Fate/stay night 槍の騎士王と幼い正義の味方   作:ウェズン

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アーチャー「…………」

凛「…どうしたの? さっきから落ち込んで」

アーチャー「いや、少し…気分が悪いだけだ」

凛「ふぅん(サーヴァントの体調ってマスターが悪くなくとも変わるっけ?)」




と前回のことで落ち込んでいるアーチャーでした。



第九夜-顕現の時きたれり、其の者の名は-

 あれからまた時間が経ちいつの間にか来た大河と凜、アルトリアの四人で夕食を済ませ8時を過ぎようかという頃、

 

「――えっ? それって、本当に!?」

 

 大河が帰った頃を見計らって凛は士郎に柳洞寺、ひいては近辺の情報も集めたらしくそのことについて教えていた。

 

「ええ。ここ最近衰弱していっている人が妙に多い。死んだ人は今の所誰もいないけど、これは明らかにサーヴァントによる仕業ね」

 

 その情報は周辺で起きた奇妙な事件の数々。凛が言うにはここ最近急に体が弱りだした人が大量に発見されたとの事。それも老若男女関係なくだ。

 

「…! それって、サーヴァントが普通の人達を襲っているってこと?

 …けど、なんで?」

 

 凛はそう言うが、何故そのような事をしているのか。ただ目撃者だったのであればまだ判るが、殺していないところを見る辺りそういうわけではなさそうだ。

 

「まあ、襲っているというか、このサーヴァントは魔術で人から生命力を吸いとっているのよ。つまり、キャスターのサーヴァントってことね」

 

 何故生命力を、と士郎が問うと生命力は魔力になるらしく敵が狙っているのはこれだろうとのこと。

 だが、そうだとしても疑問はまだ湧く。

 

「でも、そんなことしてどうするんだ?」

 

「…う~ん。まあ、考えられるのは魔力を集めて何か最大級の魔術、もしくは宝具を解放するといったところかしら。

 けど、そんなことをしないといけないほどって一体…。

 それに、もし本当にそんなことならギリギリ生かすような真似なんてしなくてもいいと思うんだけど」

 

 確かに、本当に一般人を巻き込むのはご法度だ。だが、そんな人の生命力を貰わなければいけないほどの大がかりなものならば生かしておいたところで発動すれば諸とも吹き飛ばすと思われる。

 無論、そのような事をすれば、隠蔽はほぼ不可能だ。そのため前回の聖杯戦争でもあったように神秘の秘匿を害したと見なされ、複数のサーヴァントに狙われかねない。だが、

 

(――って言っても、あのサーヴァント達からすればルールなんてほとんど有って無いようなものだしね。

 その時は綺礼にばかり任せずに私もセカンドオーナーとしてそのサーヴァントを討たないと)

 

 いざというときの状況も想定内にいれておかなければセカンドオーナーとして失格になるだろうと考えておく。

 

「…大がかりな魔術って言ってもさ、どんな魔術があるんだ?」

 

 しばらく考え事をしていた士郎はふと気になったのか聞いてくる。

 

「ん? ん~。まあ、よく知られているもので固有結界とか、町一帯を吹き飛ばす魔術とかいろいろあるけど、大まかに言えば広範囲に広がる魔術が大体ね」

 

 そこまで言って凜は少し気づいたことがあり、また考え込む。

 

(でも、どれもキャスタークラスのサーヴァントなら簡単にできそうな魔術よね。

 …だとしたら、もっと大きな魔術、それも魔法クラスの魔術を使おうとしているんじゃ…)

 

 凜はもしかしたら、最悪な状況になるかもしれないと考える。

 まだ固有結界のような魔法に近いだけならどうにかなるかもしれない。が、完全な魔法レベルの魔術だった場合、その対処法はほとんど限られる。

 

(…いや、そうだったとしても、こっちにはランサーっていう最強の切り札があるんだし、そこまで深刻に考えなくてもいいか)

 

 とはいえ、その数少ない対処法たるサーヴァントがこちらにいるのだ。そこまで不安に思う必要はないだろう。

 それすら破ることができるとしたら、それこそ神話において最強クラスの英霊、ほとんどが語られることないアサシンの頂点。もしくは最古の英雄王に、エジプトのファラオ、その中でも特に栄えさせた偉大なる太陽王。他にもサーヴァントとして喚べるか判らないが施しの英雄にその宿敵授かりの英雄、等のようなものだろう。

