Fate/stay night 槍の騎士王と幼い正義の味方   作:ウェズン

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はぁ〜〜〜。沖田、当たらなかったよ。チクショーーーー!!!
では、始まります。




第十七夜-神話戦争開始前-

―――…また古い鏡を見る羽目になるとはな。

 

 

 一歩、また一歩。士郎は止まることなく、刃を持ってエミヤに向かって来る。その瞳には頑固なまでの意思、想いが宿っている。それが揺らぐことはない。

 

 

―――…これで、俺と同じにはならないだろう。ならば、もう思い残すことはない。

 

 

 エミヤは全てをやりきったというような、とても穏やかで晴れやかな表情で空を見上げる。いつの間にか覆っていた雲はなく、歯車も無くなり、焼けた空が見えていた。

 

 

―――全く、またこんな無茶ばかりする馬鹿が出来上がってしまったな。すまない、遠坂。また任せることになってしまった。

 

 

 心の中でエミヤは凛に謝る。すると、頭の中で厳しく叱りつけ、怒りながらも心配してくれる甘く赤い未熟な魔術師の姿が想像できた。

 

 

―――さて、そろそろか。

 

 

 エミヤは士郎を見て、迫って来る自身と同じ物とも言える刃を――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――フンッ!!」

 

「ぐあっ!!」

 

 弾き飛ばす。

 

「くっ、くそっ…! まだ――」

 

「―――合格だ」

 

 士郎は再度立ち上がってエミヤに向かおうとする。だが、それはエミヤの一言で止まる。

 

「――え。合格、って…」

 

「お前の勝ちだと言っているんだ。お前は俺に勝った。お前は正義の味方になるその一歩を踏み出せた、ということだ。

 誇りに思え、今お前は自分に勝てたんだ。一番の壁である己に勝てた。ならば、俺が教えることはもうない」

 

 エミヤが言ったことはつまり、士郎は成長しきれたということだろう。エミヤの想像通りか、もしくはそれ以上か。

 士郎はエミヤの言葉と共に力が抜けたのか、その場に崩れる。

 

「勝っ…たのか、おれ…」

 

 まだ実感が持てないのか、目を見開き呟くように言う。すると、

 

「やりましたね! シロウ!」

 

「ブッ」

 

 アルトリアが走ってきて、そのままの勢いで士郎を抱き上げる。

 

「やっぱり私のマスターは素晴らしい子です! サーヴァントとして、とても鼻が高いです!」

 

「ア、アルトリア…苦しい。おれ、死んじゃう…」

 

 よほど嬉しいのか、アルトリアは満面の笑顔で士郎を抱きしめ褒め称える。

 

「……………」

 

 そして、エミヤは士郎の剣を弾き飛ばした瞬間からあの世界を消し、元の世界に戻していたので、そのまま黙って去ろうとするが、

 

「ま、待って!」

 

 それを見た士郎が呼び止める。エミヤは「なんだ」と背中を向けたまま立ち止まる。

 士郎はアルトリアから解放してもらい、エミヤの前まで走って、口を開く。

 

「はぁ、はぁ、はぁ。…ずっと思っていた。いや、多分最初から判っていた。……アーチャー、師匠。お前の名前って――」

 

「――それ以上は言わなくともいい」

 

 だが、それはエミヤに閉ざされる。

 

「…! …やっぱり、今も憎んでいるのか。おれのような未熟な奴が…」

 

「…憎んでいない、と言えば嘘になるな。だが、安心しろ。私はもうあのようなことをするつもりはない。もう、決着がついているからな」

 

 振り向かず、背中のみを見せてエミヤはそう言う。

 

「…アーチャー師匠」

 

「もう師匠ではなかろう。それに、私を師匠と呼ぶには些か奇妙なものだと思うが」

 

「――ううん。アーチャー師匠はアーチャー師匠だ。やっぱり、お前はおれが憧れている正義の味方なんだ。…おれなんかに言われるのは、ちょっと変だし嫌かもしれないけど…」

 

 そう士郎が少しだけ悲しそうに言うと、エミヤはいつものニヒルな笑みを浮かべ、

 

「――そんなことはない。いついかなる時も、そうして認めてもらえるのは良いものだ。

 おっと、そうだ。教えることはないと言ったが、これだけ言っておこう」

 

「! な、なんだ…?」

 

