ソードアート・オンライン~桐ヶ谷和人の幼馴染~   作:隆斗

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無事今日中に投稿できてうれしいです。



バレンタイン(本編)

 バレンタイン

 

 

 

 

 

 今日、二月十四日は言わずと知れたバレンタインデーだ。

 それはこのSAOでも例外では無く、現在の最前線である第三十二層から第一層まで雰囲気はバレンタインデー一色に染まっている。それによって本日一日は、攻略を一旦停止している。

 現実(リアル)よりも命の危険があるこの世界で、そうなったのにはもちろん訳がある。

 その訳が今日一日限定のイベントクエスト、通称『バレンタインクエスト』なのだ。

 

「それにしても〝二人組専用”クエストなんて……狙ってるのか?」

 

「それはオイラに言われてもナ。それに、そう設定したのはオイラじゃ無くてカーディナルだと思うんだガ」

 

 現在俺達は二十二層のログハウスでギルメン皆で朝食(メイド・イン・カユラオアアスナ)を食べている。

 そして俺達もこの後は噂のバレンタインクエストに行く予定だ。

 

「それで、そのクエストは何処でやってるんだ」

 

「何でも五の倍数の各層に変なゲートが出来たらしい、そこに行けばできるらしいゾ」

 

「てことは、第五層・第十層・第十五層・第二十層・第二十五層・第三十層か」

 

「あ、それなら皆で別々の場所に行かない?」

 

 アスナの提案に女性陣全員が思いのほか乗り気になり、結局全員が別々の所に行くことになった。

 ザザとシリカは第五層、ジョニーとリズは第十層、アルゴとアスナは第十五層、エギルとヒースクリフは第二十層、誰と行くかは知らないがルルは第二十五層、そして俺とカユラは第三十層に行くことになった。

 アルゴとアスナはそれぞれ異性の相手が居なかったらしいので女二人で、エギルとヒースクリフはそれぞれ現実(あっち)に恋人もしくは奥さんがいるから異性の相手とはいけない、でもイベントには参加したいから、という事でこのペアになった。

 そしてPoHだが、あいつはこんなイベントに興味はないらしく朝食を食ったらここにあるあいつの部屋で寝ているらしい。

 そして俺達は朝食を食べた後は各々のクエスト先に向かった。

 

「ねえキリ君、これってホントにクエストなのかな」

 

「多分な。どうしたんだ、何か別の可能性でも思い浮かんだのか?」

 

「うん。あのね、もしかするとバレンタインクエストはもう始まってるんじゃないかな」

 

「え……? でも俺達はまだそのゲートについてすらいないぞ」

 

 噂のゲートは主街区より少し離れた所にあるらしく、転移門で第三十層に転移しても少し歩く。

 そしてお俺達は只今そのゲートに絶賛向かっている途中だった。

 

「うん。そうなんだけど……何か今日はアインクラッド全体の空気が違う気がしたからさ」

 

「それは皆がバレンタインで浮かれている事を言ってるのか?」

 

 俺はカユラにそう質問したが、何となく彼女が言っている『いつもと違う空気』というのはバレンタインで浮かれている空気でないのは分かっていた。

 

「うんん、違う。でも確かこんな空気になったのは昨日寝ている時からだったような気がする。時間は見て無いからわからないけど」

 

 それは俺も感じていた。多分深夜くらいだったと思う。まあ、眠くてそのまま寝ちゃったけど。

 

「じゃあ、今はまだ警戒しておくだけにしよう」

 

「うん。……ごめんね、せっかくのバレンタインなのに変なこと言っちゃって」

 

「気にすんな。それよりも今から向かうゲートの事を考えよう。恐らくと言うか絶対にゲートをくぐった先に何かある」

 

「そうだね。でも何があるのかな?」

 

「それは俺にも分らない。ただ、バレンタインのイベントだからかなり強いイベントボスとかはいないと思う」

 

「そうだね~、私的にはキリ君とイチャイチャできるならどんなものでもかかって来い! かな~」

 

