Fate/stay night 槍の騎士王と幼い正義の味方   作:ウェズン

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今回は早めに投稿。
しかし、やっぱりこれは長くなるなぁ。根気強く頑張らねば。
あ、それから、アルトリアVSヘラクレスは少し先延ばしにします。期待してた方、いたらすまない。
では、始まります。


第十八夜-この世全ての悪-

 あれからしばらくの間、士郎達は森の中で奔走していた。だが、目的地であるアインツベルン城には未だたどり着いていない。何故なら、

 

「はぁ、はぁ、はぁ。あ〜もうっ!! 何個あんのよ、これ! っていうか、なんでたどり着かないのよ!」

 

「ふむ。どうやら様々な罠を駆使し、誘導し彷徨わせているようだ。その証拠に、あの木の枝の折れ方、見覚えがあるな」

 

 この様に、アインツベルンのホムンクルス達が一丸となって罠を設置、方向転換させてなるべく近寄らせない様にしているからだ。

 

「…少し止まっていただけませんか?」

 

「! 何? なにか方法でも…って、どうしたの士郎!?」

 

「今気づいたのかね、凛」

 

 アルトリアに呼ばれ、凛達は止まる。

 

「少しの間シロウを頼みます」

 

 アルトリアは止まってくれた凛にぐったりと疲れはてているような士郎を一旦預けると、唐突に槍を出して構える。

 

「! ちょっと、何をする気!?」

 

「ここからあの城までの森を吹き飛ばします。危険ですので、お二人は私の後ろにいてください」

 

 そう言うと、アルトリアは槍を構えたまま、平行に後ろへ引き、魔力を溜める。

 

(…! まさか、宝具を撃つつもり!?)

 

 凛は士郎を抱えたまま、エミヤと共にアルトリアの後ろへと下がる。

 アルトリアはそれが見えたら、槍に光を一気に集束させ、

 

「『最果てにて(ロンゴ)――!」

 

 集まった光は槍を見えなくなる様に覆い、全てを覆った時、解放される――!

 

「――輝ける槍(ミニアド)!!』

 

 解放された光は巨大な渦を巻く様にして、森を包み込んでいく。

 そして、光が全て放たれた跡は、草木の跡すら全てなく、アインツベルン城までの一直線の道のりが出来上がっていた。

 

「す、すごい…! こんなことができるなんて…!

(ロンゴミニアド…。間違いない、ランサーの真名は…!)」

 

 凛は巨大なクレーターのような道を見てそう思う。やはりアルトリアは規格外だと。そして、今は味方でいてくれる安心感と、敵対するときの恐ろしさを同時に感じとる。

 

「…少々強引なやり方でしたが、そんなに時間もかけていられないと思い、このようなことをしました。それでは、行きましょう」

 

 アルトリアは凛から士郎を返してもらい、凛達は再び走り出す。

 

「…ねえ、なんだか苦しそうだけど、大丈夫なの?」

 

 凛が言っているのは士郎の容態のことだろう。アルトリアから少し預かっていただけでも、士郎の状態は異常だと判るほどだったらしい。

 

「判りません。走っている最中、士郎は少しづつ苦しそうになっていきました。

 最初は疲れているだけだと思ったのですが、それにしては苦しそうだったので、こうして私が抱えているのです。こうしていると士郎も少し落ち着いた感じがありますので」

 

「…そう。ならよかったわ。ごめんなさいね、本当は休ませたいところだけど」

 

 凛が申し訳なさそうに言う。それにアルトリアは表情を変えずに、

 

「…これは私の推測ですが、士郎はそんなことを気にはしていないと思います。ですから、大丈夫ですよ」

 

 そう言うと、アルトリアは口を閉ざし、士郎を気にかけながら走ることに集中する。凛もこれ以上聞くことがないのか、口を閉ざして走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「強行突発されてしまいましたね。ですが、思惑通り二人のマスターは大分疲れている模様。こちらも多少被害は出たようですが、何も問題ありません」

 

 アインツベルン城の一室からその様子を見ていたセラは忌々しそうに目を細める。

 

