Fate/stay night 槍の騎士王と幼い正義の味方   作:ウェズン

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ども、しばらくぶりな気がするウェズンです。
さてはて、コラボが始まり皆さんガチャに勤しんでいるであろうこの頃、少しお知らせがあります。
それはですね、今後の小説書きなのですが、今現在こちらはかなり忙しくなりまして、更新期間をかなり大幅に空けることになりました。(具体的には一ヶ月間か半年)
今までこの小説を読んでくださった方々には申し訳ありませんが、どうか気長に付き合ってくだされば嬉しいです。
では以上、始まります。


第二十夜ー異変とその戦いー

 『この世全ての悪(アンリマユ)』に幻覚を見せられ、彼から様々な真実を聞いた士郎は最終的に敵となった彼を倒し、自身の中に未だ目覚めきっていない聖遺物を覚醒させようと奮闘する。

 その頃、アインツベルン城にて、イリヤスフィールは凛達の戦いを階段の上から観ていた。

 

(…リンはセラとリズに任せておいていいわね)

 

 イリヤスフィールから見て凛は劣勢状態のようであった。一対二だからというのもあるのだろうが、それでもセラとリーゼリットのどちらかだけでも相手にするには苦戦を強いられただろうと思われる。

 

「…………」

 

 それだけ確認できたイリヤスフィールは視線の先を移す。じっと見ているその赤い瞳が一瞬動揺するように揺れる。

 イリヤスフィールがそんな目で見ているのは、エミヤとホムンクルス達。現在エミヤはゆっくりとではあるが確実にホムンクルス達を減らしていっている。自身に傷が付くことなく、士郎にも誰一人近づけさせていない。

 さすがは英霊だ。たとえ下級英霊でも、その力は人智には及ばないということがこの戦いでよく判る。

 

「…っ」

 

 また一人体を真っ二つに斬られ死んだ。

 イリヤスフィールは目を背けたい想いに駆られるが、リーダーたる自分が背けるわけにはいかない。

 それが、彼女達を戦わせている自身の、イリヤスフィールの責任、罪、罰だ。

 

「…お母、様」

 

 頭を抱え、今にもこぼれそうなくらいの涙を目に浮かべ、藁にもすがる思いで自身の母を呼ぶ。助けて、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っぇい!!」

 

 凛は八極拳でもって、リーゼリットを攻め立てる。

 リーゼリットはハルバードで自身を護ってばかりで攻めに入れない。それだけ凛の猛攻が激しいのだ。

 

「ほっ!」

 

 だが、だからといってそのままやられっぱなしとはいかない。リーゼリットも隙が見えた瞬間に空気を穿つ勢いでハルバードを振るう。

 

「くっ、なんのっ」

 

 凛はとっさに身を引いて避ける。しかし、多少掠めたのか腹部辺りの服が斬れ、血が少しだけ滴る。少し痛むがその程度の切り傷など気にしていられない。

 凛はもう一度猛攻を仕掛けようとする。だが、

 

「!」

 

 白い針金のような物でできた刃が横から飛んでくる。凛は素早く回避し出所を確かめると、そこにはセラがいた。

 やはりというか、セラの魔術はイリヤスフィールと同じ魔術だ。髪を一本抜き、それを変形させている。

 セラは凛がリーゼリットに気を取られている間、いくつもの針金細工を作っていた。何本ものの刃がセラを中心に宙に待機している。

 

「まだいきますよ」

 

 セラのその一言と共に休み無く凛に襲いかかる。

 凛はそれに小さな宝石を魔弾に変換して応戦しようとしているが、弾かれるばかりでまるで歯が立たない。

 

「その程度ではただ無駄に無くすだけですよ」

 

「くっ…!」

 

 悔しいがセラの言う通りである。これでも凛は強めの宝石魔術を使用しているのだが、その尽くが針金細工に弾かれてしまっている。そして、

 

「えいっ」

 

「―! チッ!」

 

 動きが止まった瞬間を狙い済ましたようにリーゼリットのハルバードが襲ってきて、床を砕く。

 

「はぁ、はぁ、はぁ(この二人、本当に強いわね。このままじゃやられる…!)」

 

 凛は今もっている宝石を確かめて思考を巡らす。

 

(…これだけあれば、あれが出来るか。っていっても、その前に勘づかれたら終わり。絶好のチャンスでやらないと…!)

