方法。かつて月の民が地上から月に向かう時に使った方法で、直近だと151年前に紅魔館から発射されたロケットが当てはまるわ」
「そのロケット私も乗ってたなぁ。でもあれ着地に失敗して月の海で大破しちゃったし、代りのロケットの当てなんてないぞ」
「なら二つ目は能力を使って行く方法。一例を挙げると、妖怪の賢者が用いる境界を操る能力とか、ね」
「その方法は使えないな。西暦300X年の紫に『魔理沙の作戦が確実に成功するとも限らないし、それが正しいと決まったわけでもない。あなたの行いで月の連中の怒りを買って幻想郷がさらに危機に晒されるかもしれないのよ? 私が貴女の立案に反対しないことが、最大限の譲歩だと思いなさい』って断られたし。多分この時代の紫に頼み込んでも似たような答えが返ってくるだけだろう」
「三つ目の方法は月の羽衣を使って宇宙を飛んで行く方法。デメリットは幾つかあるし時間も掛かるけど、確実に月の裏側に辿り着けるわ」
「ふむふむ、後一つは?」
「夢の世界の第四槐安通路を通って月に行く方法ね。今挙げた中で一番現実的なのはこの方法だと思うわ」
「へぇ~そんなものがあるのか」
まさか夢の世界で地上と月が繋がっているなんて、おとぎ話のような話だな。
「あら? 月の羽衣は分からなくてもしょうがないけど、第四槐安通路についていえば、異変の時に貴女も永琳が創った紺珠の薬を飲んで、そこを通って月へ行ったじゃないの」
「え、そうなのか?」
そう言われても私にとっては全くの初耳なので、戸惑うばかりだ。
「もしかして、貴女がいた世界って月の都が侵略される異変は起こらなかったのかしら?」
「初耳だな。ちなみにその異変はいつ頃起こったんだ?」
「今から149年前の――」
輝夜が口にした日付は、2008年――霊夢が自殺した翌年だった。
「あ~そうだったのか。私さ、その頃は霊夢を救うために時間移動の研究に没頭しててさ、完成するまで異変は全部スルーしてたんだよ」
幻想郷に神霊が沢山沸きあがったあの異変を最後に、私は交流を閉ざし、幻想郷に深く関わらなくなった。
200X年7月21日、霊夢が亡くなってしまったあの日から、私の行動理念や性格は大きく変わってしまった気がする。
「なるほどねぇ、歩んできた世界が違えば歴史や行動が大きく変わるのね。ふふ、面白いわ」
さらに輝夜は続けてこう言った。
「それで、あなたに月の住人を説得できるのかしら? 彼らはその辺りの融通が利かないし、ましてや地上の人間ともなると門前払いにされるわよ?」
鋭い視線を向けてくる輝夜に、私はこう答える。
「月の連中の頭の硬さについては、前に行った時によく味わったから分かっている。作戦はまあそれなりに色々と考えているさ」
「……その言い方だとろくに考えてないのね」
「ハハハ……」
実際に0ってわけじゃあないけど、1か2ぐらいしかないのも事実なので、冷めた目つきで見つめる輝夜に笑ってごまかすしかなかった。
「まあいいわ。それなら今から永遠亭に来る? 月に行く方法について永琳と相談してみましょう」
「良いのか?」
「だってこんな面白そうなイベントに参加しない手はないでしょ。私は逃亡の身だから一緒に行くことは出来ないけど、帰ってこれたら事の顛末を聞かせて頂戴ね」
「助かるよ」
話が纏まった所で私と輝夜が立ち上がると、妹紅がこちらに意味ありげなアイコンタクトを送ってきた。その意味をすぐに理解した私は、彼女にこう言った。
「妹紅はここに残っていてくれても構わないぞ。慧音とは積もる話もあるだろうし」
そして私と輝夜は、未だ考え込んでいる様子の慧音と無言の妹紅を残して家を出た。
「そうだ。ちょうど通り道だし、一度にとりの家に寄ってからでも良いか?」
空を飛んで行けるとはいえ、永遠亭はここからだと結構な距離があるので、道中にある妖怪の山に行っておきたかった。
月に行く目途が立ったとはいえ、にとりの意味深長な発言はやっぱり気になるし。
「さっき言ってた話? ええ、別にいいわよ。私も少し興味があるわ」
「ありがとう。よし、それじゃ行こう」
そして私と輝夜は妖怪の山へ向けて飛んで行った。
作者は東方紺珠伝の内容を知らずにここまで書いていたので、感想欄で指摘してくださった方ありがとうございました。