魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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現在の話から3章の完了まで整合性が取れることをプロット上で確認できました。
後はひたすら続きを書くことだけなので、完結に向けて頑張っていきます。





第77話 未知との遭遇

「ちょっと待って! 何かこっちに物凄いスピードで近づいて来てる!」

「何かってなんなのさ?」

「どうせただの隕石じゃないのー?」

 

 いや、隕石ってだけでも結構大事な気もするが。

 

「隕石じゃないよ! 人工物だよ!」

「ええっ!? そんなの有り得ないだろ!」

 

 今は紀元前39億年、人間どころか虫一匹地上にいない世界なのだ。その時代に人工物とはこれいかに。

 

「と、とにかく、すぐ近くに落ちてくるよ!」

 

 急いで外に出て空を見上げてみると、高速の飛翔体が雲をふかし、放物線を描くように落下していくのが見えた。

 それは頭上の遥か高い場所を飛んでいき、唸るような轟音をあげながらすぐ近くの大地に墜落。辺り一帯に砂埃が舞い上がった。

 

「なんだなんだ!?」

 

 やがて砂埃が晴れると、そこには銀色の鋼鉄の塊が大地を抉り取るように深々と突き刺さっていた。

 周囲には新たなクレーターが発生しており、その墜落の衝撃を物語っていたが、そんなことよりも。

 

「え、えっ? なにあれ? もしかして、宇宙船?」

 

 その鋼鉄の塊は宇宙飛行機の半分くらいの大きさで翼がなく、円盤のような洗練されたデザインだった。

 こんな精巧なデザインの物体が自然に生えてくるとは思えないので、何者かが制作した――と考えるべき。

 しかし繰り返しになるが、今は紀元前39億年、人っ子一人いない世界だ。地球の大陸の形や外の気温、そして時々落ちてきている隕石がそれを証明している。

 それはつまり――。

 

「ま、まさか中に宇宙人がいるのか……?」

 

 妹紅は息を呑んだ。

 確かにこの広い宇宙なら、地球や月以外にも知的生命体――つまり宇宙人なんてものがいてもおかしくはない。

 だが、それはあまりにも非現実的すぎて、まだ私以外の時間旅行者が宇宙船に乗って現れた――と考える方が現実的だ。

 しかしどっちにしても、この状況は異常すぎる。

 

「ど、どうしよう魔理沙?」

「どうするって何がだ?」

「察しが悪いな! あの宇宙船っぽいものを確認するかってことだよ!」

「ええ!? いやでも、もし下手に触れることで後世への影響が起こったら……」

「でもあれを放っておいていいのか? もし本当に宇宙人とかだったらやばいだろ。時代が時代だし」

 

 その時、墜落してきた謎の人工物から警報音が発せられた。

 

「「!」」

 

 会話を切り上げてすぐそちらへ注目し、何が起きてもいいように警戒する。

 

「ねえ、なんか警報音が鳴ってない!?」

「にとり、いつでも逃げられるように準備をしておいてくれ」

「わ、分かった!」

 

 すぐに宇宙飛行機に搭乗できるように謎の人工物から距離を取りつつ、注視を続ける。

 緊張感が漂う中、やがてスモークと共にハッチが開かれる。現れたのは意外にも一人の少女だった。

 

「女の子……?」

 

 その少女の見た目は10代後半くらい、赤髪赤目のボブカットヘアで目鼻立ちが良く、可憐な顔立ちで、作業服のような恰好をしていた。

 少女は不安げな表情で周囲をキョロキョロと見回していたが、遠巻きに眺めていた私と目が合うと、一瞬驚いた表情をしつつすぐさまこっちに向かって駆けて来た。

 

「あ。こっちに来た!」

「どうしよう。逃げた方がいいのかな」

 

 戸惑ってる間にも距離を詰めて来た彼女は、私達に向かって話しかけて来た。

 

「〇△××〇△◇◆〇×◇◆×〇△×」

 

 彼女は身振り手振りを交えつつ懸命に訴えているが、どこの言語ともつかない言葉なので、全く理解できない。

 

(何を話しているのかさっぱり分からないぞ……)

 

 そんな私の気持ちが伝わったのか、彼女は一度宇宙船に引き返した後すぐに戻って来た。

 彼女の片耳にはイヤホンがはめられていて、そのコードは右手に持つ箱のような機械へと繋がれている。

 

「あ、あのっ。これであたしの言葉がわかりますか?」

「お、おう。はっきりと伝わっているぞ」

「ほっ良かったぁ」

 

 彼女が持つ箱のような機械にはスピーカーが付いていて、彼女が発する可憐な声と全く同じ声質のネイティブな日本語が同時に聞こえてくる。

 仕組みはさっぱり分からないが、多分翻訳機みたいなものだろう。

 

「あたし、アンナと言います。失礼ですけど、貴女達はこの星に住んでらっしゃる方ですか?」

「そうだけど……」

 

 厳密に言うと今の時間ではなくはるか遠い未来になるけど、間違いではない。

 

「あたしは惑星探査員としてこの銀河系を調査していたのですが、この惑星を通りかかった際に突然エンジンが故障してしまい、この星に落ちてきてしまいました」

 

 アンナと名乗った少女はチラッと後ろの宇宙飛行機に視線を向け。

 

「どうか近くのコロニーまで案内してもらえませんか? このままでは母星に帰れないんです……」

 

 すがるような目で手を組んでお願いをしてきたが、それよりも訊ねたい事があった。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれないか。幾つか質問させてくれ」

「?」

「その口ぶり、もしかしてアンナは宇宙人なのか?」

「はいそうですよー。ここからおよそ一億光年離れた場所にあるプロッチェン銀河のネロン星系、その中のアプト星から来ました」

「!」

「ヤバイよ。まさかこの時代に宇宙人が来ていたなんて……! 未知との遭遇を果たしちゃったよ」

 

 妹紅は興奮半分戸惑い半分といった感じの反応を見せており、かくいう私も雷に打たれたかのような衝撃を受ける。

 

(宇宙人は実在していたのか……!)