 腕を組み俺に体重を預け気味にしながら歩くカユラの顔は、この上ないほど幸せそうで緩みきっていた。

 それにつられて俺の頬も緩む。

 

「あっ、見えて来たみたいだよ」

 

「ん? でもなんでゲートが三つもあるんだ?」

 

 カユラの言う通り確かにゲートは見えてきた。でもなぜか三つある。

 一番左端の奴は青色のゲート、一番右端の奴は赤いゲート、そして真ん中のゲートは左端と右端のゲートの色が丁度半分ずつの配色になっている。

 

「ようこそいらっしゃいました。キリト様とカユラ様ですね」

 

 ゲートの近くに立っていた黒スーツ姿の優男のNPCが話しかけて来た。

 先程のセリフからプレイヤー全員の名を覚えていると推測できるので、相当行為のNPCのようだ。

 

「お二方はどの扉をお選びになりますか?」

 

「俺達が選んでいいのか?」

 

 てっきり強制的に真ん中のゲートにさせられるものだと思っていた俺は虚を突かれた。

 

「ええ、その通りです。男女ペアの場合はどの扉を選ばれても一緒ですので、お好きな色の扉をどうぞ」

 

 ってことは、男同士だったら青い扉、女同士だったら赤い扉という事だろう。

 

「どれにする?」

 

「う~ん……。普通に真ん中の扉でいいんじゃない?」

 

「ま、それが妥当か」

 

 特になにもないので、カユラの意見に素直に従う事にする。

 

「お決まりになられましたか?」

 

「ああ、真ん中の扉にする」

 

「左様で。それではごゆっくりとお過ごしくださいませ」

 

 NPCが真ん中の扉を指すと、扉が左右に開く。だが仕様なのだろう、その向こうは真っ暗になっていて見えない。

 

「じゃあ、行くか」

 

「うん!」

 

 何があってもいいように獲物がちゃんとあるか確かめた後、俺とカユラは青と赤の扉を潜った。

 そこは外から見たまんま真っ暗な所だった。

 発光しているのか良く分からないが、道だけはハッキリと見えた。

 

「この道以外は何もないな」

 

「そうだね。それにこの道も何処まで行っても先が見えないし……」

 

 扉の中に入って数十分。

 もう入口も見えない中、俺とカユラは腕を組んでひたすら道なりに歩いていた。

 そしてほんとに何もないのか辺りをキョロキョロ見ている。

 だから俺がそれに気づけたのは偶然だろう。

 

「ッ⁉ カユラっ‼」

 

「え? キャッ!」

 

 丁度俺達が歩いて来た方向から植物のツタの様な緑色をした細長い物体が複数這って来た。そしてそれはカユラを串刺しにしようと、一本の槍の様に突き出された。

 だが、予めその事を予期していた俺がカユラを自分の方に抱き寄せたので、カユラにそれは当たらなかった。

 

「あ、ありがとう、キリ君」

 

「どういたしまして」

 

 俺の腕の中で頬を赤らめてカユラがお礼を言ってきた。

 その頬の赤さがドキドキから来るものなのか、それとも俺の腕の中にいるからなのかは彼女にしかわからない。個人的には、後者の方が嬉しい。

 

「……よ」

 

「……ん?」

 

「だから、後者の方だよって言ったの」

 

 ……えーと、これはあれだよな。

 

「俺の心を読んだのか?」

 

「うんん。でも何となくキリ君が考えてる事が分かったから……」

 

 だから、わざわざ教えてくれた、と。

 

 俺の幼馴染が可愛すぎてもっと一緒に居たい。

 

「それよりも、さっきの植物みたいな奴私達が歩いて来た方に戻っていくけど、どうする? 追う?」

 

「追おう。今はあれしか手がかりが無いからな」

 

 抱き合った状態から離れ、先程襲ってきた植物モドキを追いかける俺達。

 幸いにも、植物モドキの移動速度はそこまで早いものではないので見失う事は無かった。

 

