魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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第98話 太陽系の向こう側へ

 綿月姉妹の屋敷を出て都の外へ移動すると、正面に宇宙飛行機が駐機しており、数人の玉兎が周りをせわしなく動き回っていた。

 先日見かけた数多くの宇宙船は全て出払っているようで、広大な敷地に宇宙飛行機のみが残されていた。

 

「う~ん、いつ見てもおっきいわねぇ」

 

 輝夜は関心するように機体を見上げ、永琳達もそれに合わせるように宇宙飛行機に注目していた。

 機体のデザインは何も変わっていないみたいだが、二回りか三回りほど大きくなっているようで、後ろには機体を覆うように巨大なタンクのようなものが新たに取り付けられ、噴出口も倍になっていた。

 

「それじゃ私は発射の準備をしてくるから! また後でね~」

 

 そう言ってにとりは機体に乗り込んだ後、依姫が話しかけてきた。

 

「魔理沙に一つ注意点があります。もしワープを使用する際、その間の時間移動はなるべく避けてください」

「なんで?」

「ワープは空間を歪ませることで移動距離を短縮する原理なので、明後日の方向に飛ばされてしまうかもしれないからです」

「空間を歪ませる?」

「画用紙を思い浮かべてください。紙の上を端から端まで直線で向かうよりも、紙そのものを曲げて筒のようにすることで、移動距離が短縮されます。ワープも大体こんな感じです」

「あ~なるほど」

 

 依姫の出した例えは、紙を世界に見立てているのだろう。この世界は3次元なので厳密に言えば適切ではないのだが、私には分かりやすい例えだと感じた。

 まあ1億光年先まで1日で行けてしまうくらいだし、よっぽどの事がない限り大丈夫な筈。

 

「ワープ航法は宇宙全体を見渡しても未だに高度な技術であり、現在でも移動時間の短縮や移動距離の増加を目指して進歩を続けています。かつて人類が開発し、滅亡のきっかけとなったワープ航法は、これまで信じられてきた相対性理論を根底から覆す画期的な技術だったそうですよ」

 

 その言葉に、脳の奥底に仕舞い込まれた古い記憶が甦る。

 

「相対性理論か……そういえばこの時代ではもう一般的なんだよな」

「おや、もしかしてご存知なのですか?」

「昔タイムトラベルの研究をしてた時にちょっと、な」

 

 紅魔館の地下図書館には外の世界の学術書なんかも所蔵されているらしく、西暦200X年――タイムトラベルの研究を始めたばかりの頃、パチュリーに押し付けられた魔導書の中に相対性理論について記述された学術書があり、それについて学んだことがあった。

 

 しかしこの理論を用いて時間移動する場合、詳しい説明は省くがとんでもないエネルギーが必要だと分かり、幻想郷でこの方法は不可能だと断念。得意分野である魔法に傾向することを決めた記憶がある。

 

(待てよ? ってことは――いや、違うか)

 

 この宇宙飛行機はもちろん、光速航行が可能な文明は例外なく時間移動ができるんじゃないかと一瞬思ったが、すぐにその考えを振り払う。

 

 39億年前のアンナが生きていた時代のアプト星、紀元前1万年頃の銀河帝国、彼らは皆『理論や方程式が完璧であっても時間移動だけは絶対に成功しない』と口を揃えて話しており、きっと私の知らない有象無象の銀河文明も同じ結論に至っている筈。

 

 もちろん、地球より遥かに発展した科学力を持つ彼らがこの理論に気づいていない訳がない。

 

 時の回廊において、咲夜は全宇宙の時間の流れを管理していると語っていた。

 あの時はいまいち実感が湧かなかったが、これほど簡単に時間移動が行える以上、もし咲夜が介入しなければ確実に宇宙の歴史は滅茶苦茶になっていたことだろう。

 

(そう考えると、私ってとても恵まれてるのかもしれないな)

 

 時の女神様公認で歴史の介入を許されているのは、本当に凄いことなんだなと改めて実感する私だった。

 

「……どうしました?」

「いや、何でもない」

 

 彼女の眼を見ながらじっと考え事をしていたのがまずかったようだ。

 

