魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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これからも頑張って行きます。



第96話 アンナの謎

 ――――西暦300X年6月8日――――

 

 

 

「西暦300X年6月8日午後0時00分00秒。寸分の狂いもありませんね」

 

 時間移動が終わった直後の私に、二・三歩離れた立ち位置で声を掛けてきたのは依姫だった。彼女の視線の先には腕時計があったので、もしかしたら私達が現れる時間を計っていたのかもしれない。

 

「わざわざ待っててくれたのか、ありがとさん」

 

 次に私は部屋の中を見渡してみる。内装も家具の配置も全く同じで、見かけ上の変化は何もない。

 

「二人ともおかえり~!」

「……おかえりなさい」

「あら、相変わらず抱き着いたままなのね」

「ふふ、待っていたわ魔理沙」

「魔理沙ー!」

 

 笑顔で手を振る輝夜、そっけない態度のサグメ、淡々と事実を述べる永琳、微笑む豊姫。背もたれに身を乗り出しながら私を見るにとり。彼女達は、一月前と全く同じ場所に座っていた。

 早速私も席に移動しようとしたが、妹紅がくっついたまま離れない。

 

「もう時間移動終わったし、離れていいぞ?」

「うう~久々だからか酔ったかも。グルグルして気持ち悪い……少しだけ体貸して」

 

 弱々しい声を発しながら、私の肩にもたれかかっていた。

 

「こんなことなら目を閉じてれば良かったな……」

 

 どうも私と妹紅では時間移動する際の感覚が違うらしく、渦巻きのようにとんでもなく揺さぶられることになるらしい。宇宙飛行機ごと跳ぶ時は機体がその衝撃を分散してくれるのだが、生身のままだと衝撃がもろに体に響くせいなのかもしれない。

 

「大丈夫ですか? もし辛いようであれば医療班を呼びますが」

「少し休んでれば平気だと思う。ありがとね」

 

 心配する依姫に答えた後、私の肩を借りながら空いた席に移動し、ゆっくりと座る。

 妹紅は腕を後ろに投げ出すように完全にソファーにもたれかかり、酔っ払いのように「気持ち悪い……」と天井に向かって呟いていた。本当に大丈夫なのだろうか?

 

「ちょっと妹紅、吐いたりしないでよ~? このソファー結構高いんだから」

「しないよ! 失礼だな、もう」

 

 心配ではあるが、輝夜に元気よく返事してるのを見る限り、本人の申告通り時間が経てば回復するのかもしれない。

 なので私は本題に入る事にした。

 

「それで依姫。もう宇宙飛行機の改良は終わったのか?」

「ええ。にとりさんは素晴らしいエンジニアですね。彼女の働きのおかげで、予定よりも大幅に工期が短縮できました」

「月の技術は凄かったよ~♪ 玉兎たちも気さくな人ばかりだし、この1ヶ月はあっという間に過ぎちゃった! 私、依姫のことを誤解してたな」

「ふふ、それは良かったです」

 

 楽しそうに話すにとりと微笑む依姫の様子からして、下の名前で呼び合うくらいには、二人の関係は良好になったようだ。

 

「それでどんな風に変わったんだ?」

「光速飛行はもちろん、ワープだって出来るように進化したからね! 1億光年離れた銀河にだって、ワープすればたったの1日で到着さ!」

「へぇ、それは凄いな」

 

 イメージとしてはテレポートの強化版みたいなものだろうか。なにはともあれ移動に23年も掛からなく済みそうで良かった。

 

「もう、すぐにでも行けそうなのか?」

「表に停めてあるから、いつでも案内できるよ!」

「その前に幾つか確認をさせてください。魔理沙はこれからどのように動くつもりですか?」

「ここを経ったらまず西暦2025年6月30日に時間遡航して、太陽系の外を飛んでる人工衛星を破壊。それが終わったら地球域に戻った後、39億年前へ跳んでアンナを説得して、最後にこの時間の……そうだな、明日の正午くらいに戻ってくるつもりだ」

 

 歴史を変えるために必要な要因が複数ある場合、未来から過去へ時系列の新しい順に改変することで、一つの要因が正された場合に起こり得る余計なバタフライエフェクトを防ぐ意味がある。もし時系列が古い順に行ってしまうと、未来も多少変化することになるので、予め決まっていた原因すらも変化するかもしれないからだ。

 

「なるほど、妥当な判断だと思います。……ふむ」

 

 大きく頷き、納得したような態度を見せる依姫だったが、どこか迷っているような素振りを見せているのが気になる。

 

「……なんか言いたいことでもあるのか?」

 

 思い切ってそれを指摘してみると、彼女は意を決したように。

 

「……そうですね。先月は伝えるべきか迷っていたので伏せておきましたが、やはり話しておこうと思います。これから歴史を変えるにあたって、この情報も必要になるでしょう」

