落第騎士の英雄譚~世界最強の剣士の弟子~   作:火神零次

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此方の方は先週ぶりといったところですね。最近、前書きに書くものの題材がなくなってきました。あ、あったわ。台風22号が発生してましたね。台風だらけじゃないか。北海道では被害が出ていると言うのに……と思いながらテレビを見ていました。皆さんも台風には気を付けてください。

活動報告にて次回の話などの方針などが書かれていますので、気になる方は活動報告を確認ください。


第79話~弱者に化けたもの~

「え、ステラは来れないの?」

 

 ステラに尋ねる声が、一輝の部屋から聞こえてくる。彼女にはある思いがあるのだ。

 爛が暴走をしたとき、あれほどの強大さを見たことがなかったステラにとって、あれは壁であり、あれを超えなければならない存在になっていた。

 正直にいって、爛本人の力を測りきれていない。それに、あれほどの強大さを持っているのは暴走しているからと言えるとは思うものの、ステラは爛がどこまで進んでいるのか(・・・・・・・)、それが分からないのだ。

 

「えぇ、ごめんなさいイッキ。アタシは強くならないといけないの」

 

 ステラの目は本気だ。それは、ステラの側にいるからこそ、すぐにわかるものだ。口先だけじゃない。それは彼女は絶対言わない。強くなるために、七星剣武祭の団体戦はしないとも彼女は言ってきた。

 

「個人戦で、アタシは来るから。団体戦は、お願い……」

 

 普通ならば受け入れてもらえないはずのお願いだ。だが、それは一輝も分かっている。空いた穴を埋めることのできる者がいることも知っている。それでも、お願いをしてくるということは、自分たちが対等の存在であり、彼女が好き勝手にしていない証拠でもある。

 

「分かった。爛たちには僕から話しておくよ」

「ありがとう……! イッキ」

 

 一輝は快く承諾した。話を聞いていない爛たちには、自分から伝えておくと言うと、ステラは感謝の言葉を贈った。自分の好き勝手に付き合ってくれる相手など、幾らでもいる。でも、ステラは対等な存在に頼むことなどそれほどないはずだ。ステラを大切に扱ってくれる家族やヴァーミリオン皇国の国民たち。しかし、一輝や爛のように大切に思ってくれるものの、対等な存在というものがステラには戦う者の中でいなかったのだ。

 自分が、誰よりも強かったからこそ、国民は讃え、敬われるようになっていた。そんな日常を壊した一輝たちは皇女と別の国の人という関係ではない。ルームメイト、それでいてライバルだ。立場が同じであることは、一輝にとってもありがたいことだ。しかし、政治ではそんなことは関係がない。その事は、分かっている。しかし、政治でも何でもないこの時間が、同じ立場であると分かる時間だ。

 

──────────────────────

 

「へぇ、力をつけたいと……」

 

 後日、爛はステラに呼び出されて、学園の裏に来ていた。爛は目を細め、ステラを見据える。彼女は本気で力を持ちたいと言っているのだ。以前にも黒乃と寧々に師事していたとはいえ、強くなっているところを間近で感じるのはとても嬉しいことだ。出来ることならば、ステラも見たいところだが、簡単に教えるわけにはいかない。元より、あの二人にも簡単に教えていない。

 

「教えてほしいの。アタシには何が足りないのか……!」

 

 真剣だ。彼女の様子に、その一言に尽きてしまった爛は溜め息をついた。

 

「……ステラ……そう簡単に教えると思うか?」

 

 爛の言葉に、ステラは意外だと思ったのか、目を見開いて驚く。ステラはそのところに気が回っていない。

 師事をすることに黒乃と寧々で馴れている爛は、一輝ほど簡単に教えてくれない。一輝は自分よりも技術のない者に師事するため、簡単に教えてくれる。技術を教えるのは同じとはいえ、格というものが違う。ステラは育てることができればとても強くなる。それこそ、師を超える可能性も持っているのだ。

 

