今回はなんと最高文字数更新! イェ~イ!
今年最後の更新で最高文字数を更新できたことを嬉しく思います。
それとD×Dは改稿して投稿し直し、バカテスとISの方は削除する予定です。
ごごぉん!
将軍バランのHPが最後の一本になった時にその音は聞こえた。
……ああ、ついに来たか。
そんな事を思いつつ、俺は周りの皆がしている野と同じように音のした方向————この部屋の中心へと目を向ける。
すると、三重の円を描く敷石が、少しずつスピードを変えながらスライドしていく。見る見るうちに石たちは床面からゆっくりせり上がり、やがて三段のステージを作り出した。そしてその光景に呆気に取られている俺達を差し置いて、状況はどんどん進んでいく。
今度はステージの一番上の背景が歪みだした。そして………
「ヴブォォォォ——————ッ‼」
この層の真のボスである“アステリオス・ザ・トーラスキング”が現れた。
「ディアベルッ!」
アステリオス王が出てからの俺の行動は早かった。
「何かな? キリト君。正直俺は今この状況を打開できる策を考えるので精一杯なんだけど」
「……俺とカユラとヒースクリフであいつを足止めする。だからディアベルはレイド本体全員ですぐに将軍バランを倒してくれ」
「無茶だっ! そんなのは無謀すぎる!」
案の定ディアベルは俺の案に反対した。いや、ディアベルじゃなくてもまともな奴なら俺のこの案は反対するだろう。
「よく聞いてくれ。今この場でレベルが高い上位三人は俺とカユラとヒースクリフなんだ。それに俺達三人はHPもほぼフル状態だから、この中で一番死ぬ確率が少ない」
「ダメだ。やはりリスクが大きすぎる。此処は一度撤退して————」
「どうやって? 俺達が今いるのはこの部屋の最奥だ。対してあいつがいるのはほぼ中心。しかもまだバラン将軍も残っているこの状況で撤退する方がむしろリスクが高い」
俺がそう言うと彼は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「それに、撤退するにしてもどちらにしろ殿は必要だ」
「………」
俺がそこまで言うとディアベルは黙ってしまった。恐らく今の彼の頭の中では、どうやったらみんな死なずにこの状況を打破できるか、必死に探しているのだろう。
「……分かった。キリト君の案に乗ろう」
「乗ってくれてありがとう。じゃあ俺達はあいつを足止めするから、出来るだけ早く倒してくれよ」
「勿論だ」
その言葉を爽やかスマイルを俺に残して、彼は未だにアタフタしているレイド達たちの所に向かった。
「……カユラ、ヒースクリフ」
俺もそれを見届ける間もなく次の行動に移した。
「全く、君は相変わらず無茶をするな」
「えー……。でもそこがいいんじゃん。私はキリ君のそういうとこ好きだよ」
好き……ね。恐らくカユラが言った「好き」は俺が望んでいるけど望んでいない方の意味での好きではないだろう。俺と彼女はそんなに簡単なものではないのだから。
「それで、意図せずに私達はあれを足止めするという大役を任されてしまった訳だが……別にあれを倒してしまっても構わないのだろう?」
「……フフッ」
「ああ、もとよりそのつもりだ」
ヒースクリフの大胆な発言に、カユラは微笑み俺は同意した。
カユラがほほ笑んだのは恐らく、あまりにもヒースクリフがらしい言葉を言ったからだろう。
「よし。じゃあ行くぞ!」
「勿論だ」
「うん!」
俺達三人は言うや否や、大事な
その途中でヒースクリがウィンドウを呼び出しなにやら操作すると、彼の持っていた十字剣が消えて代わりに盾がもう一つ出て来た。恐らくと言うか確実にその盾はオブジェクト化させただけの物だろう。まあ、これから俺達はソードスキルを使わないつもりだから普通に装備してもいいんだろうけど……。