 士郎は僅かに顔を嬉しそうに輝かせ、エミヤの言葉を待つ。

 エミヤは一呼吸おいて、自身にも言い聞かせるようにこう言う。

 

「――自身にとって、超えねばならない敵は、常に己自身だ。今後とも勝てるかは判らない。故に、決して油断はするな。常に己に勝ち続け、彼女を、お前の大切な人達を、護れ。

 …以上だ。ここまでの訓練、よく耐えたな。あとは自分でいける限界を目指せ」

 

 それを最後に、エミヤは道場から去って行く。

 並行世界の自分でも、去って行くその背中はとても偉大だった。士郎はいつか自分もこうなるのだろうか、と思うと、とても誇りに思えた。

 だからこそ、士郎は姿勢を正して、

 

「…ありがとうございましたっ!!」

 

 と大きな声と共に深く礼をする。すると、エミヤは振り向いてもいないのにその様子が判ったのか、微かに笑ってくれたような気がした。

 

「…終わりましたね」

 

「…うん。おれ、強くなれたのかな」

 

 士郎は自分のボロボロになった手を見る。無残なとまではいかないものの、ところどころが裂けており、血が出ている。この様な手でよく剣を握って戦っていられたものだと皆一様にして思うだろう。

 

「ええ。シロウは強くなりました。顔を見れば判ります」

 

 そう言って笑顔を見せてくれるアルトリアに、士郎もつられる様に自然と笑顔になり、そして、

 

「…あ、」

 

 士郎は糸が切れたように倒れていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから時は過ぎ、暗い夜空にまん丸な月が空高く昇ろうとする頃、自室に運ばれた士郎はようやく目が覚がめた。

 

「…あれ? ここは……! そうだ、あの後倒れたのか、おれは」

 

 士郎は掛け布団を退かせて上半身だけを起こし、自分の体を見る。士郎の体にはいくつもの包帯が巻かれており露出している部分はほとんどなく、身体中からは薬のような苦い匂いがする。おそらく、凛が治療してくれたのだろう。

 士郎は今体はどれくらい回復しているのかを見るために自身を解析する。

 

「…どこも大丈夫だな」

 

 あれだけ負担をかけた後だったが、どこも使い物にならなくなることはなかった。凛の治療が良かったのか、もしくはあの回復によるものか。それは定かではないが、とにかく異常がないと言うのであればじっとはしていられない。

 士郎は布団から出て居間へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シロウ、起きられたのですね。もう体は大丈夫なのですか?」

 

「あ、うん。もう大丈夫だ。心配かけちゃった?」

 

 士郎が居間へ移動すれば、早速アルトリアに話しかけられた。

 今、アルトリアは凛とエミヤの二人と対面して座っている。何か会議でもしていたようだ。テーブルの上には飲み物のお茶しか乗っておらず、凛は真剣な顔で肘をつけている。

 

「起きたわね。それじゃ、今後の聖杯戦争について話し合うわよ」

 

 自然な流れで士郎はアルトリアの隣…ではなく、膝の上へ乗せられると、凛が話し始める。

 

「まずは状況確認。現在のサーヴァントは、確認できているもので5騎。セイバー、アーチャー、ランサー、キャスター、バーサーカー。それ以外、ライダーは脱落。アサシンは不明。

 次に、現在生きている5騎のサーヴァントの中で真名が判明しているのは、キャスターの魔術王だけで、私たちのサーヴァントはお互い隠している状態、でいいわね」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

 凛からの情報を聞いて、本当はもう知っているんだけどな、と三人は一致したことを思っていた。

 

(…そういえば、りんは知らなかったんだ。う〜ん、教えるべき、かなぁ?)

 

(私はセイバーの真名も判っていますが、今ここで伝えるべきでしょうか…)

 

(私に限って言えば、セイバーはおろか、バーサーカーの真名も判っているのだが)

 

(本当はランサーの真名はある程度目星がついているんだけどね)

 

 それぞれで言い出すか悩むことを抱えながら話は進む。

 

「それで、今のところ私たちの陣営は順調、と言いたいけど、それは魔術王の存在によって揺らいでしまっている。バーサーカーも脅威だけど、勝てない相手ではない。セイバーに関して言えばまだ未知数だけど、魔術王と比べればそんなんでもないわ。

 よって、今のところ一番の強敵は魔術王ってことね」

 

 凛が言ったことは外れていない。魔術王、彼をどうにかしない限り、士郎達に勝ち目はないだろう。それほどまでに脅威なのだ。

 

