Fate/stay night 槍の騎士王と幼い正義の味方 作:ウェズン
ここでもう言っちゃいますが、ギルガメッシュ退場いたします。
さて、サービスシーンは期待しないように。
では、始まります。
「……!!! ア、アルトリアッ!!!!」
『
バーサーカーとの戦いが終わった筈なのにも関わらず、ずっと戻ってこなかったのはこういうことだったのか、とエミヤ目を見開いて驚き、凛はまさかあのランサーが、と信じられないようなものを見た表情でいる。
「シ、ロウ…」
その今にも消え入りそうなほどのかすれた声が耳に響いた士郎は目を剥いて顔を歪め叫ぶ。
「テメェ…!! よくもアルトリアをッ…!!!」
怒りを露わに剣を出して真正面から突撃しようとしているのを凛が必死に止める。
「バーサーカーと戦っていたのが目障りだった故にバーサーカー諸共始末しようとしたが、この女だったのでな。それで連れてきたが、そうか。そこの小僧が此奴のマスターか」
ギルガメッシュは品定めをするような目でアルトリアを舐め回すように眺める。それにも士郎は許せないと青筋を立てながら食ってかかろうとする。
「落ち着いて…! お願いだから…!」
だが、凛が必死に止めるためそれもできず、ただ睨みつけるしかできなかった。
「クックック。この女は後で我の好みにするとして、そうさな。それにもマスターはやはり邪魔だ」
ギルガメッシュは目線だけを士郎に向けると、急に『
「――――ッ! 『
これはまずいと思った瞬間、士郎たちを守るように盾が七枚重なって現れ、ギルガメッシュの宝具を全て防ぎきる。耳鳴りがしそうな鈍い金属音が鳴り響く。
「…! チッ。
その盾で士郎たちを護ったのはエミヤだ。士郎はその盾を見て、投影できるのは武器だけではなかったのか、と最早条件反射の勢いでその盾を解析をする。
「ふぅ。やはり魔力が十全以上あるというのは気分がいい。本来であれば出すのを戸惑うものでも簡単に出せる」
エミヤは宝具の雨が止むと盾を消す。
「さて、少しばかり不利ではあるが、まだどうとでもなる。諦めるには早い。
そのためにもまずは――ランサーを返してもらおうか、英雄王」
エミヤは少しだけ怒りが篭った目を向ける。士郎ほどではないとはいえ、エミヤも怒りに震えていた。
「ハッ、よほどこの女が大事か。揃って愚かな贋作者供よ。もとより、この女は我のものだ。多少姿形が変わっていようともな」
士郎はギルガメッシュの姿形が、というのがどういうことか気になるが、今はそんなことよりどうやってアルトリアを助けるべきかだ。
士郎は考えを巡らす。怒りを抑え、逸る気持ちを抑えつつ、どうすればアルトリアを助け出せるか考える。今、ギルガメッシュはまたエミヤと戦い始めた。今のところは互角に戦えているが、いつまで続くか判らない。あんな剣を見せつけられたのだ。あのサーヴァントには士郎やエミヤでも絶対に敵わないと判りきっている。
「…!」
倒すのは実質不可能。だが、
「あっ! ちょっ、ちょっと!」
士郎は少しだけ緩んだ隙に凛の腕から逃れる。
「おれは大丈夫だから! りんはそこにいてくれ!」
そうは言っても心配なので凛は追いかけようとするが、目の前に物凄い勢いで剣が飛んできた。ギルガメッシュのものだ。
飛んできた剣は地面をかなり抉っている。もし士郎を追って後一歩ほど前に出ていたら当たって凛の体内にある内臓がいくつか飛び散っていただろう。その状況を想像して凛は息を飲む。
こんなものが飛び交う場所に足を踏み入れるのは流石に無謀だ。凛は唇を噛みながらその場にとどまっている他なかった。
(確かにアイツは倒せない。あんな武器に対抗できるものなんておれでも、アーチャー師匠でも作ることはできないけど、それでもアルトリアだけでも助ければ…!)
士郎はギルガメッシュの流れ弾を避けながら慎重に近づく。ギルガメッシュはエミヤを相手にしているため、こちらに気づいていないようだ。見向きもしない。
(後少し…)
アルトリアまで後十数メートル。
(慎重に、慎重に…!)