「…うん。それじゃ、準備しなきゃね。行くよ、バーサーカー」

 

 先程からイリヤスフィールの側で佇んでいたヘラクレスはイリヤスフィールの言葉に反応を示し、呻き声のような声を出しながら、部屋から出ていくイリヤスフィールについていく。多少ドアを壊しながら。

 

「いい加減壊すのはやめてほしいのですが…」

 

 一人残ったセラは苦労人よろしく頭を押さえながら言った後、イリヤスフィールの後を追う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よ~し。ようやく着いたわ! いよいよ決着を着けるときね!」

 

 あれから、アルトリアが作った道を駆け抜け、アインツベルン城前に着いた士郎達は早速扉を蹴り破って中に入っていこうとしていた。

 

「…アル、トリア。もう、大丈夫だから。おろ、して」

 

「…! ダメです。まだ苦しそうではないですか!」

 

 凛に続きアルトリアも入っていこうとするが、そこで士郎が降ろしてくれと言ってくる。どう見ても士郎は苦しそうな状態、それも、先ほどよりもかなり辛そうにしている状態の士郎を動かすわけにはいかないとアルトリアは言うものの、士郎は頑なに降ろしてと言う。

 

「大、丈夫だ。アルトリアのおかげで少し、よくなったんだ。ちょっと苦しいけど、これならまだ戦える。いつまでもアルトリア達の足を引っ張ってばかりじゃダメだから」

 

「…っ。…判りました。そこまで言うのでしたら降ろします。ですが何かあったら必ず凛に言ってください」

 

 アルトリアはさすがに折れるしかなく、士郎をゆっくりと立たせる様にして降ろす。

 

「ありがとう。それじゃ、おれらも行こっか」

 

 もう既に先に行った凛達を士郎はふらふらと少しだけよろめきながら追う。

 アルトリアは士郎を心配そうに見るが、アルトリアとしてもここから先は誰かを気にしてはいられないだろうと切り替えるしかない、と首を振って入っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…さすが、外観もまさに昔ながらの西洋の城って感じだったけど、中もすごい西洋の豪邸って感じね」

 

 突撃し、中へ入っていった凛から出た感想はそれだった。

 アインツベルン城の中は一見して判るほど高級感あふれるもので埋め尽くされていた。ここはホールなのだろうが、その広さというと、少し小さめかもしれないが学校の体育館ほどあるのではと思われる。

 装飾も暗い中を照らしている天井に吊り下がっているシャンデリアと壁にあるランプ。目の前にはよくお屋敷などで見られるような赤い絨毯が敷かれた階段等、高級感が凄まじい。

 

「……。嫌に静かね」

 

「…気を緩めぬことだ。こういう何もないと思ったときこそが一番危険だからな」

 

 アインツベルン城に突撃したのはよかったが、いざ入ってみても気配はすれど何も出てこない。

 

「…静か、だね」

 

「! ちょっと、歩いて大丈夫なの士郎」

 

 凛はアルトリアと歩いて来た士郎に向かって少しだけ叱るかのように言う。

 それに士郎は「大丈夫だよ。少し良くなったからさ」と笑顔を見せれば、「そう。ならいいけど、何かあったら言いなさいよね」と先程のアルトリアと同じことを言われる。

 

「…! 来るぞ。構えろ」

 

 周囲を確認していたエミヤが何かに気づいたらしく、士郎達に警告する。すると、

 

「……いらっしゃい。シロウにリン」

 

 イリヤスフィールが目の前にある高級感溢れる階段から降りてくる。その後ろに覇気を纏い、円状に刃が付いた刺々しい金色の新たな武器を携えたヘラクレスを連れて。

 

(…!! バーサーカーのステータスが上がってる!? 一体何をしたの!?)