 

 私的に宇宙人といえばグレイのような奇形の姿や、頭から触角が生えた動物みたいなのを想像していたが、彼女の容姿は地球人だと言われても何ら違和感がないので、良い意味で裏切られた形となる。

 しかも彼女は一億光年離れた惑星からやってきたと言う。

 それはつまり、にとりが話していた超高速航行――光よりも速く飛ぶ方法を確立していることになり、アンナの星は現代よりも科学力が高いのだろう。

 

「ねえ、魔理沙! 今彼女、一億光年先から来たって言った!? 言ったよね!?」

 

 私と同じような事を思ったのか、耳元のスピーカーからにとりの通信が入って来る。

 

「ちょ、にとり。私が話してるんだから、引っ込んでいてくれ」 

「えー! だってさ、私が欲している知識の結晶が目の前にあるかもしれないんだよ!?」

「ちゃんと後で話す機会を設けるから、とにかく静かにしてくれ」

 

 その後もスピーカーの向こう側から不満げな声が聞こえてきたが、敢えて無視して目の前の少女に質問を重ねていく。

 

「惑星探査員ってなんだ?」

「未知の惑星の調査を行う仕事に就いた人の事を言います。惑星の環境・生物の有無・文明の発展度合いなど多岐に渡って調査するのですよー」

「何の目的で?」

「この広い広い宇宙全てを知り、航海図を作る事です。そしてもし文明レベルが高い星があれば、その星の方々と交流を深めて互いに発展していき、宇宙に平和をもたらす――そんな崇高な目的で動いています!」

 

 喋っていくうちにアンナの言葉に熱が籠って行き、強い使命感を持ってこの仕事に取り組んでいることが肌から伝わってくる。

 

「なのでどうかご協力お願いします。私を助けてください」

 

 アンナはペコリと頭を下げる。

 彼女の言葉や態度からは嘘は感じられず、私の目に曇りが無ければ今まで語った言葉も本心から話しているのだろう。

 しかし、そんな彼女に今から残酷な真実を告げなければならないとなると、少し気が滅入ってしまう。

 何故なら――。

 

「残念だけどね。この星には私達以外の生き物はいないんだ」

「え!? そ、それはどういう意味なんですか?」

 

 目を丸くして驚くアンナ。

 

「言葉通りさ。この星はね、大体一億年くらい前に海に原始生命が自然発生したばかりでさ、まだ地上にすら上がってきていないんだ」

 

 この星の全てを見たわけではないが、ここまで鳥一羽、虫一匹見かけてないので、多分間違いない筈。

 

「そ、そんな……とんでもない未開の星に落ちてしまうなんて……。これからどうしよう……」

 

 アンナは膝をつき、その背中には悲壮感が漂っていたが、やがて首を傾げつつ立ち上がる。

 

「あれ? で、でもそれならえっと、あなた達はいったい? さっきこの星の住人だと仰ってましたよね?」

 

 私と妹紅を交互に見ながら不思議そうな表情をするアンナ。

 

「どうする? 素性を明かすのか?」

「そうだな。このまま置いてけぼりにするのは可哀想だし」

 

 妹紅と軽く相談して素性を明かすことに決めた私は、意を決して口を開いた。

 

「私達は39億年後の未来からここに来ているんだ。ちょっとこの時代に用事があってね」

「私はただの付き添いだけどね」

 

 原初の石や月の民に関する説明は面倒なので省く。

 

「ひょえぇぇぇ! 貴女が伝説のタイムトラベラーさんなんですか!? 凄い、凄いですよっ! まさかこんな辺境の星にいるなんてっ! 握手してください!」

 

 びっくり仰天したアンナは私の手を取りぎゅっと握りしめ、しばらくブンブンと振り回していたが。

 

「……なあにそれぇ?」

 

 彼女の激しいテンションの落差に呆気にとられ、思わず間抜けな声を出してしまう。

 すると素に帰ったアンナは手を放し、得意げな顔でこう答えた。

 

「す、すみません。一人で盛り上がってしまって。ええとですね。あたしの星では、既に研究者たちによって時間の流れがほぼ全て解明されてまして、一般人でも簡単に閲覧できるくらい情報開示レベルが低いのです」

 

 一瞬アンナの話が分からず言葉に詰まるが、頭の中で何度も反芻し、ようやく呑みこむことが出来た。

 

「……ってことはつまり、アンナの星の人達は誰でもタイムトラベルできるのか!?」

「はい」

「とんでもないな……」

 

 私が150年掛けて導き出した時間移動が、まさか39億年前に、しかも1億光年離れた星では一般常識レベルだということに、驚きよりも落胆の方が大きい。

 そんな私を差し置いて、妹紅はアンナに訊ねる。

 

「でもそれだとさ、みんながみんな好き勝手にタイムトラベルして自分の都合良く歴史を変えちゃってさ、歴史が滅茶苦茶になるんじゃないの? あ、でもやっぱりそれも並行世界理論で万事解決なのか?」

「だろうな。恐らくタイムトラベルする際に並行世界に分岐することで、タイムパラドックスは解決して――」

 

(…………あれ?)

 

 と、自分で言葉にしてから違和感に気づいた。

 


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