後数メートルは近づきたい。ギルガメッシュに気取られないようになるべく近寄って剣を投擲しアルトリアを助けようとする。
(よし。後は…)
後はもう少しギルガメッシュの隙が見つかれば、と思ったら、
「雑種が、ふざけた真似をするなと言っただろう!!」
ギルガメッシュの目がギョロリと蛇の如く士郎を睨む。すると、宝具が士郎に向けて一本放たれた。「うわぁ!!」と目前まで迫って来たところで体を無理に捻って倒れこむようにして回避できたものの、どうやら気づいていないというのは誤りで、とっくに士郎が近寄っているのは気づいていたようだ。
「衛宮 士郎!! 何をやっている!!」
「うっ、ごめん!! アーチャー師匠!!」
何故士郎までここに来たのかと叱り、同時にあのまま殺されてしまっては流石にまずいとエミヤは焦り出す。「すぐに凛のところへ戻れ!」とエミヤは必死に叫ぶが、あの位置でそれが難しいのは一目瞭然だ。
「さて、我は貴様さえ殺せば用は何一つ無い。ついでだ、その魔力もいただくとするか」
ギルガメッシュは適当な剣を取り出す。だが、その剣も匠が打っただろう名剣というに相応しい輝きを放っている。
士郎は恐れずに手に地面のザラザラした感触を感じつつ投影を行う。
「
士郎は失敗してしまったものの、完全にダメになったとは思わなかった。むしろ、ここまで近づいたことでギルガメッシュは接近戦を余儀なくされるだろう。それは士郎にとって好都合だ。まだ剣の投擲が慣れていない士郎はなるべく接近戦で挑みたいと思っているからだ。
ギルガメッシュとしてはここまで来たところで簡単に倒せる、それよりもエミヤだと思っているようだ。それがただの慢心だとは判らずに。
「さて、貴様はどう死に様を晒すのだろうな、小僧!!」
ギルガメッシュは剣を容赦なく振るう。士郎はそれに地面を背に剣で受け止める。地面が僅かに沈む感触がある。
「ぐっ、ぐぐぅ…!」
受け止めたはいいのもの、かなりギリギリだ。ギルガメッシュはただ武器を飛ばすだけでのように見えるが、その実ある程度戦うには申し分のない筋力があるようだ。
「ハァッ!!」
「甘いわっ!」
ギルガメッシュが士郎をジリジリと押し込んでいると、その隙を狙ってエミヤがギルガメッシュまで一息に跳んで剣を振りかぶる。それをギルガメッシュは即座に宝物庫を開いて対処する。エミヤはそれを防ぐが剣の勢いに押し戻されてしまう。
「! うおおッ!!」
ほんの一瞬エミヤに気が向いた隙に士郎は一気に体を起こして押し返す。押し返した士郎はそのままギルガメッシュに斬りかかる。
「…! まだ抗うか…!」
「どこまでも足掻いてやる…! テメェを倒すまでなあッ!!」
「ほざけ…! 雑種ッ!!」
士郎とギルガメッシュは互いに武器を持ちぶつかり合う。白兵戦を極めた者からすれば滑稽な戦いではあるものの、互いに自身の誇りと想いを剣に乗せてぶつかり合う気迫は決して劣ることはない。
「チッ。無駄だと言っているだろう!!」
ギルガメッシュの一撃を体を転がして避けてから少し距離をとって士郎は息を整える。その内にエミヤも士郎と合流し、二人揃ってギルガメッシュと相対する。
「全く。随分と無茶なことをしてくれたな」
「ごめん。けどおれ居ても立っても居られなくて…」
「…まあ、気持ちは判らないでもない。いや、むしろ共感できるというべきか」
エミヤは士郎の軽率な行動に叱りつつも、それに理解を示してくれる。
「仕方ない。衛宮 士郎、次は私とお前で戦うぞ。ついて来れるな?」
「…! 当然だ!」
士郎はまた立ち上がる。エミヤと共闘できるというなら百人力だ。これならギルガメッシュといえどそうそうやられはしないだろう。
「…………ッ」
ギルガメッシュは再三立ち向かってくる二人を怒りの形相で睨み付ける。何故こうまで抗おうとするのか。勝てないと判っている筈なのに、あの剣を見せ、聖杯もアルトリアもこちらの手中だというのにだ。ギルガメッシュからすれば完全に理解の外としか思えない行動だ。
とにかく、向かってくるというのであれば容赦はしない。もとよりギルガメッシュとしても感じている。あの二人は天敵だと。
そうである以上生かしておくわけにはいかない。たかが雑種が自身の天敵などということはあってはならない、赦してはいけないからだ。