 

 凛はヘラクレスが変わっているのに気づきステータスを確認してみると、ただでさえ高かったステータスが更に上がっていた。

 

「今度のバーサーカーは強いよ。何て言ったって、令呪を5画使って強化したからね」

 

「なっ…! ちょ、ちょっと待ちなさい! あんた、今5画って言った!? どういうことよ、令呪は普通3画まででしょ!!」

 

「ええ。ですから、他所から奪ってきたのですよ。遠坂の魔術師」

 

 凛が冷静を乱しながら指を指して言うと、どこからともなく現れたセラが凛の疑問に答える。

 

「奪ってきた、ってどこから…」

 

 セラの冷静さに感化されたのか、凛は少し落ち着き、さらに疑問を述べると、

 

「言峰教会から、ですよ」

 

「…! なんですって!?」

 

 凛はセラが言ったことに驚き目を見開く。

 

「あの教会にいた神父、言峰神父ですが、あの男調べてみると今までの聖杯戦争参加者で脱落した人達の令呪を持っていたではありませんか。ですから、少しだけ貰ったのですよ」

 

 そうセラは言うものの、どう考えてもただ貰った訳ではないだろう。つまり、イリヤスフィール達は言峰教会を襲撃したということで間違いないと思われる。

 

「…あんた達ね、判ってるの? 聖杯戦争の監督役を襲うってどういうことか」

 

「ええ。ですが、どうもキナ臭いのですよ。此度の聖杯戦争、通常の戦争とはいかない気がしましてね。そんな状況、ルール違反などと言っていられません」

 

 セラはまるで当然とばかりに堂々と言う。

 

「っ! あんたね――」

 

「――お話はそこまでよ」

 

 凛がセラに文句を言おうとしたら、イリヤスフィールがそれを止める。

 

「無駄話がしすぎよ、セラ。ここでみんな殺しちゃうんだから、話したところで意味なんてない」

 

「…出過ぎた真似をいたしました。申し訳ありません、お嬢様」

 

 イリヤスフィールに一喝されたセラは一礼した後、後ろへ下がる。

 

「何よ。少しくらい聞いてもいいでしょ」

 

「…私は、あなた達を殺す。そのために準備してきたんだから」

 

 イリヤスフィールは凛の言葉を無視して話を進める。

 

「特に、あなたは絶対に殺す。殺すんだから!!」

 

 士郎を険しい表情で見ながらイリヤスフィールは言う。

 士郎はそう言われてもなぜここまで恨んでいる様な事を言われるのか理解していないため、朦朧とすることもあってかまるで頭が働かずどう返事を返したものか、と悩む。

 

(…あいつは、なんであんなにもおれを…)

 

 なぜ彼女はあそこまで士郎に対して殺意を抱いているのか。彼女に対して一体何をしたというのか。士郎は全くわからない。判らないが、一つ判ることがある。それは――

 

「――やっちゃえ! バーサーカー!」

 

「■■■■■■■ーーーーーーー!!!」

 

 だが、そうこう考えている暇もなく、イリヤスフィールに命じられたヘラクレスが襲いかかってくる。

 

「下がって、シロウ!」

 

 一直線に向かってくるヘラクレスに、アルトリアは鎧と槍を持って前に躍り出る。

 

「ハァッ!!」

 

 鎧を着、槍を持ったアルトリアはヘラクレスの一撃をどうにか押し留める。周囲にその衝撃が地震のように伝わってくる。

 

「ぐっ…!!(以前よりも重くなってる…!?)」

 

 アルトリアは防ぐのがやっとという感じなようで、全身の力を使い、自身の下へと受け流す。それによって、ヘラクレスの武器は勢い余って床に突き刺さる。

 

「…! ハァッ!」

 

 アルトリアはここで戦っては危険と思ったのか、受け流した後、流れるような動きで宝具を一部解放、ヘラクレスを天井から突き破らせ外へと出す。

 

「ランサー…!」

 

 その後、アルトリアはヘラクレスを追うために穴が開いた天井へ向けて跳び、外に出る。

 

「衛宮 士郎! 心配なのは判るが、今はこちらを気にしろ!」

 

 士郎はふらつきながらアルトリアを追いかけようとしたが、エミヤに止められる。なんでだと思い、士郎は上に向けていた視線を戻すと、いつの間にか周囲は大勢の人で囲まれていた。

