Fate/stay night 槍の騎士王と幼い正義の味方   作:ウェズン

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ども、ウェズンです。
みなさん維新は頑張っておられますか〜?
では、始まります。


第十九夜-真相-

「ハァッ!!」

 

「■■■■ーーー!!!」

 

 アインツベルン城外にて、アルトリアとヘラクレスは激突していた。

 二人が刃を交える度、周囲にある木が何本も根ごと吹き飛んでいき森を更地にしていく。遠くにある山も崩す。最早、二人の戦いは厄災かなにかだ。

 今まで行われたサーヴァント同士の戦いで、これ程までに苛烈を極めることは数少ないだろう。それほどまで規模が桁違いのまさに神話の戦い、彼のインド兄弟の戦いに匹敵するであろう戦いだ。

 

「■■■■■■■ーーーーー!!!」

 

 ヘラクレスの斧剣が横凪ぎに振るわれる。

 

「ぐっ…! おおぉぉ!!!」

 

 アルトリアは避けきるも、振るわれた際の衝撃だけで身体に傷がつく。だが、そんなことには気にしていられず、ヘラクレスの心臓を貫こうと神速ともいえる速さで槍を突き出す。

 二人の戦いはまるで終止符はないと言うかのように止まることはない。どっちかが武器を振るう度、辺りにはクレーターのような巨大な跡がくっきりと付く。

 

「■■■■■■■■ーーーーーー!!」

 

 少し落ち着こうと距離を取っても、逃がさんと言わんばかりに距離を詰めて来る。そして、その勢いのまま斧剣をただ大振りに振る。

 

「ぐっ、うっ…!!(重い…! 抑えられな…!)」

 

 アルトリアは躱せなく足を踏ん張り全力で防ぐが、ヘラクレスの一撃が余りにも重く抑え切れない。ヘラクレスはそのまま斧剣を振り切り、アルトリアを弾丸の如く空へと飛ばす。

 

「うっ、あっ…!」

 

 凄まじい勢いで飛んでおり、アルトリアは空気が圧力となり体勢を立て直すことができずにいる。

 

「■■■■ーーーー!」

 

 ヘラクレスは更に追撃を試み、アルトリアよりも速く跳び上がる。そして、追いついた瞬間、斧剣で地面に叩き落とす。

 アルトリアはそのまま地面に衝突し、隕石が落ちてきたのと似た衝撃波を辺り一帯に起こす。

 

「……………」

 

 砂埃が舞い、晴れて来ると直径約50くらいの隕石でも落ちてきたんじゃないかというほど巨大なクレーターができており、その中央にアルトリアはぐったりと倒れている。

 

「…っ! くっ…!」

 

「■■■■■ーーー!!」

 

 ヘラクレスはその後も確実に殺さんと、すでに死体のような状態のアルトリアに向けて空気を蹴って更に襲いかかって来る。

 

「――!!」

 

「■■■■ーーー!!」

 

 アルトリアはハッとなったように瞬時に動いて避ける。そのままヘラクレスが落ちてきた衝撃により、また舞ってきた砂埃に紛れて少し距離を取ろうとする。だが、そうはさせないと周囲に広く拡散した砂埃を一振りで全て搔き消し、一息にアルトリアまで直球に跳ぶ。

 

「ぐっ、くっ…!!(どうする。このままでは…!)」

 

 戦力差はこの通り一目瞭然、ヘラクレスが有利だ。前回はアルトリアの方が速さが上回りヘラクレスを翻弄できていた。だが、今はどうか、ヘラクレスは令呪で強化されアルトリア以上の速さで以って完全に翻弄している。完全に前回と逆の展開だ。

 アルトリアも傷を付けれていない訳ではない。だが、それはほんのかすり傷のようなもの。致命傷となる傷が無ければ、動きすら鈍らすこともできていない。

 

「■■■ーー」

 

(くっ…! このままでは本当にまずい! …こうなったら、宝具を一気に…いや、更に溜めて解放するしかない)

 

 さすがのアルトリアと言えど、今回ばかりは勝利は難しい。現状も殆ど防御体勢のまま攻め込むことができていない。

 それでいて、今アルトリアの身体には何ヵ所にも小さいとは言えない傷が見える。つまり、完全なじり貧状態というわけだ。

 

