Fate/stay night 槍の騎士王と幼い正義の味方   作:ウェズン

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ども、ウェズンです。
皆さん、ここ最近感想の返事をあまり返せず申し訳ありません。決して無視しているというわけではないので、どうか感想はご自由に書いてくださって結構です。
それでですね、感想にこの小説のタイトル変更した方がいいのでは、とありましたが、申し訳ない。言っていることは尤もなのですが、あんまり長くしては最初から読む気が失せるなんてこともあり得ますので。
タイトルではなるべくぼかす感じにして少しでも興味を持ったら読んで、それで面白かったら読み進めてほしいなという考えですので、タイトル変更は無しになります。
あと、誤字の指摘ありがとうございます。
では、少し無理やりですが始まります。


第十四夜-覚悟の行く末は-

「――シロウ、この戦争からおりませんか?」

 

 それがどう言う意味なのか、一瞬考えてしまうほどアルトリアの言葉を素直に受け取れなかった。

 アルトリアが言ってきたことは、簡単に言って諦めろと言うことだ。何故あのアルトリアが急にこんなことを言い出したのか。

 

「貴方は、まだこの戦争を知るには幼かった。貴方にこの戦争は早すぎたのです」

 

 アルトリアは今士郎が一番疑問に思っていることの答えを言う。

 

「貴方にいくら特別な力があろうとも、その幼さでは何もできません。現に貴方はアーチャーに恐怖し、アーチャーの言葉で心を折られた。貴方は、その能力(ちから)に見合うだけの覚悟も、力もない。それでは戦場に立てません」

 

 士郎はそれを黙って聞く。アルトリアの言っていることは、以前エミヤからの特訓時に気づいたことだ。

 自分は口先だけだった。正義の味方になりたい。だけど、その覚悟ができていなかった。ただ切嗣の道を歩もうとしていただけだったのではと思う。ただ敷かれたレールの上を歩こうとしていただけでは、とそう思っていたのだ。

 その先にあるものが何か知らず、自身でも知らず、その道が正しいと思っていた。それこそが自分の道だと思っていた。

 

「…お、おれは…」

 

 何が自分らしくだ。結局のところ士郎は切嗣の後を追っていただけだった。そこに自分の意志があるかと言われれば、それは無いと言える。以前は自分が目指す正義の味方になれればいい、そう言ったにもかかわらず、その目指す正義の味方は切嗣だったのだ。

 そう思うと急に寒気がしてきた。これでは、ただ切嗣の道を歩くよう設定された機械人形ではないか。

 

「…シロウ。ですから、もう一度考えてはくれませんか。私のことはお気になさらず。元より、聖杯に願うものなど有りはしない身の上ですから」

 

「………………」

 

 士郎は考える。アルトリアの言うように、戦争からおりてしばらくの間教会に身を潜め、また普段の生活に戻った方がいいのか。

 思えばそうだ。もとより、この戦争にはただ巻き込まれただけだった。こうして参加しているのも、あの神父が言っていたこと、聖杯戦争に参加する魔術師は平気で人を巻き込み殺す人がいるから。そう、あの慎二のように。士郎はただそういう奴らに聖杯を渡してはダメだと思ったのだ。

 つまり、正義の味方として活動できる絶好の機会だった。そう、それはあの神父の言っていた通りだったのだ。

 だが、そんな考えは甘かった。どうあっても敵わない相手に何度も殺されかけ、自身に宿る得体の知れないものを暴走させた挙句、こうして怯えてばかりだ。

 判っただろうか。士郎はこの通りなんの覚悟もできていなかった。ただ幼稚な正義の心を暴走させただけ。そんな者に戦う資格などあるのか、それは否。士郎はアルトリアの言うようこの戦争を知るには早すぎたのだ。

 

(…そうだ。それにおれにはまだこれから色々と大変なことがあったな。学校や生活だってそうだし、さくらねえちゃんやふじねえちゃんのご飯も用意しなきゃいけないんだ)

 

 なら、こんな戦争を続けている場合ではない。士郎には二人の姉とも言える存在がある。そして、今その二人はこの戦争により病院で寝たきりの状態だ。すぐにでも二人の見舞いに行って退院したら祝ってあげなければ。

 だが、

 

(…けど、それでいいのかな。

 おれは確かに助かるかもしれないし、アルトリアは…りんに任せれば大丈夫だろうし何も問題なんて…無い…)

 