そしてヒースクリフが盾だけになったという事は、彼はアステリオス王に対する攻撃を俺とカユラに一任するらしい。まあ、この三人の中で一番防御がうまいのは彼なので妥当な配役だと思う。
「私はディフェンスに徹しよう。君達二人は好きに攻めたまえ」
俺とカユラの少し後ろを付いて来ているヒースクリフからの頼りになる言葉。俺達はそれに頷きだけ返した。
そしてアステリオス王も俺達の方に気づき、ステージから飛び降りて来た。
「ヴォオオオオォォォ——————ッ‼」
咆哮を一つ上げるとアステリオス王はその場に佇んだ。まるでどっからでもかかって来い、と言わんばかりに。
俺一人だったらその挑発に乗ってしまっていただろう。だが今ここに居るのは俺一人じゃない。兄のように慕うヒースクリフがいて、何よりも守りたくていつまでも一緒に居たいカユラがいる。その他にもアスナやエギルやPoh達がいる。だから俺はその挑発には乗らない。皆でこの戦いから生きて帰る為に。
「……キリ君っ!」
片手用直剣の二刀流からいつも使っている曲刀の二刀流に持ち替えたカユラが走りながら俺に話しかけて来た。
「私が先に仕掛けるから、キリ君はサポートお願い」
「いや、俺が先に仕掛けるからカユラが俺のサポートをしてくれ」
カユラの提案を一蹴し、それとは逆の事を彼女に頼む。
「でも………」
カユラは常に俺の隣に立ちたいと願っている。別に聞いたわけじゃないがそんなの見ただけで分かった。
あの日以来、カユラは俺の隣に立つことを目標とし、俺はカユラをちゃんと守れることを目標としている。恐らくそれは何か劇的な事が無い限りこれからも変わらないだろう。
今回の提案は多分そういったところからきたのだろう。だが俺に危険な所にカユラを一人先に行かす事などできない。カユラも同じ気持ちだろうが、これだけは譲れない。
「はぁ……。分かった、キリ君の言った方でいいよ……」
ため息を吐きながらカユラが折れてくれた。
「でも、無理はしないでね。キリ君、自分の事を顧みずに行動するから……。そういう事されると、とっても不安になって悲しくなるから」
「うっ、はぁ……そうだな分かった。それに、カユラが悲しむ顔は見たくないしな」
自分の一番大切にしている人に心の底から心配している、といった表情で見つめられてどうしてそれに逆らう事が出来ようか。いやできない(反語)。
だから俺は彼女の目をしっかりと見つめて、自分の気持ちを伝えた。彼女の不安顔が少しでも晴れる様に。そうしたらカユラは顔を赤くして目を背けてしまった。はて? 今のやり取りの中に顔を赤くするようなことはあっただろうか?
ドン! ドン! ドン!
後ろの方から凄い打撃音が聞こえるが無視だ。きっとあれは将軍バランがプレイヤーを攻撃して、外れたバトルハンマーが壁や床に当たった音だろう。うん、きっとそうだ、そうに違いない。
「……君達、イチャイチャするのは結構だが時と場所を考えてはいかがかね?」
『イチャイチャなんてしてないっ!』
ヒースクリフの心外な一言に思わず俺とカユラがハモる。
『嘘だっ!』
あーあー、俺は何も聞いてない。生きるか死ぬかの戦いの最中なのに、ネタにはしったツッコミなんて俺は聞いてない。
「ヴルル——」
進行方向から溜め息の様な唸り声が聞こえて来たのでそちらを見てみると、アステリオス王が視線を下にして首を左右に振っていた。俺にはその動作が、「ダメだこいつ等、自覚が無い」ってバカにされているような感じがして、イラッときた。
そして俺達がアステリオス王の持っているバトルハンマー(将軍バランのより豪華な奴)を、俺達目掛けて思いっ切り振り下ろしてきた。
「ヴァルルルルルゥアアアア—————ッ‼」
ドゴォン!
