完結できるよう精いっぱい頑張ります。
投稿が遅くなって申し訳ありませんでした。
「失礼します。綿月様、少し宜しいでしょうか?」
「どうぞ」
豊姫の言葉で入り口の扉が開く。
現れたのは、目つきが悪く何となく素行が悪そうに感じる一匹の玉兎だった。
彼は私達の姿に一瞬驚いていたが、すぐに表情を戻し、綿月姉妹へと歩み寄って行った。
「どうしたの?」
「月の中枢の立ち入り禁止区域に潜り込んでいた〝スパイ″と思しき人物を捕らえたので、そのご報告と処遇について伺いに参りました」
ソファーに座ったままの綿月姉妹に向けて、敬礼しながら淡々と報告していく素行の悪そうな玉兎。
それを横で聞く私は(スパイ? ……まさかにとりじゃないだろうな?)と、不安が募る。
思えばにとりが一人で忍び込んでから既に1時間以上も経っている。時系列的には捕まっていてもおかしくない時間だ。
「あらあら、侵入者だなんて。一体どこから入り込んだのかしら」
「その者は今ここにいるのですか?」
「ええ。連れてきていますよ。――ほら、こっちに来い!」
「う、うぅ……」
その玉兎が入り口に向かって怒鳴りつけると、もう一人の玉兎に押し出されるように、よく見知った人物が扉の中に入って来た。
「にとり!」
「ま、魔理沙ぁ……助けてぇ~……!」
私の悪い予感は見事に当たってしまい、思わず額に手を当ててしまった。
後ろ手に縛られ、険しい目つきの玉兎に現在進行形で銃を突きつけられている彼女は、青ざめた表情でブルブルと震えており、恐怖におののいていた。
「……知り合いですか?」
私の反応に気が付いたのか、依姫は怪訝な表情で問いかけて来たので、彼女のことを紹介する。
「ああ、彼女は河城にとりって言ってな。外に宇宙飛行機あるだろ? あれはにとりが造った物でさ、彼女の運転で私と妹紅はここまで来れたんだ」
「なるほど、そうだったのですね」
「豊姫様、依姫様、この者は如何なされますか? ご命令とあればすぐにでも〝処分″いたしますが」
素行が悪そうな玉兎の言葉の直後、険しい目つきの玉兎は、銃の後ろについてる尖がっている部分――あれは撃鉄だっけか?――を引く。
ガチンという鉄がぶつかったような音と共に、にとりの後頭部に銃を押し当て、引き金に指を掛けており、彼の風貌も相まって、脅しではなく本気でやりかねない。
するとにとりは顔面蒼白になり、涙ながらに命乞いを始める。
「ゆ、許して……、も、もうしないから……! 命だけは助けて……!」
それに続けて私も「ほ、ほら、にとりも深く反省してるみたいだしさ、許してやってくれよ。な?」と、フォローする。
依姫は顎に手を当てながらにとりをじっと睨みつけ、考え込んでいたが、おもむろに立ち上がると、にとりの目の前で見せつけるように刀を抜いた。
「ひいっ!」
「お、おい!」
にとりの小さな悲鳴、私の制止する声、驚きの表情で見つめる妹紅、傍観する豊姫。
様々な視線が依姫に注目する中、気迫あふれる表情で「二度とこんなことをしないと誓えますか?」と、普段よりも若干低めのトーンで問いかける。
「ち、誓います! 誓うから許してぇぇぇ……!」
にとりは大粒の涙を流しながらひたすら頭を下げており、心から反省しているように見える。
「……いいでしょう。次はありませんからね。――解放してあげなさい」
依姫の指示に玉兎たちはすぐに離れ、懐から取り出したナイフで、後ろ手に縛ったロープを切った。
極度の緊張感から解放されたにとりはその場にへたり込み、「こ、怖かったよ~……」と、鼻をすすりながら泣いていた。
「だ、大丈夫か? てかなんでバレたんだよ?」
「光学迷彩で機械の目から姿は隠せても、匂いや体温までは誤魔化せなかったんだ……。トホホ」
「あ~……それは災難だったな」
妹紅がすぐさま近寄って行きにとりを宥めている一方で、依姫が二匹の玉兎に向けて声を潜めながらいったこの言葉を、私は聞き逃さなかった。
「ふふ、ここまで怖がってくれるのなら、脅しをかけた意味があるというものです。貴方たち、名演技でしたよ」
「依姫様こそ素晴らしい演技でした」
「この日のためにいっぱい練習した甲斐があったものです」
どうやら依姫は最初から本気で殺すつもりはなかったらしく、少し強面な玉兎たちも巻き込んだ演技だったようだ。
あまりに気迫のこもった演技に私もすっかりと騙されてしまい、なんだかちょっと悔しい。
その後一言二言何か言葉を交わした後に玉兎たちは退室し、依姫は再び私に向き直る。
「今玉兎達に宇宙服の用意をするよう指示を出しておきました。その準備が終わるまでしばらく休んでいくといいでしょう」
「サンキュな」
「それでは私はこれで」
「また後でね~」
依姫と豊姫は退室し、客室に私・妹紅・にとりの3人だけが残された。
未だ涙目になっているにとりを慰めつつ、私はこれまでの流れを説明し、「39億年前の地球に戻りたいから協力してくれるか?」と訊ねた所、「あの人達の頼みってのは少し気に入らないけど、面白そうだからOK!」と了承してくれた。
その後も適当に雑談しながら時間を潰していると、「準備が出来ました」と玉兎が呼びに来たので、私達は宇宙飛行機へと向かった。