「とにかく忠告は受け取った。そろそろ行くことにするよ。色々とありがとな依姫」

「ご武運を祈ります」

「頑張ってね、魔理沙」

「……ここであなたの成功を祈ってるわ」

「また幻想郷で会いましょう」

「現在が変わったら、貴女に会いに行くわね」

「ああ、博麗神社で待ってるぜ。輝夜」

 

 私は依姫、豊姫、サグメ、永琳、輝夜から見送りの言葉を受け、

 

「頑張ってくれよ〝私″! 失敗は許さないからな!」

「うん、任せて!」

 

、妹紅はもう一人の自分から激励されながら、宇宙飛行機に搭乗していった。

 機体の中は外から見た時よりも広く、窓も増えていたけれどそれ以外は特に変わっていないようだ。余計な装飾を避け、極力機能性を重視したシンプルな内装なので、特筆すべきことは何もない。

 

 コックピットに向かうと、鼻に付くオゾンの匂いと共にメタリックな景色が私を出迎える。相も変わらずよく分からないスイッチや何を示すのか不明な機器類が沢山あり、これらについて一々描写するのは非常に面倒なので割愛する。

 

 そんな中、私が目についたのはコックピットの中央やや左、窓の下辺りに新たに設置された謎の機械だ。モニターには384,400と表示されたアラビア数字に㎞が付き、下半分には山なりの線を描く波形グラフが表示されており、それらが現在の状況を知らせているように思える。

 

(数字が地球からどれくらい離れているかを表しているとするなら、あの波形はなんだ……?)

 

 少し気になる所ではあるが、どうせ必要になったらにとりが勝手に説明してくれるだろうし、今はそれについて質問はしない。

 

「お、やっと来たね! もう準備は出来てるよ! ささ、早く座って座って」

 

 その言葉に従い、私はにとりの後ろに、妹紅は通路を挟んだ操縦席の真横に着席してシートベルトをつける。ヘッドセットを装着しないと会話もできないくらいうるさかったエンジン音は嘘のように消えていた。

 

「それじゃ発射しまーす!」

 

 眼下で依姫たちが見上げている中、にとりは操縦席の横に設置されたレバーを引き、宇宙に向けて静かに飛び立っていった。

 

 

 

 

 月の裏側を覆う不可視の結界を抜けた先は、暗闇のカーテンに数多の星々が広がる壮大な宇宙。機体の後ろを映し出すモニターに視線をやると、月の要塞は幻のように消え去り、いちご肌のように激しく醜いクレーター跡が視界に映る。

 

 にとりは月上空で宇宙飛行機を一度停止し、座席に寄っかかるような姿勢で顔を此方に向けてきた。

 

「それで魔理沙。ボイジャー1号が漂う星間空間までどうやっていく? 光速で飛ぶなら17時間、ワープを使うなら10秒で行けるけど」

 

 コックピット上部、天井部分に埋め込まれた大きなモニターには、太陽系とそれに準じる星々のホログラムが表示されており、冥王星よりもさらに外れた地点が白く点滅していた。

 

「その二つの方法だとなにが違うんだ?」

 

 もしかしてワープに何かデメリットでもあるのだろうか。同じことを思ったのか、妹紅が続けて。

 

「ひょっとして燃料を多く使うの?」

「燃料に限らず、食料や水・空気といった宇宙航行に必要なものはどっさりと支援してもらったし、その心配はないよ」

 

 にとりは更に。

 

「あのね、ワープを使えば目的地に一瞬で着くんだけど、ワープ中は窓の外が真っ暗になっちゃうんだ。だからね、外の景色を楽しみたいなら光速航行をオススメ。土星の輪っかとか、木星の模様とかじっくり見れるよ?」

「いや、それならワープでいいよ。サクッと終わらせたいし」

 

 太陽系観光には少し興味を引かれるものの、私達を待っている人々やアンナの事を考えれば、幾ら時間を自由に飛び越えられるとはいえ、心情的にはさっさと目的を果たしたい。

 

「了解。後ねえ、依姫から聞いたんだけど、ボイジャー1号の電池が切れた詳細な時間は、西暦2025年6月30日の15時32分49秒なんだって」

「一応聞くけど、その時間はどこが基準になってるんだ?」

 

 協定世界時なのか幻想郷時間なのか、それによって跳ぶ時間も大きく変わることになる。

 