 

 体に緊張が走る。瞬時に頭の中で作戦を立てたはいいが、それをするだけの隙ががあまり無いのを考えて慎重に行わなければいけない。さもなくば、二人を倒す勝機はほぼ無くなるだろう。

 

(アーチャーにあんだけ大口叩いたんだから、絶対に倒さないとね!)

 

 エミヤに向けて放った言葉を思いだし、もう一度気合いを入れ直して二人と対峙する。

 

(…チャンスはそんなにない。なるべく一発勝負でいきたいところよね)

 

 凛は頭の中で作戦内容を繰返し、緊張する手で宝石をいくつか取り出した。

 勝負はこれで決せられると思われる。これがうまくいけば凛の勝利となり、失敗すれば敗北だ。そして、ここで敗北することはすなわち死を意味する。それは両者重々承知していることであり、暗黙の了解ともいえる命を賭けた戦いの鉄則だ。

 

(…って、まてまて、優雅たれ優雅たれ、焦ってはいけない。

 …ふう。さーて、そんなにないとはいったけど、実質一度きり。

 ――失敗は許されない。誰がじゃなくて、ここまで啖呵切った自分が何より許さない)

 

 少し焦りぎみなのに気づいた凛は一旦落ち着くことに努める。それが終われば、お互い構え、目の前の敵を見据えて――

 

「――さあ、行くわよッ!!」

 

 動き出す――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――その瞬間、思わぬことが起こった。

 

「―――っ!! な、なにっ!?」

 

 突然、城内一帯に爆風が舞った。それも、その発生源は士郎からだ。

 凛は突然のことに驚くが、凛が驚いているのはそれだけではない。この爆風が起こった瞬間から莫大な魔力が感じられたのだ。それも、この城と周囲の森を巻き込まんとするほどの。

 

「…!!? なんですか、この魔力…! …ッ!!」

 

 セラは莫大過ぎる魔力を感じとり、顔を動揺で歪める。

 

「キャアアァッ!!」

 

「お嬢様!!」

 

 その爆風に、体が軽いイリヤスフィールは耐えきれず、かなり距離があるのにも関わらず体が浮いて飛んでいってしまう。

 セラとリーゼリットはイリヤスフィールの無事を確認するためにその下へ駆けつける。

 

「ちょ、ちょっと!! 一体何が起ころうとしているの!!?」

 

 凛は腕で顔を覆って踏ん張っているが、距離も近いこともあってか、体が浮きそうになる。

 

「…っ、キャア‼」

 

「――凛!!」

 

 ついに体が浮いてしまったが、ホムンクルス達と戦いを止めたエミヤが駆けつけてくれたことにより助かる。

 

「ぐぅっ!」

 

 エミヤは凛をしっかりと抱え、その場に剣を突き刺して止まる。

 しばらく暴風は続き、周囲にいたホムンクルス達を散らばっている瓦礫共々吹き飛ばしていく。そして、壁に衝突すると、瓦礫は更に砕け散り、ホムンクルスは血を撒き散らす。

 収まる頃には周囲にいたホムンクルス達の全てが死に、残っているのは凛とエミヤ、イリヤスフィール達、そして爆風を起こしても未だに黒く染まったままの士郎だけだった。

 

「い、一体、何が…」

 

「判らん。が、今小僧には近づかん方がいい」

 

 エミヤは凛を抱えるのを止めずに突き刺していた剣を構えて警戒する。イリヤスフィール達も同様に、セラがイリヤスフィールを抱えてリーゼリットがハルバードを握りしめて構える。

 嫌な空気が流れてきた。周囲に変化は起こってないが、それが逆に不気味に感じるほど静まり返っている。まるで、嵐の予兆みたいな静寂だった。

 

「…………」

 