「■■■■ーー!!」

 

 この場に士郎はいなく、令呪による応援は期待できない、まさに絶体絶命だ。故に、今の状態で撃てる最大限の宝具解放を行おうとしている。しかし、

 

(だが、それをするには少し時間がかかってしまう。僅かな時間とはいえ、あのバーサーカーがその隙を見逃すとは思えない)

 

 相手がもう少し理性があれば、少し油断させて時間を稼げたかもしれない。だが、相手は理性という理性を捨てきった狂戦士。油断も隙もない。そうなってしまうと、完全に八方塞がりかと思われる。

 

(…いや、今の私ならたとえ完全開放でなくとも…)

 

 だが、諦めるつもりは一切ない。ヘラクレスの猛攻から逃げ惑いながら、槍を握り締め考える。

 士郎からの恩恵を全面的に受けている今でも、多少加減した『最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)』では致命傷を入れられないどころか、殆どダメージも入らないと思われる。だが、如何に令呪で強化されたヘラクレスといえど、大きく距離を取ることはできるだろう。つまり、限界以上を解放するまでの時間が稼げるということだ。

 

(…よし。これならば…!)

 

 これがうまくいけば、ヘラクレスに決定的な一撃を入れることができる。そう確信した。後は隙を見て解放すればいい。

 アルトリアは逃げ惑うのを止め、ヘラクレスと向き合う。本来ならここで何故向き合ったかと敵は止まるものだが、バーサーカーであるヘラクレスにとってそんなことはどうでもいいことだ。

 

「■■■■■ーーー!!」

 

「くっ…! まだだ。もう少し…!」

 

 アルトリアは槍で軌道を逸らす。

 

「■■■ーーーー!」

 

(もう少しだけ隙があれば…!)

 

 常に隙なく細かい動きと俊敏な動きで斧剣を振り回すヘラクレスになかなか一瞬の隙も見えない。だが、如何に神話の頂点の一つたるヘラクレスでも、狂戦士であるならば必ず隙は生まれるはずだった。

 

「■■! ■■■■■■ーーーーーー!!!」

 

 ヘラクレスは動きが鈍ることもなく、アルトリアに向けて斧剣を確実に仕留めん、と大きく振りかざす。その一撃は構えた瞬間でも一般の人なら体が真っ二つになったような感覚を味あわせる。

 

(―! そこだ!!)

 

 しかし、それが仇となった。大きく振りかざそうとすれば必ずタイムラグというものが僅かに起こる。ほんの僅かな、コンマ一秒にも満たない隙だが、アルトリアが宝具を僅かに解放するには十分な時間だった。

 

「ハアアァァァァァッ!!」

 

 アルトリアは槍を剣のように下段から上段へ振ると同時に溜めた魔力を解放する。

 

「■■■■■ーーーーー!!!」

 

 その高さ約50メートルくらいだろうか。ヘラクレスは大きく吹き飛び、空中浮遊する。

 ヘラクレスは瞬時に体勢を立て直し、アルトリアの方を向き、また空気を蹴って突撃しようとする。しかし、

 

「!!!」

 

 アルトリアは尋常ではない魔力を槍に溜めていた。周囲から光が大量に集まっているが、それは今までの比ではない。アルトリアは『最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)』に限界以上の魔力を溜め込んでいた。それは、頑丈なバスケットボールが空気の入れ過ぎで破裂しそうなのを無理やり押し留めて更に空気を入れ込むように。

 

「ぐっ…! 『最果てにて(ロンゴ)―――!!」

 

 限界を超えて、さすがに抑え切れなくなった瞬間、アルトリアは槍を引いて構える。槍には今にも溢れ出しそうな光が渦巻いているのが、暗い夜なのも相まってよく見える。

 

「■■…!!」

 

 ヘラクレスは直感した。あの狂化し、令呪でより一層強化され、危機感や警戒といった全神経から出る危険信号が殆ど薄れたヘラクレスでさえ、これはまともに食らえば危険だと直感した。それほど、槍に込めた魔力は尋常ではなかった。