バトルハンマーが床を打ち凄まじい轟音が響くが、俺とカユラと少し後ろに居たヒースクリフはそれぞれ左右に分かれて回避しているので俺達にダメージは無い。
『ハアアァァ!』
そしてガラ空きになったアステリオス王への胴体に、俺の片手用直剣の乱舞とそれに少し遅れてカユラの曲刀の乱舞が入る。
勿論この時俺達はソードスキルを使っていない。と言うより茅桐流の体捌きや型を使えばソードスキルより遥かに効率的に乱舞を行えるので使う必要が無い、といった方が正しい。
「ヴルアアァッ!」
だがその乱舞は長くは続かない。アステリオス王がバトルハンマーを横薙ぎに振るった事により俺とカユラは攻撃中断を余儀なくされた。
そしてそれからは攻撃して回避してのヒットアンドウェイの繰り返しだった。時偶にヒースクリフがバトルハンマーを両の盾で逸らしたり防いだりするので、思いのほか三人でも苦戦はしなかった。寧ろ五分五分の戦いをしていると言ってもいい。そして一番の理由はやはり俺達三人のレベルだろう。
俺達の今のレベルは此処にいるレイドパーティーがとっている安全マージン(各階層+十なので第二層だと十二)よりも更に十ほど高い。いくらフロアボスとはいえ俺達のレベルが此処まで高いとお互いのHPのヘリも普通にPoPするモンスターとあんまり変わんなくなってくるわけで………。つまり何が言いたいのかと言うと、
……ディアベルたちレイド本隊が俺達と合流する頃には、アステリオス王のHPが五本目(アステリオス王のHPバーは全部で六本)に突入する所だった。
『………』
そしてその光景を見たディアベルたちは唖然。まあそりゃあそうだろう。
明らかに将軍バランより強いモンスターを経った三人で五分五分の戦いに持ち込んでいたのだ。これで唖然とするなと言う方が難しい。因みに俺達の強さを知っているエギル達は、はぁ、あいつらハッチャけやがったって感じのため息を吐いていた。
「ふむ、ではディアベル君、全体の指揮は任せるよ」
「え………あ、はい」
ヒースクリフがディアベルにそう言ったのを聞いた俺とカユラは、ちょうどタイミングよく振り下ろされたバトルハンマーをパリィして後退する。
そこから先はディアベルたちA~E隊が中心となって戦っていった。その他にもブレイブズも戦いに必死に食らいついて、サポートとして役に立っていた。
そして俺達はもうほとんど用無し状態だった。ディアベルは俺達にも指示を与えるのだが、それをキバオウとリンド等の俺の事を良く思っていない奴らが、俺達に与えられた指示を横からかっさらっていくので結局俺達はやることが無い。
「…………」
「カ、カユラ何か怒ってないか?」
「怒ってない!」
エギルの問いかけに明らかに起こっている声音で返すカユラ。その原因は確実にキバオウやリンドたちの行動だろう。
そしてカユラの怒気に周りの人たちがビビッり、場の空気が悪なって気まずいので俺はカユラを後ろから抱き締めた。いや、何言ってんだこいつって思われるかもしれないが、彼女は昔から俺がこうすると機嫌がよくなるんだ。べ、別に俺がただ抱き付きたいわけじゃないんだからね!
