魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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第65話 魔理沙の異変②

 それからどれだけ時間が経ったのだろうか。

 我慢していく内に胸の痛みが引いていき、私は顔をあげる。

 

「うぅ……治まったのか……?」

 

 握りしめていた左手をゆっくりと放して鏡を見ると、さっきまで体全体に浮かんでいた時計模様は綺麗さっぱり消えており、ペタペタと自分の素肌や胸を触ってみても特に何もなかった。

 

「ほっ、良かった~。一時はどうなることかと思ったぜ」

 

 そう安心するのも束の間、私はすぐに異変に気付く。

 

(痛みはなくなったけど、なんだかおかしい……)

 

 体の奥底から滾るような力を感じ、私の意識、というか精神のようなものが変わり、なにかスイッチのようなものが入った気がするのだ。

 形にできない感覚がなんなのかを探るため、自分の意識の奥底へと瞑想していくと、次第に思考が形と成っていき、その一部が数字として脳内に表面化していった。

 

(?)

 

 その数字は左から順番に『A.D.200X/07/30 11:21:49』と表示されており、こうしてじっとしてる間にも、コロンで区切られた右端の二桁の数字はどんどんとカウントアップされている。

 

(これは……もしかして西暦と日時を表しているのか?)

 

 A.D.というラテン文字に左端の4ケタの数字、スラッシュで区切られた2桁の数字2つが、まさに〝今日″を表しているので、これはきっと偶然ではないだろう。

 残りの数字の正確性について確かめたかったけれど、この部屋には時計がない。すぐさまヘッドセットを付けて、にとりに通信する。

 

「にとり、今ちょっと話せるか?」

「ふわぁ~なんだい?」

「今何時何分か分かるか?」

 

 現在、私の頭の中では『A.D.200X/07/30 11:23:05』と表示されているが、果たして。

 

「えっとね~今の時刻は午前11時23分だよ。月に着くにはまだまだ時間が掛かりそうだね~」

「! ありがとう、にとり」

 

 私はお礼を言ってヘッドセットを外す。

 にとりの言った時刻と、私の頭の中に浮かび上がる時間は、ぴったりと一致していた。

 

(間違いない。A.D.は西暦を表すラテン語Anno Dominiの略称で、他の数字は今の年月日と時刻を表しているんだ!) 

 

 原理はさっぱり不明だが、これもあの時計模様の力の影響なのかもしれない。

 

(ってことはだ。今が11時23分なら幻想郷の時間は……)

 

 9時間ズレているので計算しようとした瞬間、頭の中に浮かび上がる数字が変化し、『A.D.200X/07/30 20:24:01』となった。

 

(そんな、勝手に変化するなんて)

 

 すぐに現在時刻を強く念じると、『A.D.200X/07/30 11:24:15』と元に戻った。

 どうやらこの【頭の中の時計】は、私が望む時間へと勝手に切り替わってくれるらしい。

 便利だなぁ、と思う反面で、どんな原理で今の時間を表示しているのだろう? と考えると、何だか怖くなってしまった。

 

「ん、これは……?」

 

 続けて私は、鏡に映る自分の顔に何か違和感を覚え、顔を近づけた。

 

「……歯車?」

 

 左眼はなんともないのだけれど、右眼の虹彩部分に黒色の歯車の形をした模様が金瞳を囲むように浮かび上がっており、それは明らかに異質だった。

 すぐに片目ずつ交互に手で塞ぎながら周囲を見回したが、どちらの目で見ても同じ景色が見えるので、見え方が変わったってわけじゃなさそうだ。

 ならこの紋章のような模様は一体なんなんだろう?

 

(試しに、ちょっと意識を集中してみようかな)

 

 先ほどはイメージとして体の中心部分へ意識を集中させていたが、今度は右眼に向けて意識を集中させていく。

 すると、視界がだんだんとぼやけて真っ暗になっていき、目の前の鏡ではなく別の場所が映り始めた。

 

「ここは……どこなんだ?」

 

 そこは真っ暗で、どこが上か下かもわからない不思議な空間、白い塊のようなものが幾つか転がっているようだが、ぼんやりとしていてつかめない。

 

(もっと意識を集中させないと)

 

 やがてカメラのピントが合っていくように、光景が鮮明になったところでその場所の正体を掴んだ。

 

「これはっ……!」

 

 そこは数時間前に迷い込んだ多種多様の時計が浮かぶ謎の空間に非常によく似た場所で、地面には人間のモノと思われる骸骨が何個か転がっていた。

 

「ひぃっ!」

 

 怖くなってしまった私はすぐに普段と同じように意識を戻すと、ちゃんと自分の顔が映っていた。

 

「今のはいったい……」

 

 しかも右眼に浮かび上がっていた紋章のような模様はいつの間にか消えて、元の金瞳に戻っていた。

 

「???」

 

 立て続けに起きた謎が謎を呼ぶ展開に、私の頭の中はクエスチョンマークで一杯になっていた。

 他にも何かが変化したような気もするんだけど、あくまで〝気がする″だけなので、確実に〝そうだ″と断言できない。

 しばらくその場で考えこんでいたけれど、情報が少なすぎて結論が出なかった。

 

「……考えても仕方ない。まあとにかく収まってよかったということで、取り敢えずシャワー浴びようかな」

 

 いつまでも素っ裸でいると寒いし。

 まあそのうち何とかなるだろう――そんな風に気持ちを切り替え、入浴の準備を進めることにした。

 私は身に付けている髪留めを外して、籠に仕舞い、ついでに宙に浮かびっぱなしの下着も一緒に戻した。

 

「入浴道具はどこかな?」

 

 キッチンの設備を見る限りでは、それらも用意されている可能性が高いと思い、部屋の中をくまなく探し回る。

 

「おっこれかな?」

 

 やがてタオルや石鹸などの入浴に使う道具が足元の箱の中に入っていたのを見つけ、適当な量を取ってシャワー室の扉を開けた。


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