魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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第67話 にとりの夢

 着替えを終えて、いつものようにビシッと決めて更衣室を出た私は、にとりの様子を見るためにコックピットへと向かうことにした。

 その途中で睡眠スペースを通ったが、ベッドからは静かな寝息が聞こえるのみで何の反応もなく、熟睡しているようだった。

 やがてコックピット前の扉を開いた私は、先程の反省を踏まえ、魔法で自分の体を制御しながら綺麗に入室した。……妹紅のようにあんなアクロバティックな着地は私にはできないし。

 自動でドアが閉まると同時に、にとりが口を開いた。

 

「どうしたの~魔理沙? なんか石鹼の香りがするけど、もしかしてシャワー浴びてた?」

「ああ、まあな」

 

 にとりは椅子の背もたれを倒し、くつろいでいるようだった。

 

「この宇宙飛行機について幾つか質問があるんだけどさ、今時間あるか?」

 

 するとにとりは椅子の背もたれを起こし、「うんうん、いいよ! 何でも聞いてちょうだい!」と口にしたので、私はにとりの隣の座席に座った。

 

「じゃあまず一つ目の質問なんだけどさ、この宇宙飛行機は私が依頼したって言ってたけど、当時のことについて詳しく聞かせてくれないか?」

「ん? ってことはもしかして、今のあんたは私に依頼をしてきた魔理沙よりも昔の魔理沙なのかい?」

 

 私は頷く。

 

「ふ~んなるほどねぇ。な~んか話が噛み合わないと思ってたけど、そういう意味だったのかぁ。見た目は全く同じなのにねぇ」

 

 ジロジロと頭のてっぺんからつま先まで私の姿を見つめたのちに、彼女はさらに言葉を続けていく。

 

「当時のことを詳しくと言われてもねぇ、出発前に話した通り20年前――いや、この時間だと130年後か。213X年4月11日の昼過ぎに、魔理沙が私の家を訪ねて来て宇宙飛行機の制作を依頼してきた。ただそれだけのことだよ」

「こういっちゃなんだが、なんでその依頼を受けようと思ったんだ?」

「月の技術は幻想郷よりだいぶ進んでるって話を聞いていたから、一度行ってみたいと思っていたし、何より魔理沙が持って来た宇宙飛行機の設計図は、私の技術者魂に火を付けるくらい魅力的だったのさ」

「へぇ。その設計図がどこから手に入れたか、その私から聞いてないか?」

「い~や全然。そんな細かいことが気にならないくらいに私は設計図に夢中になっていたから、魔理沙がいつの間にかいなくなっていたことすら気が付かなかったよ」

 

(うーむ、入手経路は不明か……)

 

 にとりに設計図を渡した〝私″が、今の私の延長線上にある〝私″ならば、私もいずれ設計図を手に入れて213X年に戻ってにとりに依頼をしないといけないのだろう。

 現時点ではそんな伝手は全くないのだが、いずれ手に入る機会があるのだろうか?

 

「そこまで断言されると見てみたくなるなあ」

 

 ダメ元でそう呟いてみた所、驚くべき答えが返って来た。

 

「今は手元にないけど、地球に戻ったら見せてあげるよ」

「え、本当に!?」

「別に減るもんじゃないしね」

 

(これはチャンスかもしれないな)

 

 にとりを興奮させたというその設計図を見れば、何か手がかりが掴めるかもしれない。

 

「他には何か質問あるかい?」

「この宇宙飛行機を建造する時紫に手伝ってもらったって言ってたけど、その辺はどうやって?」

「まあ最初の一年は幻想郷でも集まる素材ばかりで造れていったんだけどね、どうしても手に入らない物があって悩んでいた時に、たまたま八雲紫さんに出会ってね、『最近幻想郷中を歩き回って沢山の物を集めているようだけど、何を企んでいるのかしら?』って聞かれたんだよ」 

「なんて答えたんだ?」

「『私は今ロケットを作っていてね、月の都に行って技術を盗んでみたい』って言ったらね、『あなたの持つ発明品を幾つか渡してくれれば、あなたが望む物を手に入れて差し上げましょう』と言って快く了承してくれたよ」

「紫がそんな簡単に……」

 

 私のイメージ的に紫はそう単純に協力とかしない印象があるのだが、どうやらそれは違ったみたいだった。

 

「今はまだ技術的な問題が山積みなんだけどね、いずれ超光速航行を実現させて、宇宙の果てまで行ってみたいなぁって思ってるんだよ」

「超光速航行?」

「光の速さを越えて移動することさ。この宇宙飛行機はマッハ100が限界だけど、光は秒速およそ30万キロ、マッハで言うとおよそ874030もの速度を出してるんだ」

「そんなに光って速いのかぁ、途方もないな」

「うん。でもそれだけじゃなくてね、この宇宙は誕生して138億年とも言われているんだ。つまり、光の速さで移動できたとしても果てに行くのに138億年掛かる計算になっちゃってね、それを解決できるのが超光速航行なんだよ!」

「へぇ、叶うと良いな」

 

 熱弁を振るうにとりには申し訳ないが、私はあまり科学について詳しくないし興味もないので、どうしても反応が淡白になってしまう。

 また同じ話をされても困るので、私は話題を変えることにした。

 

「ところで話変わるけどさ、キッチンにあった大量の食料や調理器具はどこから?」

「答えは簡単。無縁塚に流れ着いた外の世界の物を参考に私がリメイクしたのさ。食材とかも全部私が人里で買って用意したし、別に変なところはないよ?」

「それにしてはずいぶんと準備が良くないか?」

 

 にとりの主観から考えてみれば、昨日私と出会い、その翌日に私が訪ねてきたのだ。

 たった一日で水や食料その他諸々を用意する時間があったとは思えない。

 

「私の家ではね、私が造った電化製品テストも兼ねて常に沢山の実験を行っていてね。あの食材はその一環なんだ」

「実験? まさか変な物が入ってたりしてないよな?」

「とんでもない! あれはフリーズドライっていう、外の世界でも幅広く使われている冷凍技術を使って凍らせた食品なんだ。あの冷凍庫に入ってる食材は半年前に買った物ばかりだけど、事前にちゃんと試食して安全性に問題がないことを確かめてあるから大丈夫だよ」

「半年前!? は~すっごいなぁ」

 

 にとりの技術力の高さには驚かされてばかりだ。

 もしかしたら彼女の自宅は、小さな工場になっているのかもしれない。

 

「他には何かあるかい?」

「うん、まあ今気になっているのはこのくらいかな」

「分かったよ。――そうだ! あのさ、私ちょっとお腹減っちゃってさご飯食べたいんだ。少しの間ここにいてくれるかい?」  

「別に構わないけど私は素人だぜ? 操縦なんてできないぞ?」

「今はエンジンを切って慣性飛行してるから何もしなくてもいいよ。ただ、このコックピットの上に付いてるランプが赤色になったら私を呼んでくれればいいからさ」

「ああ、分かった」

「それじゃよろしくね~! さ、ご飯ご飯~♪」

 

 そう言ってにとりは、鼻歌を口ずさみながら扉の外へと出て行った。


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