「あそこみたいだね」

 

「ああ、そうだな」

 

 数分ほどで植物モドキの根本の様な場所を見つけた。

 そこはこの道からちょっと外れた所だった。

 そこは真っ黒で見ただけではどうなっているのかは分からない。

 

「………」

 

「……カユラ」

 

 不安に思っていたのを目ざとく感じ取ったのであろうカユラが、俺の手に自分の手を絡めて来た。

 

「大丈夫、どんな時も一緒だよ」

 

 この道以外は何もない空間で、その微笑は太陽の様に眩しかった。

 そしてその微笑を見た俺の不安な心は、いつの間にかなくなっていた。

 

「……そうだな。いつも一緒だよな」

 

「そうだよ。これは昔キリ君が言ったんだから忘れないでね」

 

「ああ、そうだな。……行くぞ優良!」

 

「うん。行こう和君!」

 

 そして俺と優良は獲物をそれぞれ携えながら、根本の部分に向かって一歩踏み出した。

 その瞬間、俺達は暗闇の中に落ちていった。

 

 

 

 

 

『……う、うぅぅん』

 

 キリトとカユラが落下してから数分後、二人は殆ど同時に目を覚ました。

 

「ここは……?」

 

「どうやら深く落とされたみたいだね。景色が全く違うよ」

 

 二人が今居るのは、先程までいた道以外何もない場所では無く草が生えた原っぱだった。

 原っぱの大きさは野球のグラウンドほどで、端にはそり経った岩の壁になっている。

 

「取り敢えず回復しよう」

 

 落下の衝撃によって、二人のHPはイエローまで陥っていた。

 それをポーションを呑んで全快させる。

 二人のHPが丁度全快したその時、二人を囲むようにして大量のモンスターがPopした。

 

「キリ君!」

 

「分かってる!」

 

 すぐさま戦闘モードに入った二人は、キリトは片手用直剣を、カユラは刀をそれぞれ一本ずつ両手に持ち背中合わせになる。

 そのモンスターたちはなぜかほとんどが、豆の化身のような姿の植物系や角ばった形の岩系の奴らばっかりだった。

 その事に疑問を思った二人だったが、多勢に無勢のこの状況でそれを深く考えている場合ではないので、一旦頭の隅に追いやる。

 

「どうする、カユラ」

 

「取り敢えず向かってくる敵だけ相手にして、様子を見よう」

 

「分かった。後ろは任せたぞ、カユラ」

 

「! うん。任せてキリ君!」

 

 危機的状況にもかかわらず、キリトの言葉に思わず嬉しくなってしまうカユラ。

 それもしょうがないのかもしれない。なぜなら先程キリトが言った言葉は、ずっとカユラがキリトに行ってほしかった言葉なのだから。

 

「キィ、キキィィィィ!」

 

 奇声をを挙げながら上げながら向かって来るモンスター。

 それにそれらを、二人で息を合わせながら被害を出来るだけ少なくして対処している二人。

 だが数分を過ぎた時、二人はある事に気付いた。

 

「ねえ、キリ君。こいつらって……」

 

「分かってる。俺も気づいた」

 

『メチャクチャ弱い(ね)』

 

 そう、襲ってくるモンスターたちはどれもこれもが驚くほど弱かったのだ。

 ソードす来る無しでもHpの七割以上が削れ、二連撃以上だと最早オーバキルになってしまうほどに、彼らは弱かった。

 

「ねえ、キリ君。これどう思う?」

 

「うーん……? バレンタインクエだから……かなぁ、としか……。カユラは?」

 

「私も全然。それよりも、私はあの豆の化身のような奴らと岩系の奴らの方が気になるんだけど」

 

 言われて、キリトはもう一度敵を注意深く見てみる。

 豆のような奴らは緑色と茶色のやつがいるが、どちらも形は細長く先がちょっと尖っている木の実みたいな姿だった。

 一方の岩系奴らは、どの個体も白くて、見た目に違いこそあるものの角ばっていた。

 だがどちらの姿も、キリトにはイマイチピンとこなかった。

 

