最近、令和アニメ版でチウが魅せてくれますね。
というのもあって、UP。
キラリ
空の一点が光った―――と思った次の瞬間には、舞うように軽やかな足取りでその場に降り立った二人がいた。
ふわり、と白い羽が彼らの周りに輝いて、霧散する。
キメラの翼使用時の幻想的な光景に一瞬見惚れたダイは、けれどすぐに意識を来訪者に戻した。彼にとって今来た二人に会うこと以上に、重要かつ喜ばしい事はない。
砂浜に着地した二人のうち、黒髪の青年がまずダイを見つけ「よう」と手を上げた。
青年の声に、横で荷物を降ろしていた女性も振り返り、笑顔になる。
「約束どおり来たぜ、ダイ」
「お招きありがとう」
「ポップ! マァム!」
駆け寄り、二人に抱きつく。
ダイは前回二人に会った時に頼んでいた。
パプニカで会うのも楽しいけれど、たまには自分の家にも遊びに来てくれ、と。
地上に帰還した後、ダイは故郷のデルムリン島に帰ったが、ポップとマァムの二人はそれぞれの家に落ち着くのではなく旅空の下にあったため、簡単に会いに行くという事は出来なかった。
週に一回パプニカに行くようになった今でも、ポップ達の予定が合わねば合流する事は難しい。それならば、彼らの空いた時間に島に来てもらう方が確実だった。
「来てくれたんだ! 今日はゆっくりできるの?!」
「そのつもりよ。ねぇ、ポップ?」
「ああ。今はそんなに急ぎの患者もいねぇしな」
しばらく厄介になるぜ、との親友の言葉にダイは破顔した。
「やった! なぁ、また旅の話を聞かせてよ!」
一旦置いた荷物を、ポップとマァムはもう一度担ぎなおす。木箱の中には島では採れない野菜や果実、それに書物が入っているらしい。麻袋には、衣類とダイの祖父ブラスが以前にポップに頼んだという各種の薬など。
当然と言った感じで、前者を持ったのはマァムであり、ポップは麻袋をひょいと肩に引っ掛けた。
ダイの実家はすぐ近くだ。立ち話をするよりも家に行った方が良い。三人は歩き出した。
「そうだ、この前くれたハーブ、気に入ったから案内してくれよ」
「いいよ。新しい薬に使うの?」
「うんにゃ。薬よりはお茶だな。それで……」
言葉を途切らせたポップの視線の先を、ダイは見た。向こうの岩の上に小さな影が乗っており、こちらを見ている。
「マァムさん!!」
叫んだ小さな影は、人の形をしていない。一般に『大ねずみ』と呼ばれるモンスターの姿をしていて、違うのは、裸ではなく武道着を身につけている事だ。それこそネズミのすばしこさで岩から飛び降り、大きな耳が後ろに倒れそうなくらいの速さで一直線にこちらに走ってくる。動きにつれて長い尻尾がぴょこぴょこ揺れるのが、やけにコミカルだ。
「まぁチウ! 久しぶりね」
マァムは微笑んだ。大ねずみ…もとい空手ねずみのチウは、彼女にとって拳聖ブロキーナの下で共に修行した弟弟子だ。
「は、はい!! お久しぶりです、マァムさん!」
上気した顔でチウはマァムを見上げる。
実際、随分と久しぶりなのだ。彼らが前に会ったのはダイが地上に帰還した時のパーティーの席だ。それからもう、長いとは言わないが決して短くもない時間が流れている。
チウは基本的にデルムリン島から動かない。獣王遊撃隊のメンバーが皆、島とその周辺に居を構えているのもあるだろうし、居心地が良いのもあるだろう。他にも理由はあるかもしれないが……彼がそれを口にする事はなかった。
「ほんと、久しぶりだわ。元気にしてた?」
マァムの言葉にチウは胸を張る。
「もちろんですよ! 僕をそこのひ弱な魔法使いと一緒にしてもらっては困ります!」
また始まった…。それがダイの心の声だった。
チウがマァムに惚れているのは誰でも知っている。それと同時にポップに対抗心を燃やしている事も誰の目にも明らかで、事あるごとにポップを貶める喋り方をするのは有名だった。
さすがにパーティーの席では聞かなかったが、どうやら3年経ってもそれは変わっていないらしい。もちろん軽口の域を出ないのがほとんどなので、皆それほど気にしていないが、言われている本人としては嬉しいはずがないだろう。
マァムも同じ思いなのだろう。チウと話しながらも少し困った顔になっている。
何となく怖々とした気分で、ダイは、チウ言うところの『ひ弱な魔法使い』の顔を見る。多分ムカついた顔をしている…いや、絶対に。
だが、ダイの予想は綺麗に裏切られた。
