さて、アンナの船を修理する方向性で決まったことに異論はないが、問題が一つ。
「えっと。私にお二人の何かお手伝いできることはありますか?」
「悪いけど私に直すことは不可能だな。専門外だし」
「右に同じく」
私の時代――39億年後の未来よりも高度な科学力を持つ星から来た、いわばオーバーテクノロジーの塊を、きちんと修理する技術を持ったメカニックがいるかどうかだ。
「それなら魔理沙さん達がいた時代から、直せそうな人を連れてこれたりしませんか?」
「多分無理だろうな」
月の民に妨害されていたとはいえ、人類は西暦300X年時点になっても宇宙へ飛び立つ事すらできず、地球に引きこもっている状態なのであまり期待は出来ない。
その事実を伝えると、アンナは「……そうなんですか。この星は果てしない未来でもまだ、技術的ブレークスルーが起こってないんですね」と残念そうに呟いていた。
しかしまだ諦めるのは早い。
「私が乗って来た宇宙飛行機に『河城にとり』というエンジニアがいてさ。彼女に見てもらうのはどうだ? 何せ後ろの宇宙飛行機をたった一人で建造したし、腕前は保証するぜ」
「まあ最悪直らなかったとしても、この時代に置いてくことはしないし、安心しても良いよ」
「あの宇宙船を……!? ぜひお願いしますっ!」
頭を下げるアンナに、藁にも縋るとはまさにこの事なんだろうな、と思いつつ私は「そういうわけだからさにとり。アンナの宇宙船を見てくれないか?」と、宇宙服内の通信器に向かって呼びかける。
「すぐにいくよ! …………」
「どうした?」
快活に了承の返事をしたが、通信は切られていないので不審に思い訊ねてみる。
「さっきの話全部聞こえてたよ。魔理沙、めげないでね。私は応援してるからさ」
「……ありがとな」
そして通信は切られ、ものの5分程度で工具箱を片手にぶら下げたにとりがやって来た。もちろん、宇宙服を着るのも忘れていない。
「貴女がアンナちゃん? 私は河城にとり、よろしくね!」
「は、はいっ。よろしくお願いします!」
「それじゃ案内してもらえるかな?」
「はい!」
アンナは元気よく返事をして墜落した宇宙船の元へと歩いて行く。少しの好奇心を覚えた私と妹紅もその後に付いていく事にした。
にとりは宇宙船の底面部分でしゃがみ込み、小さな扉を開く。
「ここがエンジン部分なんですけれど……」
「どれどれ?」
にとりは隣で指差すアンナに従い、工具箱から懐中電灯を取り出して照らし出す。
(ほぉ~)
私も頭上から覗き込んでみたが、基盤のようなものにタコ足配線の如くコードが入り乱れ、やはり何がなんだかわからない。
隅から隅までエンジン部分を注意深く観察していたにとりは、やがて「アンナちゃん、このエンジンの設計図みたいなものはないかな?」と訊ねる。
「ありますあります! ちょっと待っててくださいっ!」
駆け足で宇宙船の中に入って行ったアンナは、1分も経たないうちに戻って来た。
「これです!」
右手で差し出したのは、指一本程度の小さな長方形の機械だった。
メモリースティックによく似てるなぁ、と思いながらアンナの手元を見ていると、その機械から空中に3Dホログラムの設計図が投影される。
こじんまりとした円筒状の形をして、パイプのようなモノが辺りにくっつき、各部には見たことのない言語で注釈と思しき文章が記されていた。
「ふむふむ、これは凄いね! 見た事も聞いたこともない技術が使われているよ! アンナちゃん、この文字は何て書いてあるんだい?」
「ここはですね――」
アンナは順番に読み上げていき、にとりは真剣にメモを取っていく。
「――以上です」
「なるほどね。大体構造は分かったし、二~三時間もあれば直せるかも」
「本当ですか!? ぜひ、お願いします!」
「任せてちょうだい! ヌフフ」
にとりは胸を張って答え、工具箱を広げて本格的に修理に取り掛かったので。
「にとり、私に何か手伝えることはあるか?」
「う~ん今のところ特には。何かあったら無線飛ばすからさ、魔理沙と妹紅は適当に時間潰してていいよ」
「分かった」
「アンナはここに残ってくれる? 色々と聞きたいことあるし」
「もちろんです!」
そうして、にとりは本格的に修理を始めていった。
「んじゃにとりのお言葉に甘えて、作業が終わるまで宇宙飛行機で休ませてもらおうかな」
「だな。ここにいても役に立てそうにないし」
楽しそうに作業を行いながらアンナと話すにとりを横目に見ながら、私達は宇宙飛行機に戻っていった。