「それで、これらの情報で私たちはどう行動に移すべきか。それを決めて欲しいんだけど、いいかしら、士郎?」

 

 そう凛が振ると、士郎は一瞬キョトンとした顔になる。

 

「ん? おれか。う〜ん、どうするべき、かなぁ。

 …そうだな。おれは、いっそのこと、今からでもどこか攻めていった方がいい、と思う」

 

「……それは、なんで?」

 

 凛は意外にも決断が早かったので少し驚きながら、士郎にその理由を聞く。

 

「んー。おれはさ、思ったんだ。このままじゃ何も進展しないって。ライダーを倒してもどこも様子見ってことはさ、気づいていないか、どうでもいいって思っているってことだろ? ならさ、こっちが動かないと何も起こらないと思うんだよね」

 

「…確かにそうかもね。けど、それが間違いってこともあるわ」

 

 凛は士郎から聞いた理由に納得し賛同しながら、他の可能性を教える。

 

「今朝のニュースで昨日どこかの陣営が戦っていた、っていうのは判るはず。もしかしたら、魔力を察知して使い魔とかで見ていたかもしれない。だとしたら、決着がついたところまで見られていた可能性がある。なら、その時勝った陣営は調子に乗ってこっちまで攻めてくるかもしれない、って予想してこっちの意表をついてくるかもしれない。

 まあ、これはあくまでも可能性の話。実際はどうなのかも結局は攻めないと判らないんだけどね。ただ、攻めて行くならこうなる可能性を覚えておいて。

 それで、どうする? やっぱり、攻めて行く?」

 

 凛は再度士郎から聞く。

 

「……………」

 

 士郎はしばらく腕を組んで目を閉じ、口をへの字にしながら瞑想する。

 小一時間くらいだろうか。もっと長かったような短かったような気がするが、士郎がまた目を開けると、

 

「攻めよう。やっぱり、このままじっとしていても始まらないし、多分だけどキャスターは何もしなくてもいつか動く。けど、その動く時にはきっと何かを完成させているような気がするんだ」

 

「…何かって?」

 

「…判らない。これはおれの勘だし。けど、あいつはきっと何か俺たちを一瞬で倒せるような、そんな宝具を持っていると思うんだ」

 

 士郎の言葉にそんなまさか、と凛は思いたいが、相手が魔術王ともなればあり得ない話ではない。もしかしたら、あの初めて邂逅した時も、その宝具の完成のために戦うつもりはない、と言ったのではないのか。確証はできないが、可能性としてはあり得る。

 ならば、時間の猶予はそんなにないと見た方がいいだろう。今すぐにでも行くべきか、と凛は言うが、士郎がそれに待ったをかける。

 

「今あいつと戦うのはやめたほうがいいと思う」

 

 士郎が言うには、今は戦うべきではない、だそうだ。凛はそれに何故と問う。士郎の言う通りであれば今すぐにでも攻めるべきだと言うのに、何故今戦うべきではないのか。

 

「えっと、それはなんて言うか。あいつはおれらが他のサーヴァントを倒してきてほしいような気がするんだよね。理由は判らないけど。

 とにかく、それなら今はその通りにした方がいいと思うんだ。いざあいつと戦う時邪魔されたら敵わないし、もし本当にそんな宝具を準備しているなら邪魔されたくないだろうから、全力で妨害してくると思う。すごい結界とかで」

 

 つまり、魔術王はその宝具を完成させるために何かしら妨害機能がある結界を作るかもしれないということだ。それもかなり高性能なものをだ。あの魔術王が全力で防戦に徹されてはこちらはまるで歯が立たないだろう。

 色々と釈然としないが、あり得ない話ではない。それはあの魔術王だからこそ言えた話だった。

 

「…判ったわ。さて、これでまとまったわね。私たちは今後攻める方針で。

 それじゃ、丁度いい感じの時間だし、士郎も元気そうだから、早速攻めて行こうかしら」

 

 少し疲れたのか、絡めた指を上に上げて体を伸ばす。

 

「…凛。君のその行動力は素晴らしいが、些か根を詰め過ぎではないかね。小僧もまだ回復しきっていないのだ。あまり無理をさせるものではない」

 

「大丈夫よ。士郎の怪我は見た目よりも大分治っているようだし、いざとなれば私がどうにかするわ」

 