 ふとアルトリアが凛と戦っている場面を想像してみた。

 

(…なのに…なんで…。何も問題なんて無い。なのに、こんなにも嫌だなんて。

 おれ、どうしちまったんだろうな。こういうことはちゃんとはっきりと決めようって思っていたのに)

 

 士郎はなんでこんなにも胸が締め付けられるんだと思っていた。だが、その答えはすぐに出る。それは、アルトリアへの想い。士郎はどうしようもなくアルトリアが好きなのだ。

 

(…そっか。おれ、本気でアルトリアが好きなんだな。まだ半信半疑なところあったけど、今はもう確信できる。おれは、アルトリアが好きだ)

 

 アルトリアと離れるのが嫌だった。アルトリアがどこかに行こうものなら、自分もついて行きたい、とそう思えるほどだった。それは聖杯でアルトリアをこの世に繋ぎ止めたいという程に。

 つまり、士郎の初めての我儘であった。

 

(けど、そう思う度におれには怖いことばかり遭う)

 

 しかし、そう願えば願うほど士郎にはとんでもなく大きな壁にぶつかる。内側にある正体不明のもの、魔術王の脅威、エミヤから指摘されたこと。その全てが士郎の歩みを阻んだ。そして、いまだに何一つ乗り越えられていない。

 

「…シロウ。まだ迷っておられるのでしたら、もう一本まいりましょう」

 

 そう言ってアルトリアは士郎が立つよう促す。

 士郎はそれに力なく頷き、竹刀を持ってフラフラとしながら立ち上がる。

 

「…いきます!」

 

 立ち上がったのを見て、アルトリアは竹刀を士郎に叩き込む。士郎はどうにか防ぐも大して力が入っていないため簡単に弾き飛ばされ、そのまま倒れる。

 

「…どうしました。先ほどと比べたらまるで力が入っていませんでしたが」

 

「……………」

 

 呼びかけられてもまるで返事がない。疲れているのか、ただ気力が無くなっただけか、士郎はもう何もかも諦めようとしていた。どれだけ前向きに考えようとも、結局は無為となる。結局、自分に戦う資格は無かった。エミヤの言った通り、自分は軟弱者だった。そういった思いが駆け巡っているのだ。

 アルトリアはジッと動かなくなった士郎を見る。そうしているうちに、アルトリアは眉間に皺を寄せ険しい顔で口を動かす。

 

「……シロウ、貴方に一つ問います」

 

「…え?」

 

 この後に及んで今更何を問うと言うのか。もう、諦めようと思っていたのにアルトリアはそれを許さないと言うように士郎の目を鋭い視線で射抜く。

 

「――問おう。我がマスターは、貴方か」

 

 士郎は何を聞かれるかと思いきや、もうとっくに判りきっていることを聞いてきた。何故いきなりこんなことを? と思いつつも、早く言えと言わんばかりの雰囲気に圧され答える。

 

「お、おれが、マスターだ…」

 

 あまりにも頼りない言い方であったが、そう応えた。こんなことは本当に今更すぎる。これで普通に終わる質問だ、と思った。だが、

 

「…それは、本当ですか?」

 

 以外にもそれは聞き返してきた。それに士郎はなんで、と思わずにいられない。アルトリアの意図が全く読めない士郎は不安に駆られる。すると、

 

「では、なんですかっ…!! その体たらくはっ!!!」

 

 唐突に叱られた。

 何が何だか判らず「え? え??」と疑問符を浮かべるしかない士郎。そうしている間にもアルトリアの叱咤は続く。

 

「貴方は、そんなくよくよと考えてばかり…! それでは戦士になるなど夢のまた夢です!! 本当に戦いたいと少しでも思っているのであれば、そんな悩みなんて捨ててもっと戦いに集中したらどうですか!!」

 

「…アルトリア」

 

 これを聞いていると少し思う。本当はアルトリアは士郎にこの戦争をおりて欲しい訳ではなかったのではないかと。ただ、士郎のことを思っての気遣いであったのではと思う。

 実際、アルトリアは誰より士郎のことを考えていた。何故ならば、アルトリアにとっても士郎はもう大切な存在だからだ。

 

「…ですから、立ってください。私のマスターはとても弱く何もできていない。ですが、貴方のその夢に愚直にも進む姿は、誰より輝いていた」

 

 士郎の心に呼びかけるようにアルトリアは言葉を紡ぐ。

 

「ですから、どうか立ってください。貴方はまだここで終わっていいはずがない。貴方はなるんでしょう、『正義の味方』に…!!

