――side out――
月に向かう宇宙飛行機内で、時間旅行者霧雨魔理沙がベッドで仮眠を取る事を決めた同時刻。
場所はアメリカ合衆国テキサス州ヒューストンにあるジョンソン宇宙センター。
ここではNASAの管制センターとして、アメリカ合衆国の全ての無人・有人宇宙飛行を統制・監視し、国際宇宙ステーション上で実施されるアメリカの様々な活動の指揮を執っている。
そんな施設内部の奥深くにある、とある会議室。
そこには2人の男が座り、彼らの視線は会議室の壁一杯に設置された巨大なスクリーンに写る、とある宇宙船に向けられていた。
「これが報告にあった、例の宇宙船かね?」
正面に座る男に問いかけるスーツ姿の50代男性。
スキンヘッドが目立つ彼の名はジョン・パウエル。アメリカ合衆国国防長官を務める元軍人だ。
「はい、間違いありません」
畏まった態度で答える、同じくスーツ姿の40代のメガネ男。
彼の名はラッツ・ウィルソン。とある高名な大学を卒業し、現在ジョンソン宇宙センターの行政官――最高責任者――を務めている。
「この国籍不明の宇宙船は宇宙時間本日午前8時ちょうどに、ISSからおよそ5㎞離れた場所に突如として出現しました」
「ふむ……」
ラッツ・ウィルソンの説明を聞きながらジョン・パウエルは唸るように、スクリーンを見つめていた。
スクリーンには、太平洋上高度400㎞付近、熱圏に宇宙飛行機が何もない場所から忽然と現れる瞬間が繰り返し映し出されていた。
「解せんな。何故この宇宙船は何もない場所から現れている?」
「それが我々にも分かっていません。出現地点の座標から推測するに、一番近い国は日本です。なので在日米軍に連絡をとってみたのですが、ここ最近種子島宇宙センターからロケットが発射された事実はないとのことです」
「ほう……」
「この宇宙船に向けて、ISSの外でミッションを行なっていたダニエル宇宙飛行士が手を振りましたが反応はありませんでした」
「では無人の宇宙船ということかね?」
「それが、ISS内のロシア人宇宙飛行士ユーズが通信を試みた所いきなり切断されてしまい、月の方角へと進んでいきました。中に誰か人が乗っているのはまず間違いないでしょう」
ラッツは手に持っていたリモコンを操作し、映像のリピートモードを止めて通常再生させた。すると場面が飛び、宇宙飛行機が地球の外気圏近くで静止する映像へと切り替わる。
そして画面の端にダニエル飛行士の手が映った直後、その宇宙飛行機のエンジンが火を噴き、月へ向かって高速飛行していった。
「これは――! なんということだ、信じられん」
映像を見たジョン・パウエルは、現代の相対性理論では明らかに説明が出来ない挙動に驚愕していた。
「実際にISS内の宇宙飛行士たちも『まるでSF映画に出てくる宇宙船のようだ』と、興奮気味に語っておりました」
「他に何か情報はないのか?」
「映像分析によると、あのエンジンは少なくともマッハ80近くの出力が出るそうで、これは我が国――いえ、下手すればこの地球上に存在しうる有人飛行ロケットの性能を遥かに超えていると思われます」
『さらにですね』と補足し、ラッツ・ウィルソンは言葉を続ける。
「この宇宙船周囲の光がねじ曲がってみえることから、船内では完璧な重力制御がなされていると思われます。他にも未知のテクノロジーが散見されていまして、まさに現代のオーパーツと言っても良いでしょう」
「我が国ですら重力制御には手こずっているというのに、まさか日本はもう開発に成功しているというのか?」
「もしくは、【宇宙人】なんて可能性もありますけどね」
冗談交じりに話したラッツ・ウィルソンを、ジョン・パウエルは咎めなかった。
「……否定は出来んな。アポロ計画の際、我が国は世界で初めて月面へ人を送り込む事に成功した。しかし、月の裏側の調査は何度試みても不可解な出来事が頻発し、足を踏み入れることができなかった……。私は月の裏側に宇宙人がいるのを否定できんよ」
『最も、これは公に話したら狂人扱いされるがな』とジョン・パウエルは付け加え、ラッツ・ウィルソンは苦笑していた。
「とにかくこの宇宙船の動向を注意深く見守る必要がありそうだな。今どの位置にいるのか把握できているのか?」
「それがですね、地球から5万km程離れた時点で、対象を見失ってしまいました」
「原因は?」
「不明です。現在NASAの総力をあげてこの宇宙船の行方を追っています」
「ウィルソンよ、この宇宙船に関する情報は最重要国家機密として扱う。マスコミの取材があっても上手く誤魔化すのだぞ」
「承知しました」
その後も二人は情報交換を続け、話は4時間にも亘って続いていった。
※この話に出て来た人物はフィクションです。