私的には糖度100%です。
甘かったら、感想に『砂糖口から精製した』とお書きください。
結婚
文字通りの甘い時間を過ごしたキリトとカユラは二十二層のギルド本部として使っているログハウスへと戻って来た。あの扉の中では時間の流れが違うようで、二人が出て来た時には既に辺りは赤くなり始めていた、とキリトとカユラは思っているのだろうが、実際は二人がイチャイチャしすぎて時間を忘れただけである。
『ただいま~』
『お帰り~』
俺とカユラがただいまを言いながらログハウスに入ると、すでに俺達以外は全員リビングにいた。
「随分遅かったようだが、何かあったのか?」
「……あ~、いや…特に何もなかったよ」
「あ、アハハハ~」
今冷静になって考えてみると、あの時の事は結構恥ずかし。だから自然と俺とカユラはキョドってしまった。
「んん~、何やら面白そうな情報が聞ける気がするナ」
「やめときなさい、アルゴ。そういうのは野暮ってものよ」
ナイスだルル。正直アルゴの相手をするのはメンドイのでとても助かった。
「ヒースクリフとエギルはどんな感じだったんだ?」
「いや~、正直聞いても何の面白味もねぇぞ」
「大丈夫ですよ。私とアルゴさんの所もそんなに面白い事は無かったですから」
「では、私が話すとしよう」
アスナの言葉を聞いて、ヒースクリフが彼とエギルの経験した内容を話し出した。
「私とエギル君は当然なんのだが青い扉に入った。そこには何もなかったので取り敢えず二人で進んでいたら一つの家が見えてきた。そこで警戒しながら入った私達を出迎えたのは大量の酒と一人のバーテンダーだった。私達は初老のバーテンダーに勧められるままに酒を飲んだ」
そこまで言ってヒースクリフは口を閉ざした。どうやらもう終わりらしい。
その後アスナとアルゴの話も聞いたが、二人もヒースクリフとエギルが経験したのと同じ様なものだった。
「ま、同性同士のペアはそんなもんだロ。それで、キー坊たち異性同士のペアはどうだったんだ?」
「俺とカユラは数回モンスターと戦った後、そいつ等からドロップした素材でカユラとチョコ作って食べさせあった」
「こっちも、そんな、感じだ」
「そうね、私とジョニーの所も大体同じよ」
「私もそうだったわ」
どうやら異性同士のペアになると全員アレをやらされるらしい。
下の階層のプレイヤーはどうするんだろうな?
「ふむ、これで全員の報告が終わったわけだが……キリト君とカユラは私達にもう一ついう事があるのではないのかね?」
『ッ⁉』
『……?』
他の皆が頭の上に?マークを浮かべている中、ヒースクリフだけがジッと俺とカユラの事を見ている。
いや、別に結婚したことについて隠すつもりはない。寧ろ俺達の方から言うつもりだったので、その事を示唆されたこと自体は何も問題ない。
だが、これだけは言わせてほしい。
あんた、俺とカユラの事について知りすぎだろう。
結婚した後俺とカユラの距離感はする前と変わっていない。逆に言えば結婚する前もそれだけ距離が近かったってことになるがそれはこの際おいておく。
「………」
「はぁ、分かったよ。……カユラ」
「うん」
『……?』
未だに状況を掴めていない皆を置いて、俺とカユラは皆の前に立つ。
改まってこういう事をするとなんか恥ずかしいな。
「なんか恥ずかしいね」
「……だな」
隣にいる彼女もそう思っていたらしく、俺にだえっ聞こえる声でそう言ってきた。
「え、ええと……この度私キリトと」
「私カユラは」
『結婚しました』
『…………』
ハモッた俺とカユラの声がログハウスのリビングに響く。
突然言われた皆は、一部を除いてポカーンとしている。
「ふむ、これでいくらか私の肩の荷も下りたな」
「congratulation。幸せになれよ、二人とも」
「congratulation。やっとgoalinか。随分かかったじゃあねぇか」
やはりこの三人は色々と別格の様だ。
てか、エギルとPoHの発音は相変わらず良いな。
「へ、へぇ~…結婚したのね二人とも。良かったじゃない。……年下に先越された。それもこれも全部アイツがッ!」
「うわぁ~、おめでとうございます、お二人とも。式には呼んでくださいね」
「へっ⁉ し、式⁉」
あ、今のカユラの声可愛い。