 何かを失わないで何かを得ることは難しい。けど! 貴方なら…貴方ならきっと! 私より大勢の人を護れます! 救えます!! ですから、どうか挫けないでください…」

 

 懇願するかのように言うアルトリアには王としての威厳はなく、一人の個人として本心から願っているようだった。

 アルトリアがこう願えたのも、士郎のこれから辿るであろう未来を知っているからだ。それは誰が止めても変わることのない、衛宮 士郎の未来。変えようがないというのであれば、せめても後悔の無いようにしてほしかった。

 

(…。…そっか。そうだよな。おれは…)

 

 士郎はそんなアルトリアを見て立ち上がらなければダメだと思った。だから、少し昔を思い出す。自分が目指したものを、憧れの人を。そうしたら、また何かを思い出すきっかけになりそうだったからだ。

 

(…おれは、正義の味方に…なるんだ。今がチャンスだからとか関係ない。正義の味方になれるんだったら、全部呑み込んでやる…!)

 

 かつて見た切嗣の背中を思い出す。そうだ、正義の味方になるならば、毒でも受け入れよう。死すらも受け入れよう。

 ――正義の味方とは、誰かを護る者だ。そこに善人も悪人も関係ない。

 ――正義の味方とは、誰かのために思いやれることだ。無論ただ思いやるだけではない、行動することもだ。

 即ち、正義の味方とは――皆のために立ち上がれる者のことだ。

 ならば――

 

「…ありがとう。アルトリア」

 

 士郎は起き上がる。その行いがどれだけ愚かなのか判っていながらも、士郎はその道を諦めることはない。いや、そもそも士郎には諦めの二文字があってはならない。諦めた時、その時こそ衛宮 士郎が、正義の味方が終わる時だ。

 矛盾を抱えたものになるなど、普通の人から見ればただの愚者の進行。だが、士郎はそれでもいいと言うのだろう。真に正義の味方を追い求めているのだから。

 

「おれ、もう一度、頑張ってみるよ」

 

「…シロウ」

 

 起き上がった士郎の顔は今まで見せたことがなかった、まだ一歩だけではあるが成長が感じられる笑顔だった。

 

「…では、まだ私と共に戦ってくれるんですね」

 

「ああ。おれは、最後まで戦う。相手が誰だろうと関係ない、戦わなければいけないなら、そいつが悪をやっているなら、おれは、おれはそいつらを――蹴散らすだけだ!!」

 

 そう決意した士郎の目にはいつもにも増して燃えていた。決意が、覚悟が籠っていたのだ。

 

「…よろしいのですね。貴方のその道には苦行しかありませよ」

 

 最後の確認と言うように重く哀感が感じられる声で聞く。それに士郎は口端を僅かに曲げて、

 

「ああ。おれは全部受け入れるよ。確かに、おれがやろうとしているのは悪にも見えるかもしれない。けど、それでもおれはおれを信じる。どれだけ苦しくったって辛くったって、おれは諦めるつもりはない。おれは、乗り越えてみせる!」

 

 そう熱意が籠った決意表明する。

 アルトリアは士郎の目を見てその熱意が本物か確かめる。する必要はないと思われるが。

 

「…判りました。貴方の道を私は肯定します。これからもよろしくお願いします、シロウ」

 

「ああ。よろしくな、アルトリア」

 

 アルトリアと士郎は笑顔でそう頷く。

 

「さて、今日の方はどうしましょうか。早速アーチャーに会いに行きますか?」

 

「うん。とりあえず、アーチャー師匠におれの覚悟を聞いてもらわないと。そうじゃなきゃ、おれはいつまで経っても弱いままだ」

 

 士郎は拳を握る。エミヤへの恐怖心は残っている。だが、それくらい乗り越えないと、と自分に誓う。

 

「判りました。では、アーチャーを探しましょうか。彼の気配はまだ屋敷にあります」

 

 それを聞いた士郎は「わかった!」と言い颯爽と道場から出て、アルトリアを待たずエミヤを探しに行った。

 

(いつまでも逃げてばかりじゃダメだよな。それじゃ正義の味方なんてなれないんだからな…!)

