ダイの大冒険――幸せを求める世界   作:山ノ内辰巳

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ご注意

ポプマが大前提の世界です。


新たな世界

 ポップは後ろを振り返った。

 

 払暁の刻であり、人々の姿はまだ通りにほとんど無い。ただ、朝日を受けて王城がその優美な姿を煌かせている。

 早起きをしたという事を除けば、実に見慣れた風景だった。

(ここも長かったよなぁ…)

 

 脳裏に蘇るのは三年という時間。

 

 大魔王バーンとの死闘から三年―――それはそのまま、行方不明となったダイを捜し求める三年間だった。

 その間、マァムとメルルの二人と一緒に、ポップは世界中を旅して回ったのだ。また、竜の騎士に関する事ならどんな伝承にも詳しいと豪語出来るほどには文献も読み漁った。おそらくそれは、別行動を取ったヒュンケルやラーハルトも同じだろうけれど。

 そして、定期的に皆は、ここパプニカに集まったのだ。集めた情報を交換し、整理するために。

 何よりも、『国王』という立場から、自ら捜索に加わる事が出来ないレオナを励ますために。

 

 ―――そして、ダイは還ってきた。

 

 世界中がその帰還を祝った。

 三年前よりも随分と背が伸びた親友は、その歓待に最初は戸惑っていたようだったが、すぐに素直に笑うようになった。

 

 それを見てポップはようやく安堵した。

 

 ダイが見つかり、この地上に還ってきたのは泣くほど嬉しかったが、人々の反応が気がかりだったのだ。

 ダイの事を、『世界を救った勇者』として見てくれるのかどうか。

 もしかしたら、『世界を滅ぼせる力を持った兵器』として見る者もいるかもしれないから。

 けれど、どうやら無用の心配だったらしい。

 世界はまだ、ダイを忘れてはいなかった。あの戦いの時、ゴメがその生命に代えてくれた心を失ってはいなかった。

 

(大丈夫だよな…)

 

 連日のパーティーで疲れきった親友の寝顔を思い出す。

 昨日の晩は、ようやく二人で話す事が出来た。与えられた部屋のテラスに行き、少し酔った頬を夜風で冷やしながら、アルコール抜きのジュースで乾杯した。

 

『ポップ、オレ、嬉しいよ』

 

 街の灯りを見ながら、ダイは言った。

 

『オレ、この地上を護れて、本当に良かった…!』

 

 噛み締めるような呟きだった。

 

 その後少し話して、ポップが新しい飲み物を持って部屋に帰ったら、親友はテーブルに肘を着きながら舟を漕いでいた。揺さぶっても生返事だ。

 ほどなく寝息を立て始めたダイを、ポップはベッドへと運んでやった。

 当たり前だが、親友は12歳の昔より、ずっと重くなっていた。色んな事が、ダイの3年間の不在を示し、少し切なくなる。

 ―――けれど。

 3年前よりその背はぐんと伸び、声も低くなり、体つきはもう一丁前の戦士になった弟弟子だが、それでもその寝顔はあどけなさを残す記憶の中のそれだった。

 

『…俺も嬉しいよ。お前の笑顔を確認できた』

 

 あの笑顔がある限り、大丈夫だ。それは期待でも願望でもなく―――確信。

 

 だから旅立てる。心置きなく。

 

「ポップ……やっぱりダイに…皆にもう一度会ってから行く?」

 柔らかな声が、肩越しに掛けられた。

 振り向けば、桃色の髪の女性が微笑んでいる。

「いや、ちょっと思っただけだ。ここも長かったな…ってな。行こう、マァム」

 うなずいて、けれど彼女はほんの少しだけ心配そうな顔になった。

「本当にいいの? ダイの事を一番気にかけてたのは貴方なんだし、予定を少しくらい変えたって……」

「い・い・の!」

 強く言い切って、苦笑する。マァムの優しさは有り難いが、今はそれに甘えたくはなかった。

「会って話したら、絶対に決心が揺らぐ。俺だって、自分の性格ぐらいわかってんだぜ? それに今は…」

「今は…?」

 ポップは、聞き返してくる彼女から僅かに視線をそらした。

「ポップ?」

「……何でもねぇよっ!」

 にっと笑い、ポップは駆け出した。唐突な彼の行動に「ちょっと?!」とマァムが驚いて追いかける。

 

 足が蹴るのは、舗装された道。両脇には、まだ開いていないが小奇麗な露天。

 もう数時間もすれば市がたつ。人々が行き交い、明るい声が辺りに満ちるだろう。

 それは、親友が護ったもの。そして、この国の王たる少女が懸命に立て直したもの。

(ダイのこと宜しくな…。姫さん)

 自分達は、祝福された二人を外から見守るから……支えるから。

 

 

 門の手前で立ち止まり、追いついた彼女をポップは振り返る。

「マァム」

 差し伸べた手を、マァムは一瞬驚いたように見つめて、それから少し…何故だかほんの少し頬を赤らめて、とった。

 朝の風が、彼女の柔らかな髪をふわりとなびかせる。

 愛しい、と思う。

 自分の手を取ってくれた女性だ。自分と一緒に生きたいと言ってくれた女性だ。

 そして―――自分もそう思っている。

「…行こう」

「…ええ」

 

 

 朝日に照らされて輝くのは、知らない世界。

 

(今は…お前がいるしな……)

 

 

 

 繋ぐ手のぬくもりを知った、新しい世界が広がっている。

 

 

 

 

(終)

 

 

 

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