 

(…あといるとしたら、ギリシャのアキレウスとか。

 ああでも、確かあれって神性を持っている英霊には効果無いんだっけ。ランサーは見た感じ神性持っていそうだし)

 

 ギリシャ神話に伝わりし二大英雄、アキレウス。

 様々な英雄を育てた下半身が馬の賢人ケイローンに師事した者。駿足の速さを誇り、神でなければ傷つけることが不可能の体を持ちし、アキレス腱の名前のもととなった不死身の英雄。

 この英雄を倒せる者はほぼ限られているだろう。

 

(そう考えると本当に強いわねー。セイバーこそ最強だ、って思っていたけど、これは認識を改めないとね)

 

 凛はちらりとランサーを見る。女性から見てもつい惹かれてしまう美貌、無表情だというのにその美しさは本当にこの世の人かと疑わしく思えるほどだ。

 

(…やっぱり、大きいわね…)

 

 そして、自分の胸とアルトリアの胸を見比べる。

 

「…? どうかしましたか? 自分の胸を見て何か思案しておられるようですが」

 

「へ? ああいや、なんでもないわ」

 

 手を振って苦味が混じった笑顔で応える。これ以上、この話題について触れたくなかった。そのためにさっさと切りたかったのだが、

 

「そうですか。…そういえば、凜の胸はとてもつつましやかで動きやすそうですね。少しうらやましいです」

 

 瞬間、空気が凍りついた。一番聞きたくないことを聞いてしまったからだ。

 

「……………」

 

「…?」

 

「え? え!? ど、どうしたんだりん? なんだか怖い、よ?」

 

 士郎は恐る恐ると一瞬にして雰囲気が変わった凜に話しかける。

 その凜はというと、たいへんいい笑顔なのだが、黙ったままピクリとも動かない。つまりは、貼り付いた無機質な笑顔である。

 

「(…! …!! …れ、冷静に…! 冷静に…!! 優雅たれ、優雅たれ…!)な、なんでもないわ。そうよねー、胸が大きくちゃ戦いづらいもんねー」

 

「…? ええ、確かに戦いづらいです。こんなものがなければもう少し速く動けると思うんですが…」

 

 凜が冷静になろうと努めて笑顔を崩さないようにしているところに、さらに火に油が注がれる。

 

「…! …くっ! え、ええ。そうよね。で、でも、貴女十分速いと思うけど」

 

 確かに、アルトリアを越えるなど相当な大英雄だろう。だが、アルトリアは首を横に振る。

 

「いえ、もしかしたらまだ私より速い人がいるかもしれません。油断は禁物です」

 

 士郎からの恩恵をもらっているアルトリアを越えるとなれば、それこそアキレウス程度なものだろう。

 まさかそんなサーヴァントが召喚されているわけがない、とは言い切れないので確かにアルトリアの言い分は正しい。

 

「ま、まあ、そーよね。って、そんなことより話を戻すわ。

 今のところ大した動きが無くても、キャスタークラスのサーヴァントはこういうときが一番危険なの。だから、今からでも討伐する必要があるかもしれないってことよ」

 

 正論を聞いたからか、凜は冷静になり話を戻す。

 

「今から…つまり、万全前に奇襲を仕掛けると言うわけですか」

 

「う~ん。それはわかったけど、それじゃ柳洞寺とどういう関係があるの? りん言ってたよな、柳洞寺と町の人が弱っていることに関係があるって」

 

 この話をする際、凜は「始めに言っとくけど、今から話すことと柳洞寺は関係があるわ」と言っていた。

 その真意がどういう意味か、まだ判っていない士郎は訊ねる。

 

「判らないわけ? つまり、キャスターは柳洞寺を根城にしているってことよ。何で判るかなんて理由は簡単、町の人から取られている生命力が柳洞寺に向かっているからよ」

 

「―!」

 

 それで納得がいったのか士郎は目を軽く見開く。

 

「…判った。それで、どうするんだ? 本当に今からでも仕掛けるのか?」

 

「それをどうしようかって話なのよ。こっちの戦力は申し分ないけど、相手がキャスターの上に柳洞寺なんて場所を占めているんじゃ少し判らないわ」

 

「…? どういう意味?」

 

 士郎は全く判らないと言う風に傾げる。

 

「ふむ、そうね。あなたって寺とか教会がどうやって建てる場所を決めているか知ってる?」

 