「? あいつらに何か共通点でもあるのか?」

 

「共通点ってより、終着点かな? まあ私の思っている通りなら……だけどね」

 

「ふーん」

 

 気になりはしたものの、それはこいつ等を片付けた後でもいい、と思ったキリトは今はそれ以上は追及しなかった。

 そしてそれから更に十分ほど後、二人はモンスターたちを殲滅し終えた。

 

「おっ、レベルが二上がってる」

 

「本当だ。雑魚い割には経験値は結構多かったんだね」

 

「ん? この『シュティンガーの粉』ってなんだ?」

 

「どれどれ……。うーん? さっきの岩系モンスターのドロップ品じゃない?」

 

「じゃあこの『カチュカシュラオの豆』って奴は植物の方か?」

 

「多分ね」

 

「………」

 

 良く分からないドロップ品に、モヤモヤするキリトだったが取り敢えずその事は置いとく。それよりもカユラに聞かねばならない事があるからだ。

 

「なあ、カユラお前—————」

 

 ゴゴゴゴゴ

 

 キリトがカユラに質問しようとしたその瞬間、二人の立っている所が揺れ、地鳴りが聞こえだした。

 それ自体はすぐに収まった。

 何か変化はないか、と辺りを見回す二人の目に先程までは無かった者が見えてきた。

 

「これって……」

 

「扉……だな」

 

 ここに来る原因ともいえる、赤青の扉が岩壁にできていた。

 

「進む?」

 

「いかないだろうなぁー」

 

 このままここにいても埒が明かないのは明白なので、仕方なく進むことにした二人。

 ただキリトは、嫌々だったが。

 

 

 

 

 

 二つ目の赤青の扉を潜ったら、そこは牧草地だった。

 先程より二回りほど狭くはあるが、戦闘するに当たっては十分に問題ない広さだろう。中心地にいる奴らが相手でなければ。

 それは体長三メートルほどの大きな牛だった。ただし、角は人を余裕で貫けそうなほど大きいし、足の筋肉は到底牛には出せないであろうスピードで走ることが可能そうだ。

 だがまだ俺もカユラも見つかっていない。

 あいつらはのんびりと草を食っていた。

 なのでちょっとここいらで別な事を考えてみる。

 どれは勿論、カユラ——優良の事だ。

 今から約三か月ほど前、俺は昔から大好き——を通り越して愛していたカユラ——優良に告白された。

 だが、俺がヘタレなせいで今も優良には返事を待って貰っている。流石にそろそろ返事をしなければダメだろう。

 勿論俺は優良と付き合いたい。というより結婚したい。それ位に愛しているし、それ位に優良の存在は俺の中で大きい。

 だが決心がつかない。

 確かに告白をOKすれば、俺と優良の距離は今まで以上にグンッと縮まるだろう。だがそうしたら今までの俺と優良の関係には戻れない。

 確かにお互いの距離が近い方が俺もいいが、今までのこの距離感も俺にとっては落ち着くのだ。その所為で俺は中々踏ん切りがついていない。

 でも言い訳をさせてもらうなら、俺は優良との距離感等を変えようと一応の努力はしてきた。

 最近では優良に一緒に戦ってくれ、と言ったり背中は任せた的な事を言ってみたりしてきた。今までの俺ならば優良には安全な所にいてもらって、俺一人で危険地帯に向かっていただろう。だからこれは大きな進歩と言える。

 そして徐々に距離を詰めていき、それに慣れれば告白の返事(もちろんOK一択)をしようと思っていたのだが、最近の優良を見ているとどうも無理をしている感がある。

 理由は十中八九俺がまだ返事をしていない所為だろう。

 その事を優良に聞いても、

 

「告白したから今はこれで満足だよ」

 

 って言ってくれたりするが、あれは絶対に俺の事を気遣った嘘だ。

 俺も優良程ではないが相手の考えている事は分かる。だから彼女が俺を気遣って嘘を言って、負担になっている事を隠しているのも知っているのだ。

 だが、俺はそれでも告白の返事を出すべきか迷っていた。

 本当に、自分の事しか考えていなくてヘタレな自分が嫌になる。

 ……こんな時、何か俺達の関係を変える様な事が起きれば、と思う他力本願な自分は間違っているのだろうか?