 エミヤはそう凛を戒めるが、凛は大丈夫だと言う。確かに、士郎はエミヤとの戦いでできた外傷はほぼ無くなっており、本人も不調はないと言う。

 

「……………」

 

 士郎の傷が治っていると聞いて、アルトリアは少し考え込む。

 アルトリアは、士郎がエミヤと戦っていた時、正確には投影魔術で自身に最大級の負担をかけていた時、士郎から身に覚えのある魔力が感じ取れた。あれがなんだったのかは判らない。だが、あの回復力で身に覚えのある魔力、これらから推測すると、おそらく士郎にはあれがあるのだろう、とアルトリアは思った。

 

(もしや、士郎にはあれがあると言うのですか? でも、だったらどうやって士郎はそれを手に入れたのでしょうか。あれはあの時から失ったあの剣の―――)

 

「――それじゃ、攻めに行くためにも、目標地点を決めるわよ」

 

 というところまで考えたら、凛の声が聞こえ中断され、ハッとなって話に参加する。

 

「っで、まずはどの陣営からいく? キャスターは最後にするとして、後はセイバー、バーサーカーしかないけど」

 

 凛はどこから持ってきたのか、冬木の地図を取り出してテーブルの上に広げた。

 

「…セイバーの居場所って判っているのか?」

 

「いいえ。残念ながら、セイバーを攻めることには捜索も入っているわ」

 

 凛は首を横に振って言う。

 

「それじゃ、バーサーカーは?」

 

 セイバーの居場所が判らないのであれば仕方ないので、今度はヘラクレスの居場所を聞く。すると、

 

「――それなら、判るわ。この森にある城よ」

 

 そう言って、地図にある街から離れた郊外の森の中を指差す。

 

「城? そんなのがここ(冬木)にあったのか」

 

 士郎はよく絵本などに出てくる洋風な城を思い浮かべる。

 

「そこにバーサーカーがいるんだな?」

 

「ええ。アインツベルンはこの戦争の優勝者候補の中でもダントツだからね。その住みかなんてとっくに調べてあるわ。…まあ、本当は昨日の昼過ぎにアーチャーに調べてもらったんだけどね」

 

 それを聞いた士郎は地図を見ながら少し考え、

 

「それなら、バーサーカーから行こう。探索なんてしていたら、いつ、どこから襲われるかわからないし」

 

「判ったわ。それじゃ、目標はバーサーカーで決まりね」

 

 出した答えに凛は頷き返す。他にもその同意を求め、視線を送ると、エミヤ、アルトリアどちらも頷いて了承してくれた。

 

「次の敵はバーサーカー、ということでよろしいのですね」

 

 アルトリアが最後の確認とそう言うと、士郎と凛は揃って首を振り肯定する。

 目標は決まった。ヘラクレスの居場所が判っているのであれば、後は向かうだけだ。

 

「決まったな。では、どう動く。アインツベルンが前回の反省をしていないとは思えない。ここは少し作戦も考えた方がいいやもしれんぞ」

 

 エミヤは早速出向こうと準備している士郎達に向けて言う。

 

「…確かに、それもそうよね。あのアインツベルンのことだし、なにかしら姑息な手でも使いそうね。って言っても、結局最後は力任せでしょうけど」

 

「それでしたら、私がバーサーカーの相手をして、アーチャーがお二人を護る、でどうでしょうか」

 

「…単純だが、確実だな。確かに、私ではバーサーカーの相手は勤まらない。

 そういうことであれば私は二人の護衛に徹した方がいいか」

 

「決まったな。それじゃ、早く行こう。もしかしたらもうあっちは気づいているかもしれない」

 

 士郎を合図に、四人はアインツベルン城を目指す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ついに来るわね。準備はいい? 二人とも」

 

「はい。用意はできております」

 

「準備、万端。モーマンタイ」

 

 一方、アインツベルン城では、地下にある広場でイリヤスフィールを先頭に構えていた。側にはセラと白を基準とした赤い模様が入ったハルバードを携えたリーゼリットが両脇に並び、ヘラクレスはイリヤスフィールのすぐ後ろで佇んでいる。

 そして、この場にはイリヤスフィール達四人だけではなく、その更に後ろには大勢の人がいる。その数は約500といったところだろうか。

 一人一人は全てが白髪で血のように赤い瞳、同じ白い服装をしている。どうやら、ここにいる人全てがイリヤスフィール達と同じホムンクルスのようだ。

 

「行くよ。絶対に…絶対に勝つんだから!!」

 

 そう言って、イリヤスフィールは城の外へと出る。

 

(お嬢様を勝たせるための布石は揃えるだけ揃えた。後は、出たとこ勝負ですね)

 

(イリヤのために頑張ろう!)