「分かってるわ。どれだけ辛くても……アタシは絶対にやってみせる……!!」

 

 気持ちが昂っているのだろう。それだけの気持ちがあるだけでも、嬉しいところはある。しかし、彼女が真の力を引き出せていないのは爛も分かっている。だがそれが、どれほどの強大なものとなるのかが分からない。

 

「その心意気はいい。だが、師事して貰おうとしている相手を間違えているとだけ言っておくぞ」

 

 爛はそれだけ言って、学園に戻ろうと歩き出す。爛の言葉にステラはまだその意味を知らない。

 

「どういうこと? ラン、教えて───」

 

 ステラが言い切る前に爛は鋭い視線をステラを向けた。殺気とも言えるその視線を感じたステラは、息を飲んだ。喉元が冷たい。暖かいはずのところがとても冷たく感じる。

 これが、世界最強の剣士を師に持ち、世界時計(ワールドクロック)夜叉姫(やしゃひめ)に師事していた者の眼光だと。

 

「寧々に勝ってから言ってくれ。勝てなくても、物好きなあいつなら教えてくれるんじゃないのか?」

 

 爛は、断った。

 その瞬間、ステラの目の前が暗闇のなかに放り込まれたようになった。今まで、自分の強さを引き出してくれるのは、爛であると思っていた。いつか、大切なものを教えてくれる存在であると思っていた。

 

「ちょっ、ちょっと、どういうことよ!」

 

 ステラは爛を問い詰める。言葉に込められている爛の思惑はステラには伝わらない。直接、言わなければ伝えられないのか。

 ステラに必要なのは自身の評価を見直すこと。ステラの強大な力は認めつつも、それが本当にステラの力ではないことは知っている。

 

「……お前は本当に、その力で物足りてるのか?」

「えっ……」

 

 爛の質問に、ステラは唖然とする。

 爛の目はステラを射抜いている。今、下手に動けば何をされるのか分かったもんじゃない。

 

「その力だけで満足しているか、と聞いている」

 

 その質問に、ふざけてなどいない。まだまだ伸びることができるステラを生かすことも殺すこともできる爛からすれば、本人の意思で決めるものだと感じている。ステラの可能性はどこまであるかは爛でさえ知らない。

 

「いいえ、満足はしてないわ。寧ろ、足りない」

 

 ステラの回答に、爛は頭を悩ました。その心意気は良いのだが、行き過ぎると自分の身を滅ぼしかねない。爛は、それで後悔をしたことがあった。

 

「……まぁ、満足をしていないのであれば、寧々に教えてもらえ………俺はもう行く」

 

 爛は切り捨てたように言い放ち、学園へと戻っていく。

 後日、ステラは寧々に戦いを挑むも、圧倒的な力の差に敗北。爛に師事してもらうことは叶わず、寧々に師事してもらうことになった。

 爛は七星剣武祭が行われる大阪へと行く。既に六花やリリー、一輝たちは大阪に入っているものの、爛は遅れながら七星剣武祭二日前に着く。

 そこからは、ゆっくりもしていられず、選手たちが招かれ、立食パーティがされる。その催しの参加を余儀なくされている爛は、自身の格好を整える。

 

「まさか、こんなところでこういうのを着るとは……」

 

 爛が着ているのは、巫女服にも似ているものだが、着物のであり、これは宮坂家の正装となる。女性のような見た目をしている爛でさえ、これを見れば誰でも女性だと見間違うほどのものだ。

 

「父さんも母さんも、可愛いからって女性用のものを渡して……でも、男性用って父さんの分しか無かったっけ」

 

 こうなってくると、少し口調を変えなければならないか。というか、何故こんなものを渡してきたと問い詰めたいが、今ここに居るわけではなく、電話で問い詰めたところで意味はない。

 

「まぁ、こういうのも、たまにはいいか」

 

 姿見で自分の着たものに変なところはないかと見るが、特に気になるところもなく、問題はないだろう。

 柱時計の重い鐘の音が鳴る。午後六時、パーティの時間を知らせる音だ。

 