 

「————ん。———君。キリ君!」

 

「え? ……ああ、ごめん。ちょっとボーっとしてた」

 

「それは見たらわかるよ。それよりもあの牛モドキたち、私達の事に気づいたみたいだよ」

 

 カユラに言われ、牧草地の中心地を見てみるとこちらを睨み鼻息を荒くしている牛型モンスター二頭がいた。

 二匹ともHPバーは二段。

 これはちょっと手古摺りそうだ。

 

「ッ⁉ 来るよっ!」

 

「分かってるっ!」

 

 予想を裏切らない見事な突進で、二頭は俺とカユラの所に突っ込んできた。

 

「さっきと同じだとは限らないから、出来るだけ攻撃は喰らわないようにね」

 

「分かってる。それと、ああいうタイプは正面の防御は無茶苦茶硬いと相場が決まってるから、攻撃する時は側面もしくは背面から攻撃な!」

 

「勿論!」

 

 迫りくる牛型モンスター『ミージャルク・ファルスタイン』の猛進を闘牛士の様にヒラヒラと避けながら、カユラと最低限のやり取りをする。

 そこから先は俺とカユラでそれぞれ一頭ずつ相手をした。

 

「ハァ……ハァ……⁉ カユラッ‼」

 

 ミージャクの猛攻を交わしながらカユラの方を窺い見てみると、彼女はモロにその攻撃を喰らていた。

 その光景を見た俺は心が締め付けられるような痛さを感じた。

 

「だい……じょーぶ!」

 

 幸いにも『力流』を使っていたようで、彼女のHPには変化はなかった。それどころか『力流』で回った勢いを利用して反撃に出ていた。

 だが、あの光景は心臓に悪いな。そういう技があるってのはもちろん分かってるけど、『もしも』があるからな。

 その後十数分ほどかかって、ミージャク二頭は倒した。一回目の戦闘と同じく、攻撃力はそれ程でもなくて防御力もあり得ないくらい低かった。

 そしてそれと同時に俺も、一つの決心がついてきた。

 

「……なあ、カユラ」

 

「ん? 何、キリ君」

 

 次の扉が出現するまでにまだ時間があったので、俺は思った事をカユラに言ってみることにした。

 

「出来るだけさ、『力流』は使わないでくれないか?」

 

「え? どうして? ……結構便利だから気に言ってるんだけど……」

 

 それは以前本人に聞いたので知っている。

 だが俺は、そんな事よりも俺をハラハラドキドキさせないでほしかった。

 はは……自己中な理由で他人を縛り付けるとか、最低だな俺。

 

「でも、カユラは『力流』を使う必要のない時でも使っているだろう? それをやめてほしいんだ」

 

「まあ、それは確かにそうだけど………うーん……」

 

 キッパリ断られるものだと思っていたけど、意外にもカユラは真剣に考えてくれた。

 それだけで、ちょっと嬉しくなる俺はかなり彼女にのめり込んでいるんだろう。

 

「ねえ、キリ君……」

 

「……ん?」

 

「それってさ、もし私が要らない怪我をしないかって心配で心臓に悪いから?」

 

 彼女を思っての提案だと彼女の中では確定しているのか、俺の方を真っ直ぐに見てくる彼女の頬は朱に染まっていた。そして何よりもその瞳は、俺の心を奥底まで見透かしているようだった。

 

「だ、だとしたらなんだよ!」

 

 そんな瞳で自分の心を覗かれるのが恥ずかしかった、俺は彼女から貌を背けて強めん口調で答えてしまった。

 

