――――西暦215X年9月19日午後4時――――
元の時間の妹紅達の行動を踏まえ、出発前のおよそ40分後に帰って来た私。
「――ってことがあって、今に至るわけだ」
その目論見通り、ちょうど妹紅の話が終わるタイミングに来たようだ。
「ふ~む、そんな事があったのか。魔理沙も大変だったんだな」
「依姫、豊姫……懐かしい名前を聞いたわね。今は何しているのかしら」
「異星人もそうですが、まさか大昔に亡くなった紅魔館のメイド長がそんな凄い存在だったとは。なるほどなるほど、とても面白い話ですねぇ」
……なんかいつの間にか一人増えてるし。
「あっ、ちょうど噂の魔理沙さんが帰ってきましたよ~!」
「なんでお前ここにいんの?」
私はずかずかと踏み入り、営業スマイルを貼り付けている鴉天狗――射命丸文に問いかける。
「今から大体一時間くらい前の話です。私はその頃人里で新たなネタ探しをしていました。そんな時、妖怪の山から爆発音が聞こえてきたんですよ。ええ、それはもう幻想郷中に響いてそうな物凄い音でした」
文の言葉に同意するように、慧音も「耳を塞いでても、脳に直接叩き込まれるような轟音だったな」と呟き、輝夜も静かに頷いていた。
「すぐに振り返ってみると、火を噴きながら天高く飛んでいくロケットが見えまして。私はすぐさま翼を広げて全速力で追いかけたのですが、あとちょっとで届きそうなところで、それは博麗大結界を抜けてしまったんですよ」
(え、文ってあの速度に追いつけそうだったのか!? 確か時速5000㎞以上出てた筈だぞ!?)
幻想郷最速の名は伊達じゃないな。と心の中で感心しつつ、言葉の続きを待った。
「なので仕方なく妖怪の山に降りてみたところ、このお三方を見かけましてね。それでお話を伺っていた所だったんですよ~」
「……なるほど」
よくよく考えてみれば、妖怪の山は彼女のテリトリーだし、あれだけ目立つことをしたらすぐに見つかってもおかしくない。
「いやぁ~魔理沙さんがタイムトラベラーだなんて驚きましたよ。どうしてタイムトラベラーになったんですか? 時間移動するってどんな気分なんですか? 次はどこの時間に向かうか決めてるんですか? 私も体験してみたいんですけど」
矢継ぎ早に訊ねて来る文に対し、私は簡潔に告げる。
「悪いがその質問に答えるつもりはないし、無暗に時間移動させるつもりもないぞ。諦めてくれ」
「あやや、冷たいですねぇ。……ですがまあいいです。さて、どんな記事を書きましょうかねぇ」
そう言って手帳に何やらメモ書きを始めた文に、私は待ったを掛ける。
「ちょっと待ってくれ」
「なんでしょう? もしかして気が変わって私の取材を受けてくれる気になりましたか?」
その言葉に無言で首を振りつつ、私はこう言った。
「今日聞いた話はオフレコで頼むよ」
「おや、それはまたどうして?」
「大多数の人間に知られると都合が悪いからだ。私については好き勝手に書いてくれても構わないが、時間移動関連の話――特に未来の幻想郷の結末については伏せておいてくれ。それが衆目の目に晒されたらどうなるか、聡明なお前なら分かる筈だ」
今抱えている問題が一通り片付いた時、私はこの時代の幻想郷で時間の流れるままに日々を過ごすつもりでいる。なので、私の素性については知られるのが早いか遅いかの違いでしかない。
だが過去や未来の出来事に関する話は別だ。こんな突拍子もない話を信じる人間がいるとも思えないが、この話が知れ渡ることで不信感が広がり、幻想郷の存続そのものが危ぶまれる可能性も否定できないからで。
「……何か勘違いされているようですが、今日の話について元から記事にするつもりはありませんよ?」
「えっ、そうなのか?」
「だって魔理沙さんは破滅の未来を変えるために動いているのでしょう? 私の新聞には真実しか書きませんから、そんな裏付けの取れないネタは載せるつもりはありませんよ~」
「そ、そうか」
文の性格的に拒否される事も覚悟していたのだが、すんなりと事が運んで良かった。
「そのかわり――と言っては何ですが、850年後の幻想郷で魔理沙さんに取材させてくださいね?」
「ははっ、その時は全部話してやるよ」
そうして話がひと段落付いた頃、続いて妹紅が口を開いた。
「ところで魔理沙。帰って来たって事は成功したのか?」
「ああ。跳ぶ前と後で未来が何も変わっていないし、にとりはちゃんと仕事をやり遂げてくれたんだろう」
私のすぐ近くには立派な宇宙飛行機が鎮座しており、慧音と輝夜もここにいる。歴史に狂いはなかった。
「はぁ、それにしてもにとりは20年も前からこんな物を作ってたんですねぇ。灯台下暗しとはまさにこの事です」
「?」
文はなんだかガッカリしていたが、よく意味が分からないので放っておくことにする。
「んじゃ私の用事も終わったし、改めて150年前の月に行くか。にとりは?」
「まだ家にいるんじゃない?」
「呼んでくる」
そうして自宅で休んでいたにとりを呼び出し、私達は宇宙飛行機に乗り込む。
ついでに、にとりに宇宙飛行機の設計図を貰った時について改めて訊ねたが、言葉の差はあれど彼女の語る内容は以前と全く同じだったので、やはり因果は無事に成立したようだ。
「手筈はここに来た時と同じように、博麗大結界を抜けた瞬間に時間移動するから、それでよろしく頼む」
にとりは頷き、慧音と輝夜が遠巻きに見守り、文は様々な角度からカメラのフラッシュを焚いて写真を撮っている中、宇宙飛行機は再び宇宙に向けて発射された。
そして一度目と同じく宇宙に飛び出す寸前で、私はタイムジャンプを宣言する。
「タイムジャンプ発動! 行先は西暦200X年8月1日午後2時!」