魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

91 / 313
感想をいただきましたが、稀神サグメを悪役・黒幕にする意図はありません。誤解を招く表現で申し訳ございませんでした。


第90話 兆し

(あ、そういえば149年前――この時代から見ると来年か。確かその年に月の都が襲撃される異変が起こるんだっけか)

 

 史実では霊夢達が解決する手はずになっているが、この時代に私が干渉した事でどうなるか。

 

(どうしよう、伝えた方が良いのかな)

 

 道徳的な観点からみるなら、異変が起こらないように動いた方が良いのかもしれないが、そうすることでまた新たな未来が誕生する可能性がある。

 仮にここで異変が起こらないように警告した場合、それによって生じるバタフライエフェクトはどれ程のものか。

 

(う~ん情報が足りない)

 

 何度も繰り返すことになるが、私は幻想郷に神霊が湧き上がった異変を最後に、俗世との関わりを絶って時間移動の研究に没頭していた。

 なので、来年にこの地で起こる予定となる異変の原因や首謀者、さらにどのような過程を経て霊夢が異変を解決したのか詳しい内容が分からない。

 

(こんなことになるなら輝夜からもっと詳しく聞いておくべきだったか)

 

 少し考えた末に、私は敢えて伝えない選択肢を取る事にした。まあ輝夜の態度が遠い昔の思い出話――みたいな感じだったし、無理に未来を変える必要もないだろう。

 

「どうかしましたか?」

「なんでもない。それじゃあ私達は今度こそ帰るよ。繰り返しになるけどさ、原初の石の件よろしく頼むぞ」

「分かっていますよ。サグメ様が協力してくださいますし、きちんと遂行します。これから1000年後に向かうつもりなんですか?」

「ああ。その年の5月8日に向かうつもりだ」

 

 ちなみにこの日付は、私が月に行こうと決断して西暦215X年に戻った翌日だ。

 あまりキツキツに予定を詰め過ぎると、過去や未来の自分と行動時間が被ってしまう恐れがあるので、タイムラインがややこしくならないよう、敢えて日付や時刻にゆとりを持たせるように心掛けている。

 今の所これで上手くいってるしね。

 

「1000年かぁ。そんな先の未来まで私達生きていられるかしらねぇ」

「月人の寿命は知らんが、紫は普通に生きてたしお前達も大丈夫だろ」

「あの妖怪も大概長生きなのね」

 

 そんなやり取りを交わし、綿月姉妹が見守る中私達は月を出発した。

 

 

 

 

 およそ半日に渡る月への復路を終え、私達はようやく地球と目と鼻の先くらいの距離まで帰って来た。

 

「ふう~やっと地球まで戻ってこれたか。最初は宇宙ってことでテンション上がったけど、こうも移動時間が長いと息が詰まるな」

 

 窓の外一面に広がる地球を見ながら、妹紅は疲労感を吐き出すように呟いた。 

 確かに、この閉鎖された空間に半日も閉じ込められるのは長すぎてダレる。

 

「いずれ月まで一瞬で行けるようにこの機体を改良するつもりさ。アンナの宇宙船を修理したとき、光速飛行のヒントをもらったからね」

 

 にとりはケラケラと笑いながら妹紅の呟きに答えていた。

 

「よし、それじゃさっさと大気圏突入しちゃおうか」

 

 そう言って舵を取ろうとしたにとりを私は制止する。

 

「いや待ってくれ。時間移動する場所はこの場所で頼むよ」

「え? でも西暦215X年の宇宙はスペースデブリが多すぎて、地球へ再突入するのを断念したじゃん。忘れたの?」

「前にさ、未来で柳研究所を潰し回ったって話したじゃん? その中にテラフォーミング計画があったのを思い出したんだよ」

「あ~確か地球が抱える問題が多いから別の星に移住しましょう。って計画だっけ?」

「そうそう、よく覚えてたな。それでな? 少し考えてみたんだけど、あの惨状は人間達の宇宙進出を月の民達が妨害した結果だと思うんだよ。だからさ、原初の石を渡して人間達の邪魔をしないと約束した今の歴史なら、宇宙ゴミは無くなってるかもしれない」

 

 人工衛星らしきゴミやロケットらしき残骸などが見えた事からして、西暦215X年の外の世界の文明が宇宙に飛び出す力は充分にあった筈。

 

「幻想郷は博麗大結界によって、人や物全てが外界から隔絶された陸の孤島、いわば異世界みたいなものだ。だから基本的には外の世界の歴史を変えたとしても幻想郷には全く影響が及ばず、逆に幻想郷内の歴史を変えたとしても外の世界には何も影響はない」