 士郎達を取り囲んでいるのは、全員イリヤスフィールと同じ白髪赤目。そして、全員男女差はあれど、不気味なほど整った顔、不気味なほどに似通っている顔立ち、不気味なほどに無表情と一見すればホラーな印象しか受けない怖ろしい集団だ。

 

「な、なんだこいつら…」

 

「…大方、大量生産して廃棄するつもりだったホムンクルスってところかしら」

 

「ご名答。こちらは我がアインツベルン製作のホムンクルスです。一体一体の力量や魔力はお嬢様や私達と比べればそうでもありませんが、貴方達を相手にするのでしたら十分です」

 

「…随分と舐められたものだな。確かに、これだけ数を相手取るのは些か骨が折れるというものだ。だが、所詮はそこまでだ。私がサーヴァントという事を忘れてはおるまいな」

 

 セラが挑発、いや確信して言っていることにエミヤは眉間を寄せる。

 

「ええ、もちろん。貴方のことは忘れていません。ですが、いくらサーヴァントと言えど、これだけの数を相手にしながらマスターを護っていられますか?」

 

「…なるほど、それが狙いか。随分と姑息な手段を用いるな。それほど彼女が恐ろしいか」

 

 エミヤはアインツベルンの目的がマスター殺しだと気づき、嘲るように言う。

 

「…無駄話はここまでです。お行きなさい!」

 

 セラは手を広げ、ホムンクルス達に命令する。

 すると、白い服装のホムンクルス達が予備動作を感じさせない機械的な動きで一斉に襲ってくる。その様はいうならば綺麗なゾンビといったところだろうか。

 

「くっ…! 凛、君は小僧を護れ! 奴らの目的は小僧を殺すことだ!」

 

「もうこっちも気づいているっての! こっちに来なさい、士郎!」

 

「う、うん!」

 

 士郎はまだ辛い体を無理やり動かして、凛の側に寄る。

 凛が側に寄って来た士郎を抱えるのを見たエミヤは、早速目の前に来たホムンクルスの頭を斬り、血を噴きださせる。

 

「フッ。この程度…!?」

 

 如何にホムンクルスといえど頭さえ斬れば動かなくなるだろうと思われた。だが、そのホムンクルスは執念にしがみつくかのように斬られた頭から血を滝のように流しながらエミヤの腕を掴む。人間とは思えない握力で。

 

「なっ…! くっ!」

 

 エミヤは空いてる手で掴んでいる腕を斬り落とし、続けて胴体を斬り裂くとようやく動かなくなる。今の生命力はなんだ、と思っているとまた一体襲ってくる。

 

「ちょっと! 何なのこいつら!」

 

 凛も士郎を抱えながら、宝石魔術、ガンド、八極拳、とこの聖杯戦争の準備として極めて来た技術全てを駆使し、ホムンクルス達を蹴散らしているものの、それもうまくいっていないようだ。

 士郎を抱えているというのもあるのだろうが、ホムンクルス達が異様にしぶといというのもあるだろう。

 このままではいずれ倒されると思い、凛とエミヤは一旦集まり、お互いに背中を向け合いながら立ち止まる。

 

「…凛、小僧は私が預ろう。多少ハンデを与えても私は戦える。だが、君は危険だ」

 

「…そうね。こいつら一体一体雑魚とは思えないしぶとさだしね。それじゃ、士郎はあんたに任せるけど、死なせたら容赦しないわよ?」

 

「フッ。それだけ口が開けれるようならまだ余裕そうだな。…行くぞ」

 

「ええ」

 

 凛はエミヤに士郎を渡し、八極拳の構えを取る。エミヤは片方だけに剣を持ち、宙に剣を投影する。

 

「手強いですね。さすがと言いましょうか」

 

「セラ、私達、行かなくていいの?」

 

 リーゼリットがハルバードを持ちながらセラに問う。セラは一瞬だけリーゼリットに視線をやると、

 

「いえ、私達も行きますよ。ですが、今はもう少し様子見としましょう」

 