「建てる場所? …知らない。っていうか、何か意味とかあるのか?」

 

「あるわ。いい? 寺とか教会はね大気中の魔力が一ヶ所に集まる場所に建てているの」

 

 そう言われて士郎は思い出す。凜から教わった自然に宿っている魔力(マナ)と自身が作り出す魔力(オド)についてを。

 

「それって…」

 

「ええ。だからまずいって言っているのよ。キャスタークラスのサーヴァントがあそこにある魔力を利用しないわけがない」

 

 つまり、キャスターはもしかしたらある意味バーサーカーより厄介な存在になっているかもしれない、ということだ。

 

「あ~もうっ。迂闊だったわ。こっちにはランサーがいるからって油断なんてしてるんじゃなかった。さっさとあそこを占めておくべきだったかしら」

 

(……なんか、こうやって見ているとりんって詰めが甘い気がするなあ)

 

「…何よ」

 

 とそんなことを思いながら頭を抱えている凜を見ていた士郎はじろりと睨み返される。

 

「な、なんでもない。と、とにかくさ、キャスターが今厄介な場所にいるのは判った。それで結局どうするんだ? いつまでも攻めないわけにはいかないし」

 

「そーよねー。もう聖杯戦争が始まって既に四、五日くらいかしら。そのくらい経っているわけだしいい加減行動を起こすべきだとは思うのよ」

 

 そう言って、凛は士郎に向き直し、

 

「というわけで、そこの判断お願い」

 

 士郎にその判断を決めてもらうことにした。

 

「えっ、ええっ!? な、なんで急にって、お、おれにそんなこと聞かれても…」

 

 と言われても、幼い士郎にこのような遊びのない判断を任せるのは酷というものだろう。それは判ってはいるのだが、もともとこの同盟は士郎から持ちかけた同盟であり、士郎の傘下にいる凜では決定できない事案なので、やはり士郎に判断を委ねるしかない。

 

「うっ、そういわれても…あっ、そうだ、ランサーはどう思う?」

 

 だが、やはり士郎は決められない。ので、先ほどから黙ったままのアルトリアに助け船を求める。

 

「私、ですか。そうですね…やはり攻め込んだ方がいいと思います。サーヴァントである以上遅かれ早かれ敵対することになります。

 ですので、今からでも攻めて素性だけでも割り出すことができれば成果はあったと言えます」

 

 アルトリアが言うことはもっともだ。攻め立て相手の宝具を出させることができれば、それでそのサーヴァントの正体を割り出せる可能性がある。

 それでたとえ素性が判らずとも、どんな宝具を持っているかわかるだけでも対策が立てやすい。

 それならば、士郎は攻めた方がいいかな、と考えるが、

 

「――ですが、それは危険も伴います。相手の素性が判るということは隠密機能がないこちらでは素性を教えることにもなり得ます。それに、そこにいるサーヴァントがキャスターという曲者であれば、迂闊に近寄ってどんな目に遭うか判りません」

 

 確かにそうだ。キャスタークラスは全体的な戦闘力はアルトリア達セイバー、ランサー、アーチャーの三騎士クラスと呼ばれる者からすれば大したことない。

 だが、それでは本当にハズレクラスということになる。無論のことそんなことはない。キャスターはこと戦闘においては弱くても戦略でもって戦況を変化させることにはとても優れているクラスだ。さらに言わせるなら、キャスタークラスと言えど三騎士に魔術で対抗できるサーヴァントも少なからず存在するのだ。決して油断などできない。

 と見れば、メリットとデメリットが両立してしまっていることになる。こんな中どうすればと判断に迷う士郎。そこにさっさと決めなさいよ、と苛立ちを隠せてない凛がよりプレッシャーを与える。

 

「うぐぐ、いや、待てよ。でもな〜。ああくそ、おれはどうすれば…!」

 

 迷い過ぎて頭が痛くなる士郎。とそこで、士郎は凛はどっちがいいかを聞いてみればいいのではと考える。凛が言うように自分がリーダーならば、自分の下についている人の意見を聞いてもいいだろう。との考えだ。

 

「私? 私は、そうね。やっぱり迂闊に攻めるのは得策じゃないと思うわ――って言いたいところだけど、案外攻め立てた方がいい気もするわね」

 

 最初の言葉で攻めない方がいいかと思いきや、凛は意外にも攻めていこうという算段らしい。何故なのかと聞いて見れば、

 

