落第騎士の英雄譚~世界最強の剣士の弟子~   作:火神零次

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最近、台風ラッシュなので、台風が来た日は爛たちはどうしてるかなぁと思い立ったので書いてみました。番外編は思い付いたらテキトーに書いてあげときます。
一応、この手に関しての活動報告はあげていないので、この話を書いてあげたときに、活動報告でしっかりと書いておきます。とりあえず、注意すべきことはテキトーに書いていることですかね。

あ、皆さんも、台風はお気をつけて。


台風が来た

 台風が来た。風は吹き荒れ、雨は絶えず降り続け、時には雷が落ちてくる。

 爛は買い出しに行こうとしても、六花たちに外出をすることを禁じられ、室内で過ごしている。実際には爛のことを案じてのことなのだ。

 それも、爛が室内にいる理由のひとつなのだが、最も、六花たちが爛から離れたくないのは、雷が落ちてきているからだ。特に、明は雷が誰よりも怖く、いつも爛に抱きついていないと不安で仕方がないのだ。

 

「お兄ちゃん……」

「大丈夫だって。不安になりすぎだ」

 

 明は爛に抱きついて不安な表情をするものの、爛は頭を撫でながら苦笑を浮かべた。

 それにしても、雷が異能の爛は落ちてくる自然の雷も平気なのだが、明は異能は平気でも自然に起きる雷は苦手なのだ。以前、小さいときには明は爛から一日中くっついたままで過ごしたこともあるのだ。

 それが、今になっても無くならないというのは、困るものなのだが、どうもそれが嬉しくもなる。兄の性なのだろう。妹からは好かれていたいという気持ちがあるのかもしれない。

 爛のことを強く抱き締めてくる明には、微かに震えていた。

 

「そんなに体を震わせなくても、大丈夫だから」

 

 爛は明を優しく包むように抱き締めた。明としてはとても嬉しいのだが、それでも雷の恐怖は消えない。

 

「………六花、どうした?」

 

 後ろから抱き締められている感覚がした爛は、それが六花だと分かったのか、六花に尋ねた。

 

「………怖い」

 

 六花から聞こえてきた言葉に、爛はどれなのか考え始めた。元々、彼女の異能は雷。雷に怯えることはないはずだ。となると、荒れ狂って吹き続けている風なのだろうか。

 

「何が?」

 

 どうも考えにくいと判断した爛は、彼女に何が怖いのか。それを尋ねてみた。彼女から返ってくる答えに唖然とすることとなる。

 

「………雷」

 

 雷が怖いと六花は答えた。異能が雷であって、一番馴れているはずなのだが、彼女は体を震わせている。離れようとする気はないらしい。

 どうしたものかと爛は考えるが、いつもとあまり変わっていないことに気づいた爛は、暫くこのままにしておこうと決めた。

 

「……………………………」

 

 明の震えが無くなるようにと頭を撫で続ける。六花は爛の背中に張り付くように抱きついていた。

 

「こっちに雷は落ちてこないのですから、そんなに怯えることもないですよ」

 

 リリーが爛に寄り添うようにして隣に座る。確かに、リリーの言う通り、破軍学園は備えをしっかりとしている。雷は此方に落ちてくることはないのだが、それでも二人はまだ怯えている。どうやら、雷が鳴るのを止めるまで怯え続けるのではないかと、爛は思い始めた。

 

「リリーは雷は怖くないんだな」

 

 リリーは雷に怖がる素振りは見せず、いつも通りに過ごしている。

 

「はい、雷には馴れていますから」

 

 リリーは笑みを浮かべて、爛に寄りかかるように体を寄せる。爛は拒まずに受け入れると、リリーは嬉しそうな表情をした。

 

「そうか。雷を怖がってるよりは馴れてた方がいいよな」

 

 爛は明と六花を見ながら言うと、外の方へと視線を向けた。

 爛は顔をしかめた。いつも降る雨も、今ではあの時と同じような雨に感じる。思い出したくもないものが、呼び起こされる。守ることができたのは少ない、数えるほどしかない。だからこそ、もう失わないように、守るしかないのだ。

 

「そんな怖い顔をしない方が良いわよ」

「……雪蓮」

 

 爛が顔をしかめていたのを見ていたのか、それが良くないものだと感じていた雪蓮は、爛の額を指先でつつくと、爛はしかめていた顔を元に戻した。

 

「そうだな、お前の言う通りだ」

 

 爛は雪蓮に優しい笑みを向け、明を見た。まだ震えている明に、爛は苦笑を浮かべた。

 

「こっちに落ちてくるわけじゃないから、そんなに怯えなくても大丈夫だ」

 

 爛は明に対して、安心させるように言うが、それでも明は不安そうな表情をして、爛に抱きついたままだった。

 

「実際、雷よりも怖いのは風だぞ? 飛ばされてしまうかもしれないからな」

 

 爛の言う通り、雷は高いところに居なければ問題はないだろう。しかし、台風の前では風の方が厄介だ。とても強い風が吹けば、飛ばされてしまうかもしれない。

 

「うぅ、そうなると、風の方が怖いかも……」

 