「クス……分かった、いいよ」

 

「……え?」

 

「だから、キリ君の意見を聞くって言ってるの」

 

 そんな俺が面白かったのか、彼女は微笑むとそう言ってきた。

 

「まあ、元々キリ君の意見を無下にするなんて選択は、私の中には無いんだけどね」

 

 そう言いながら悪戯っぽく笑う彼女は、何処か妖艶だった。

 

「でも、条件があります」

 

「な、内容次第になります」

 

「今後、私以外の異性と必要最低限以上の身体的接触はしない事、これが条件です。……この条件を呑めますか?」

 

 彼女は、普通以上に独占欲が強いんだろう。じゃなければこんな条件は出してこない。だが、彼女になら自分の行動を縛られてもいい、と思ってします俺は結構歪んでいるのだろうか?

 

「ああ、了解だ。そんな条件ならいくらでも呑んでやる」

 

 彼女が先程キリ君の意見を無下にするなんて選択は無い、って言っていたけど、それは俺も同じだ。だから精一杯かっこつけた背言葉で了承した。

 

「うん、じゃあ交渉成立」

 

「交渉かどうかは分からないけどな」

 

「アハハ、そうだね」

 

 途端におかしさが込み上げてきた俺達は、声をあげて笑った。

 

 

 

 

 

 それからちょっとして、俺とカユラは未だに牧草地にいた。

 何故か次に進むための扉が一向に出てこないのだ。

 だが、俺はこれ幸いとカユラに一回目の戦闘が終わった時に聞きそびれたことを聞いてみる。

 

「なあ、カユラ。一回目の戦闘中に、言っていたアイツらの終着点って何のことだ?」

 

「おしえなーい、教えちゃったらつまんないもん」

 

 機嫌がいい今なら答えてくれると思っていたが、その考えは甘かったようだ。

 だが彼女は分からなくて悶々をしている俺に、ヒントをくれた。

 

「じゃあ、ヒント。今さっき倒した牛型のモンスターも関係しているものです」

 

「うーん……もう一つヒント」

 

 余計に分からない。

 

「じゃあ、第二のヒント。疎の終着点は、キリ君も絶対に一度は現実(あっち)で見たことがあります」

 

「見たことがある……?」

 

 ? それはヒントになっていない気がするんだが……。

 そんな俺を他所に、俺達の目の前には例の扉が出て来た。

 

「まあ、まだ考えたいだろうけど取り敢えず進もっか」

 

「……そうだな」

 

 この時だけはこの扉を恨めしく思いながらも、俺達はまた扉を潜った。

 

 

 

 

 

「お疲れ様でした、お二方。着いてそうそうなんですが、キリト様は青の扉に、カユラ様は赤の扉に入っていただけます」

 

 扉を潜った先にいたのは、一番最初の扉の所であったNPCだった。

 いや、見た目だけが一緒で本当は別な個体なのかもしれない。

 

「うん、分かった。でも、キリ君のところにも、私の所と同じ造りにしてくれる?」

 

「大丈夫でございますカユラ様。そう言われると思いまして、既に準備はできております」

 

「わぁお、仕事が早いね。じゃあねキリ君、また後で」

 

 そう言ってカユラは赤い扉を潜っていってしまった。

 

「それではキリト様もどうぞ」

 

 NPCが俺を青い扉の方へ誘導する。

 

「はぁー……。分かったよ、潜ればいいんだろ」

 

 イマイチ状況についていけないが、進む以外に手はなさそうなので観念して扉を潜った。

 

 

 

 

 

「……へ? なんでキッチン?」

 

 扉を潜った先にはかなり大きいキッチンがあった。何を言ってるのか分かんないと思うが、俺にも分んない。

 だが、此処に来て唐突に俺の頭が妙に冴えわたる。

 浮かんできたキーワードは、『バレンタイン』『白い固形物と木の実と牛の終着点』『現実(あっち)あるもの』『キッチン』

 

「ああなんだ、そんな事か……」

 

 すべての謎が解けた俺は、その答えに従っていまするべきことをする。

 

 あれ? でもだったら、俺ってただ待ってるだけでもよかったんじゃ?