————何やってんだろう俺………。
「キ、キリ君ッ⁉ 人がいる前で何やってるのっ⁉」
————人がいなかったらいいのだろか? いや、深く考えないでおこう。
顔を赤くして抗議して来るカユラを間近で見ていると、なんだかもっと虐めたい、という加虐心が沸いてくる。
それにしても……上気した頬を緩ませながら至近距離で上目使いでこちらを見てくる彼女を見ていると、胸の奥から『何か』が溢れだしてきそうになる。だが、俺はそれを無理やり胸の奥にしまいこむ。きっとそれは表に出してはいけないものだから。
「何って……カユラが不機嫌だったから、抱き締めて落ち着かせているだけだが?」
「—————何でそこで抱き締めるって発想が出て来るの……」
何か呆れられたけど振りほどかれないという事は、少なくても嫌がってはいないのだろう。
その事に自分の中でさっきまで押さえつけていた『何か』が、再び溢れだしてきそうになる。
「……はい、もう終わり」
「えー……」
それが溢れ出て来る前に俺はカユラを離した。
彼女が不満気にしていたがこればっかりは我慢してほしい。君を……不幸にさせないためにも。
「皆、一旦下がれっ‼」
ディアベルの叫びが聞こえて来たので、視線を其方に向けるとアステリオス王がバーサクモードに入っている最中だった。
「ッ⁉ 君達、今すぐに下がれっ‼」
ディアベルの切羽詰まった声が聞こえた。
彼の視線の先を見てみると、ブレイブズの五人がバーサクモードに突入する際の演出中で無防備なアステリオス王へと向かっている所だった。
「ヘっ、こんなチャンス逃すかよっ」
「俺達はこいつを倒して英雄になるんだ」
それは、英雄に憧れる子供に見えた。
だが、憧れだけでは英雄にはなれない。そしてちゃんとした自分の“芯”が無いと英雄にはなれない……と、俺は思う。
そして彼らからはその“芯”が見られない。
「ガアアアァ——ッ‼」
長いようで短い演出が終わり、自分に向かって来るブレイブズにメンバーに対してアステリオス王は麻痺ブレスを放った。
「ギャアアァァ!」
「グアッ!」
当然先頭に慣れていないブレイブズのメンバーがこれを避けられる筈も無く直撃を喰らう……かに思われたのだが、
カアァン!
甲高い金属音がアステリオス王の額の王冠から響いた。そしてボスの巨大な上体が揺れる。
ブレイブズのメンバーは呆然と立ち尽くす。
その隙にブレイブズを助けようと既に走っていた俺達がアステリオス王に一斉攻撃を叩き込み、かのトーラス族の王はその体をポリゴンの欠片へと変えた。
「何でだよっ!」
ボス戦が終わって結果に納得否ない人たちもいたけど、皆で取り敢えず勝てたことを喜んでいた時その声は聞こえた。
皆が声の主に視線を向けると、そこには先程から動いていなかったブレイブズがいた。
「俺達は英雄になる為に努力した。強化詐欺なんて英雄らしからぬ汚い事もやった。それなのに何で………何で、FNCのお前が良い所を持っていくんだよネズオっ‼」
見ればオルランドが近寄って来たネズオと呼ばれるプレイヤーの胸ぐらを掴んでいる所だった。
だが私達にはそれよりも今の言葉の中に、もっと気になる単語があったのを聞いた。
即ち“強化詐欺”だ。
そして強化を失敗した人たちの中に、あのネズオを呼ばれるプレイヤーの事を覚えている者がいるらしくレイドの方もそれでざわついている。
「……確かに僕はFNCだ。でも、ある人に言われて気付いたんだ。こんな僕でもみんなの為にできる事があるって……。だから、もう強化詐欺なんてやめよう。皆だってちゃんとやればきっと—————」
「話してるところ悪いけど、ちょっといいかな?」
ネズオ(仮)がブレイブズの人達に力説している所にディアベルが割って入った。
レイド全体のリーダーである彼としては先程の発言はやはり聞き逃せないのだろう。
「あ…あ…」
「ひぃっ⁉」
ディアベルの後ろに居たレイドパーティーの人達の、睨みにブレイブズの人達は委縮した。
「先程の“強化詐欺”について、詳しく言いても良いかな?」
口調はいつもと同じだが、声音が自然と強くなっているディアベル。まあ、その気持ちも分からなくはない。
今回の事は下手すると死人が出ていたほどの事なのだ。自然特徴が強くなるのは仕方がないだろう。
「……はい、僕の方から全部お話しします」
そして萎縮しているブレイブズに変わってネズオ(仮)が彼の質問に答えた。