「そんな重い荷物、僕が持ちますよ。まったく…男のくせにマァムさんのような女性にこんな物を持たせるなんて」
更に言葉を重ねるチウにも、ポップの表情は変わらない。どこまでも穏やかで、にこにこと笑っている。
しかも、マァムから箱を受け取って、踏ん張りながらそれを持ち上げたチウを見ながら、
「おー。すげぇなチウ。ほんと力持ちなんだな。助かるぜ」
などと笑顔で言うのだ。
今までのポップならありえない態度に驚いたのはダイだけではなく、チウも同様だった。
喰ってかかってくるかと思っていた相手に賛辞を送られては、誰だって調子は狂うだろう。
「ふ……ふん! これくらい当然だ」
顔を背けて、ダイの家まで荷物を運ぶ。その背中に、いくつもの疑問符が浮かんでいるのが見えるようだった。
「なんか…ポップ、変わったね……」
こっそりとマァムの側に行って、ダイは呟いた。
「そ…そうね」
何故か、はにかむような笑みを向けるマァムに、ダイは首を傾げる。
家の中ではポップは相変わらず笑顔のまま、持っていた袋を開けて中身を出していた。
「えーーーっと…、これが特やくそうだろ。これがいやし草で…。ああ、あった。あった!」
取り出したものは、少し厚みのある円盤で、きっちりと紙で包んである。「ほい」とポップはそれをチウに軽く投げ、受け取った側は「え?」と目を丸くした。
「土産。山羊のミルクで作ったチーズなんだ。結構美味いぜ。チーズ、好きだろ?」
え? なに? 今なんて?? 土産? 誰が誰に? ポップが? チウに?? ほんとに? 冗談とかじゃなくて? だってポップだよ?? チウにだよ?? うわー爽やかな笑顔! 何があったのさ?! あ、実はこの二人かなり仲がいいとか? オレが知らないだけ? でもそんな感じじゃないよね。チウ硬直してるもんね。じゃあどうしてポップそんなに親切なのさ? 女の子になら解るけど「野郎相手にプレゼントなんざするか!」とか言うのがポップじゃなかった? え? ほんとに今なんて? お土産って言ったんだよね?
「あ…………うん………………どうも………………………」
ポップの台詞を聞いたダイが、頭の中で無限ループに入りかけた時、ようやくといった態でチウが返事をした。かろうじて言葉を思い出した、という感じではあったが。
「どういたしまして」
固まってしまったチウをよそに、ポップはブラスに薬を渡しに奥へ消えた。
入口に立ったまま、同じくダイは呆然とそれを見ていた。3年前と変わらないと思っていた親友の、急激に成長した部分を見せ付けられた気がして、驚きが胸中を満たしていた。
「ポップ…大人になったなぁ……」
ダイが呟いた途端、がたんと重い音がした。
箱の中を整理し始めていたマァムが、手にしていた本を落としたようだ。
「大丈夫、マァム? って……どうしたの?」
「どっ…どうもしないわよ??!」
ぶんぶんと首を振るマァムの顔は、何故か真っ赤で。
「え…でも、顔がめちゃくちゃ赤いよ……?」
「そ、そう?! あっ! ほ、ほら! そう! この島は暑いから。だからよ!」
…どうやらこれ以上追求してはいけないらしい。
ダイはそれ以上問いを重ねるのを諦めた。
ベホマスライムの如く真っ赤になるほど必死な様子のマァムに、遠慮したというのもある。けれど、まさか竜の騎士の本能というものでもないだろうが、何となくこれ以上を踏み込むのに躊躇する部分が心のどこかにあった。
――多分、まだ知らなくてもいいことなのだろう。うん。
少々無理やりに自分を納得させて、ダイはマァムの荷物出しを手伝い始めた。
(終)
原作から三年後の世界を想像して書いてますので、まあ…皆成長して大人になってるよね、と。
ダイ大世界は十代後半で親になってもおかしくない世界なんですよね……。アバン先生、ほんまフローラ様に感謝しなさいと言いたい。普通は待ってくれないよ?
だって女王陛下だよ? 王統とか考えると凄いプレッシャーだっただろうなあ……。しかも戦争が身近にある世界。
種をまいとけば、王が戦争で散った後も後継者候補が複数得られるだろう男王と違って、女王は自分で産まねばならないわけだから後継者候補が一人(低い確率で二人)しか得られないうえに、出産は命懸け。しかも戦争で代表として立たねばならない。
ダイも先生もマジで頑張れと思います。
そしてポプマは幸せになってくれ。他のキャラも皆、幸せになってくれ。