 ヘラクレスは空中で咄嗟に体勢を変えて逃げようとする。だが、すでに時遅し、アルトリアは限界を超えた『最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)』を放つ寸前だった。

 

「―――輝ける槍(ミニアド)』ーーーーー!!!!」

 

「■■■■■ーーーー!!!」

 

 ヘラクレスは最後の悪あがきというように咆哮し、己を守るように構える。だが、そんなのは全く意味を成さないというように、放たれた光の厄災が、命を射止める嵐が、飲み込んでいく。

 

「■■■■■■■■■■■■ーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」

 

 巨大な光の柱が、暗い夜空を朝のように眩く照らす。いくらヘラクレスと言えど、この一撃は致命傷以上だろうと思われる。

 その夜中に照らされた巨大な光の柱は、遠くにある新都まで見えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、アインツベルン城内では急に真っ黒に染まりピクリとも動かなくなった士郎を好機だというようにホムンクルス達が一斉に襲いかかろうとしていた。が、それを易々と許すことを二人はしない。「やらせはせん!!」「やらせるかっての!!」という叫びと共に、二人は士郎を護るように背中と背中の間に置き、それぞれで180度を塞ぐ。

 

(…今の感じからして、最早一刻の猶予もないな。早く、あの宝具を発動させなければ小僧の命が危ない)

 

 エミヤは視線を後ろに少しだけ窺い見てからホムンクルス達に戻す。

 

「…ねえ、アーチャー。今の何かあなたは判る?」

 

 凛は何を思ったのか、構えを解かず背中を向けたままエミヤに聞く。それを聞いてエミヤは思う、凛にしては妙に落ち着いていると。いつもならここで慌ただしくなっていてもおかしくはないのだが。

 

「…! いや、私も判らないな。とにかく、衛宮 士郎は危険な状態だということ以外は」

 

 エミヤは同じく背中を向けたままそれに簡素に応える。エミヤの応えに凛は「そう…」とだけ言って何も話さなくなる。

 

(今のって…)

 

「セラ、今の何?」

 

「…私にも判りません。とにかく、あの子供は危険です。このまま放置しておけばお嬢様の害になる可能性があります。

 様子見もそろそろ頃合いですね。行きますよ、リーゼリット」

 

 イリヤスフィールが何かに気づいている傍でセラがそう言えば、リーゼリットは「うん」と一回頷き、セラと共に士郎達の前に降りる。

 

「…真打の登場と思っていいのかな」

 

「ええ。気をつけることですね。私達は他のホムンクルスと同様にはいけませんよ」

 

 セラは詠唱を始め、リーゼリットはハルバードを低く持って構える。

 

(…どうする。これでは本当にまずい。あの二人が本当に他のホムンクルス以上だというのならば…)

 

 これ以上マスター達を護りながら戦うのは難しいと思われる。特に、士郎は一体何が起こったのか判らず迂闊に触れることもできない。つまり、ここから一時離脱もできない。

 

(くそっ、こんなことならあの時点で引き返すべきだったな)

 

 エミヤは士郎の体調が悪くなった時から引き返すべきだったと後悔している。すると、

 

「…アーチャー。あんたは引き続きホムンクルスの群を頼むわ」

 

 凛がセラとリーゼリット二人の前に出る。

 

「! 凛、何を考えている。まさか、君一人であの二人を相手取る気か。無謀だ。あの二人はこのホムンクルス達の中でもとりわけ強い二人だ。君一人ではとても――」

 

 エミヤは凛を案じてそう言うものの、凛は唇を噛んで、

 

「あーもう!! ゴチャゴチャうっさい!! マスターの命令が素直に聞けないわけ!? 何だったら令呪を使ってでもやらせるわよ!!」

 

 とエミヤを怒鳴り付ける。

 

「なっ…、しかし――」

 

「いい!? 私はこれでも魔術師御三家の跡取りよ! それが、こんなわけのわからないホムンクルスなんかにやられるわけないでしょ!! あんたは士郎を護りながら、そこでマスターの実力ってモンをしっかり見てなさい!!」

 