 

「■■ー」

 

 そして、それに続くようにセラ、リーゼリット、ヘラクレスとその他のホムンクルス達も出ていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…これは、完全に誘ってるわね」

 

「ってことは、もうこっちの行動はバレているんだな」

 

 冬木市郊外の森の中。士郎達はサーヴァント達に運んでもらい10分もかからずに森の前に到着した。

 着いた士郎達は早速アインツベルン城目指して歩いていた。その間、凛は結界を気にしながら歩いていたのだが、結界はおろか、防犯セキュリティ的なものは一切見当たらない。

 その事から、既にこちらの行動はお見通しなんだろうと推測する。つまり、凛が言ったように誘っているのだ。

 

「ええ。あの中に誰かが居るのは確実だしね。そうでしょ?」

 

「ああ。間違いなく、あの城にバーサーカーはいるな。この距離からも判るほど気配が漂ってくるよ」

 

 凛がエミヤにそう聞けば、エミヤはアインツベルン城があると思われる場所に視線を投げながらそう言う。

 

「こうなったら仕方ないわね。一気に走ってさっさと片付けるわよ!」

 

「ちょっ! りん、待って!」

 

 そういうと同時に凛はもう警戒は要らないと走り出す。それに士郎は続き、サーヴァント達も置いていかれないようについていく。

 

「はっ、はっ、はっ…そういえばさ、りん少しいいか?」

 

「ん? なにかしら」

 

 走っている途中、士郎は気になったことがあったのか凛を呼ぶ。

 

「バーサーカーのことなんだけどさ。りんはバーサーカーの真名ってわからないのか?」

 

「…! そういえば、すっかり忘れていたわね、その事。そうねえ、今じゃなんとも言えないわね。宝具なんて一切見ていないし」

 

 そう凛が言うと、「やっぱりそうだよなあ」と士郎は頷いた後、ふと思うことがあったのか思考を巡らす。

 

(そういえば、バーサーカーはアルトリアと戦って負けたけど、それでもバーサーカーは渡り合っていた方だったな。きっと、バーサーカーもアルトリアと同じくらいの大英雄なんだろうな。

 ってことは、バーサーカーと戦っている間、アルトリアはこっちを気になんてしていられない筈だ。

 …もしかしたら、)

 

 あの夜、戦争が開幕した時に戦った際、確かにあの戦いはこちらの勝利と言っていいだろう。だが、それでも圧勝とはいかなかったどころか、あれで勝てたのも凛の機転があったから勝てた。つまり、紙一重だったのだ。

 その事から考えると、今度の戦いはなにかしら対策を用意している筈だ。向こうにも勝算がない訳じゃないだろう。こうして誘っているのが何よりの証拠だ。

 

(…もしかしたら、おれも戦うことになるかもしれない。そのときは覚悟しないと)

 

 一応、手筈としてエミヤが護ってくれるものの、もしかしたら足りないかもしれない。

 士郎はその万が一のために覚悟しておこうと思う。

 

(…なるべくサーヴァントだけで決着が着いたらいいけど)

 

「よし、もう直ぐね。ラストスパート!」

 

 凛がそう叫んだので士郎は下げていた視線を上げて前を見る。すると、御伽噺に出てきそうな城が見えた。あれがアインツベルン城、イリヤスフィール達が根城としている場所。

 

「大きいなぁ」

 

 士郎は知らず知らず感嘆の声が出る。士郎の言うようにアインツベルン城は城というだけあって大きい。衛宮邸よりも大きいだろう。

 

「…! 止まれ」

 

 このまま何もなく進むかと思ったら、急にエミヤが止めてきた。

 なんだ、と士郎達は止まってエミヤの方を向く。エミヤは辺りを千里眼で確認しているようだ。様々な方向を睨んでいる。すると、何か見つけたのか一方向だけを凝視する。

 

「……どうやら、こちらの行動を確認しているようだ。それもかなり用心深くな」

 

 そう言うなやいなや、エミヤは弓と矢を投影して凝視していた方向へ矢を飛ばす。そのまま矢は一直線に飛んで行き、見えなくなった頃に遠くでガラスが割れたような音が小さく響いた。