 この場にいる全員が士郎を最大限に警戒する。あれだけのことが起こって何もないと思っている人がいないのだ。

 誰かが緊張で息を飲む。すると、

 

「……ッ!!!」

 

 士郎はなんの前触れもなく急に起き上がった。まるでマリオネットに吊るされるように。

 それに呼応するように全員が体を震わせ、余計に警戒心を高める。

 

「Aaaa…」

 

 そして、士郎は少しだけ唸っているような声を出すと、人形のように首だけを動かして一方向を見据える。その視線の先には、イリヤスフィールがいた。

 

「GaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!」

 

 その瞬間、士郎は急に地響きにも似た雄叫びを発した途端、とんでもない跳躍力でイリヤスフィールの下まで弾丸の如く飛び込んでいく。

 

「…ッ!!」

 

 セラはとっさにイリヤスフィールを護るように抱きしめ目を閉じる。

 士郎はそんなセラなど御構い無しに丸ごとイリヤスフィールに襲いかかるかと思われたが、

 

「やらせない」

 

 この中で唯一冷静なリーゼリットの声と共にハルバードが士郎の体を腰から上下に別れるように切り裂く。

 

「――士郎!!」

 

 突然のことで凛、それとエミヤは言葉を失っていたが、士郎が切り裂かれたのにはっとなって叫ぶ。

 

「……………」

 

 上半身と下半身が断たれた士郎はそのまま勢いをなくし、悲鳴もあげずに倒れる。体の中から赤黒い血と思われる泥のようなものが滝のように流れ出ている。

 これは死んだと思われた。否、誰しもが死んだと思っただろう。これで生きていたら不死身だと思わざるを得ない。だが、

 

「GaaaAA…! GaaaaaaaaAAAAAAAA!!!!」

 

「……!!!」

 

 一瞬痙攣のような動きが見えたと思ったら、瞬時に体が泥のようにくっつき復活する。

 復活した士郎は間髪入れずに再びイリヤスフィールめがけて襲いかかるが、

 

「えいっ」

 

 またもやリーゼリットに阻まれ、今度はハルバードの柄で遠くに飛ばされる。

 

「Ga…! GaaaaaaaAAAAAAA…」

 

 空中で体勢を直して床に着地し、またイリヤスフィールを一直線に直視する。

 

「Aaaa…Aaaaaaa…。…s、せ、いhaiぃ…!」

 

「…!!」

 

 イリヤスフィールは士郎の言ったことに僅かに体を震わせる。今士郎は間違いなく"聖杯"と言った。つまり、イリヤスフィールの中にある聖杯が目的ということだ。

 

「なん、なの…」

 

 呟くように、士郎だったようなそれに問いかける。だが、返ってくる応えは唸り声だけで何を言っているのか全くわからない。

 

「応えなさい…! あなたは一体、何がしたいのよ!!!」

 

「GaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!」

 

 イリヤスフィールの叫びを掻き消すかのように吠えた士郎は目を紅く煌めかせ、手を床に付けて獣のような構えをとる。

 そして、そのまま獣の如く襲いかかった士郎をリーゼリットが阻む。士郎はリーゼリットが邪魔だと認識したのか、先に倒そうとする。しかし、いくら姿が変わろうとも、ホムンクルスの中でも強いリーゼリットを圧倒できる筈もなく一方的にやられてばかりいる。が、傷ができたそばから瞬時に治るためリーゼリットも決定打をいれられない。

 

「Gaaa…」

 

 奈落の底から放つような呻き声、これを見たら百人中百人が異常だと思える士郎の変化。この場にいる全員が…否、数名以外は士郎の身に何が起こったのか理解できてない。

 

「…凛、小僧を止めるぞ」

 

 そんな中、冷静になったエミヤが動き出す。

 

「…! ちょっと。止めるって言っても、そもそも私何が起こっているのかさっぱりでどうしようもないんだけど」

 

 凛も比較的落ち着いているように見受けるが、目からは動揺が隠しきれていない。

 