 凛はそう言ったのち、もう言うことはないのかエミヤの方を振り向くことなく、セラとリーゼリットに立ち会う。

 

「さて、あんた達の相手はこの私よ」

 

「……ふぅ。全く、これだから野蛮な日本は嫌いです。あなた判っているのですか? 先ほどあのアーチャーが言ってた通り、あなた一人で私達を相手にするなど無謀です」

 

 セラは凛を挑発するかのようにあからさまにため息を吐いて誘う。

 

「…ふん。全く、あなた達だって判っているのかしら」

 

「…何がでしょうか」

 

 凛はこの程度エミヤと比べれば全然平気だと挑発を返す。

 

「そんなのなんてね、やってみなきゃ判らないってもんでしょ。それを最初っから決めつけないでくれる?

 あっ、それとも〜、アインツベルンはそうやって自画自賛しないと生きれない種族なのかしら~。わぁ〜、それってなんて浅ましくて哀れな一族なのかしら〜」

 

「…っ! 減らず口を…!」

 

「セラ、気をつけて」

 

 セラが凛のペースに飲まれそうになったところで、リーゼリットがセラに忠告する。

 

「気をつけて…? 何を言っているのです。あの小娘如きに警戒する必要など――」

 

「アイツ、強い」

 

 必要ない、と言いかけたら、リーゼリットは遮り気味に凛を強いと言う。

 

「アイツ、強い。油断、大敵」

 

 リーゼリットは無表情なまま警戒を強める。凛を強者として認めたようだ。

 

(…あのリーゼリットが、警戒している)

 

 本来、リーゼリットには警戒心というものが薄い。それは何も恐れずにイリヤスフィールを護る盾となるために意図的に薄められた感情だ。それが浮き出ているということは、凛は間違いなく二人にとって強敵となりうる、ということだ。

 

「へぇえ? あなた、案外判っているじゃない。ええ、そうよ。私は強い。少なくともあなた達に勝てるくらい」

 

 凛はリーゼリットが言ったことに便乗して挑発めいたことを口走る。

 

「…………」

 

 セラはそれが冗談のように聞こえなかった。なぜなら、あのリーゼリットが警戒するのだから。

 

「…判りました。いえ、判っていませんが、それはもういいです。後は戦闘で拝見させてもらうとしましょう」

 

「ふふ、そうこなくっちゃね」

 

 完全に計画通りだという風に凛は気分がよくなる。

 

「さぁ、行くわよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ア、アンリ、マユ?」

 

「そーそ、この世全ての悪と書いてアンリマユだ」

 

 からかうように言うこの男は『この世全ての悪(アンリマユ)』と言うようだ。

 士郎は『この世全ての悪(アンリマユ)』がどういったものなのかさっぱりだ。先ほどこの『この世全ての悪(アンリマユ)』は自身を最弱英霊と称した。少なくともただの人間ではないことは判る。

 だが、そんなことは今はどうでもいい。とにかく、士郎には聞きたいことがいくつもあった。

 

「さーて、簡単な自己紹介が終わったところで、本題に入りたいけど、何から話すべきか…」

 

「お、おい。その前に、ここは一体どこなんだよ!」

 

 その一つとしてここはどこなのか。先ほどまでここは衛宮家の風景を映していたが、それは今や真っ黒、だが暗くはない空間になっている。

 

「ん? ここはお前の精神の中だけど?」

 

 さらりと、ものすごく当然と言うように『この世全ての悪(アンリマユ)』は応える。

 

「え…お、おう」

 

「んーそうだな。お前もまだ混乱気味だし、ここはいっちょお前の質問に答えますか。そんじゃ、どんどん聞いてくれ。ここでのことならお前よりも判っているからな」

 

 先ほどの質問があまりにも簡素なものだったので、士郎は少し動揺しているが、質問の許可が出たので早速色々聞いてみる。

 

「だ、だったらさ、お前はおれに寄生しているって言ってたよな。それって、一体どういうことなんだ」

 

「ん? どうも何も、オレはあんたの体の中で生きているってだけだけど〜」

 

 士郎が真剣に聞いているのに対し、『この世全ての悪(アンリマユ)』はおちゃらけたように応える。そのためか士郎はイラつき声を荒げ、

 