 

「…ただ開けっ広げにして誘ってる訳じゃないようね。この先は何か罠があると見た方がいいかしら」

 

「ああ。だが、このまま強行軍でいいだろう。罠は全て私が見つけ、速やかに排除する。何、心配する必要はない。私のクラスを忘れたわけではないだろう」

 

 確かに、アーチャークラスであれば暗い中だろうと見えづらい罠を容易に見つけ、遠距離から対処、排除できるだろう。ここへ来てようやくエミヤに出番が回ってきたというわけだ。

 

「ええ。それじゃ、任せたわよ!」

 

 士郎達は再び走り始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…向こうにアーチャーがいる限りこちらの罠は全て無為となりますね。いかがなされますか、お嬢様」

 

「…………」

 

 アインツベルン城にて、イリヤスフィールは士郎達が映っている水晶を手で覆って見ながら、セラの言葉を聞く。

 

「…罠を増やしてきて。見つけやすいのと見つけづらいのを作ってできるだけ錯乱させるのよ」

 

「畏まりました」

 

 セラはそう言うと、側にいたホムンクルスの一人に話しかけ、罠を増やすように言う。

 

(…こんなことしても無駄だとは思うけど、今は少しでもシロウ達の体力を削らないと)

 

 現在、イリヤスフィールは士郎達の体力を減らしていき、ここに辿り着いたときは圧倒的な兵力で押し潰す、という算段らしい。

 

(ランサーはバーサーカーが相手をして、その内に私達は他の三人を殺す。如何にランサーって言っても、マスターがいなければ消えるだけだしね)

 

 イリヤスフィール達はアルトリアを倒すことは諦めたようだ。その代わり、士郎を殺すことでアルトリアの無力化を図っている。

 サーヴァントはマスター無しでは現界していられない。どれだけ強いサーヴァントでもその依り代となるマスターがいなければ意味がないというのは全てに共通する。例外はあるにはあるが。

 

「…シロウにあんな物があったらダメ。絶対にあれは壊さなきゃいけないもの。でも、」

 

 本当に壊していいのか、イリヤスフィールは少し迷っていた。

 もともと、イリヤスフィールは士郎から聞きたいことがあった。それは自身の父親、衛宮 切嗣について、士郎の義父でもある切嗣について聞きたいことがあったのだ。

 最初はそのために準備をしていた。アインツベルン当主からは聖杯を得て、悲願を達成するのだ、と言われてきたが、イリヤスフィールにとってそれはどうでもいいことだった。イリヤスフィールはただ切嗣が前回の聖杯戦争以降、何故会いにきてくれなかったのかが知りたいだけだった。

 だが、士郎にあるものが見えた瞬間、その考えは消えた。イリヤスフィールにとって、士郎はもう殺すべき対象でしかない。だが、そのようなことをしては永遠に切嗣のことを聞ける機会はないだろう。

 故に、どちらを選んでも、イリヤスフィールの望む結果は得られないのだ。

 

「私は…どうしたらいいの? …お母様」

 

 頭を抱えてイリヤスフィールは自分の母を思い出す。優しく自分の名前を呼んでくれた母。もうすでにこの世を去って行ってしまった、今では会うことが叶わない人。

 

「……ダメね。こんなところで悩んでちゃお母様に怒られちゃう。しっかりしないと」

 

 イリヤスフィールは自分の頬を両手で叩いて前を向く。いつまでも落ち込んでいられないのだ。イリヤスフィールはすでに幼い頃から親はいない。切嗣は知っての通り、謎の病で倒れ、母親は第四次聖杯戦争の折に亡くなった。現在では家族と呼べるのはセラとリーゼリットのみだ。つまりは、士郎と似た境遇だった。

 

「また新しいのを作らないとね。今度はもっと魔力を込めて作らないと」

 

 そう言って、イリヤスフィールは自身の髪を一本抜き取り、アインツベルンの針金細工の技術で、そこから鳥の形を模した使い魔、『シュトルヒリッター(コウノトリの騎士)』を作り出す。

 

「行けっ!」

 

 イリヤスフィールは窓から『シュトルヒリッター(コウノトリの騎士)』を外に放つ。

 外に出た『シュトルヒリッター(コウノトリの騎士)』はそのまま自動で動き、士郎達がいる方向へと羽ばたいていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッ!」

 