 そう言って、セラはイリヤスフィールに視線を向ける。イリヤスフィールはどうも気難しいそうに眉間を寄せながら士郎達…いや、士郎だけを見ている。

 

(…大丈夫でしょうか。どうも、立ち直ってはくれたようですが、あの日からお嬢様は険しい顔をしてばかり…)

 

「イリヤ、悲しい顔してる」

 

 セラがそうイリヤスフィールを心配していた時だ。リーゼリットは突然そんな事を言ってくる。

 

「悲しい? どうしてそう思うのですか、リーゼリット」

 

「だって、私わかる、イリヤ無理してる」

 

 なんとも呑気そうな雰囲気で話しているが、リーゼリットはイリヤスフィールの話し相手でもあるのだ。そのリーゼリットが言うのであれば、おそらくそうなのだろう。

 セラはイリヤスフィールをもう一度見る。イリヤスフィールは依然と眉間を寄せて士郎を凝視している。

 セラには判らないが、今イリヤスフィールは辛そうにしているのだろう。故に、セラはどうするべきか悩む。イリヤスフィールの命の通り士郎を殺すべきか、ここで止めるべきか。いや、後者はもう遅いだろう。すでに戦いは始まっている。今更止めようとしても止まらないだろう。

 

(…とにかく、今は目の前のことに集中しましょう)

 

 一度視線を戦場へと戻し、今そのことは考えないようにする。

 

「ハァッ!!」

 

 エミヤは剣を一直線に振り下ろし、ホムンクルスを一刀両断する。

 

「はぁ、はぁ、全然減る感じがないわね。見た目以上に多いのかしら?」

 

「いや、単純に減る量が少ない故にそう錯覚しているのだろう」

 

 エミヤはそう言ってから片手で抱えている士郎を確認する。

 

(…彼女がいなくなったからか、徐々に不調になって来ているな。このままではどっちにしろ衰退して死ぬ恐れがある。一体なんだというのだ)

 

 士郎は徐々に息が荒くなり、体温も異常に上がっている。このままでは死ぬのも時間の問題だろうと思われた。

 

(…どうする。私の結界で一掃したいところだが、この状況では詠唱している暇もない)

 

 エミヤはそう思いながら、前方から向かってくるホムンクルスを斬り、士郎を抱えている方から来るホムンクルスを宙に投影した剣で穿つ。

 

「くっ…!」

 

「…アー、チャー、師匠。お、ろしてくれ」

 

 すると、士郎が薄っすらと覇気が微塵も感じない声でエミヤに呼びかける。

 

「…! 何を言っている貴様! おろせるわけがないだろう!」

 

「でも、たた、かわなきゃ。おれが、たた、かわない、と、おれは、正義の、味方に…!」

 

 士郎は途切れ途切れの言葉で苦しそうに言う。

 

「たわけ! 死んでは元も子もないだろう! 正義の味方になりたいのならば、今だけは生き抜け!」

 

 エミヤはそう士郎に叱りつける。すると、

 

「でも、それでも……! ウプッ!」

 

 士郎は何かが込み上げて来たのか、口を押さえる。

 

「…! どうした。…! まさか…!」

 

 エミヤは嫌な予感がした。その瞬間、

 

「ウブッ!! ゴホッ! ガハッ!!」

 

 士郎はそれを吐き出した。それは、以前と同じあの黒い液体。

 エミヤはこれはまずいと思ったが、遅かった。そこからさらに士郎から黒い靄のようなものが出てき、一瞬暗く煌めいたと思えば、

 

「ぐおっ!!」

 

 突然強力な突風で抱えていたエミヤを砲弾の如く吹き飛ばした。そのままホムンクルスの群に突っ込んでしまったエミヤはすぐに起き上がり士郎を確認する。すると、士郎は黒い靄を身体から勢いよく噴出しながら悶え苦しみ、呻き声をあげていた。

 

「あっ、あぁぁ…!! ぐっつ、お、あ、ああ、ガフッ…ぎっ、あ、ああ…!!」

 