「そうじゃない! お前はいつからおれの体に入ってたんだよってことだ!」

 

 そう怒鳴り散らすように叫ぶ。

 

「なんだ、そんなことかよ。それなら最初っからそう言ってくれ。で、オレをいつ宿したって話だな? なんなら答えは簡単。十年前、お前が生まれて間もない時期だ」

 

 士郎は驚き瞳を震わせる。一体何故、どうやって士郎の中に入って行ったのか。疑問はまだ尽きそうにない。

 

「ん? どうやって入ったのかって? それを話すならちょいと昔話をしないとな。

 今から十年前、お前が住んでいる所、冬木でとある大火災が起こったのをお前は知っているか?」

 

「十年前、大火災…」

 

 10歳である士郎に十年前の出来事を聞いたところで記憶に残っているはずがない。だが、大火災と聞いて士郎はあの夢の光景を思い出す。

 

「…ふーん。どうも断片的にって感じだな。まあいいや。話を進めるけど、その大火災はとある泥が聖杯から流れ出たことで起こり、何百人ものの命を奪っていったんだ。これは生存者は誰もいないだろうって思っていた。

 だが、いたんだなあそれが。んで、ここまで言えば判ると思うが、その生存者ってのが、お前だ」

 

 ビシッと黒い刺繍を施された指を士郎に向ける。

 士郎はあの大火災が聖杯によるものだということに驚くのと同時に理解した。何故自分はあんな光景を夢で見ていたのか、エミヤの心象風景にそれを連想させるものがあったのか。

 あれらは全て自身の身の回りで起こった出来事だったのだ。

 

「で、ここからが本題。お前はあの時、本当の母親にせめてこの子だけでもって護られて生き残ったんだが、それでも多少怪我はしていたんだよ。それはほんのかすり傷だったから命に別状はなかったんだけどな。

 それでだ、そのかすり傷は泥によるものでな。その際にオレはお前に入り込んだ。つまり、オレの入り口は今も残っているその頰の傷跡だ」

 

 そう言われ士郎は反射的に自分の頰を触る。少し凸凹とした感触がする。

 『この世全ての悪(アンリマユ)』はその様子を見て全体的に黒い身体から唯一白い部位である歯を悪戯小僧のような笑顔で見せる。

 

「…それにしても、本当なら今頃お前は死んでいるはずだったんだよなぁ」

 

「…え? えぇっ!? それどういうことだよ!!?」

 

 とそこで『この世全ての悪(アンリマユ)』はふと思い出したようにそんなことを呟く。その内容に士郎は驚かずにいられない。もし本当にとっくの昔から死ぬはずだったのならば、何故今生きていられるのか。

 

「そう! そこなんだよな〜。お前はさ、この時人生最大の幸運とも呼べる出来事に遭遇したんだ。だから生きていられる」

 

 少しだけ笑いながら面白おかしく、両手の指で士郎を指す。

 

「その幸運ってのが、お前の親父さんだ。

 お前はあの親父さんに拾われたのがとんでもなく幸運だったんだよ。それこそ、二度にわたってな」

 

「ジ、ジイさん、が…?」

 

 そこで何故衛宮 切嗣が出てくるのか。『この世全ての悪(アンリマユ)』が言うには、さらなる幸運も切嗣がいたからだと言う。

 

「まあ、正確に言うなら、あの親父さんがとある聖遺物を持っていたっていうのが幸運なんだがな。

 とにかく、お前はあの親父さんにその聖遺物を入れられたことによって延命できたんだよ。まあ、本人は自覚なしだけどな」

 

「せ、聖遺物をおれに、入れた…」

 

 士郎は自分の胸辺りを触る。この身体のどこかに切嗣が入れた聖遺物があるのだろう。

 

「っと、ちょいと与太話もしちまったけど、これがオレがお前に入ってこれた理由だ。他にも聞きたいことは?」

 

「……さっきお前はおれが死ぬはずだったって言ってたよな。それってなんでだ?」

 

 他にと言われ、士郎は少し考えてからあまり聞きたくないと思いながらも興味本意に聞く。

 