そして彼は全部話し終えると、土下座した。
それに倣ってなのかどうかはわからないけど、ブレイブズの人達もネズオ(仮)の隣で並んで土下座をした。
「アカン! いくら土下座したからって許されん事は、世の中に何ぼでもあるんやっ‼」
「今回ばかりは俺もキバオウの意見に賛成だ。こいつ等には重い処分が必要だ」
キバオウとリンドの言葉を皮切りに、レイド全体からも彼らに重い罰を求める声が上がった。中にはこれからこういった事が起きないようにする為の見せしめにしよう、という意見もあった。
「あー、悪いんだがキリト君達は先に転移門のアクティベイとしに行ってきてくれないかな? こっちは俺が何とかしておくから」
「…分かった。出来るだけ穏便な方法にしといてくれよ」
「分かってる。俺としても過激なのは不本意だからね」
此処に居ても自分に出来る事は何も無いと判断したキリ君は、素直にディアベルの提案を了承。
そして私達は彼らより一足先に第三層へと向かった。
私達は第三層の主街区である《レフライト》の中を転移門へと向かって歩いていた。
「…あんまり酷い事されてないと良いけど」
「ディアベルがいるんだし大丈夫だろ」
思わず呟いた私の独り言にキリ君は律儀に返してくれた。
「でも————」
「それに、これは被害にあっていない俺達が口を出していい事じゃない」
「……うん、そうだね」
キリ君の言っている事は正論だ。だが正論ゆえに、冷たい。
「そんなことより、俺はもう二度とあんな無茶をしてほしくないんだけど」
先程の冷たい感じとは違い、何処か怒ったような拗ねたような感じのキリ君。
——————はて? さっきの戦闘で私が無茶をした場面はあっただろうか?
「………将軍バランからリンドを助ける時」
「あれ無茶かな~?」
「はぁ〰〰〰。あのなぁ、あの時俺やリズやヒースクリフが間に合っていなかったらカユラは死んでいたかもしれなかったんだぞっ‼」
「ごめんごめん」
疑いようもなくキリ君は怒っていた。でもそれは、私が危険を冒したから怒っているのが丸分かりで…怒られているのにそれがどうしようもなく嬉しい。だから謝罪の言葉がちょっとだけ弾んでしまった。その事にキリ君は顔を顰めるけどこればかりは勘弁してほしい。
そしてその所為で、———が胸の奥から溢れ出て来そうになる。今まで抑えて来たのに、キリ君が———すぎる所為で簡単に———は抑えを押しのけて出て来そうになる。
今までもこういう事は何度かあった。でも今回は生死も関わっていた為、生物の————という本能も—―を助力してしまって——————
「ねあ和君、私と……お付き合いしてくれる?」
「……………え?」
—————気が付いたら私は和君に告白してしまっていた。
「ねえ和君、私と……お付き合いしてくれる?」
「……………え?」
カユラいや優良が俺に言った言葉に対して俺は意味が分からずに間抜けな声しか出せなかった。
いや、言葉の意味は分かる。お付き合いしてくれる? と言ったのだから、よくある買い物に付き合うとかじゃなくて男女交際の事を刺すのだろう。だが、それを俺に言った事が理解できない。
今まで俺が優良に助けられて来たり、優良を傷つけてしまった事は結構あった。でも、俺が優良を助けたりましてや惚れられたりするようなことは(情けない事に)何一つした覚えがない。
でも、これだけは分かる。今俺がどっちの答えを出してもこれからの俺と優良の関係は変わるという事だ。だったらこの絶妙な距離感が心地いい関係が壊れるというのなら、俺は———————
「……………か」
「…え?」
「このまま今まで通りの関係でいないか?」
「……私の事が、嫌いなの?」
「違うっ‼」
否定の言葉は反射的に叫び声となって出た。
「そうじゃない。そうじゃないけど……どんなに探しても俺が優良に好かれる理由が無いんだ…」
「それは…私の気持ちを否定してるってこと?」
「………」
俺は優良のその問いを否定することが出来なかった。
彼女に告白されて過去類を見ない程に嬉しいのは確かだ。でも心のどこかでは俺が彼女に好かれるわけがない、と思っている自分もいるのも確かで………。
だから、彼女の問いには答えられなかった。
俯いていた俺は目の前の地面に何かが落ちて、ポリゴンの欠片となって消えたのを見た。恐る恐る視線を上げてみるら————
パァン!