「とはいえ、あのまま放置しておくわけにもいくまい。君はサポートを頼む。アレは私が対処しよう。幸い、あの状態でも身体能力に変わりはないようだからな」

 

 振り向かず、淡々と凛に指示する。凛はそれを聞いて目を怒らすように鋭くなる。

 

「…アーチャー、あなた何か知ってるわね」

 

 エミヤの体がピタリと静止する。まるで何かいけないものを見てしまったように。

 

「…何故そう思うのかね」

 

 それでも冷静さは失わずに質問する。

 

「あまり私をなめないで。あなた、なんでこんな状況なのに冷静でいられるのよ。

 それだけじゃないわ。あんた今対処するって言ってたわね。それってつまり、その方法を知っているってこと…なんで士郎があんなことになったのか知っているってことよね」

 

「…………」

 

 エミヤは背中を向けたまま応えない。それは、肯定しているも同然だった。

 

「…アーチャー、あれは一体なんなのよ…! どうして士郎はあんなことになっちゃったのよ…!!」

 

「………すまないが、今は教えられん。どうしても口を割りたいのであれば令呪で聞くがいい」

 

 凛の焦り声が聞こえてきた。だが、それでもエミヤは頑なに話そうとしない。令呪を使えというのも凛のプライドがそれを許さないということを判っておきながら言ったことだ。

 

「なんでよ…! あんた、まさか私が足手まといだとでも言いたいわけ…!?」

 

 言葉に怒気までが滲んできた。それでも何も話すつもりはないのか、依然として態度を変えるつもりはないようだ。だが、凛も何か言うまで待つつもりなのかエミヤの背中を睨んだまま視線を離そうとしない。

 エミヤはこれは何か言わねばならないなと一瞬だけ逡巡したのち、口を少しの間だけ開く。

 

「凛が信用できない、実力がないということはない。ただ、これを知るには君はまだ早い。

 …すまない。これは、我がマスターへのせめての恩情だ。それだけは判ってくれ」

 

「………そう。判ったわ」

 

 それだけで会話を切った凛はエミヤのいうように士郎を止めるため、宝石を取り出して構える。

 一応は理解してくれたということなのだろうが、これはエミヤへの信頼あってのことだろうと思われる。

 

「それじゃ、その対処法だけでも教えなさいよ。私にできることは最大限やるから」

 

「ああ…(すまない、凛。だが、君もいずれ知ることになるだろう)」

 

 エミヤは心の中で凛に謝り、剣を構える。

 

(今頃小僧の中では何が起こっているだろうか。早くアレを発動させねば、ここにいるもの全てが絶滅するぞ)

 

 士郎自身があの姿から戻るのを願いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「が…っ!!」

 

「ほーれほーれ、オレなんかに負けてどうすん、だッ!」

 

 士郎と『この世全ての悪(アンリマユ)』が戦い始めて十数分。意外にも士郎は苦戦を強いられていた。

 『この世全ての悪(アンリマユ)』の腕力はエミヤの筋力を投影してそのままの士郎と比べれば大分弱い。士郎の筋力をもってすれば赤子の手を捻るようなもの。だが、『この世全ての悪(アンリマユ)』の持つ短剣、あれが厄介だ。

 彼のもつ奇形な刃がついた短剣、『右歯噛咬(ザリチェ)』と『左歯噛咬(タルウィ)』。これにはソードブレイカーの性能があるらしく、筋力の関係上壊すことはできないものの、士郎の剣を絡め取りいなすことはできる。故に、士郎は思うように剣を振れないのだ。

 

「く、くそっ」

 

「ケケッ。いいぜ。もっと来いよ。オレから行くのめんどいから」

 

 士郎はもう一度剣を握りしめて飛びかかる。

 『この世全ての悪(アンリマユ)』は襲いかかってくる士郎の剣に自分の剣を当てて、クルリと刃の方向を逸らす。士郎からすると幽霊を斬ったのではと思わせるほど自然体に逸らされ、そのまま前のめりになったまま一瞬だけ放心する。

 そして、その隙に『この世全ての悪(アンリマユ)』は短剣を首めがけて振り下ろす。

 