「あー、それはな、本来オレは一種の呪いなのよ。それもとりわけ強力のな。お前に入ったのはそのほんの一部だったけど、それでも強力な呪いに変わりない。

 から、お前の当時の身体の大きさから考えて、後どれだけ生きようとも数ヶ月が限度だったな。それを過ぎれば、お前と言う養分を得て成長したオレが容赦なくお前を内側から全部食いちぎり、結果オレの一部になっていた。ってな感じだ」

 

 士郎は体から生気が抜けるような感じがした。悍ましすぎるのだ。下手したらとっくの昔から死んで、また周囲に呪いを振りまくところだったのだから。

 

「ケケッ。いい顔するね〜。そんな顔してくれたんなら話した甲斐があったってもんだよ」

 

 『この世全ての悪(アンリマユ)』は愉快そうに笑う。イラつくがそれに怒る気力すら湧かない。

 そこで、ふと指を指している『この世全ての悪(アンリマユ)』を見ていると気になったことがあった。

 

「そういえば、さっきお前はおれに聖遺物が入っているって言っていたよな。その聖遺物ってなんなんだ?」

 

 それは聖遺物の話だ。士郎に聖遺物が入っているとは言っても、その聖遺物とはなんなのか。

 そう聞くと『この世全ての悪(アンリマユ)』はここで初めて顎に手を当てて「ふむ」と考える素振りを見せる。

 

「ん〜、それか〜。教えたいところだけど、ちょっと、それはいけないというか。まあ、今は教えらんない」

 

「な、なんでだよ。ここまで教えてくれたんなら最後まで教えてくれよ」

 

 今まで気軽に教えてくれたと言うのに、唐突に教えてくれなくなる。これは一体どう言うことなのか。

 

「いや〜、こっちにも事情ってものがあるんだよね〜。悲しきかな、オレはこっち側である以上、そのことについては教えられなんないんだ。ごめんな。

 ま、とにかくその聖遺物がお前を護っているってことさえ理解できてりゃ大丈夫だ」

 

「…"こっち側"?」

 

 彼の言うこっち側とはどう言う意味なのか。士郎は首を傾げる。

 

「…なあ、ちょっと聞きたいんだけど、お前はおれの敵、なのか?」

 

 士郎はここへきて今更なことを聞く。そうだ、今こうして普通に話しているが、そもそも彼は味方なのか敵なのか。

 

「ん? オレがお前の味方か敵かってか? そりゃ、オレは―――」

 

 士郎は身構える。彼がなんて応えるかおおよそ想像できるからだ。そして、その通りだとすれば士郎は彼を倒さねばならなくなる。手を出し、いつでも投影できるようにしていると、

 

「―――お前の味方だよ」

 

 と完全に予想外な答が返ってきて、士郎は呆気にとられる。

 

「…え?」

 

「プッハハハッ! お前、オレが敵だって言うと思っていたのに、実際は違ったから唖然としているって感じだろ。クククッ」

 

 一体何がそこまで面白いのか。『この世全ての悪(アンリマユ)』は腹を抱えて笑う。

 

「ふぅ。んで、こんなオレが言うのもなんだけどお前の味方ってのは確かだぜ。

 なんでか、ってのは、単純にオレは人間が好きだからさ。おっかしいよな〜。オレはこの世の悪なんて言われているのにその実態は人間大好きマン。歪んでるって思わねえ? ま、どうでもいいんだけどな」

 

 『この世全ての悪(アンリマユ)』はやれやれ、とでも言うかのように手振り身振りしている。

 士郎は何が何だか判らなくなってきており、何も言葉を発せれない。だが、彼が士郎の味方となると少し気になるところがある。

 

「ま、待てよ。それじゃさっき言ってたこっち側っていうのはなんだったんだよ」

 

「あー、えっとな、オレはお前の味方ではあるんだけど、敵でもあったりするんだ。

 よし、この話さえできたならこれでようやくこっち側の本題に入れるな」

 

 『この世全ての悪(アンリマユ)』はそう言うと、早速その本題というのを話す。

 