 

 そんな事が思い浮かんだのは、すべての作業が終わってカユラを待っている時だった。

 

 

 

 

 

「ごめんねキリ君。待たせちゃった?」

 

「うんや、俺もついさっき来たとこ」

 

 デートで定番の挨拶をした俺とカユラがいるのは、キッチンから更に扉を潜った場所で、ただの真っ白な空間。

 カユラにとってはもっと別な所の方が良かったかもしれないが、俺にとってはむしろ個々の方が良かった。

 園に周りに何かあった方が、色々と緊張しそうだからな。

 

「カユラ——いや優良、聞いてほしい事があるんだ」

 

「それは、今じゃなきゃダメ? これを渡した後じゃダメなの?」

 

 彼女がそう言って掲げて来たのは、綺麗にラッピングされた小さな袋。あの中に彼女手作りのバレンタインチョコ(本命)が入っているのだろ。

 だが、俺はそれを貰うよりもはやくにこの事だけは言っておきたかった。

 それは、さっき優良に渡すバレンタインチョコ(本命)を作っている時に考えたこと。

 今までの俺と優良の関係に終止符を打つ言葉。

 

「なあ、優良。俺達もいい加減に変わらなきゃいけないよな」

 

「突然なに? まあ、そうだとは思うけど……」

 

 訝しげにしながらも、ちゃんと俺の質問には答えてくれる。

 

「だからさぁ、俺達ももうこういう馴れ合いはやめないか」

 

「………え? 何言ってるの和君?」

 

「だから、こういった俺達のなあなあな関係をやめようって言ってるんだ」

 

「……それってつまり、告白の返事を聞かせてくれるってこと?」

 

 優良はいつになく真剣に、俺の話を聞いてくれている。

 

「ああ、そうだ。始めの頃は怯えていたシリカやリズが成長したのに、俺達が此のままってのもおかしいと思ったからな。……いい加減に俺達も成長すべきだと思ってな」

 

「……そう。……分かった、ちゃんと和君の気持ちを聞かせて」

 

 そういう優良の声は震えていた。

 何で彼女の声が震えているのかは分からなかったが、俺の答えはもう決まっている。だから、言う。考えに考え抜いた末にたどり着いた俺の気持ちを。正直に。

 

「優良、俺と……」

 

「……」

 

 言いながら俺は、ウィンドウを操作する。

 

「……結婚してくれ」

 

「………ッ⁉」

 

 俺の言葉と共に優良の前に現れるのは、『結婚をしますか?』というシンプルな表示。

 だが俺の言葉を聞き、目の前の表示を見た彼女は感極まって泣きそうだった。と言うより泣いていた。一滴一滴彼女の瞳から雫が溢れる。

 

「ほ、本当に……私で…いいの?」

 

 泣きながらに確認してくる彼女に、俺は一歩ずつ近寄る。

 

「ああ、俺は優良がいいんだ。いや、優良じゃなきゃダメなんだ」

 

「ほ、本当……に?」

 

「勿論。てか寧ろ確認したいのは俺の方なんだよな」

 

 一歩、また一歩彼女に近づく。

 

「恋人の段階をすっ飛ばしちゃうけど……いいか?」

 

「全然、問題ないよっ! むしろこっちからお願いしたいくらいだもん!」

 

 手の届く距離まで近づいた時、彼女は俺の腕の中に飛び込んできた。

 

「これからはまた違った関係でよろしくな、優良」

 

「うん。こちらこそよろしくね、和人」

 

 俺たちはそれからしばらくずっと抱き合ったままだった。

 

 

 

 

 