「協定世界時だよ。地球とボイジャー1号間の通信伝送の遅延もちゃんと逆算した時刻らしいから、間違いないよ」

「じゃあその2時間くらい前に跳べば平気かな。もっと前の方が良いか?」

「んーたぶん大丈夫! それじゃワープの準備を始めるね!」

「いいぜ!」

 

 にとりは上下左右に溢れているスイッチを手際よく押していく。やがてそれが10個に達した頃、急に体が軽くなるような、フワフワとした感覚が生じる。

 

「いよいよ来る……!」

「そんな大きな衝撃はこないし、もっと肩の力を抜いて、リラックスしていいんだよ~?」

「そ、そっか。うん」

 

 肩を強張らせながら座席の端を掴み、ワープの衝撃に備えていた妹紅は、アドバイス通り肩の力を抜き、落ち着いた姿勢に戻っていた。

 

「それじゃ行くよー。248億キロ先までワープ!」

 

 宣言と同時に、にとりは操縦桿の横の赤いボタンを押す。ほんの一瞬、眩暈のような感覚と共に世界が二重に重なり合い、窓の外に見えていた星空は消え、真っ暗闇に変わる。

 

 だがそれもまた些細な時間。ほんの10秒程度でこの不思議な感覚は終わり、世界は落ち着きを取り戻した。

 

「はいとうちゃーく」

「もう着いたのか」

 

 さっそく窓の外を眺めてみると、先程まで窓の面積の7割近くを占めていた月は消えて、名前も知らない有象無象の星々ばかりが輝く地点に到達していた。例のモニターを見れば24,800,000,000と膨大な数字が表示されており、確かにワープは成功しているのだろう。

 

 しかし、宇宙は全体的に暗い上に似たような景色が続くので、何がどう変わったのか、そして今の私達がどこにいるのかいまいち表現しづらい。

 

 強いて言えば近い場所に桃色に輝く星が見えるくらいだが、具体的な距離感が掴めないので、どれだけ近いのかもよく分からない。土星とか星雲みたいにもっと目立つ星があればいいのだけれど。

 

「う~ん何にもないなぁ。太陽系の外に来たわけだし、宇宙船がビュンビュン飛んでるイメージがあったんだけどなぁ」

 

 窓の外を見ながら呟く妹紅に反応したのはにとりだった。

 

「ここから30光年くらい飛んだ先にさ、燃料とか食料とか買える補給惑星があるからそこに宇宙船が集まっているんだけど、この辺は特に目立つものもないし、あんま来ないんだよね」

「ふーん、そんなもんか」

「地球滅亡の影響で火星に築かれたコロニーもすっかり廃れちゃったからねぇ。太陽系唯一の星間文明たる月の都も、外部の人間は頑なに入れようとしないし」

「……随分と詳しいんだね」

 

 たった一ヶ月離れただけでまるで別人のように宇宙情勢をペラペラ語るにとりに、妹紅は驚いているようだ。

 

「魔理沙達がいない間、宇宙情勢について散々聞かされたからね。宇宙飛行機のパイロットとして、ある程度は知識として入れておいた方がいいってことで」

「へぇ、パイロットって操縦だけじゃないんだね。覚えることが多くて大変じゃない?」

「みんなから期待されてるのは分かってるし、ぜんぜん苦にしてないよ。私は機械いじりもそうだけど、宇宙関連も好きな分野だし」

「好きこそ物の上手なれってことね」

「そういうこと!」

 

 にとりは元気よく答えていた。

 

「よし、それじゃ時間移動するぜー。タイムジャンプ発動!」

 

 私の魔力が形を成して、時の回廊にアクセスする。もはやすっかり慣れてしまったこの魔法。いつも通りの平常心で私は望む。

 

「行先は西暦2025年6月30日13時30分!」

 

 機体が大きく揺れると同時に、私達を乗せた宇宙飛行機は時空の渦に吸い込まれていき、過去に向けて飛んで行った。




ここまで読んでくれてありがとうございました。

お目汚しになるかもしれませんが、少し補足説明させていただきます。

作中に登場した相対性理論、これを中心とした伏線や歴史改変はありませんし、この理論を中心に物語が動くこともありません。(ワープが普通に行われてるので)