「確かに厄介といえば厄介よ。けどね、こっち側の戦力だって、私のアーチャーとあなたの規格外のランサー。敵側からすれば身震いを起こすこと間違いない面子よ。これでほとんど負ける道理はないわ」

 

 つまり、最強のカードがこちらに揃っているのだから、こんなことでてごまめてないで一気に攻め立てていこうとのこと。

 それは慢心にも見れるが、確かにこちらのサーヴァントを相手にできるなど現時点でバーサーカーのみだ。そのバーサーカーですら、前回の戦闘では圧勝とはいかないものの、相手に辛酸を舐めさせたのだ。ならば、如何にキャスターが曲者であろうとも恐るに足らず。

 ならば、この選択肢は一つ、

 

「…判った。行こう柳洞寺に」

 

 そう言うと凛とアルトリアはどちらも頷き、立ち上がる。

 

「さて、聞いていたでしょ。行くわよアーチャー」

 

「…了解した」

 

 凛がそう呼びかけると、霊体化を解除したアーチャーが現れる。

 アーチャーは、どうも納得がいっているようでいってないような微妙に難しい表情をしている。

 

「…? どうかした?」

 

 様子がおかしいことに気づいた凛はそうアーチャーに聞くも、アーチャーはかぶりを振るだけだ。

 

「…いや、なんでもない(…キャスターか。確かに奴は厄介だ。だが、今のアーサー王がいるならば大丈夫…だろう)」

 

「…? そう、ならいいけど…」

 

 少しの間沈黙が広がるかと思えば、「お〜い。早く行こうよ〜」と士郎が玄関から呼んできたため、「今行くわ」と凛も上着を持って玄関へ向かう。

 

(…なんだろうな、この胸騒ぎは。奴は注意さえしていれば裏をかかれようとも対処できるはず。…そのはずだ)

 

 不安の種が抜けきれないままアーチャーは凛について行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 曇りはなく星々が見えている夜空の下、余裕を持って士郎達は柳洞寺の前に歩いて来ていた。

 柳洞寺は高い山の頂上にそびえている。そして、ここまで来ればここの魔力を感じることができるはずだが、まるで感じない。

 恐らく、キャスターが全て奪い取ったのだろう、と凛は考える。

 

「…これは、結界ね」

 

「結界…それじゃあ入るのは難しそう?」

 

「…いいえ。これは侵入者を妨げるものではないわ。これは視覚を誤魔化す結界よ」

 

 柳洞寺まで来た凛は門の前に何か罠が仕掛けていないか確かめていた。それで判ったのは、この柳洞寺周辺に結界が敷かれていること。

 ただ、その結界は視覚を惑わすだけ。侵入者を妨害するセキュリティ的なものは一切ない。つまり、これはキャスターが何かを柳洞寺に隠すため外から見えないようにしているのだ。

 しかし、だとしても柳洞寺に住んでいる人などはどうやって誤魔化しているのか。

 

「でも、住んでいる人は…」

 

「何かしら魔術でもかけられているのでしょうね。キャスタークラスならできておかしくないわ。もしかしたら、私が聞いた情報も誤りかも」

 

 もしそうなのであれば、これ以上進むのははっきり言って自殺行為だ。キャスターに限らず、こういった姑息な手段を持ち合わせている者相手に情報も無しで突っ込んでは見えている罠に自ら乗り込むようなものだからだ。

 

「けど、ここまで来たからには、最後まで行くわよ! 準備はいい!?」

 

「うん!」

 

「私も問題ありません」

 

「…私もだ」

 

 士郎に続きアルトリア、アーチャーも大丈夫だと言い、それを聞いた凛は頷き慎重に結界内へと手を入れる。すると、水の波紋のように結界は揺れて入る者を簡単に許す。

 凛の手は結界から先は消えている。だが、なんともないあたり今見えているものは偽物ということで間違いないのだろう。

 少しの間、手だけを差し入れ本当に何も害がないことを確認し終えた凛は一回深呼吸してから、思いっきり一歩を踏み込み、士郎達もそれに続く。

 

「…!? 何よ…これ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

「…お嬢様、何かお持ちいたしましょうか?」

 

「…要らないわ」

 

 一見して判るおとぎ話に出て来そうな古めかしい豪邸の城。その一室、レンガでできた暖炉がある部屋で白髪赤目の少女イリヤスフィールが不貞腐れたように椅子に座りテーブルに伏していた。