 士郎の至るところからあの黒い液体が流れ出す。目から、鼻から、口から、血のように垂れ出ていき、まるで意思があるような動きで徐々に士郎の身体を包み込んでいく。

 

「!? ちょっ…! 何よ…あれ…!!」

 

 凛が士郎の異常に気づいたときには、すでに9割ほど士郎の身体を包み込んでいた。

 

「あ、ああ、ぎぎ、あっぎ、がぁ…! あ、ぐ、ああああぁぁぁぁアアアアアアアァァァァァァああああぁぁ!! あっ、が…!」

 

 そして、全てを包み込み、士郎は叫ぶだけ叫ぶと、突然倒れて動かなくなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――…あれ? ここ、どこだ?」

 

 士郎は瞑っていた目を開ける。天井が見えた。どうやら、いつの間にか仰向けで寝ていたようで、起き上がる。外は暗くなく、すでに朝を迎えていたようだ。朝日が部屋に入り込んでいる。

 

「…えっと、確か、おれはバーサーカーと戦いに城に行ったんだよな。で、それから…あれ?」

 

 どうも記憶が曖昧だ。なんでだ、と思いながら、立ち上がると、

 

「…痛つ。なんでこんなに頭が…! それに、ここよく見れば、ってよく見なくてもおれの家、だよなぁ」

 

 頭痛がする頭を押さえながら周りを確認した士郎はここが自室だということに気づく。いつの間に帰って来たんだと思いながら、士郎は部屋の襖を開けて廊下を歩き出す。とりあえず、状況確認をしたいからだ。

 

(きっと、また気絶しちゃって部屋に運ばれたんだろうな。それなら、居間に行けば凛達がいるよな)

 

 こうして戻ってこれたのであれば、ヘラクレスを倒して無事に生還したということなのだろう。士郎はまた役立てれなかったことに悔しく思いながら凛に会い、そのことについて聞こうかと思う。

 

(アルトリアにも会いたいしな)

 

 あのヘラクレスと戦った後だ。きっと傷だらけになっただろうと、会ったら労おうと思う。

 

(何したらいいかな? やっぱり豪華な食事とか? アルトリアって結構食いしん坊だしな)

 

 メニューは何がいいかなと楽しそうに考えながら歩いていると、居間の前まで着いた。すると、朝食の匂いが漂ってくる。

 

(あっちゃー。またりんに作らせちゃったか)

 

 そう残念に思いながら居間に入ると、

 

「おっはよー!! 士郎!!」

 

「うわっ! な、なに、って、ふ、ふじねえちゃん!?」

 

 懐かしの住居人の大河が士郎を見つけた途端、虎の如く襲いかかって来たので、とっさに避ける。

 

「ぐふっ! お、おねえちゃんのハグを躱すとは…! 成長したな士郎」

 

「な、なんで、…ふじねえちゃんもう退院したのか!?」

 

 大河はあの結界によりまだ入院していた筈だ、それが何故家にいるのか。そう思っていたら、

 

「おはよう、士郎くん」

 

「…! さ、さくら、ねえちゃん」

 

 桜まで家に帰っていた。二人ともこうして帰っているということは、どうやら無事あの学校にいた生徒達は退院したようだ。

 士郎はそう思うと安心した。あの時、慎二を止められなかったばかりに二人だけではなく、大勢の生徒と教師たちを危険な目に遭わせてしまい、全員無事だと判っていても不安だった。それが、こうして無事に退院したのだから、士郎にとって喜ばしいことだった。

 

「ちょっと〜、毎度毎度騒がしいわよ。もう」

 

「…! り、りん!」

 

 すると、今度はまだ目覚めたばかりと思われる凛までやって来た。

 

「り、りん。ちょっと聞きたいことが…」

 

 士郎はようやくヘラクレスと戦った後のことが聞けると思い、凛を呼ぶ。そこでふと、今ここには大河達がいるということに気がつく。

 

「? どうしたの、士郎」

 

「あ、えっと、あ、後で。後ででいいから」

 