 

 …こうして、士郎が辿る道は決まった。果たして、この道に待ち受けるものが何になるのか。それはまだ誰もわからない。だが、この士郎が成すことは、恐らく――

 

「…ようやく、一歩前に進めましたね」

 

 アルトリアはそう呟いた後、士郎が出て行く際に放り投げていった竹刀を片付け、これから来るであろうと思う二人を正座で座りながら待つことにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………」

 

 晴天の空の下、柳洞寺で魔術王は縁側に腰を下ろし空を眺めていた。側には先ほど柳洞寺の人から淹れてくれた緑茶がある。

 

「黄昏ているのか」

 

「マリスビリー…」

 

 そんな彼にマリスビリーはからかうように話しかけてくる。

 

「フフッ。私がそんなことをすると思っているのかい? 私はただ、次シロウ君達が来たらどう出迎えてあげようかなって考えていただけだよ」

 

 そう薄ら笑いで応える姿には虚無感を感じさせる。

 

「ふむ、まあ、今のところ一番の脅威ではあるからね。

 …しかし、どうにも判らないな」

 

「何がだい?」

 

「キャスター、以前君は彼に興味があると言ったな。何故君は彼に興味を持っているんだい? 確かに君が言うよう不思議な子供だ。だが、言わせればそれだけだ。完璧と謳われた君ほどの者が興味を持てる存在とは思えないんだ」

 

 マリスビリーのこの質問は以前魔術王の話を聞いてから疑問に思っていたことだ。

 

「ああ、そのことか。…ん〜、なんて言ったらいいかな。そうだね、彼は私と互角になれる可能性があるから、かな」

 

「…!! な、なん、だと…。キャスター、それは一体どう言う意味だ…」

 

 魔術王が言ったことはマリスビリーを動揺させるのに十分な衝撃があった。魔術の王と呼ばれし者と互角になりうる。それは大気の魔力が薄れ、神代がとうに終わっているこの時代ではあり得ない話だからだ。

 

「そのままの意味さ。彼はその身に潜むものを制御できた時、私の前に現れるだろう」

 

「…それはつまり、事実上最終決戦ということか」

 

「まあ、そう思っても相違ないかな。と言っても、そこまで後どれくらいかかることかな」

 

 魔術王はただ遠くの虚空を眺めているだけだというのに、その目は何かを捉えているようだった。

 

「…? どうも、君の言葉は要領を得ない。どういうことなんだ?」

 

「…さて、私はもう一度結界に入ってあの宝具の具合を確かめてくるよ。ああそうそう、あの時は傍観だけって言ったと思うけど、少し間接的にちょっかいでもかけようかなって思っているから」

 

 まだ温かい緑茶を一気に飲み干し、スクッと立った魔術王はマリスビリーの前から消える。

 

「あっ、キャスター! まだ話は…って、もう行ったのか。全く、頼りにはなるんだが、いかんせん面白半分で隠したがることが多いな。それにちょっかいだって…? 何をするつもりなんだ。…まあ、それはいいとしよう。

 …エミヤ シロウ、か。そういえば、私の娘ももうあれくらいの歳になる頃…だったかな。時間が経つのは早いな…」

 

 朧気な記憶にある自分の娘を思い出していた時、

 

「少しいいかな。アニムスフィア君」

 

 いかにも高級感漂う格好をしたどことなく慎二を思い起こす金髪に顔が整った男が話しかけてきた。

 

「…アトラム・ガリアスタか」

 

「こうして会うのは二回目だね」

 

 男、名をアトラム・ガリアスタは軽そうな雰囲気で接しながら、少し腰を折ったような雰囲気で話す。

 

「何の用だ。君と話すことなどないだろう」

 

「まあまあ、そう言わずに。もっとも、君のいう通りではあるのだがね。君のサーヴァントと僕のサーヴァント、これら二人が合わされば、勝てない戦いはないと言っていい」

 

 そう自信に満ちた言い方も慎二を思い起こさせる。

 

「確かに、君のサーヴァントも素晴らしい大英雄だ。彼の竜殺しの英雄なのだからな。そして、今の私たちは同盟を組んでいる状態、負けはほぼ無いと言って差し支えないだろう」

 

「いや〜、まさしくその通りだよ。本当、君とはいい同盟が結べたと思うよ。これで聖杯を手に入ることは確実だ。

 で、そういうわけだから、少し相談があるんだが…」

 

「…それが本題か。何だ」

 

 アトラムは腰を低くしつつも、軽いいつもの態度を崩さずに顔を少しだけ面白そうに歪めて話し続ける。

 

「なに、そんなに難しい話じゃないし悪い話でもない。ただ、聖杯をこちらに譲ってくれないか、とお願いしたいんだ」

 