 

「一体どうされたのでしょうか。戦いに赴いたときはお元気であらされたのに」

 

「イリヤ、機嫌悪い?」

 

 そんなイリヤスフィールを少し離れた距離で心配しているのは二人のメイド。白いドレスのような服を着ており、目はイリヤスフィールと同じ赤色。髪は白い被り物をしているため判らないが、恐らく白髪だろう。

 

「…リーゼリット、いい加減お嬢様を名前で呼ぶのはおやめなさい。失礼でしょう」

 

「イリヤ、名前で呼んでも怒らない。だから、私は悪くない。セラは堅い」

 

 妙に片言の喋り方をしているメイドはリーゼリット、堅く主従という関係を重んじているメイドがセラというようだ。

 

「これくらい当たり前でしょう。全く、なんで貴女はいつもいつも」

 

 神経質なのか、リーゼリットの態度に苛つきが隠せないセラだが、対照的にリーゼリットは穏やか、というよりぼんやりとしているような印象を受ける。

 

「…イリヤ、この前戦いに行ってから機嫌悪くなった。その時誰と戦ったんだろう?」

 

「…恐らく、衛宮 切嗣の忘れ形見でしょう。お嬢様も会いたがっておられたのだから」

 

 つまりは、士郎と戦い終わってからイリヤスフィールは機嫌を損ねてしまったのだろう。

 

「でも、会いたがっていたなら、なんであんなに機嫌悪い?」

 

「さぁ? それは私が知るところではありません。というより、そういうことは本人でなければわからないことです。

 かといって聞こうとするんじゃないですよ。大変失礼なことなので。わかりましたね? リーゼリット」

 

 セラがそう言って隣にいるリーゼリットの方を見ると、忽然とリーゼリットはいなくなっていた。

 

「…リーゼリット?」

 

「イリヤ、会いたい人会えなかった?」

 

 とリーゼリットの声が聞こえた方を見れば、いつの間にかイリヤスフィールと対面するように同じ体勢で座っていた。

 

「リーゼリット!!」

 

「ううん。大丈夫だよリズ。シロウには会えたから」

 

「それじゃ、どうして機嫌悪い?」

 

 セラの呼び声など一切気にせず、リーゼリットはイリヤスフィールに機嫌が悪い訳を聞く。

 

「ちょっとね。なんでシロウにもあんな物があるんだろうなって」

 

「あんな物?」

 

 リーゼリットが首を傾げる。

 

「…うん。あんな物があるシロウなんて嫌い…! あんなシロウは死んじゃえばいいんだ…!」

 

 イリヤスフィールの言うあれとはリーゼリットには判らない。だが、イリヤスフィールが嫌いというのであれば、

 

「…判った。私、イリヤの嫌いなシロウ倒す」

 

 リーゼリットはイリヤスフィールのため嫌いなもの全てを葬るだろう。

 

「うん。ありがとうリズ」

 

 ニコリともせずに礼を言ったイリヤスフィールは半目で何か考え込んでいる。と思ったら、

 

「…ふぅ、こんなことしててもつまんないや。セラ、リズ、もう夜になるし誰か殺してくるね」

 

「いってらっしゃいませ。お嬢様」

 

「イリヤ、ファイトー」

 

 なんとも対照的な見送りをされたイリヤスフィール。が、いつものことなのかまるで気にせず、紫色のコートと帽子をセラから受け取り、バーサーカーと共に外へ出て行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「寒いね、バーサーカー」

 

「…………」

 

 イリヤスフィールが暮らしている城は街から離れた森の奥に建てられている。イリヤスフィールは街までバーサーカーに乗って飛ばして来てもらい、街に入ってからはバーサーカーから降りて歩いていた。

 周囲は完全に夜になっており暗く街灯だけが頼りなのだが、イリヤスフィールの白髪は否応に目立つ。だが、それ以上にイリヤスフィールの後ろを歩いているバーサーカーは全体的に暗い色だというのに、その覇者とも言える気配によって、より目立っている。

 イリヤスフィールは話すことなど一切できないバーサーカーに話しかけながら歩いているという、なんとも奇妙な光景だが、周りには誰一人いないのでそう思う人物はいない。

 そのまましばらく目的もなく二人は彷徨い歩いていると、柳洞寺周辺にまで来ていた。

 