 凛は急に止まった士郎に話しかけるが、士郎は慌て気味にそう言ってこの話を無理やり切る。大河達は聖杯戦争とは無関係な人達だ。聞かれるわけにはいかない。

 

「? あっそう。ならいいけど。あっ、桜私はいつも通り少なめでいいからね」

 

「はい、判りました」

 

 凛は桜にそう言うと、顔を洗いに洗面所に行く。士郎はそれを見て驚いたような表情になる。あんまりにも慣れたような会話のやり取りをしているからだ。いつの間にそこまで自然な流れで会話ができるようになったのか。

 

「い、一体、おれが気絶してからどれくらい経ったんだ?」

 

「出来上がったぞ桜君」

 

「あ、はい。今運びますね」

 

 士郎が頭を悩ませていると、今度はいつもの赤い外套を脱ぎ、黒色の私服姿でエプロンを身につけたエミヤが台所から出てくる。

 

「え、えええ!? ちょ、ちょっと! アーチャー師匠!?」

 

「む、どうした衛宮 士郎。起きたというならば、桜君ばかりに任せずお前も手伝え!」

 

 エミヤに叱られた士郎は「は、はい!」と考える時間も質問する暇も無く、台所から朝食を持ってくる。

 

(…これは、一体どうなってるんだ? おれが寝ている間に一体なにがあったんだろう)

 

 疑問ばかり浮かぶが、こうして平和な朝食をしようとしているのだから、今は良しとしよう。

 

「おはようございます。おや、今日の朝食は魚ですか」

 

「! ア、アルトリア」

 

 士郎が朝食を運んでいると、アルトリアまでもが普段着となっている白いシャツと青いスカートを着てやって来る。

 

「おはようございます、シロウ」

 

 そう言って女神のように微笑んでくれるアルトリアはいつもと変わりはない。いや、アルトリアだけではない。ここにいる全員が変わりない。もし、変わったというなら、エミヤがいつの間に馴染んでいたのかくらいだ。

 

(…みんな、戻ったんだろうか。完全にじゃないと思うけど)

 

 少なくとも、ここは平和だと判る。すると、

 

「おっはよ~諸君。今日もいい朝だね~」

 

「あ、おはよう(…こいつもいつも通りだな)」

 

「おっはよ~! よし! 全員揃ったところで! いっただきます!!」

 

 最後の住居人が来たので、士郎達はテーブルを囲み、先ほどまで倒れていた筈の大河を合図に、手を合わせ「いただきます」と食事の時間になる。

 

「はむっがぶっもぐんぐっハフハフんぐっがつはむっおかわり!」

 

「…すんごい勢いで無くなっていく…」

 

 すると、大河が物凄い勢いでテーブルの上にあったものを目に追えない速度で平らげていく。

 

「はははっ、全く、相変わらずだな、あの人は」

 

「ふふっ、藤村先生らしいです」

 

 その様子にエミヤは昔でもあったと言うような、微妙な表情で見、桜はとても微笑ましそうに見ている。

 

「藤村先生もすごいけど、こっちはこっちですごいわね。どんだけ口に詰め込む気よ」

 

「あむっあむっ、ふぃん! ほれをふめこまふふはふわれまふえん!」

 

 大河の食いっぷりに負けず劣らずのアルトリア。これに凛は苦笑いで見ている。

 

「あーもう、何言ってるのか判らないし、口からこぼしてるから黙って食べなさい」

 

(…今度、作るならもっと多く作らなきゃ)

 

 アルトリアの食べている様子を見て、士郎は今度買い物に行くならば買う量を増やそうかと思う。

 

「いや~平和だね~。それにしても、美人はよく食うって聞くけど、あの王様見ていると本当にそうなんじゃないかって思うな。あの虎の姉ちゃんはともかく。あっ、醤油とってくれ士郎」

 

「んっ、ほい醤油」

 

 隣から取ってくれるよう頼まれた士郎は側にあった醤油を渡す。

 

「…お前はそんなに食わないんだな」

 

「んっ? オレか? まあ、そんな食うほうじゃないな〜。あそこまで食事に、こう憧れとか、尊敬とか、そんなもんは無いからな〜」

 