それと、ルルは何かここには居ない誰かに向かってブツブツ言ってるが大丈夫なのか? 何か黒いオーラも出てるぞ。
「あの歳で結婚とか……いっそ清々しいまでのラブラブっぷりね」
「仕方ないよ。ずっと両片思いだったんだから」
「いや~、これはいいネタになるナ」
「二人とも、幸せそう」
「いや~、めでたいな~」
彼らの驚きが思いのほか少ないのは意外だったが、皆から祝福されるのは素直にうれしい。
「あ、そう言えばキー坊」
「ん? 何だアルゴ」
「前にこのアインクラッドで一番最初に結婚した、グリセルダとグリムロックていうプレイヤーに情報を聞きに行ったことがあるんだがナ、その二人が言うにはここでの結婚はちょっと面白味が加わっていて、システムでやり取りした後に
アルゴがこそっと俺にそんな事を聞いて来た。
それにしても流石はアルゴ。そんなことまで知ってるなんてな。
「確かに結婚のやり取りをした後にそれは出て来た。だがまだ記入して無い」
「ふーん。因みにその二人が言うには、初々しい新婚さんみたいなやり取りが出来て幸せだった、て言っていたんだが……どんな内容なんだ?」
「……それは教えない。知りたかったら自分で結婚して確かめてみろ」
まー、確かにあの内容はイチャイチャするにはもってこいの内容だろうな。
「ちぇ、つまんねーナ。……因みに言っておくと、その二人はそれのお蔭で今でもイチャイチャラブラブしているらしいぞ」
「……そうか」
それからはちょっとした宴会をやった後、アスナとシリカとリズは就寝し、大人組+ジョニーとザザはそのまま雑談にはいった。
そして俺とカユラは、ここに来る前に二十五層で買っておいた新居へと向かった。
「あー、疲れた……」
「そうだな。フロアボスを相手にするよりも疲れたかもしれないな」
俺と優良の新は日本家屋の二階建てだ。ちょうど
さらにこの二十五層は温泉街の純和風の造りになっている。そのお蔭でこの家にも露天風呂がついているのだ。まあ、その分値は張ったけどな。
因みにここにいる時は
「しかし、晶彦さんも太っ腹だよな。ここの代金全部持ってくれたんだから」
「うーん、でもサブグラウンドクエストの報酬って言ってたからプラスマイナスゼロじゃない?」
ああ、そう言われればそうだな。
買ったばかりのこの新居だが、晶彦さんが優良の方のサブグラウンドクエストの報酬として内装も整えてくれたので、結構家具も揃っている。これ、全部でいくら位するんだろうな?
「さてと、それでは……」
「うん、そうだね」
改まった俺の意図を理解した優良は、アイテム欄から一つの用紙を取り出す。
それは紛れもなく『婚姻届』と書かれている。ただし、その文字のやや左上に『アインクラッド用』と四角く囲まれて書かれているけどな。
「それじゃあ、やるか」
「うん。……なんかドキドキするね」
「そうだな」
顔が薄らと赤くなっている優良と笑い合いながら、『婚姻届』の項目に二人で書き込んでいく。
「始めは記入日と付合開始日と結婚申出か」
「これは……全部一緒だよね」
「そうだな。正確に言うなら俺達は恋人の段階をすっ飛ばしたから、付合開始日は無いんだが……それじゃあなんか嫌だしな」
「ねー」
俺の言葉に相槌を打ちながら優良はそれらを記入した。
「えっと……この届書を記入する前に、二人の間に右記七項目があるか必ずご確認ください…だって」
「ふむ、項目は『愛情』『信頼』『思いやり』『覚悟』『責任』『忍耐』『笑い』か。問題ないな」
「だよね。寧ろここに『お互いへの依存』を入れても問題ない気がする」
「ハハ、全くだな」
そして優良はその欄に丸——ではなくなぜか半分だけのハートを書き込んでいく。
ニコニコ笑顔で書き込んでいくその顔はとても楽しそうだった。
「はい、和君」
「はいよ」
優良から書く物を受け取った俺は、優良の書いたハートのもう半分を書いて行く。
そして次は『夫になる人』と『妻になる人』を新姓で書くようだ。
そしてその左横に注意書きで、別にプレイヤーネームをそのまま入れても構いません。これはカーディナルが確認させていただいた後お返ししますので、
「これは…勿論
「当然。じゃないと結婚した意味が感じられないしね」
どうやら優良も俺と同じ考えだったようだ。