 お互い気持ちを落ち着かせるのに結構な時間を要したが、今はもうそれも落ち着いた。

 そして俺と優良は(この世界限定だが)夫婦になって初めての共同作業(・・・・)をしている。

 ……いや、ただ単にバレンタインチョコを一緒に食べているだけなんだけどな。

 

「はい、和君……あーん」

 

「あーん」

 

 優良が作ったチョコトリュフを彼女の手で食べさせられる。

 うん、これめっちゃ幸せ。

 そして驚くことに、味はまんま現実世界のチョコと同じだった。

 カーディナルの成長に驚愕しながらも、今度は俺が優良に俺作のチョコを食べさせる。

 

「優良、あーん」

 

「あーん」

 

 俺が作ったのはシンプルな星や丸の形をしたチョコだったが、彼女は美味しそうに食べている。

 何でも彼女曰く、

 

「和君の作ったモノならどんなものでも愛情が籠っているからおいしいの」

 

 だそうだ。

 ちょっと照れ臭いが、それを上回る位に嬉しい。

 

「……ね、ねえ和君」

 

「ん? どうした?」

 

 頬を赤く染めながら、チョンチョンと袖を引っ張ってくる優良(俺の嫁)

 ヤベェ、俺の嫁マジ天使。

 

「く、口移しで食べよう……」

 

 最後の方は尻すぼみになっていて聞こえずらかったが、彼女の言いたいことは分かった。

 だが流石に、普段彼女と一緒の布団で寝ている俺でも、それは恥ずかしい。

 だって、まだキスすらしたことないし……。

 だがここで、(優良)の頼みを断ったら男が廃る。

 羞恥心を心の奥底に押し込んで、彼女の頼みを了承した俺は自分の作ったチョコを、自分の口でくわえる。

 

「ほぉ、ほぉらふら」

 

「……う、うん」

 

 ゆっくりゆっくりと俺と優良の距離が縮まっていく。そしてついに俺達の距離は零になった。

 

 チュッ

 

 唇同士が触れるだけのフレンチキスだが、その時間はかなり長い。

 そしてお互いの体温(この世界には無い筈のもの)でチョコが溶けていき、ちょうど半分ずつになって俺と優良の口に入っていった。

 

「ん……ふぁ」

 

 優良が唇についたチョコ(何故かポリゴンの欠片にならなかった)やつを手で拭き、それを舐めとる。

 その姿があまりにも妖艶でエロチックすぎて、俺は思わず彼女から目を背けた。

 

「……ねえ、和君」

 

「ん? どうかしたか?」

 

 顔を背けている俺に彼女は、普通に話しかける。

 恐らく俺が顔を背けている理由が分かっているんだろう。

 うわぁ、恥ずかしすぎる。

 

「こっち向いて」

 

「いや……でも……」

 

「良いから向いて」

 

 語尾が強くなったので大人しく従う。

 あれ? 俺ってもしかして優良の尻に敷かれてる?

 そんな事を考えながら、彼女の方を向く。

 そこにはかなり真面目な表情をした彼女が真っ直ぐに此方を向いていた。

 

「これからも……よろしくね」

 

 だがその表情を一転させ、彼女は太陽のような眩しい笑顔でそんな事を言ってきて。

 その急変に呆気に取られるも俺は直に我に返り、彼女に負けない位の笑みで言った。

 

「ああ……これからもよろしくな」

 

 それは、このデスゲームが始まってから約三ヵ月経ったある日の事だった。

 

その後しばらくして気が付いたことだが、異性からのチョコを食べるとレベルが一上がる様だった。

だが、お互いにチョコを食べさせあった上に、その当人たちが他の異性にチョコを挙げなかったら、レベルは二上がるようだ。

因みに同性同士だと何にも起きないらしい。

恐ら、俺と優良が感じ取っていた『変な雰囲気』はこれの事だったのだろう。

だって、食べさせ終わった後にクエストクリアって表示が出たし。

 




これで今月の投稿は終わりです。
今月末に定期考査があるので、次の更新は来月になります。
後、何でもいいので感想下さい。

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