 後ろの方で聞いていた六花は、雷よりも怖いと思ってしまった。

 

「ま、部屋にいれば、雷だろうが風だろうが、平気だと思うけどな」

 

 台風のせいで外が暗く見える。雨は横殴りに降り続けている。外に出れば、傘を持っていても濡れるだろう。そういえば、買い出しに行こうとしていたのを止められ、ジャンヌと総司が買い出しに行った。この雨だ。濡れて帰ってくるだろう。

 帰ってくる彼女たちのために、タオルとかを用意しておきたいのだが、立ち上がれない。

 

「この雨のことだから、買い出しに行った二人が濡れて帰ってくる。タオルとかを用意しておきたいんだけど……立たせてくれないか?」

 

 リリーは分かってくれるだろうが、六花と明に関しては、離れてくれないだろう。怯えて抱きついている二人は、爛から離れればそれこそ不安で仕方がないはず。爛としても、それは出来るだけ無い方がいい。

 

「………寝るときは一緒に寝てやるから、な?」

 

 二人に向けてそう言うと、渋々、離れていった。

 立ち上がった爛は、タオルを取り出しにいく。その時、外で雷が鳴り、そして落ちた。

 

「お兄ちゃんッ!!」

 

 爛を呼ぶ声が聞こえる。とても大きな声で誰が呼んでいるのかはすぐに分かった。

 

「ん、どうした」

 

 爛を呼んだのは明だ。今にも泣きそうな顔をしている彼女は、爛に抱きついて来た。

 

「落ちたよね、落ちたよね!」

 

 ぐわんぐわんと爛を揺さぶりながら、雷が落ちたことを確認する。

 

「落ちたな。っていうか、揺さぶるの止めてくれ」

 

 爛は明を落ち着けようとする。しかし、雷が落ちたことにより、パニック状態に近い彼女は、落ち着くことができない。

 爛は何とかそれを止める。

 

「明、落ち着け。大丈夫、大丈夫」

「う、うん………」

 

 優しく、包む込むように明を抱き締め、頭を撫でる。爛の言うことに従い、頷くと深呼吸をする。

 明が落ち着くまで待っていると、玄関のドアが開く音が聞こえる。ジャンヌと総司が帰ってきたようだ。

 

「二人が帰ってきたみたいだから、俺は行くよ」

「うん…………」

 

 何処かに行くわけでもないのに、明は居なくなってほしくないという表情をした。

 

「そんな顔をするな。後で相手をしてやるから、今は我慢な」

 

 爛はもう一度、明の頭を撫でると、玄関の方へと向かった。

 

「おかえり、二人とも。って、傘を持っていったのに随分と濡れたな」

 

 爛はタオルをもって、ジャンヌと総司の元へと行った。二人は傘を持っていったが、びしょびしょに濡れていた。爛はすぐに二人にタオルを渡した。体を拭こうと思った二人だが、その手を止め、爛に視線を向けた。

 

「どうした?」

 

 二人の視線を感じた爛は首をかしげた。爛は拭くところを見ようとしているわけでもなく、二人が買ってきてくれたものが入っている袋を持っていこうとしていただけだ。

 

「………マスターが拭いてくれませんか?」

 

 顔を少し赤くした総司が爛へと近づいて、上目遣いで言ってきた。爛の視線は総司の方へと向く。爛は目のやり場に困り、果てには顔を赤くしてしまう。

 雨で濡れているため、服はぴったりと肌について、濡れた服が体の形を象っていた。総司の豊満な胸が視線にチラチラと入ってくる。

 

「………自分で拭いてくれ」

 

 何とか紡ぎだした言葉でそう言うと、濡れた服のまま体をくっつけてくる。

 

「……ダメなんですか? 沖田さん悲しいです……」

 

 悲しい表情をして顔を伏せてしまう。その表情を見た爛は、悩んでしまった。総司か求めていることに答えるのか、それとも、自分のやることを優先するのか。

 

「私はどちらでもいいですけど……できれば、マスターに……」

 

 最後まで言えないのか、顔を赤くして目を泳がせる。

 

「………分かった。けど、さっさとやるからな」

 

 爛はタオルを貰い、急いで二人の体を拭く。このままじゃ、二人とも風邪をひいてしまう。サーヴァントは風邪をひかないはずなのだが、何故か、爛がマスターだと通常の人並みの免疫力しか無いらしく、特別、インフルエンザ等にはかからないものの、風邪だけはひくのだ。爛でさえ、その理由は分からない。

 恥じらいが捨てきれない爛は、顔を赤くしたままで、二人の体を拭いている。必死になってやっている爛を見て、二人は笑みを溢した。

 二人の体を無事に拭き終えたときには、爛は顔を真っ赤にしており、耳まで赤くなっていた。

 

「可愛いです……♪」

 

 終わったあとに、総司は爛の耳元で呟くと、爛は更に顔を赤くし、手で顔を隠してしまった。

 その後、ジャンヌと総司にシャワーを浴びてもらい、明と六花に抱きつかれたまま過ごした。

 爛にとって、台風が来る日は面倒な日に変わっていった。


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