「?」

「実はアンナの死因について、腑に落ちない点があるのです」

「死因だって?」

 

 〝死″という不穏な単語が出てきた事で、私は眉をひそめる。

 

「彼女の死因が、コールドスリープの失敗によるものなのですが……」

「何それ?」

 

 コールドスリープ――日本語に意訳するなら冷凍睡眠と言った所だろうか。字面的に氷に囲まれた部屋で寝ることを指すのかな? 真夏の猛暑日をやり過ごすにはちょうど良さそうだ。

  

「生き物の肉体を極度の低温状態に保つことで細胞の分裂を止め、時間経過による成長や老化を防ぐ装置のことを言います。かつてまだ光速航法やワープ航法が未発達だった時代、宇宙空間の移動に数年・数十年と時間が掛かることがありまして、当時の異星人はこの装置を使用する事で長期間の移動をやり過ごしていました」

「へぇ~そんなものがあるのか」

 

 私の脳内では、人間丸ごと入れるような巨大な冷凍庫を思い浮かべていた。

 

「ですが、科学の成熟により1億光年先もたったの24時間で行けるようになった今、この技術は殆ど使われなくなりました」

「その言い方、もしかしてアンナが居た頃の時代には利用されていたのか?」

「ええ、当時の技術では1億光年の移動にワープを駆使して1年近く掛かっていましたので、彼女もこれを利用していたと思われます」

 

(なるほど、一口にワープと言っても、どこにでもすぐに飛べるわけじゃないのか)

 

 自分なりに納得した上で、私はさらに問いかける。

 

「つまりアンナがアプト星に戻る時にコールドスリープに失敗したってことなのか?」

「……彼女があなたの情報を母星に持ち帰ったことで、未来がこんなことになってるんですよ? それを忘れたんですか?」

「そ、そうだったな。すまんすまん」

 

 完全に早とちりしてしまった。

 

「話を戻します。銀河帝国が荒廃したアプト星を訪れた際、データベースの他に砂に埋もれた1台のコールドスリープ装置を発掘しまして、その中にアンナと思しき女性が眠っていました。これが実物の写真です」

 

 ディスプレイには、機械チックな壁が半壊して野ざらしになった部屋の中、砂だらけの床に設置された透明なガラスに覆われた円筒状の機械と、それに繋がれたタンクのようなモノが映し出されていた。

 その円筒状の機械の中には、ジャージ姿のアンナが直立不動の姿勢で眠っていて、あの時よりも身長・胸・髪が伸びており、大人びた女性になっていた。

 

「本当にアンナで間違いないのか?」

「身に着けていた所持品に身分証があったので間違いありません。残念ながらアプト文明の滅亡と共に電力供給が止まってしまったようで、冷凍睡眠状態から目覚める事はありませんでしたが」

「…………」

 

 私は改めて彼女の遺体を眺める。生前の、血色の良い艶めいた肌は見る影もなく、死人特有の青白さに変わり、地球人基準から見ても元々の容姿が良かったために、より悲壮感が漂っていた。

 

「そしてここからが重要です。コールドスリープを使用する際、起きる時間に合わせてタイマーをセットするのですが、彼女が設定した時間を西暦に換算すると【西暦215X年9月19日】になっていました」

「!!!!」

「ねえ魔理沙。それって……!」

 

 アンナが設定した日付は、私が月に向かって幻想郷を出発した日だった。

 

「私にはこれが偶然とは思えません。どういう意味を持つか分かりませんか?」

『……いつか必ず貴女に会いに行きますので、その時には笑顔の魔理沙さんを見せてくださいね?』

 

 私の手をぎゅっと握りしめたまま、優しい笑顔で気遣いの言葉を掛けてくれた場景が思い浮かび、胸が熱くなってくる。

 

(まさかあの言葉は本気だったのか……? なんてこった……)

 

 てっきり社交辞令だと思っていたのに。たいして親密になったわけでもないのに、どうしてそこまでしてくれるのか分からない。

 

「アンナちゃんが眠りに就いた理由は分からないの?」

「残念ながら39億年もの時が経ってしまっているので、当時のアプト文明の情報は殆ど残っていません。先月話した内容も、銀河帝国や連邦から盗んだ断片的な情報を繋ぎ合わせ、私たちなりの解釈を入れたものでしたから」

「そっかー……」

 

 にとりはしょんぼりとしていた。

 

「教えてくれてありがとう依姫。また一つ確かめないといけないことが出来た」

「……そうですか」

 

 こぶしを握り締める私を見て、依姫は何かを察したようでそれ以上追及してくることはなかった。

 

「アンナの写真を渡しておきます。何かの役に立ててください」

「ありがとう」

 

 私は細心の注意を払いながらポケットの中にしまいこんだ。

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