良かった。これで、プレイヤーネームにするって言われたら軽くショックを受ける所だった。
「じゃあどっちで書く? 桐ヶ谷? 茅場?」
「『桐ヶ谷優良』『茅場和人』……か。どっちも捨てがたいな」
う~む。これは結構悩むな。
「じゃあ桐ヶ谷で書いた後に、その下に()して茅場姓の奴も入れておく?」
「そうだな。そうするか」
どうやら優良もどちらがいいか迷っていたようだ。
そして最初に優良が自分の所を書いた後に、俺が自分の所を書いた。
……それんしても『桐ヶ谷優良』……か。いい響きだな。
「和君、顔がニヤケてるよ」
「えっ⁉ そ、そうか?」
「うん。ものすっごいニヤニヤしてる」
いやでも優良さん。あなたも顔がメッチャ笑顔ですよ。とは言わないでおいた。なんか水を差すような感じがしたからな。
「次は第三者への呼び方か——つまり俺が他の人に優良を紹介する時の呼び方か……」
『妻』や『奥さん』という色々な項目があったが、俺はそれらを選ばずに『嫁』の欄にチェックを入れる。そして呼んで欲しい希望の欄には『うちのひと』と書く。
「おー、やっぱり和君はそう呼んで欲しかったんだね」
そう言って優良は、その他の欄にチェックを入れて『うちのひと』と書く。そして呼んで欲しい希望の欄には俺が書いた『嫁』って書いた。
「以心伝心だな」
「フフフ、そうだね」
そう言いながら優良は俺の肩に頭を預けて寄りかかって来た。
まあ、呼び方が些か古いのはそれぞれの家が『古き良き』だから仕方がないだろう。
そしてその次はお互いの呼び名。
「第一希望はどちらも名前でいいとして……」
「問題は第二希望だよね……」
因みに優良の第一希望の欄には『和人』の下に()で『和君』と書かれている。
「子供が出来た場合を考えて『お父さん』『お母さん』ってしとく」
「だったら、『パパ』『ママ』でも良くないか?」
「いやでも昔何かの情報媒体で知ったんだけど、子供の前で赤ちゃん言葉ってあんまり良くないらしいよ」
「……今からそんなに悩まなくても」
結局『お父さん』『お母さん』の下に()で『パパ』『ママ』とも書いておいた。
……俺達()で書き足すのが多いな。
「次は理想の献立と朝食の希望か……」
「……」
俺が悩んでいる間に、優良が何やら書いて行く。
そこには二人の欄全部使って『その都度、作る係りも献立も二人で相談して決める』と書いてあった。
「それが一番適切だな」
「エヘヘー、でしょ~」
優良の頭を撫でると惚けた笑顔でこちらを見て来た。
クソッ、俺の嫁超可愛いな‼
そしてその次は『休日の二人の時間・過ごし方』だった。
「『アクティブ』と『まったり』だったらどっちにする?」
「う~ん……あっ! こうすればいいんじゃないか」
俺は『アクティブ』と『まったり』の両方にチェックを入れると、『理想プラン』の欄を上下に分けて上の欄に『茅桐竜の稽古』『狩り・攻略』と書き込み、下の欄に『二人で縁側でゆっくり過ごす』『のんびり昼寝』と書いた。
——俺の願望が入っているのは、見逃してほしい。
だが、自分でもナイスアイディアだと思った————のだが、
「全く、和君は肝心な事が分かってないね」
俺の嫁さんはそうは思わなかったらしく、頬を膨らましながら俺が引いた線の上に書き加えていく。
そこには『イチャイチャしながら』と書かれていた。
——ああ、なるほど。
「和君、一番大切な事……分かった?」
「よーく、分かりました」
眉をへの字にしながらこちらにそう言って来る優良。だけどその顔が愛おしくて面白くて。俺は怒られているはずなのに、自分の頬が緩むのが抑えられなかった。
「むぅ、私が怒ってるのにニヤニヤして……」
「ごめんごめん。それより、次に行こうぜ」
これ以上不機嫌になられるとちょっと困るので、露骨かもしれないが話題を変える。
「ええと次は……———ッ⁉」
「ん? どうしたの和君?……ああ、これね」
何故かうちの嫁さんは冷静だった。
———いや、これは……。
「はぁ、仕方ないな……」
「ん?」
どうするか悩んでいると、優良が俺から二歩ほど離れて姿勢を改める。
「ええと、コホン。和君」
「は、はい。何でしょう……」
急に態度が改まったので、こちらもなぜか緊張してきた。