 また遠くでガラスが割れる音が聞こえる。

 士郎達はあの後ずっと走り続けている。エミヤの指示で時には進路を変更することもあった。何故なら、罠の中にはとりわけ大きいものがあったからだ。さすがに排除するには手間が多少なりとも掛かってしまうので、そういったものは無視し、小さい罠だけを排除、進行していく。

 

「全く、とんだ歓迎会ね! でも、判るわ。罠の殆どは簡単なものばかり、つまり焦っている! このまま走り抜けさえできればこちらのモンね!」

 

「油断はいかんぞ、凛。あの規模の城を建てられる連中だ。この程度の罠、まだまだ序の口だろう。本命が来た時が真の勝負だ。

 その時になって油断したままでは足元をすくわれかねん」

 

 エミヤは数多くある罠を矢で一発一発的確に破壊する。エミヤが罠を破壊する度にガラスが割れる音が響く。

 

「それもそうね。けど、なんにせよこのまま走り切らないと!」

 

 凛は目の前に来た中くらいの岩を跳び越える。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ」

 

「…大丈夫ですか、シロウ」

 

 凛達が会話をしながら走っている間、士郎はずっと胸を押さえながら走っていた。

 

「う、うん。おれは、大丈夫だ」

 

「……………」

 

 士郎はそう言うが、アルトリアとしてはどうも不安だった。何故なら、士郎の呼吸が明らかに不安定だからだ。

 疲れていると言うには妙に苦しそうなのに加え、目は見開き、瞳孔は揺れ、口は切り裂けそうなくらいに開けて呼吸をしている。明らかに異常だ。もしかしたら、エミヤとの戦いで何か後遺症みたいなものが出ているのか。

 アルトリアは少し士郎を休ませたいが、今ここで休んではどこから敵の一撃が襲ってくるかわからない。故に、

 

「少し失礼しますね、シロウ」

 

「え? どうした、アル…うわっ!」

 

 アルトリアは士郎を抱えて走ることにした。

 

「ちょ、アルトリア! こんなことしなくてもおれは大丈――」

 

「――大丈夫ではありません。今のシロウは明らかに異常をきたしてます。そんな状態のシロウをこのまま走らせるわけにはいきません。シロウには申し訳ありませんが、今だけでもこのまま大人しくしていてください」

 

 アルトリアは離すつもりはなく、がっしりと持ち上げられているので、仕方なく士郎はそのまま大人しくするほかない。

 

「…っ、判っ、た」

 

 士郎としても、こうしてアルトリアに抱えられると不思議と落ち着けた。

 

(くそっ! こんなときになんだってんだよ!)

 

 士郎は自分に悪態をついていた。今は戦いの最中、そんなときに不調を起こすなど以ての外だからだ。

 

(何なんだ、一体。なんだか、急に身体中がざわざわしてくるのって)

 

 士郎は走っている途中、身体の至るところが何かに呼応するかのようにざわざわと騒ぎだしたのだ。それは、筋肉、血、髪の毛の一本に至るまで全てだ。

 何故急にこんなことになったのか、それは判らないが、今はアルトリアに抱えられているからか、それも落ち着いてきている。

 

(…奴の状態が不安定だな。やはり、無理をさせるべきではなかったか。と言っても、今はそのようなこと言っていられる状況でもないか)

 

 エミヤは横目で士郎の状態を確認する。士郎の体調はかなり不安定だった。心臓はものすごい速さで脈打ち、肺の伸縮も大きすぎる。ただ疲れているというわけでもなさそうだ。

 

(まるで何かに共鳴しているかのような反応…まさか)

 

 エミヤはそこまで考えて思ったことがあった。それは、士郎の中に潜んでいるもの。

 エミヤはその正体を知っているがゆえに、もしかしたらあれと共鳴しているのではと。そう思った。

 

(だが、そうだとしたら何故あのときは反応しなかった? …まだできるだけの何かが無かったのか?)

 

 謎は深まる一方だ。ただ、そうなのであれば、士郎をこのまま行かせるわけにはいかない。そう考えるが、士郎の性格上どうしても行くと聞かないだろう。それは自分自身がよく知っている。

 

(…仕方ない。できる限り譲歩して様子見とするか)

 

 エミヤは士郎から視線を外し、罠を探ることに専念する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はここまで。
うーむ、色々書きたいことがありすぎてなかなか書ききれない。これは、バーサーカーとの戦いは3話くらい続くかもしれないです。
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