「えー、まずオレの目的から話そう。今回のオレの目的、それは衛宮 士郎、お前を殺すことだ」

 

「………」

 

 士郎は驚かない。先ほど敵でもあると聞いた瞬間から嫌な予感はしていたからだ。そして、それは見事に的中した。

 

「おろ? あんまり驚かないんだな。つまんねえな。ま、それはそれで話しやすいからいいけど。

 んで、多分理由も気になっているだろうから教えるけど、オレはとある奴からもうお前は不要だから始末しろって言われてね。オレはそいつにゃ逆らえないのよ」

 

 士郎はそこで少し反応を見せる。彼の言ったとある奴というのが気になったのだ。

 

「そのとある奴って、誰のことだ」

 

「あー、えーっと。それ話するならまず、オレらはどういうものかってのを知らないとな」

 

 どうも、この『この世全ての悪(アンリマユ)』はただの最弱英霊というわけではないようだ。

 『この世全ての悪(アンリマユ)』は話すのに疲れていたのか、一呼吸置いて話し出す。

 

「オレらはな、ハッキリ判りやすく言えば、『聖杯』その中身なんだ」

 

「…!? な、なんだって!!?」

 

 『この世全ての悪(アンリマユ)』が言ったことの衝撃はとても大きかった。もし彼の言った通りなら士郎の体には聖杯が宿っていることになる。

 確かに、そう言われれば納得だ。士郎の魔力が桁外れだったのはここが起因していたのだろう。聖杯の中身、つまりは聖杯の魔力を宿していれば桁外れな魔力になるのは間違いない。

 そして、今まで士郎の投影魔術を行使する際にイメージが全く必要なかったのも、全ての英雄を記録している聖杯を体に宿していたからだったのだ。つまり、設計図がすでにインプットされている状態というわけだ。

 

「と言っても、正確にいうならその一部なんだけどね。

 それでも、オレらはずっとお前の中に居座り、徐々に成長していったことにより膨大なものになったんだ。ンなもんだから、実質お前は人型聖杯のようなもんだ」

 

 士郎はすでに満ちた状態の聖杯だという。そうなるとだ、もし『この世全ての悪(アンリマユ)』の言うことが全て真実ならば、

 

「そ、それってつまり…」

 

「うん。ぶっちゃけ、今回の聖杯戦争の意味って何も無いんだよね。

 だって、お前の中で聖杯に必要な魔力は出来上がってんだもん」

 

 そういうことになってしまう。士郎達は聖杯など求めていないからいいものの、血眼になってまで欲しがっている人からすれば今までの戦いはなんだったのかと悲観に暮れそうだ。

 

「だから、お前を聖杯に捧げれば聖杯は起動する。というか、そんなことしなくともお前が望めば自身の魔力を消費する代わりに願いが叶うんだよね。まあ、ある意味ドラ◯もんだな」

 

 など冗談のように言うが、あながち間違ってないのではと思われる。

 

「んで、お前の気になったとある奴がその聖杯のことだ。

 それじゃ、お前もさっさと見切りつけてオレを倒した方がいいぞ。今もこうしている内にお前さんの仲間は戦っているだろうし、あいつのことだ、きっとロクでも無いことをしようとしているだろうよ」

 

「…? ロクでも無いこと?」

 

 『この世全ての悪(アンリマユ)』の言うあいつとは聖杯のことなのだろう。彼はその聖杯が何かをしでかすと言っているようなのだが、それは一体…。

 

「ああ。お前は不要だってあいつに言われたことは判るな」

 

 一応の確認として聞けば士郎は頷く。それを見た『この世全ての悪(アンリマユ)』は話始める。

 

「あいつはさ、今までお前を完全な聖杯として自分の物にしようとしていたんだよな。だけど、あいつはそれを諦めたんだ。なんでかってのは今度な。

 とにかく、お前を諦めたあいつは帰ろうとしているんだよ」

 

「帰ろうとしている? どこに?」

 

 聖杯は士郎を諦め、帰ろうとしていた。そして、その帰る場所とは、

 

「そりゃ、聖杯の中身が帰るってんなら決まってる。聖杯にだ」

 