あくまで、魔理沙が時間移動の方法を模索していた際に、候補の一つとして調べた……というだけです。






ここから下は蛇足になります。



時間移動モノと宇宙ということで、この後書きに自分なりに相対性理論と、それによるタイムトラベルについて簡単にまとめたプロットを公開することにしました。

【本編とは全く関係ありませんが】もし興味・感心があれば読んでみてください。
(興味ない人や既に知っている方は読まなくても構いません。完全に蛇足なので)

(繰り返しますが本作では相対性理論に関する伏線・歴史の変化、時間の変化はありません)

※一部修正しました。

――――――――――


光の速さはどこにいてもどっから見ても不変。

(動く車のヘッドライトと、歩行者の懐中電灯、どちらの光の速度も全く同じ)

これを【光速不変度の法則】という



 光速に近づくほど、空間や時間が歪み、押し潰されるかのように見えてしまい、物理的な距離が縮んでしまう。

 光の進む速度が変わらないことで、その人のいる場所の主観(例えば地球と宇宙)によって時間の進み方が変わってしまい、どちらも遅く時間が経っているように感じる。
 
 距離や速度に比例して時間の進み方が変わり、互いに一秒がズレて見えてしまう。動いている宇宙船に乗ってる一秒が、宇宙船の搭乗員には一秒でも、地球の時間から見ると、一秒よりも遅くなっている。
 
 逆も同じで、地球にいる人間の一秒と、動いている宇宙船の一秒はずれてしまい、後者が遅くなってしまう。
 
 つまり宇宙船も地球も、基準となる場所が動くことで、相対的にズレてしまう。
 
 肝なのが、時間に関する絶対的な基準がなく、お互いの主観がどっちも正しいという不可思議な理論。
 
 この世界の時間と空間は重力によってゆがめられているために、光はまっすぐに進まずに曲がってしまう。
 
 なので光の速度が変化しない以上、変化するのは時間ということになる。
 
 地球から見た一光年と宇宙船から地球への一光年は同じ一光年ではない。(光の速さに近づく程、ずれが大きく生じる)


 相対性理論によるタイムトラベル。

 過去に行く方法↓
 
 この世界の空間と時間は重力によってゆがめられていて、重力が強い所(ブラックホール)に近づけば近づく程時間の速度が遅くなっていき、観測者からみると止まって見えるようになる。
この現象を【事象の地平面】という。そして事象の地平面に留まり続け、光よりも速い速度でそこから脱出できれば時間がマイナス方向へと進んでいるので、過去に行ってる事になる。
 

 秋葉を舞台にした、電子レンジを利用して過去にメールを送ることで世界線を飛び越える厨二病大学生が主人公のゲームでも使われている方法。

※ただしあくまで理論的なものなので、強い重力場での時間の遅れは確認されているが、本当に過去へ時間が進むのかの完全な実証はなされてない。


未来に進む方法↓
 

 光速に近づくにつれて時間の進みが遅くなるため地球の1秒と宇宙船の一秒がずれていく。
 光速の99%の速度を出す宇宙船に乗ると、宇宙船内の時計は静止系の約1/7の速さで進むため、宇宙旅行から帰ってくると地球上では約7倍の時間が流れている。
 つまり宇宙船に1年乗ると、地球では7年の時間が流れている。
 これが未来の世界に行く方法。(別名【ウラシマ効果】ともいう)
 
※これは現代でも実証されている。日常で使われているGPSも、相対性理論を応用して現在地情報や時刻の修正を行っている。


 


現代で光速航法が出来ない理由



光の速さでロケットを飛ばそうと試みても、光速に近づけば近づくほど、エネルギーが質量に変換されてしまい、光速を越えることが出来ず、むしろ遅くなってしまう。

(かの有名なE=mc2がまさにコレ)

エネルギーが質量に変換されてしまうのを何とかしない限り、人類は光速航法を実現できない

(ちなみに光は質量がないのでこれに当てはまらない)
 
 よって相対性理論によれば光が絶対的な速さとなり、エネルギーの等価交換の法則に則ると、SFであるようなワープが出来ない。と現時点ではなっている。


相対性理論を否定するには、(魔法という万能ワードや)重力制御、反物質、もしくは空間や既成概念すら捻じ曲げてしまう革新的な抜け道、理論が必要。




この後書きを最後まで読んでくれた人には感謝します。
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