「―!」

 

 ハッとなって跳びのき避ける。

 

「ハハッ。いいじゃねえか。さすがあのアーチャー相手にあそこまで戦えただけあるよ。こりゃ、最弱なオレには辛い仕事だな」

 

「…随分と余裕じゃねえか。おれに勝てるのかよ、そんなので」

 

「ん〜? ああまあ、どうだろうな」

 

 挑発するように煽るが、『この世全ての悪(アンリマユ)』は少しだけ唸っただけで乗ることもなく変に意地を張る様子も「うわっ!」ない。

 士郎はこうして戦っている時も態度を一切変えない彼を見て判ることがある。『この世全ての悪(アンリマユ)』、彼はまるで殺す気がないのだ。それは手を抜いているとか、人間が好きだからとかではなく、単純に面倒くさいのだろう。言動からもそれが滲み出ている。

 

「ま、でもこうして今有利なんだから勝てないことはないだろ、多分。ほれ、判ったらさっさとかかって来い」

 

 油断しているようで一切の油断もしていない『この世全ての悪(アンリマユ)』に士郎はどう戦うか悩む。

 

(…どうする。あいつは本当に大して強くない。けど、あの剣じゃおれの剣は通用しない)

 

 これでは負けることはなくとも、勝つこともできない。それはまずい話だ。一刻の猶予もない中、士郎は聖遺物を完全発動させなければいけない。さもなくば、表に出て来ようとしている聖杯がイリヤスフィールに宿る聖杯を奪わんとするからだ。

 

(考えろ…! 考えるんだ…! おれができることであいつに勝つ方法…)

 

 相手はこちらの攻撃を絡め取る。闇雲に突撃したとしても無駄だろう。 そう、剣をただ普通に使うだけでは。

 

(…! そうだ。剣を振ってダメなら、剣を飛ばすのはどうだ)

 

 エミヤと戦っていた時、最後の方で彼は剣を宙に投影して飛ばしていた。それができれば勝てるのではと思う。

 士郎は早速今持っている剣を消して集中する。

 

「お…?」

 

 投影する場所に複数の線を集めるようにイメージし、象り、そこへ魔力を置く。そして、

 

投影(トレース)開始(オン)!!」

 

 その一言を発した瞬間、宙に何本もの剣がまばらに投影される。

 

「はっはー、あのアーチャーがやっていた戦法だな? なるほど、確かにそれじゃオレの剣は通用しないな。お前がどれだけ早く飛ばせるか判らないけど、アイツ並みに剣を次々と飛ばせば、いくら絡め取ろうにもその間に着弾する」

 

 『この世全ての悪(アンリマユ)』は余裕なのか何も考えていないのか、ただ冷静に分析しているだけで焦りを一切見せない。

 士郎は投影した剣達の切っ先を『この世全ての悪(アンリマユ)』に向けるように動かす。

 

(よし…ここまでなら大丈夫だ。後は狙いを定めて…!)

 

「いい考えだ。伊達に正義の味方を目指してないな。これはオレも死ぬかも、なッ」

 

 そう無駄話をしている間にも、士郎は手を振りかざし剣を飛ばしてくる。

 

「……!!」

 

「おっとぉ! やっぱな、さすがにアイツほど速くは飛ばせねえか。そんな速さじゃ当たるもんも当たらねえぜ」

 

「ぐっ…! 投影(トレース)開始(オン)…!」

 

 だが、士郎が飛ばした剣はエミヤと比べたらかなり遅い。まだ慣れていない上にハッキリと飛ばすイメージができていないからだろう。そんな速度では簡単に避けられてしまう。

 

(くそっ、ダメだ。もっと速く、もっともっと…!)