————子気味いい音が俺の頬から鳴った。
本来ならここは圏内であるので、障壁が発生するのだが…なぜか障壁は発生しなかった。甘んじて受け入れろという神(カーディナル)のいしだろうか。
叩かれた威力で回った首を正面に戻してみると、そこには綺麗なサファイアの瞳から透明なしずくを流している優良の顔があった。
—————ああ、やってしまった。
その顔を見た俺は他人事のようにそう思ってしまった。
自分の我儘の所為で、自分の所為で優良をまた泣かせてしまった。
本当はそんな顔をさせたいわけじゃないのに……。
君には笑顔が似合うのに……。
そんな言葉が頭に浮かんできたが、どれも口に出すことは出来なかった。
「…和君には、和人にはそんな事…言ってほしくなかった‼」
その、何とも重みのある言葉を俺に叩きつけて優良は何処かへと走って行った。
俺は追いかけるわけでもなく、それを…ただ眺めている事しかできなかった。
「……和人君」
「………」
「和人君ッ‼」
「………」
ドガッ!
強く名前を呼ばれたのでそちらを向いたら、今度はビンタでは無く拳が飛んできた。
此方も同じく障壁は発生しなかった。
殴られた衝撃で俺は無様に地面に這いつくばる。
「君には…失望したよ、和人君」
「………」
言葉通り失望の色を含んだ声音。だが今の俺にはそんな事はどうでもよかった。
———また俺が優良を傷つけた……—————
その事だけが頭の中をぐるぐるまらっている。
するとヒースクリフいや晶彦さんに胸ぐらを掴まれて引き寄せられた。
「君はそれで良いのか……? 優良を泣かせたままでいいのかね?」
「………だろ」
「……」
「良い訳無いだろ!」
「…じゃあどうする?」
「………」
つい答えてしまったが、その問いには答えられなかった。
そしてゆっくり掴んでいた手を離された。
追いかける? 泣かせたのは俺だぞ。また泣かせるに決まってる。
他の人に追いかけてもらう? 俺が泣かせたんだ。自分で何とかしたい。
はぁ、八方塞だ。
「はぁ~」
「?」
そんな葛藤をしている時、頭上から晶彦さんのため息が聞こえた。
「やれやれ。君たちは近い様で遠いな」
「…どういう…意味ですか」
そう質問するとまた呆れたようにため息を吐かれた。
「君達は普段は言わなくても相手の事が分かっているのに、こういった肝心な時にはお互いの心がすれ違っている。それ故にこのような事が起きた」
「すれ違っていなかったらこんな事にはならなかったんですか?」
もう過ぎたことなのに未練がましくも聞いてしまった。
「それは分からない。運命とは不確かで無数にあるからな」
科学者らしからぬその発言に、思わず俺は苦笑いした。
そんな俺を見た晶彦さんは傍目にはわからない位に微笑む。
「決心はついたが、未だに自分の感情が分からないといった顔だね」
「ええ…まぁ……」
そう決心はついた。俺は何としても優良を連れ戻してくる。例えそれが俺のエゴだったとしても、俺は優良と一緒に居たいから。
だが、そうなるならば俺が優良に対して向けるこの感情は何だ? 恋、とは違う気がするし………うーん?
「やれやれ、仕方ないな」
「?」
「君が優良に対して向けるその感情と、優良が君に対して向ける感情は全く一緒だ」
と、いう事は、
「俺のこの感情も“恋”って事ですか?」
「違う」
即答された。じゃあこの感情は何だ?