「………? なんだろうこれ」

 

 柳洞寺の前まで来たイリヤスフィールは目の前に結界が張ってあるのを瞬時に察知する。

 

「…これ、外部からの視覚を惑わしているんだ。

 それに、これ内側からの魔力を遮断している。…中で何をしているのかしら?」

 

 小首を傾げ、そんなことを言ったイリヤスフィールは、「ん〜、侵入を防いでいるものもないし、気になるし、入っちゃえ! 行くよ、バーサーカー!」と言ってなんの警戒も無しに入り込む。すると、

 

「! …これって、固有結界?」

 

 一瞬、眩い光が見え、目を細めたが徐々に慣れてくる。すると、そこはまさに別次元と言っていい世界だった。

 夜だったはずのそこは天国の如し美しき晴れやかな草原。周囲は街中にいたはずがなにも無く、夜だった筈の空も明るくなっている。イリヤスフィールとバーサーカーはそのただただ永延と続く草原に立っていた。

 

「わぁ…! すごく綺麗だわぁ」

 

 ここは敵のテリトリーだというのに知らず知らず、そう感嘆してしまう。

 

「気に入ってくれたかな。アインツベルンのお嬢様」

 

 不意に声が後ろから聞こえたイリヤスフィールは振り向く。

 振り向いた先には、ここの太陽とも言えし空に浮かぶ光帯の輪とその下に何もない草原かと思われたが、そこに唯一岩のような瓦礫で囲んだ階段とその先にある玉座があった。

 そして、今イリヤスフィールの前には、いたるところが跳ねた癖毛のある白髪と焼けた肌に様々な装飾を施された魔術師の格好した青年がいた。

 

「…あなた、サーヴァントね」

 

「いかにも。私はキャスターのサーヴァントだ、聖杯を宿されしホムンクルス」

 

 そう言われ、驚愕する。

 何故判ったのか、イリヤスフィールの身に聖杯があることを。

 

「…なんで判ったか、って顔だね。そんなこと私には造作もないことだというのに」

 

「あなた…一体何者…!?」

 

 直接見たわけでもないのにイリヤスフィールに聖杯があることを知っている。どうやってた知ったというのか、彼は造作もないと言った。つまり、それができるスキルか何かがあるということだ。そして、このサーヴァントはそれだけではないだろう。

 イリヤスフィールは直感する。このサーヴァントは今までのサーヴァントとは桁違いだ。まさに、あのランサーと同じか、もしくはそれ以上の。

 

「私が何者か、だと? 何故教えねばならない。…と言いたいが、そうだな…君は面白い存在だ。特別に教えてあげよう。私は、――」

 

「――いいえ、いいわ。そんなこと聞いたって、あなたを殺すことには変わりないんだから――!

 やっちゃえっ! バーサーカー!」

 

 とにかく、一刻も早く倒さなければいけない、そう思ったイリヤスフィールはバーサーカーに命令し、バーサーカーは雄叫びと共にキャスターに突撃する。

 

「…私を殺す、か。随分となめられたものだ。

 まあいい、それならば来るがいい――十二の試練を乗り越えし勇者、ヘラクレスよ」

 

 どこで判ったのか、バーサーカー、ヘラクレスの真名を看破し、その名を判っても突撃してくる光景にキャスターはあせる様子を見せない、どころか余裕に構える。

 

「■■■■■■■■ーーーーー!!」

 

 諦めたのではないかとも思えるほど微動だにせずヘラクレスを見据えるキャスター。

 ヘラクレスはそんなキャスターに容赦などするつもりもなく――一直線に剣斧が降り下ろされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何よ…これ…」

 

「…! バカな、これは一体…!?」

 

 凛はこの光景が信じられず目を見開き、アーチャーも同様に、いや凛以上に驚いている。

 

「…ここは、一体…」

 

「…私もわかりません。けど、これは恐らく固有結界だと思われます」

 

 士郎達も驚いているが、それ以上にここの美しさに目を奪われていた。

 

「おや? 今日は来客が多いようだ。まさか一気に四人も来るとは」

 

「…!」

 

 士郎達は一斉に振り向く。すると、そこにいたのは青年くらいの魔術師。

 

「…貴方ね、この結界を出しているのは」

 

「その通りだ。ようこそ、私のテリトリーへ。歓迎するよ、ランサーとアーチャー、そして、そのマスター、遠坂家の魔術師と名もない魔術師の少年君」

 