 醤油を大根おろしにかけ、それに魚を付けながら士郎に応える。

 

「あれ? 君いらないの? じゃ、いっただき〜!」

 

「だからってあげねえからな!? これ旨いし! 美味しいし!」

 

 食うほうじゃない、と言う言葉だけを都合よく聞いた大河は目を光らせ、虎の如く獲物(食事)を取らんとする。それにさせるか、と瞬時に茶碗等を持って回避するが、大河はそれで諦めるつもりはない。

 

「おんどるりゃぁぁ!!」

 

「ぬお〜!! なんでこの姉ちゃんから虎の幻影が浮き上がって見えるんだよ!! スタ○ドか!」

 

「コラ! 食事中に騒ぐな!」

 

 居間の中で追いかけっこが始まり、エミヤの側を通った瞬間に二人は引っ捕らえられ、共々叱られる。

 

(…平和、だなぁ。前まであんな戦争していたなんて嘘みたいだ。みんな無事なようだし、アーチャー師匠のこと二人には話していなかったけど、見た感じもう打ち解けているようだな)

 

 士郎は順にここにいる全員を見渡す。エミヤに叱られしょげている大河と次の献立の内容を話している桜とエミヤ、静かに食事を楽しんでいる凛に頰に目一杯詰め込んでいるアルトリア、そして――

 

(…あれ?)

 

 最後の一人だけ名前が浮かばなかった。

 

(あれ? なんでだ、おかしい。あいつとはずっと一緒にいたじゃん。それこそ、あいつはジイさんが死んだ時よりも前からおれの家にずっと居候している…)

 

 そう、彼とは縁があって昔から居候している筈だ。なのだが、何故かその名前が思い出せない。そこで、ふと思った。何故彼のことをよく知っていると思ったのか。彼のことはなにも知らない筈だ。

 

(いや、そもそもあいつは誰だ? おれはあいつを知らない、はず…)

 

 だと言うのに、何故か士郎は何度も見たことがあったような、何度も言葉を交わしたことがあったような感覚があった。と思ったら、何故か今度は彼のことはよく知っている筈だと思えてきた。

 

(あれ? あれ、あれ? アレ? どうなってんだ…)

 

 わけが判らない。そう思った士郎は一度そのもう一人の住人を見る。もう一人の住人はいつの間にか立っており、士郎をジッとなにも感じない視線で見ていた。すると、もう一人の住人が口を嗤うように曲げたと思ったら、

 

「……!!?」

 

 周囲の景色が一瞬にして黒色に消え去った。

 

「なっ…!? なんだよ…! これ…!! さくらねえちゃん、ふじねえちゃん!! りん、アーチャー師匠!! アルトリア!!」

 

「よお。こうして会うのは二回目、だな。ご主人様?」

 

 頭の理解が追いつかぬまま、士郎は話しかけてきた者を見る。

 

「…!! だ、誰だ…お前は…」

 

 士郎の目の前にいるのは、焼けた肌に黒い刺繍が身体全体に施され、黒い髪に赤いバンダナと腰布だけを巻いた士郎を少しだけ成長したような男。

 

「おいおい、オレが誰かなんて今更すぎな気がしないか? あーでも、そもそも存在にすら気づいてなかったようだし仕方ないといえば仕方ないか。よし、そんじゃ、まずは自己紹介といきますか」

 

 男は、押し殺したような声で楽しそうに笑い、悪魔と呼ばれしその名を名乗る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お呼びと聞いて、即参上!! あんたに寄生(宿)させてもらっている最弱英霊アヴェンジャーだ。名前で呼びたきゃ『この世全ての悪(アンリマユ)』とでも呼んでくれ。これからもよろしく頼むぜ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はここまで。
イリヤの令呪って3画だけ、なのかな?
後、アーチャーの桜への呼び方これであっていただろうか。







P.S
いよっしゃー!!! 明治維新開幕じゃ〜!! 俺は新撰組応援すっぞー! 沖田〜! 土方〜!
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