 

 もし影響があるとすれば、幻想郷の管理者たる八雲紫とその式神くらいだろうが、例え歴史が変わったとしても彼女のスタンス的に幻想郷の在り方を変えないだろうし、大局的に見れば何も変わらないことになる。

 

 なので未来において、外の世界の人間が幻想郷を滅ぼしてしまう歴史になってしまっているのは、完全なイレギュラーだ。

 

「だからさ、今ここで確認しておきたいんだよ。やってくれるか?」

「あ~なるほどねー。うん、分かったよ」

「ありがとな」

 

 私は呼吸を整え、いざ魔法の宣言をする。

 

「タイムジャンプ発動! 行先は西暦215X年9月20日午前3時!」

 

 

 

 ――西暦215X年9月20日午前3時(協定世界時)――

 

 

 

 幻想郷との9時間の時差を考え、幻想郷時刻で正午になるように時間移動を行った後、何か変化したかなと思いながら窓の外に視線を向けると、そこには驚くべき光景が広がっていた。

 

 窓枠一杯に広がる地球を背景にして、飛行機型やカプセル型等様々な形の宇宙船が何隻も飛んでおり、その中には『関西空港⇔火星第一空港直行便』や『(株)地球トラベル主催金星観光ツアー』と外装にペイントされた機体も飛んでいた。

 

 さらに地球の周囲――地球に非常に近い領域だから地球域とでも呼べばいいのかな?――には、宇宙船が同時に10隻くらい通れそうな巨大なリングのようなものが浮かんでおり、先程の『関西空港⇔火星第一空港直行便』と書かれた宇宙船がその中を通過した瞬間、目にも止まらぬスピードで火星のある方角に向かって飛んで行った。

 

 地球と宇宙の境界線上には、塔のような細長い建物が二基並び、四方八方からやってくる宇宙船はそこを通過して地球に突入している。更に衛星軌道上に大量に溜まっていた宇宙ゴミは綺麗さっぱりなくなっていた。

 

 地球域がどれだけ変わっても、緑と水が豊富な生命の星、地球は200X年と変わらず存在していた。

 

「随分と見違えたな。地球の周囲を宇宙船が飛び交うなんてまさにSF映画の世界じゃないか」

 

 窓に身を乗り出しながら、妹紅は感心したように呟き。

 

「あのリングはなんだろう? さっきバビューンって飛んで行ったし、加速装置みたいなものなのかな」

 

 にとりは宇宙に浮かぶリングのようなモノを冷静に分析。

 

「こうして宇宙進出に成功してるってことは、綿月姉妹はちゃんと約束を守ってくれたってことなんだろうな」

 

 私は遠くに浮かぶ月を見ながら誰にともなく呟いた。

 

 西暦215X年の今、間違いなく現在は変化したわけだし、きっと西暦300X年になればさらに様変わりしているのだろう。長い長い旅もようやく終わりが見えてきた。

 

「よし、それじゃ幻想郷に戻ろうか。にとり、よろしく頼む」

「分かった」 

 

 にとりは舵を取り、宇宙飛行機は地球に向けて発進して行った。

 

 

 

 

 時刻は西暦215X年9月20日午後0時20分。博麗大結界を通過した宇宙飛行機は幻想郷上空を滞空している。

 眼下には残暑の日差しに照らし出された鮮明な緑が広がっている。宇宙では過去が変わったことで多くの宇宙船が行き交っていたけれど、幻想郷は普段通り、科学から――文明から取り残された雄大な景色が残されていた。

 

「うんうん。やっぱこの景色は落ち着くなぁ」

 

 私は窓際に立ちながら、生まれ育った故郷を慈しむように呟いた。

 宇宙は星々が綺麗なのは認めるけれど、ず~っと夜が続くし景色も変わり映えがないしで、あまりにメリハリがなさすぎて飽きてしまう。

 

「ここから見下ろす限りでは、幻想郷は特に何も変わってなさそうだね。私の自宅もちゃんと残ってるみたいだし」

 

 操縦席に座るにとりはモニター画面のズームされた映像を観ながら呟いた後、続いて首だけ此方に向けながらさらにこう言った。

 

「それで魔理沙。再確認だけど、空を飛んでいる今の状態で西暦300X年に跳ぶんだね?」

「ああ。咲夜の忠告もあったしな」

 

 このことに関しては、月から幻想郷に戻ってくるまでの移動時間中に話し合って決めたことだ。

 

『(未来の)確認は宇宙飛行機に乗ったまま行うことをお薦めするわ』。この言葉はつまり、幻想郷を一望できる位置で時間移動すれば良い――という解釈で合っているはず。

 