 

 エミヤと戦った時を思い出し、士郎はもう一度剣を飛ばす。

 

「おっ、少しは速くなったじゃん!」

 

 それでも、まだ避けられる。士郎は休む暇もなく「投影(トレース)開始(オン)」と剣を出し続ける。

 

「ぬおっと! これはさすがに受けてばかりでいられなくなったな」

 

 そう言うと同時に、『この世全ての悪(アンリマユ)』は反撃を開始する。

 

「そーらよっと!」

 

 振りかざしてきた剣を士郎も瞬時に投影した剣で防ぐ。だが、

 

「ほれ」

 

「うわっ!」

 

 『この世全ての悪(アンリマユ)』は剣を横に引っ張りあげる。すると、士郎は腰から糸で引っ張られるような感覚とともに横へ倒れてしまう。

 

「そら、もういっちょ!」

 

「! させるか!」

 

 倒れた士郎に容赦なく剣を振るうも、士郎は『この世全ての悪(アンリマユ)』の横にとっさに剣を投影して飛ばす。

 

「チッ、そうそう簡単にはいかないだろうと思ってたけど、予想以上に粘るなお前。これはアイツも諦める訳だ」

 

 『この世全ての悪(アンリマユ)』飛んできた剣を後ろに跳んで避ける。

 

「はぁ、はぁ、はぁ(くそっ、これでもダメなんて。どうすれば…!)」

 

 剣を飛ばす戦法は良かった。だがそれでもまだ互角に持ち込めた程度で、有利でもなければ不利でもない。そして、そんな曖昧な境界線を保った戦いに終止符など打てるのだろうか。

 

「(でも、今はこれでやるしかない…!)投影(トレース)開始(オン)!」

 

「おいおい、まだそれやるのかよ。あんまり無理しない方がいいぞ。その魔術自体お前に負担をかけているんだからな」

 

 士郎が再び投影してのを見て『この世全ての悪(アンリマユ)』は急にそのようなことを言ってくる。ハッタリというわけでもないようで、どうやら本気で忠告している様子が感じられる。士郎の投影について何か知っているのだろうか。

 

「な、なんだよ急に…」

 

「言ったろ、オレはお前の味方だって。だから忠告してんだよ。

 そいつは本来ならお前が持てるような生半可な魔術じゃない。今でこそ聖杯(オレら)のおかげで魔力的な負担は無い。だけど、お前には、いやお前の魔術回路への負担は大きいままだ」

 

 その後に「例の聖遺物が聖杯の魔力に触れて少しだけ解放しているおかげで感じないですんでいるけどな」と剣を揺らしながら付け加え、話し続ける。

 

「お前のその投影魔術ってのは本来であれば正式な投影魔術じゃない。だからといって擬きとかじゃねえから安心しておけ。むしろ逆、それは最早投影魔術と言う名の一種の宝具、それも固有結界の類だ。

 …ああ、固有結界って何かってか? ほれ、あのアーチャーの宝具、あんな感じで自分の心象風景を映し出したりするもんだよ」

 

 一呼吸入れながら『この世全ての悪(アンリマユ)』の話は続く。

 

「お前はその固有結界にある物を"投影魔術として"引っ張り出しているものでしかない。つまり、お前の場合の投影魔術を使用するってことはサーヴァント達で言う宝具を使うのと同義なんだよ。んで、たかが人間、それも子供がそんな魔術を乱雑に扱っていていいと思う? 子供の未発達な脳に膨大な量のパソコンのデータを入れるようなもんだぜ。

 そんなの耐えられるわけがねえよ。良くて重度の障害を持つか、最悪脳が壊れて死ぬ」

 

 士郎は眼を見張る。胸を抑える。身体が震える。今まで自分の一部というように使っていたが、それも恵まれたが故のことだった。もしそうでなかったら死んでいたところだったと彼は言う。もしそうならば、このことをエミヤは知っているのだろうかと士郎は思う。

 

「ちなみに、あのアーチャーはこのことを知らねえ。けど、心のどっかではそのことに気づいているようでな。そのためか、あいつは知らず知らずの内にセーブしてんだ。他にも単純に本人の能力不足ってのもあるけどな。

 それで、お前の魔術回路は聖杯によって何本か作られた。といっても、お前は魔術の才能が貧しくてね。精々作れても十数本が限界だった。

 まあ、あの赤い嬢ちゃんのおかげで結構増えているようだが」

 

 士郎はそれを黙って聞く。『この世全ての悪(アンリマユ)』の言うことは今後重要になりそうだからだ。

 

「さて、もう一度聞くぜ。聖杯の魔力、そして神秘すら再現できる魔術。そんなものに十数本程度しかない魔術回路に子供の体が扱う。いくらあの聖遺物があっても耐えていられると思う?