俺が頭の上に?マークを作っていると見かねた晶彦さんが答えを言ってくれた。
「君達がお互いに向ける感情…それは“恋”よりももっと深いものである———と私は思っている———“愛”だよ」
「愛…ですか」
「そうだ愛だ。つまるところ君たちは、小さい頃から一緒に居る所為で恋というものを通り越しお互いを愛し合ってる領域までいってしまっている訳だ」
「その“愛”は親愛とか兄弟愛とかそういうものでは?」
「違う。長年見てきた私の判断ではあるが、君たちのそれは恋愛の“愛”だよ。それも、依存するほどに深い…ね」
最後の一言は良く分からなかったが、この感情を“愛”を言われた時、パズルのピースが綺麗にハマる様にその言葉が胸の中に入り込んでくる感じがした。という事は、そういう事なのだろう。
でも————
「『こんな自分が、優良の想いを受けてしまっていいんだろうか』とか思っているかね?」
「……何で分かるんですか」
思っていたことを当てられてしまって思わずぶっきら棒になってしまった。
「先程も言っただろう、『長年君達を見ている』と。それと君の疑問に対する答えだが……悩んでいるのなら今は保留でも私はいいと思うぞ」
「良いんですか? そんなんで……」
「いい。だが気持ちの整理がついたらちゃんと返事をしてやんなさい」
「……はい」
晶彦さんの言葉で何処か吹っ切れた俺は、立ち上がり走り出す。
目指すは勿論優良の所だ!
キリトがカユラの元へと走り出した後、その場に立ち尽くしたヒースクリフに近づく影があった。
「随分sugary何じゃねぇのか?」
———PoHだ。
他の面々(特にアスナやリズやシリカ)も今の事でそれぞれ思う所があったものの、少女三人は年長者組によって誘導されたので今この場に居るのはこの二人となる。
「……そうかもしれないな」
「何だdenyしないのか」
「ああ、自覚しているからね」
そう言ってヒースクリフはエギル達の向かった方へと歩き出す。
「取り敢えず今は二人が帰ってくるのを待とう」
「agree。そうだな……」
そう言ってPoHもヒースクリフの後を歩き始めた。
〰〰〰〰〰ヒースクリフとキリトが問答をしている時〰〰〰〰〰
和君から逃げる様にその場を走り去った後、私はただひたすらに走った。いや実際に私は逃げたのだ。こんな情けない顔を見られたくなくて、和君に拒絶されたことが嫌で。
ドン!
「きゃっ」
其れからどれくらい走っただろうか? 我武者羅に走っていたからわからないが、もうかなりの距離を走った時私は何かにぶつかった。
「ブルルルルルゥゥゥゥ」
そこは開けた野原の様な所で、私の目の前に居たのは大きな体の猪———“グレート・ファング”がいた。
こいつは中ボス的な立ち位置なのでHPバーは二本ある。
普通なら逃げるか戦うだろうが、私はそのどちらもしなかった。和君に拒絶されたことによりもう…どうでもよくなったのだ。
「ブルルゥゥ、ブヒヒヒィィィ———ッ!」
私から一度距離を取ったGファングが、その巨体に見合わぬスピードで勢いよく突進してきた。
この一撃では死なないだろうが、私はこの子によって死ぬだろう。
私との距離が二十メートルを切り“死”がそこまで迫った時、私は自然と目を閉じていた。
そして私が思い浮かべたのは神でも家族でもなく————
「——————和君」
ガギイイイィィン!
私が和君の名前を呟いた瞬間Gファングが止まった否止められた。
閉じていた眼をゆっくりとあけると、
「グウゥ、結構キツイな。———大丈夫か…優良」
和君がそこにはいた。
両の手に持った片手用直剣を体の前でクロスさせてGファングの突進を受け止めていたのだ。
「—————な」
「言いたいことはいっぱいあるだろうが、少し待っていてくれ。今すぐこいつを……倒す」
そこからの和君とGファングとの戦いは一方的なものだった。いや、あれは戦いとは言えずただの駆逐だったかもしれない。
基本的にGファングの脅威は、一定以上の距離からくる突進攻撃にある。それさえ封じてしまえば後はただの体が大きく体力がちょっと多いイノシシだ。
そして製作者の一人である和君もそれを知っていたので、距離を開けずに一方的な乱舞で圧倒した。
「ふぅ~、終わった終わった。大丈夫だったか、優良」
「う、うん」