「それにしても、咲夜はなんでわざわざ宇宙飛行機を指定したんだろうね? 私達は自力で空を飛べるのに」

「分からないけど、きっと意味があることなんだろう。その答えは未来で判明するはず」

「そっかー、それもそうだね。あまり考える必要はないのかも。うん。私は準備できてるから、いつでもいいよー」

 

 軽く言葉を交わして会話が終了し、にとりは再び正面を向いた。

 

「よし、それじゃ未来に跳ぶか――」

「ねえ魔理沙」

「……どうした?」

 

 これまで口数少なかった妹紅の様子の変化を感じ、いったん魔法を取り止めて彼女に向き直る。

 

「未来を変えてくれてありがとう。そして、もう会えないと思っていた人に再び会わせてくれてありがとう。魔理沙には感謝してもし尽くせない。とても楽しかった」

「なんだよ急に? 今生の別れでもあるまいし」

「もしかしたら未来に跳んだ瞬間、ここにいる私は消滅して、〝改変後の歴史の藤原妹紅″と同一化してるかもしれないから……。今の私が一個人として意思を持っているうちに伝えておこうと思って」

 

(……そういうことか)

 

 宇宙進出に成功し、未来で外の世界の人間が幻想郷に侵攻する動機が消えた歴史になったことで、妹紅が私と共に過去へ跳ぶ因果が無くなり、西暦300X年5月7日に時間移動した瞬間に妹紅は同一化する。咲夜の話が事実ならこうなる筈だ。

 

 咲夜は『繰り返す事になるけど死ぬわけじゃないのよ? 融合……一体化するって表現が近いわ』と強調していた。

 自分の自我が消えるという事実に恐怖心があってもおかしくなさそうだが、妹紅はそんな様子をおくびにも見せず、全てをやり遂げたような、充実感あふれる笑顔を浮かべている。

 とはいえ、これはあくまで私の勝手な想像でしかないので、本心では違う事を思っているのかもしれない。蓬莱人は特殊な死生観を持ってるらしいし。

 

「……私こそ、妹紅には何度も励まされたし助けられもしたよ。お礼を言うのはこっちの方だ」

 

 そう言って私が右手を差し出すと、妹紅もそれに応じるように右手を伸ばし、私達は数十秒に渡り固い握手を交わした。

 ビルの屋上から落ちそうになった時や、紀元前39億年の地球で勝手に並行世界理論と勘違いして落ち込んでいた時など、窮地や苦境に陥った時に支えてくれた彼女には本当に感謝している。

 もし私が男だったら惚れていたかもしれない――なんてことすら思ってしまうほどに。

 

「にとりも、短い間だったけど協力してくれてありがとね」

「ううん、気にしないで。また会おうね!」

「ああ!」

 

 妹紅とにとりのあっさりとしたお別れの挨拶を見届け、その頃合いを見計らって私は切り出した。

 

「――さあ、それじゃ未来に行こうか」

「うん」

 

 現在時刻は西暦215X年9月20日午後12時50分。

 私は前を向き、右手に残る彼女の温もりを振り払うかのように右腕を掲げ、腹の奥底から声を振り絞るよう高らかに宣言する。

 

「タイムジャンプ発動!」 

 

 私の中の魔力が形と成って世界を塗り替えていき、燃えたぎるように心が熱く、深くなっていく。

 正面にある電源が落ちたモニターには、光の反射によって固い表情をしたにとりの顔が映りこみ、横に目をやれば固唾を飲んで行く末を見守る妹紅の姿が。

 

「行き先は西暦300X年5月7日正午!」

 

 瞬間、正面に闇よりも暗い時空の渦が出現し、宇宙飛行機はその中に吸い込まれていった。

 

 

 

 タイムジャンプが無事に成功し、西暦215X年9月20日から西暦300X年5月7日へ時間移動する刹那。一秒が永遠に続きそうなくらいに意識が引き伸ばされた中、脳裏の奥底に不思議な場景が浮かぶ。

 四季折々の景色が瞳に映る時の回廊の真ん中で、直立不動の姿勢をとっている私。しかし意識と肉体は前へ――未来へと、見えない意思によって動かされている。

 この光景が延々と続くと思われたが、とある地点からぱったりと景色が様変わりし、光すらも飲み込んでしまいそうな深い闇になっていたのだ。……まるでその先が寸断されているかのように。

 

(!?)

 

 これが一体何を暗示しているのか。また何か新たな異変が起ころうとしているのか。そんな思考すらも時の彼方へ置いてけぼりにされてしまう現況で、私の意識と肉体は暗闇の未来へ飛び込んでいった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。