 手を広げそう言うキャスターには残酷性と言ったものが一切感じない。というより、相手はこちらの情報が割れているようなのに敵対するそぶりすら見せない。余裕の表れだろうか。

 

「さて、決まり文句はここまでにして。ふむ、先ほどの魔術師は面白い娘だったが、君たちは…」

 

 何か見定めるようにキャスターは腕を組みアーチャー、凛、アルトリアの順に見ていき、最後に士郎で目が止まる。

 

「…ほう。どうやら君はあの娘より面白そうだ。

 嬉しいよ、これでも生前はただ王として民に尽くしているだけの人生だったからね。せめてサーヴァントになってからは面白いものを見て楽しみたいというものだよ」

 

 キャスターが言っていることの意味は何も判らない。だが、どうやら感じる雰囲気とは裏腹に若干ながら残虐性を持っていそうだ。少なくともそう感じさせるだけのものがあった。

 

「…アーチャー」

 

「なにかな?」

 

 キャスターがそう話している間に凛はアーチャーにこっそりと話す。

 

「すぐに構えて。あのサーヴァント、思った以上に厄介な気がするわ」

 

 そう指示を送り、アーチャーはそれに黙って頷き、剣と弓を出す。

 

「…それにしても面白い。君は…なるほど、二度の幸運に恵まれここまで生きてきたわけか。

 だが、それだと…ああ、そういうわけか。面白い、本当に面白いよ、エミヤ シロウ君」

 

「―! な、なんで、おれの名前を…!」

 

 得体の知れないキャスターは名乗りもあげてないというのに士郎の名前を言い当てた。

 それに士郎は身震いが起きる。怖いのだ。ただ名前を言われただけ、ただこっちに向かって邪気のない笑顔で話しかけているだけ。だと言うのにだ。そこには恐怖しか、無しか感じない。

 キャスターが言っていることは全て、なにもないところに何かを、形のないものを無理やり入れたような、そんな感じがする。つまり、あの物腰も、あの笑顔も、全てが虚構に満ちているようなのだ。

 

「なんで君の名を、なんてことは些細な話だよ。それはつまり、ただ私はそれだけのことが簡単にできる、なんてことだからさ。

 そんなことより、エミヤ君。いや、シロウ君と呼んだ方がいいかな? まあ、この際呼び方はどちらでもいい、こっちに来て少し話さないかい? ああ、安心していいよ。私はただ話がしたいだけさ。こっちに来た代償に魂を貰うとか監禁するとかは一切ないとここに誓おう」

 

 またもや、まるで邪気も何も無いような口調で話すキャスター。士郎は恐怖心から返答に困っていると、

 

「――応えてはダメよ士郎」

 

 凛が制止し、ランサーが槍を構え前に出る。アーチャーは後ろで構える。

 

「こう言った魔術師はね、簡単に人を騙してその人をいいように利用するのよ。だから応えたらダメ」

 

「…酷い言われようだ。本当に話がしたいだけなのに」

 

 そう言ってキャスターは僅かに肩を落とす。

 

「ふん、どうだか。あんた、気づいているんでしょう? 士郎の魔力に」

 

 キャスターはなにが面白いのか、凛の言葉に僅かに口端を曲げる。

 

「ああ、勿論。そして、何故そこまで異常なのかも、そこに潜んでいるのも知っている」

 

 これに凛は、「えっ?」と驚く。士郎の異常な魔力はなにかしら士郎に才能があるからと凜はずっと思っていたのだが、キャスターの口ぶりからすると何か別の理由があるようだ。

 何故今まで対面することすらなかった士郎の魔力の正体を知っているのか、本当に得体が知れない。絶対に警戒を怠ってはいけない相手だ。

 

「…あんた、一体…」

 

「私の名かい? そうだね、せっかく面白い少年が来たんだし、さっきの娘には言いそびれたしね。

 良いよ名乗ろうか。折角だしね。私の名は――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――全て魔術の祖を作りし者、魔術王ソロモンだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はここまで。
どうでした? タイトルからしてすでに出るキャラが判ったと思いますが、この方登場です。そして、わかる通りここから先は前言った通り完全にオリジナルです。と言っても、原作でも割とありえる世界線ではないかなと自分では思っています。






P.S
1/24 キングハサン当たったぁぁぁ!!!
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