そんな俺を他所に優良は花が咲いた様な笑顔になると、
「——和人、ご飯にする? お風呂にする? それとも……?」
「———ッ⁉」
その時俺を襲った衝撃はとても言い表せるものじゃなかった。
そして俺は迷わず、三つの欄すべてにチェックを入れた。
「やばい、俺の嫁最高」
「そ、それは良かった」
やはり優良も恥ずかしかったのか、俺の隣に戻ってきた彼女の頬は赤くなっていた。
そして次の質問も中々アレな内容で、毎日のキスの有無と回数だった。
「まあ、これはこうだよね~」
俺が何か言う前に優良が書き込む。
最初は勿論『有』で『出勤時』『帰宅時』『就寝時』『その他』全てにチェックが入っており、回数は∞だった。
「そうだな、実際はどのくらいするか分からないからその方がいいな」
「でしゃ?」
——得意げな顔でこちらを見て来るウチの嫁が可愛すぎます。
「次は『夫婦間での決まり事・約束事』だね」
「『帰りが遅くなる際は必ず相手に一報入れる』『喧嘩をした日も必ず一緒に寝る』『飲みに行く日は誰と行くか伝えておく』は有の方にチェックで『相手が作ってくれた料理に口出ししない』は無の方に、『お見送りは最低でも玄関までは行く』『年に1度は一緒に旅行に行く』は両方にチェックだな」
「『相手が作ってくれた料理に口出ししない』が無なのは口を出した方が上達するからで、『年に1度は一緒に旅行に行く』が両方なのは忙しくて行けなかったり家でのんびり過ごしたい年もあるからだと分かるけど、『お見送りは最低でも玄関までは行く』が両方なのは?」
「いや、体調が悪かったりしたら無理はさせられないだろ」
「和君……大好き‼」
「ちょっ⁉ おわっ!」
俺の言葉に感極まって優良が抱き付いて来た。その所為で倒れそうになるのを、攻略組トップクラスの筋力パラメータで耐える。
——ですが優良さん、何にとは言いませんが俺の顔が埋まってます。心地? 最高です。
そして少ししたら解放された。
……ちょっと残念に思ってしまった俺は、ムッツリなのだろうか?
「次は家事の分担だな」
「これは『出来る方が出来る事をやる』でいいよね」
「そうだな。あまり細かく決めると揉めそうだしな」
これはあっさり決まった。
「次は老後の過ごし方だけど……」
「二人一緒に入れればいいよね」
「そうだな」
これもあっさり決まる。
そして最後の項目がやって来た。
最後の項目は『誓い』だった。
「婚姻理由——決め手……か」
「和君はなにが決め手だったの?」
俺は優良のその問いには答えず、夫の欄の婚姻理由の所に書き込む。
『いつも健気で、真っ直ぐでだけど何処か不安定な優良と、ずっと一緒に支え支えられていきたいと思ったから』
「じゃあ……私も」
俺の奴も見た優良も妻の欄に書き込んでいく。
俯いていてその顔は見えなかったものの、彼女の耳の赤さと雰囲気から彼女の顔が綻んでいるのは容易に想像できた。
『強くて、優しくてだけどすぐに壊れてしまいそうな儚さをもった和人に守られるだけでなく、ずっと隣で支え支えられるようになりたいと思ったから』
『………』
書き終わった優良と視線が重なる。
自分の顔がどうなっているのかは分からないが、きっと彼女に向かって微笑んでいるのだろう。だって、彼女が俺に太陽の様な微笑みを見せてくれているのだから。
そしてその下の『理想の夫婦像』には二人で同じことを書いた。
『お互いの事を想い、いつも一緒に支え支えられる関係でいること』
「最後はそのまま『誓い』だな」
「ねえ、和君。私からいい?」
「いや、俺からするよ」
「え?」
俺の言葉に違和感を覚えた優良は俺の方を向く。
すると彼女の事を見ていた俺と視線がぶつかる。
「———優良を守る。最後の一瞬まで一緒に、優良の隣にいる……」
すると優良も体の向きを変えて俺と向き合った。
「———私も和人を絶対に守る。これからも何があろうと、和人の隣にいます……」
そして見つめ合った俺と優良の距離は近づいていき……結婚式のように誓いの後のキスをした。
その後、先程言った言葉を『誓い』の欄に書き込んだ。
———二〇二三年二月十四日。この日は俺と優良の心に一生忘れない日となった。
ご愛読ありがとうございました。
次回はホワイトデーです。
感想・評価・誤字脱字の報告を待っています。