Gファングが倒れたことにより安全地帯となったところで和君と二人だけになった。
別れた時とは違い自然に話しかけてくる和君。それに対して私は碌に目も合わせられなかった。
—————ああ、やっぱり私って和君の中ではその程度なんだ……。
『………』
————ち、沈黙が痛い。
私は和君の方を見ていないからわからないけど、どうやら何か悩んでいるようだった。
「?」
「優良ッ‼」
「は、はいっ!」
私がちょうど和君の方を向いたタイミングで、彼が私の名前を強く呼んだ、というより叫んだ。
和君は私と目を合わせるといきなりしゃがみ込んで————
「さっきは…ごめんっ!」
————土下座をした。
「…え? あの、ちょっと…和君?」
「俺優良との今の関係を壊したくなかったんだ。だからあんなこと言っちゃって……。でも決して優良の気持ちを疑ってたわけじゃあ—————」
————ああ、そういうことなんだ。
私の前で懺悔するように胸の内を告白している和君を見て気付いた。
結局彼もこの関係が心地よかったのだ。
ただ私との違いは、それ以上を求めるか求めないかだけ。
そして和君は私より心の成長が遅かっただけ。
たったそれだけの違いで私と和君はすれ違ってしまった。
でも、今は違う。和君がちゃんと話してくれたから。だから、次は私の番。
「—————で」
「顔を上げて、和君」
私はしゃがみ込んで、未だに告白を続ける彼の頬に手を添えて顔を上げるように促す。その時この場では感じられない筈の和君の体温を感じた気がした。
「……優良」
「私ね…小さい頃から和君のとこ好きだったんだ」
それは先程とは違う告白。
「それは……あの時よりも前から?」
「うん」
“愛”ではなくこれまでの“想い”の告白。
「でね…あの時ね、和君が沢山血を流しててこのまま死んじゃうんじゃないかって思ったんだ」
和君は黙って私の告白を聞いている。
「そしてら怖くなって、目の前が真っ暗になって…何も考えられなくなった。……まるで自分の半身が無くなるみたいに痛かった」
「……」
「後になって、あの時より以前の気持ちやあの時の気持ち、そしてその時後持ちを考えてみたら、それが―——ちょっと違和感があったけど——―“恋”だって気づいたんだ」
「……違う。それは“恋”じゃない」
「……え?」
さっきの告白とは違い明確な否定。
でも私は自分でも思っていたよりそれ程動揺しなかった。
きっとそれはこれから和君がいう事に、私の感じていた“違和感”を解く鍵がある、と無意識のうちに感じ取っていたからだろう。
「それは…“愛”だよ」
「愛……?」
「そう“愛”。まあ、俺もさっき兄貴分に教えてもらったんだけどな……」
「アハハ……何それ…」
そう言って苦笑いする和君につられて私も思わず笑ってしまった。
二人で一通り笑った後、急に和君が気を引き締め直した。
「あ、あのさ…優良」
「ん? 何に?」
「さっきの告白の答えなんだけど…さ」
「う、うん」
いくら和君の心の内を知ったとしても、やはりまた拒絶されるかもしれない、という恐怖はある。故にどもってしまった。
「————気持ちの整理がついてないから、ついたらでいいかな?」
「…………へ?」
今和君はなんて言った? 気持ちの整理がついたら返事をする?
「ア……ハハハ。アハハハハ」
「ど、どうしたんだ優良?」
ああ、そうだ。私はこの間自分で言ったではないか。
『男子の心の成長は女子より遅い』と。
あの時から一ヵ月も経っていない。だったら和君の心がそこまで成長せていなくても納得できる。
————はぁ~、身構えていた自分がバカみたいだ。
「大丈夫。大丈夫だから心配しないで」
「————本当かよ……」
「本当だって。それでね答えの事だけどね」
「あ、ああ」
「和君の言う通り、和君の気持ちの整理が出来てから聞かせてもらうね」
「……ごめん」
「いいよ。……私も、和君にはちゃんと考えてほしいからね」
そして私達はどちらともなく立ち上がる。
「じゃあ、帰るか」
「うん、帰ろう…みんなの所へ」
私達は自然と手を繋ぎ元来た道を歩き出した。
という訳で次回からは付き合ってないけど甘い関係に(書ければ)なります。
感想・評価・誤字脱字の報告を待っています。
それでは少し早いですが、みなさん良いお年を。
そして来年もよろしくお願いします。