ダイの大冒険――幸せを求める世界   作:山ノ内辰巳

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以前、Twitterのポプマ好きさんがたの企画で「来いよ」の台詞を使ってポプマの話を書くというのがありまして、参加させてもらいました。


いっぱい食べる君が大好き

「マァム。」

 声のした方に視線だけ向けると、ポップが手招いている。

「……いい。」

 少し迷ったけれど、首を横に振った。だってこんな事で慰められるのは馬鹿らしい。

「こっち向けって。」

 溜息が聞こえた後、もう一度ポップが言う。それにも再度自分は首を横に振った。彼に頼らなくとも、この程度、自分で何とか出来ることだし、今迄も何とかしてきたのだ。

 反対側を向き、自分で自分を抱えて丸くなる。せっかく朝整えたシーツがもうぐしゃぐしゃだ。

 

 これではふて寝だ。わかっている。

 子どもみたいだ。わかっている。

 だけど、別にいいじゃない。

 アバンの使徒がふて寝をしちゃいけないなんて、どこの法律にもないわ。

 聖母とか自分で名乗ったこともないのに、大体私は独身なのに、勝手に決めないで。

 何が「イメージが崩れる」よ。

 私はあなたの勝手な想像のために、アバンの使徒になったわけじゃないんだから!

 

 脳裏に浮かぶのは、ロモス王宮の絵師アルトの顔だ。最近王宮お抱えの絵師団に入った新進気鋭の若い彼は、このたび製作が決定し完成すれば王立美術館に納められる予定の、『アバンの使徒達一人一人の日常』というテーマの絵画で、マァムの絵を一枚担当することになったのだ。

 そこで彼は数日マァムにくっついて取材をしていた。

ポップにも他の担当者がついていて、そちらはかなり年配の女性絵師マルカだった。彼女はそろそろ身体にガタがきているという事で、大魔道士ポップを描くのが王宮絵師としては最後の仕事だと言い、終わったら息子夫婦と孫と故郷の村で過ごすのだと笑っていた。ポップやマァムにとってマルカは祖母に近い年齢の女性で、その年齢の職業婦人らしく闊達で大らかな、まさに肝っ玉母ちゃんという言い方の似合う人だ。

 自分の担当もマルカのような人ならば良かったのに、とマァムは心の中で愚痴を零す。

 アルトはまだ十六歳。マァムが旅に出たのと同じ年齢だ。彼は歳が近いからか、アバンの使徒という存在を尊敬してくれているのは有り難いのだが、『自分と余り変わらぬ年齢で偉業を成し遂げた人々なのだから、きっと普段から素晴らしいはずだと思っている。』と初対面で言い放った。

 特に同国人であるマァムに対する尊崇の念が著しく、最初の挨拶からマァムは若干引いていたのだが……。

「マァム。」

 真後ろで呼ばれ、マァムはびくりとなる。

「…やっと振り向いてくれたな。ほら――」

 いつも二人並んで寝ているベッドだ。だからポップが自分と同じように横になっていても何の不思議もない。いつもと違うのは、自分の顔が酷い事になっているという点だ。

「――来いよ。」

 今更だけど見られたくなくて、だから、彼から見えないようにその胸に顔を押し付ける。

 ぽんぽん、と背中を軽く叩かれ、撫でられる。温かく広い掌の感触に、マァムは知らぬ間に詰めていた息を吐いた。

 

「…スリを捕まえても引っ叩いちゃ、乱暴でダメなんだって。」

「ちょっとくらい良いと思うぞ?」

「…お年寄りおんぶしたまま両手に荷物は、怪力すぎて違うんだって。」

「だったらあいつが持ってやれよなあ。」

「肉屋さんがくれた炙り肉に齧り付いちゃ、イメージが崩れるんですって。」

「何だそりゃ。食わねぇと力出ねぇだろが。」

「アルトは、『皆がそう思ってますから。』って言うのよ…! 聖母とか、聖女とか…私っ! そんなの! 知らない!!」

 

 寝転んで鬱憤を吐き出しながら途方に暮れるマァムが泣きやむまで、ポップはその背を撫で続けてくれた。

「…ごめんなさい。服、濡らしちゃって……。」

「気にすんなって。…ところで、週末マルカさんに料理振舞うんだけど、一緒にどうだ?」

「え?」

「オレのほうのデッサン終わったって言ってたから、御礼とか慰労とか兼ねてな。お前ぇも仲良いんだし、同席してくれよ。」

「………アルトさんは?」

「あいつはイメージ大事で進んでないんだろ? 取材したきゃ勝手にさせとけよ。」

 へっとポップは肩を竦めて笑う。結構悪い笑みだ。

「…いいのかしら」

「お前さ…誰のせいでそんなストレス溜めてんだよ? そもそも、あいつはお前の行動に文句つける立場にないんだぜ? マルカさんが何でオレらに好かれてるか、食事会見ればちっとは勉強するだろ。オレこれでもかなり、あの野郎に譲歩してんだぞ。」

 悪い笑みのまま、ポップは振舞う料理を上げていく。

「まず炙り肉だろ。鶏肉のささみ入れたサラダも良いよな。皆大好きチャーハン大量に作って、巨大オムレツも作るか。この二つは鍋から取り分けな。開拓村のリンゴ酒と、ネイル村から何かジビエ買わせてもらって……。」

 大半が肉料理な事にあからさまな意図を感じるが、素直に嬉しくて、マァムの顔は綻んだ。

 

「ありがとう、ポップ…!」

 

 その笑顔にポップは思う。やはりアルトに譲歩すべきではないかもしれない。

 自然体で笑うこの娘がどれほど綺麗かなんて、あいつに見せたくないのだが……

(まあ、いいか……)

 

「せいぜいアルトの奴、悔しがらせてやらあ!」

 

(終)




山ノ内はポプマ大好きです。


それはそれとして、
ヒュンケルは良い人だし、ポップはとても努力してるし、二人がマァムを大切に思ってるのも素晴らしいことだと思ってますが、
マァムの意見とか恋愛観はガン無視なんよな。
原作で視点が描かれてないとも言うけど。

マァムが全く別人を好きになったっていいのに、何なら恋愛なんて興味ない!独身万歳!でもええのよ。なのにあの男どもは「お互いに譲り合う」んだよな…。いつもモヤる。ま、三十年前のお話だからそれが王道なんですけども。

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