「…正気か?」

 

 マリスビリーの眼光が鋭くなる。

 

「無論、ただでとは言わない。というより、僕の願いは君と同じだろうからね。だから、山分けしようじゃないかって話さ」

 

 それを聞いてマリスビリーは考える。聖杯にかける願いは、巨万の富。確かに、魔術の家系としては歴史の浅いアトラムの家では現代の科学も利用しているのだからそこに金は必要だ。つまり、魔術と科学を併用してとある開発を進めようとしているアニムスフィア家と同じことをしているのだから、必然と願うことも同じになっているわけだ。

 

「…なるほど。聖杯が真に万能で願うものが同じであれば、今願いたいことの倍を叶えてもらい山分けか。確かに理にはかなっているし、悪い話ではない。

 だが、それならこちらが手に入れても変わらないのでは?」

 

「ああ。それに関しては、単純に実績が欲しいだけさ。ご存知の通り僕の家系は歴史が浅いからね。そこに聖杯を獲得した家系という賞があれば、魔術協会も無視できない存在になること間違いないからね。

 それで、いかがかな?」

 

「……………」

 

 マリスビリーは考える。確かに、アトラムの言う通りだった。アニムスフィア家は聖杯を獲得しなくともすでに栄誉ある家系だ。そして、今開発しているものが完成すれば、それはさらに上がるだろうと思われる。つまり、デメリットが何もないのだ。

 

(けど、それでいいのだろうか…)

 

 だが、それはつまり、自分の友である魔術王を見捨てることになる。彼とはまだ短い付き合いとはいえ、それでいいのだろうか、とマリスビリーは考えていた。

 

「…すまない。返答はもう少し後で頼む」

 

「…そうだね。そういうのは手に入れてから考えるべきだった。こちらこそ申し訳ない。あんまりにもいい状況だったものだから少し焦っていたみたいだ」

 

 少し申し訳なさそうに眉毛を外側に寄せるようにして言う。

 

「ああ。ではまた」

 

 それを最後に二人は別れる。

 

「…チッ。上手くはいかないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………」

 

「…イリヤ、大丈夫?」

 

 森の奥に潜むお城にて、セラとリーゼリットはある一室の前で心配そうに部屋の扉を見つめていた。

 

「…判りません。あれからずっとふさぎ込んだまま、部屋から出ることも僅か。今日も、この通りあまり手をつけられていないご様子。大丈夫とは言えませんね」

 

 そう言って、部屋の前に置いてあった全く減っていない朝食が乗った高級感漂うトレーを持つ。

 

(…あれから数日経ったというのに。お嬢様…)

 

「…私、中様子見てくる」

 

 そうセラがトレーを見ながら心配していたら、突然リーゼリットはそのようなことを言い出した。

 

「!? 何を言っているのです! リーゼリット! 今お嬢様は情緒不安定な状態なのですよ!? そんな時に押しかけてはますます酷くなります!」

 

 そうセラはリーゼリットを叱るが、リーゼリットはセラを見たまま黙っている。

 

「…でも、それじゃ、いつまでも同じ。これじゃイリヤ、立ち直らない」

 

「…!」

 

 リーゼリットが言ったことは尤もだった。このままではどちらにしろ悪化していく一方だろう。ならば、少しでも可能性のある方にかけた方がいい。

 そして、そういうことだったらセラには何もできない。メンタル的な問題は完全に専門外なので何もできないのだ。むしろ、そういうことだったらリーゼリットの方がまだましだ。セラは唇を噛んで「…お嬢様をお願い、します」と後のことはリーゼリットに任せる。

 

「うん。任せて」

 

 そう言った後、リーゼリットは扉を叩いて、「イリヤー。入るねー」と許可も得ずにささっと入って行ってしまった。

 

(…大丈夫でしょうか。任せたとは言え、やはり不安ですね)

 

 とはいえ、入って行った直後にイリヤスフィールの叫び声がしなかったあたりまだ大丈夫なのだろう。

 ならば、イリヤスフィールのことはもうリーゼリットに任せるとして、セラは別のことについて考えるべきだろうと思考を切り替える。

 

(…此度の戦い、おそらく今までの聖杯戦争では類を見ない戦いなのでしょう。

 あのギリシャ神話に於いて最強の一人に数えられたヘラクレスがやられて帰ってくることが二度もあったのですから。これは、こちらも何か対応策を練らないといけませんね)