「んー、行くとしよう」

 

 普段の口調がでないように気を付けつつ、いつも通りにしていればいい。

 沙耶香は爛が大阪に行く前に、行くところがあるとだけ言い残して居なくなった。無事だろうかと思うのも兄の性だろう。

 情報上では爛はFランク。出来れば何事もなく終わってほしいものだが、六花たちが居るのだ。何事もなく終わることは別の意味で無いだろう。

 楽しくざわめきが漏れて聞こえている扉を押し開く。

 

「…………………………………」

 

 爛は自分のところに視線を向けてきた者たちを一通り見る。静かだ。とても、沈黙が流れているなかで、爛は一通り見ただけで興味を無くした。何も興味はないという表情を浮かべながら、爛は歩き出す。

 待っていると言われた場所に向かっているなかで、ざわめきが取り戻されている。

 

『『予測不能の騎士(ロスト・リール)』……いや、『鬼神の帝王(クレイジーグラント)』か。凄いな、これは』

 

 その声に爛は気を付けていなかったものに気づく。

 

(やれやれ、気配の方には気を遣っていなかったか)

 

 爛から放たれているのは剣気。それに興味を持つ者はほとんどだ。にしても、肩書きはFランク。興味を持たれることがないだろうと思っていた爛にとって、このような視線が向けられているのは予想外と言ってもいい。だが、これだけの剣気を無意識に放っていたとなると、周りからすれば、弱者に化けたものなのだ。

 どうにも気になるものがある。爛は感じているのは異様な気配。近寄らせないように威嚇しているが、どうも止まる気はないらしい。

 

「この場で暗殺でもする気ですか? 『多々良幽衣(たたらゆい)』さん。バレバレですよ」

 

 後ろを振り向いて、笑みを見せた。爛に気づかれていないと思っていたのか。しかし、爛の鋭さには勝てない。

 

「気づくたぁ、良い勘してんじゃねぇか。お遊びでやっただけだよ」

 

 少女とは思えない口調で話している彼女は、多々良幽衣。爛の記憶が正しければ、反射使い(リフレクター)の少女だ。

 

「今日はお互いにオフだろ? だったら、楽しもうぜ」

 

 彼女は皿を取り、幾らか料理を乗せて渡そうとした。その時、爛の冷徹な視線が刺さる。襲撃の時に向けられていた視線ではない。軽蔑するような視線だ。

 

「何か、するつもりでしょうか?」

 

 わざと、取り繕った笑みを見せた。それはすぐに彼女も気づいた。弄ばれている、その事にも分かっている。しかし、それに気づいていないふりをしながら、皿を渡してきた。

 

「えぇ、そういうのは、刺激的なスパイスはいりませんし、貴方も食べないでしょう? 人に食べさせるのだから、毒をいれるのはどうかと」

 

 爛は受け取った皿から毒の入ったものを取り除く。消えていった。そう判断するのが良いだろう。

 

「今日はオフでしょうに。だからこそ、殺したいんですか?」

 

 皿を置いた爛に対し、多々良は笑みを浮かべていただけだった。

 多々良から感じていたのは悪意。それしか汲み取れていなかった爛は、警戒をしていたのだ。無論、それに気づいている者たちは多い。気づかない方が可笑しいとも言えるほどだった。

 爛は気配で威嚇をする。軽くするのではない。彼女はこの中では強者であることは間違いないからだ。かといって、この中にいる誰よりも強いというわけではない。

 

「ったく、簡単には殺らせてくれねぇのかよ」

 

 面白くないような顔をした多々良は爛と同じように殺気をぶつけてくる。

 それに動じることはない。あれ以上のものを幾つも受けてきたのだ。彼女の殺気は爛を動じさせるのには不十分(・・・)過ぎるのだ。

 

「その辺りで止めといた方がいいよ。多々良」

 

 

 ーーー第80話へーーー


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