 オレが言っているのはそこだ。だから忠告しておく。あまり無理な投影は止めておけ」

 

 指をさしてそう言う。

 士郎は眼を瞑って震える体を抑えて考える。彼が言っていることは間違いないだろう。つまり、下手すれば命を落としかねない。

 鼓動が早まる。今にも逃げ出したいくらいの恐怖が体を支配していく。この何もない空間がよりそれを際立たせた。

 だが、士郎は一度深呼吸すると眼を開ける。その眼は怯えてなどはいなかった。

 

(…そっか。おれは、本当に恵まれていたんだな。

 …ここまでおれは恵まれていたなら、それならなおさらおれは負けるわけには、いかない。

 だって、そうじゃなきゃ恵んでくれた人に失礼だ。応えて生きないとな)

 

 士郎は今まで自分を育ててくれた人、感謝しなければいけない人たちを思い出す。

 切嗣、桜、大河、凛、エミヤ、そしてアルトリア。全員が士郎をここまで成長させてくれた人達。全員が士郎の恩人だ。

 士郎は今後この恩人達のために生きなければいけない。絶対に正義の味方にならなければいけない。ならば、今は無理をしてでもこの場を乗りきらなければいけない。そう思うと、自然と体の震えが止まったのだ。

 

「…判った。けど、お前を倒すならおれにはこれしかない。だから、今は無理してでもこれで倒す!」

 

「ま、そうですよね~。判ってたこの展開。しょうがない、こっちも全力で抗いますか」

 

 また両者は構え、最初に士郎が剣を飛ばし、『この世全ての悪(アンリマユ)』が動き出す。

 相変わらず両者は拮抗したままだ。剣の速度が遅く簡単に回避されるが、相手も懐に入りきれずにいる。

 攻防も今までの英雄達の戦いと比べれば地味で質素な戦いだ。激しい一撃はなく、かといって決め細やかな技術も感じられない。

 

「ま~ったく、いつまでこんな泥試合よりも酷い戦いが続くんだか」

 

「そんなこと、言うくらいなら、さっさと、やられろよッ!」

 

 それに嫌気が差してきたのか、『この世全ての悪(アンリマユ)』がぼやき出す。

 

「だ~か~ら~、そうはいかないんだって。さすがのオレも上司の命令に背けないんだ。そこんとこ判ってくれ」

 

「こっちだって、りんたちが待ってんだ。邪魔してんじゃ、ねぇっ!!」

 

 士郎は避けることに夢中になってがら空きになった背中を直接剣をもって狙う。

 

「うぉっと! それ今関係なくない!? いや、そうでもない――とぉっ!」

 

 『この世全ての悪(アンリマユ)』は避けるが、今度は避けた先に剣が飛んでくる。それは一本ではなく何本も飛んできて『この世全ての悪(アンリマユ)』の足元に衝突する。

 それも間一髪ではあったが、避ける。だが、士郎の攻撃は止まない。その後も立て続けに剣を飛ばしては、隙を見て剣で直接切りかかる。

 

「うおおおおっ!!」

 

「あ~、こりゃ休む暇は与えてくれないって感じか。はぁ、めんどくさい」

 

 その後も、どちらかが倒れることなく戦いは続く。

 もうすでにあまり時間がない事を知らずに…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はここまで。
では、前書きで書いた通り、しばらくしたらまた会いましょう。




P.S
昨日ガチャを二十連して☆4すら出ずに落胆していたところ、マナプリで交換した呼符を使ったらメルトリリスが当たったという…(パッションリップの方が欲しかった)
なぜ、自分のところでは期間限定☆5は呼符の方が当たりやすいのだろうか…(石返せよこんにゃろう)
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