ポプマは可愛い。初々しい熟年夫婦らしさがいい!!
※『番外編 お花見』は、ダイがまだ帰還していない捜索時にジパングに来た二人を想定して書いております。故に番外編。
『番外編 お花見』
群生する桜の木々。風が吹けば一斉に花弁が揺れて散るその様は、まるで吹雪のようだ。
「…綺麗ね」
他に言いようもなく、月並みな称賛を溜息と共にマァムは漏らした。
「ああ…」
足元に寝転がるポップが返事をした。月明かりに照らされるその頬が少し赤い。マァムは横に座ると、恋人の顔を覗き込んだ。
「お酒?」
「…社の『講』のおっさん達に振る舞われた」
それきり口を噤む。ああ…ならば今日彼が調べた文献も、ダイには繋がらないのだ。
かける言葉を探す彼女に、ポップはごろりと横を向いて背を見せた。「なあ」と小さく言う。
「このまま時間、止まらねえかな」
「え…」
「だってよ…こんなに綺麗なのに、どんどん散っちまうなんて、勿体ねえよ。…いまは、世界中が上手くいってる。先生は結婚した。おっさん達だって式に招かれたし、姫さんも立派な女王様だ」
一気に言い終えて、へへっと漏れた笑いはどこか虚しい。
「ポップ…」
「今なら…こんだけ平和なら、あいつ、安心して帰ってこれるだろ…?」
震える肩。そこには、どれだけ探しても親友が見つからないという現実に、進む事を恐れる青年がいた。
マァムは背中に声をかける。
「時間を止めたら、明日が来ないわ。―――ダイが帰ってくるかもしれない、『明日』が」
優しくも凛としたその声に、ポップはゆっくりと身体を戻した。
「…疲れてるのね。おやすみなさい、ポップ」
ひんやりした手が、腫れぼったい瞼をそっと押さえた。涙の痕を隠そうともせず、うん、と子供のように頷き、ポップは瞳を閉じる。
(……ああ…本当に、綺麗だ……)
夢に落ちる直前、最後に彼が見たのは、桜よりもなお鮮やかに艶めくマァムの髪だった。
(終)
――――――――――
『指先』
風が吹き、桜色の髪が大きくなぶられる。
「…あっ!」
小さく上がった声は、その髪の持ち主である娘のものだった。
ホットミルクを飲みながら本を読んでいた青年が顔を上げ、「どうしたんだ?」と問うと、彼女は情けなさそうにブラシを置いた。
青年の黒い瞳が、理解に細められる。
「あー…。また失敗したのか」
「……また、とか言わないでよ」
青年が苦笑する。
ほんの少しからかいも含んだその笑みに、彼女は軽く頬を膨らました。鏡の前に座ってから数分。髪をあげようと頑張っているのだが、どうにも上手くいかない。
「長めに揃えてもらったのに…」
軽く溜息をついて、娘は悔しそうに再びブラシを持ち直す。
彼女は決して不器用ではないが、如何せんその髪は街で切ってもらったばかりだった。昨日までと同じ要領で上げようとしても、何箇所かで指の隙間をすり抜けてしまい上手く仕上がらないのだ。
ぱらり ぱらり―――零れ落ちていく桜色。
「………貸してみ」
青年が本を閉じた。
分厚い魔道書がバフっと重い音を立てるのと同時に、彼は椅子から立ち上がる。そのまま彼は娘の後ろに立ち、ブラシを彼女の手の上からそっと握った。
「え? ちょ…ポップ??」
「いいから。俺がしてやるよ」
肩を軽く抑えられ、正面を向けられる。
「そんな…いいの?」
「いいの」
「……ありがと」
鏡を見れば、自分の髪を梳いてくれる彼の、白い手が映っている。
毛先まで丁寧にブラシがかけられて、一緒に彼の長い指が上下する。
その動作は、昨日プロにしてもらったそれより、ずっとゆっくりで優しい。そう思うと同時に、何故だか気恥ずかしくなって、俯きかけたが。
「マァム、動くなよ」
瞬間、制止の声がかかり、彼女はビクッと身体を震わせるにとどまった。
どんな顔をして彼がブラシを操っているのかは、角度的に襟元から上が見えず、わからない。
普段は長手袋をしている為に、ほとんど日に焼けていない白い手。その長い指が、ピンを持って髪を上げてはとめていく。
うなじに触れるか触れないかの距離で、器用にうごめく指先。
「…上手なのね」
「まぁな。俺は昔っから細かい作業が得意なんだよ――で、だんごにするんか?」
うんと答えれば、了解と短く返る。
再び青年が指を動かしだしたのを見て、娘は目を閉じた。
「よっしゃ。できたぞ」
数分後、嬉しそうな声で終了を告げられ、鏡の中の自分が思った通りの髪型になっているのを、娘は確認した。
つむじ近くの毛束にそっと触れれば、今まで自分がやっていたよりも、きっちりとまとまっている。器用なものだ。
礼を言えば、気にすんなと笑って青年は再び本を手に取った。
その白い手――
「……ねぇ、ポップ」
――それが今日は自分の髪を上げてくれた。
「ん? どした?」
読書に戻った恋人を思わず呼んで、娘は少し俯き加減に呟いた。
「………明日も、してくれない?」
思いがけない言葉だったろう。きょとんとしていた顔が、ふっと微笑んだ。
「いいぜ。俺の手なんかで良ければな」
いつでも使ってくれよ、と彼は笑った。
「ありがとう…!」
ほのかに顔色をその髪の色に近づけて、娘は嬉しそうに笑った。
風が吹いた。すっきりとしたうなじを撫でていくそれは、暖かい。
めくられる頁を軽く押さえるのは青年の白い指先。
それは、あらゆる場所で、あらゆる人に敬われ畏れられている手だ。
戦場に於いては世紀の魔法を、今の世に於いては種々の薬を生み出さんとしている、長く繊細な指先――
――けれど、その一時だけは彼女の為に。
(終)
山ノ内はダイ大アニメ2020年版が映らない地域在住ですが、予告くらいはようつべで見ております。
今日の放送(26話)、キツそう…。様々な諸姉諸兄の心を抉りそうですね。バラン編みんなそうだけどさ……。