 

 全てはアインツベルンを、イリヤスフィールを守るため、セラは全力を尽くして思考を張り巡らす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫、イリヤ?」

 

「……………」

 

 イリヤスフィールの部屋に入ったリーゼリットは早速イリヤスフィールと対面して話しかけていた。だが、イリヤスフィールからの返事はなく、暗く沈んでおりとてもまともに話せそうにない。

 

「…イリヤ」

 

「ごめん。今誰とも話したくない」

 

 二度目の呼びかけでようやく応えてくれたものの、弱々しく顔も伏せたままだ。

 

「…何が、あったの?」

 

「……………」

 

 本当に誰とも話したくないようで、拒絶とも取れるほど沈黙を保ったままでいる。

 

「……………」

 

 さすがにリーゼリットもこれはお手上げなのか、同じく黙ってしまう。ように見えたのだが、

 

「えいっ」

 

「ひゃわっ!」

 

 ささっと後ろに近づきイリヤスフィールの脇腹を掴んで軽々と持ち上げた。

 

「ちょっと! リズ、何するの! おろして〜!!」

 

「ほーれ、ほーれ」

 

 リーゼリットはイリヤスフィールの抗議の言葉を完全に無視し、持ち上げたまま左右へゆらゆらと揺らす。ちなみに、揺らす速度は結構速く、そのまま手を離せば壁を突き破ってぶっ飛ぶんじゃないかって速さで揺らしている。

 

「高い高〜い」

 

「ひゃぁぁっ!! 本当に高いっ!」

 

 すると、今度は部屋の天井にぶつかるんじゃないかって程に持ち上げたまま高く飛ぶ。ちなみに、イリヤスフィールの部屋はさすがお城というだけあってなかなか天井が高く、その高さ目則でも約四メートルあると思われる。

 

「はぁ、はぁ、はぁ。きゅ、急に何するの〜?」

 

「イリヤ、全然元気なさそう。だから、元気が出ることした」

 

 ようやく解放されたイリヤスフィールはなぜこんなことをしたのか息が切れながらリーゼリットに聞く。それにリーゼリットは自分が何をやっているのか判っているのかいないのか、判断がつかないトーンの声で答える。

 

「ほ、他のものが出てきそうだよ。今朝のご飯とか」

 

 はっきり言ってそんな場面を描写したくないので出さないで。

 

「…イリヤ、元気出た?」

 

 リーゼリットはイリヤスフィールの目線くらいにしゃがみ込み、そう問う。それでイリヤスフィールはまた黙り込んでしまう。

 それを見たリーゼリットはまだ足りないのかな、と思ったのかイリヤスフィールの脇腹を掴もうとしたが、イリヤスフィールは「わっわっ、も、もういいから!」と手を振ってやめてほしいという。そう言うとやめてくれたので、ほっと一安心したが、また表情は暗く沈んでしまう。

 

「…イリヤ。何があったの? 私、イリヤの力になりたい。から、教えて?」

 

「リズ…判った」

 

 リーゼリットの普段ぼんやりしている雰囲気からは考えられない真摯な目に射抜かれて、観念したのかぼそぼそと話し始める。

 

「私、ずっとバーサーカーが最強だって、世界一強いんだって思っていたんだ。けど、負けてばっかりで…もうどうしたら勝てるんだろうって思って…シロウもあんなのがあるし、キャスターは怖いし…! もう嫌になったの…戦うのがもう嫌なの…!!」

 

 イリヤスフィールはここまで負け続きなのが悔しくて嫌で苦しかった。何より、バーサーカーがやられていってしまうのが見ていられなかった。嗚咽を交えながらそう言う姿は本当に士郎と同い年なのではと感じさせる。

 それを聞いていたリーゼリットは依然と変わらない表情で黙って聞いている。今のイリヤスフィールにとってはそれが最善だったのか、最後には全て吐き出すように泣き出した。

 

「よーしよーし」

 

 リーゼリットは泣き出したイリヤスフィールの背中を撫でながら泣き止むのを待っている。

 

「うっ…ひぐっ、あり、がとう、リズ」

 

 そう言って、また大声で泣きだす。

 

「大丈夫、大丈夫」

 

 イリヤスフィールはリーゼリットに優しく撫でられながら、しばらくの間泣き続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はここまで。
高校受験終わりましたね。これを読んでいる方々がどの年代の方かは存じあげませんが、受かることを願います。
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