 士郎はなるほどと思ったが、一つ不可解な部分がある。それは聖杯がどこにあるのか、だ。

 

「それがあるんだなあ。まあ、正確に言うなら聖杯を宿したやつがな」

 

「!? せ、聖杯を宿してる…!?」

 

 士郎はそれを聞き心底驚く。まさか、聖杯が誰かに宿っていたなど思いもしなかったのだ。

 

「んで、その聖杯を宿しているやつってのが、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。お前らが今戦っている相手だ」

 

 それを聞いてさらに驚く。だが、そこで『この世全ての悪(アンリマユ)』はさらに驚愕せざるを得ない事を言ってくる。

 

「あいつってさ、一度目的の物が見つかると目にも止まらない速さで食らいつこうとするからな〜。早くどうにかしないと一気にあの嬢ちゃんを食っちまうだろうよ。

 んで、戻った時、呪われた聖杯はあの大火災よりも酷い、それこそ60億人を呪うだろうな」

 

「……!!!」

 

 60億人。つまり、全世界を飲み込む厄災になるということだ。

 士郎はそれを聞いて、もうこんなことをしている場合じゃ無いと思った。一刻も早くこの聖杯達をどうにかしなければ。

 

「…なあ、最後に一つだけいいか」

 

「何なりと。これが最期になるかもしれないからな。お互いに」

 

 士郎は最後にこれだけ聞いて終わろうと思う。

 

「おれは、お前を倒したとしてもおれはどうすればいい?」

 

「ん? オレを倒した後? どうしたいっても、お前はどうしたいんだ?」

 

「…そんなの決まってる。お前らをおれの中から引きずり出したい」

 

 士郎は決意がこもった目を『この世全ての悪(アンリマユ)』に向ける。

 

「…なるほどな。お前はオレ達と決別したいと。ま、確かにそうだよな。けど、残念ながらそれは無理だ」

 

 士郎はそう言われると「なんでだ」と眉間にシワを寄せて睨む。

 

「まあ待て。まず言わせてもらうけど、オレ達はすでにお前の魂の領域まで結びついちまってな。剥がそうものなら、お前も死ぬことになるんだ」

 

 『この世全ての悪(アンリマユ)』達はすでに士郎の身体に住み(寄生し)始めてすでに十年。魂と結合するには十分すぎる時間だった。故に、彼らを引き抜くことはすなわち死を意味する。

 

「と言っても、絶望しなくてもいいぜ。なんせ、別の解決策があるからな」

 

「…! 別の解決策?」

 

「そ。さっきお前には聖遺物があるって言ったな。あれを完全発動すれば、オレらと言う害となる部分だけ消えて本来の物だけが残る。つまり、お前は解放される」

 

 その方法とは、先ほど『この世全ての悪(アンリマユ)』が言っていた士郎の中にある聖遺物。それは今も発動しているが、まだ完全に発動してはおらず、外側だけができた重要な部品がないロボットのようなものだと言う。ならば、それを完成させてしまえば士郎は助かるということだ。

 

「…判った。けど、それっておれでもできるのか?」

 

「その辺に関しては問題ない。確かにあれを完全に発動させるにはその所有者本人の魔力が必要だ。けど、さっき言ったようにここには聖杯がある。全ての英霊の記録と魔力がな」

 

「…そっか。判ったもういいよ。ここまで話してくれてありがとうな。お前がおれの味方なのは本当なんだな」

 

 聞きたいことは全て聞けた。ならば、後は言われたように『この世全ての悪(アンリマユ)』と戦い、その聖遺物を発動させなければいけない。

 

「どういたしまして。そんじゃ、始めようか! お前の身体を賭けた戦いを――よッ!」

 

 『この世全ての悪(アンリマユ)』は奇形な短剣を二本出して襲いかかり、士郎は投影魔術で『干将・莫耶』を投影する。

 

「うおおおおっ!!」

 

 今、正義の味方とこの世の悪がぶつかり合う刻が来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はここまで。
今回は士郎とアンリの話が難しく少しわからなかった部分があったかもしれません。もしわかりずらいところやわけわからんというところがあった場合は遠慮なく聞いてください。できる限りお答えしたいと思います。
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