「おおおッ!!」
だが、二人の勢いは止まらない。こちらがどれだけの宝具を見せようとも、絶望を与えようとも、二人は何度だって立ち上がってくる。
「…ッ! 何故だ…! 何故、何故そこまで我に…! 歯向かえるというのだぁッ!!」
ギルガメッシュは徐々に押されていく。『
「ぐっ…! この我が、ここまで押し込まれるなど…!」
「お前は油断しすぎたんだよ…! お前はおれをただの子供だって思っていたんだろうけど、言っておくぞ…おれを…! ただの子供だなんて、思うなぁ!!」
「ぐぅッ…!!」
士郎はギルガメッシュが持つ剣を破壊する。最早完全に英霊と同等の筋力を得ている士郎はそのままギルガメッシュを押し込んでいく。
ギルガメッシュは今劣勢に立たされている。どちらか一方に攻撃を専念することはできず、しようとする度に士郎の剣が振るわれ、いつの間にか弓を持っているエミヤに邪魔をされるためままならない。
ギルガメッシュは青筋が徐々に立っていく。自分がここまで追い込まれているからというのもあるが、このままでは負けると考えてしまったからだ。
「おの、れッ…! おのれ…! おのれ、おのれ、おのれ、おのれおのれおのれおのれおのれおのれッ! おのれぇッ!!」
それは、それだけは自身のプライドが許さない。何が何でも士郎達を消し去る必要があった。
「ぐあっ…!」
ギルガメッシュは怒りが頂点にまで達したのか、士郎を渾身の力で弾き飛ばす。士郎は受け身をとってすぐに起き上がる。
「おのれ…! よもや、この我が貴様らに本気を出さねばならんとはなぁッ!!!!」
ギルガメッシュの怒りの叫びと共に今まで見たことがないくらいの数の『
「――
「
それに対し士郎達は背中を合わせて投影を行う。エミヤがギルガメッシュの武器と同じくらいの数を投影し、足りないところは士郎が補い、飛んでくる武器の嵐と同等の嵐を起こす。ただし、それはギルガメッシュとは風向きが真逆の嵐。よって、武器は全て相殺されていく。
ギルガメッシュはこれでも敵わないことに「雑種がぁ…!」と顔を更に歪める。かくなるうえはあの剣を出そうとさえ考える始末だ。
だが、
「…! 今だ!
「…!? 何を…!?」
士郎は新たに武器を四本投影し飛ばす。だが、それはギルガメッシュを狙わずその後ろに飛んでいく。ギルガメッシュは何故、と思った途端、後ろで鉄が断ち切れる音が鳴った。
バッと後ろを振り向いたギルガメッシュは目を見開く。そこには、薄暗い周囲を明るく照らす輝ける槍を携え、今にも宝具を全開に解放しようとしているアルトリアがいた。
もともと士郎はアルトリアを助け出そうとしていた。士郎達で勝てなくとも、それでもまだアルトリアなら勝てる可能性があると賭け、アルトリアを助けだしたかった。ギルガメッシュは士郎達に意識を向け過ぎて完全に隙を見せてしまったがために、それを許してしまったのだ。
「…ッ!!」
ギルガメッシュはまずいと思った。いくら鎧を着ても、あの一撃を受けきれるとは流石のギルガメッシュでも思えなかった。
すぐさま魔力の充電が終わるより前に素早く『
「――させるかッ!」
「何ッ!?」
鎖はアルトリアに巻きつこうとして、横から介入された凛の宝石により弾かれてしまった。
「小娘が…!」
もう間に合わない。アルトリアの魔力の充電は完了した。
「『
ギルガメッシュは咄嗟にあの剣を出すが、一歩及ばない。アルトリアの槍は収束された光を纏い、
「――
放たれた――最果てに届かんとする一条の光が、ギルガメッシュを飲み込む。
「―――おの、れぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
光はギルガメッシュの断末魔と共に天を目指し飛んでいく―――
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
一同は光が向かった先を見つめる。光が見えなくなった頃には太陽が山から覗かせていた。鳥の囀りも聞こえてくる。
辺りは静けさに支配されて行く。もう終わったのだと。その時、ふらりと士郎の体が揺れる。
「…ッ! ありがとう、アルトリア」
「いえ。お疲れ様です、シロウ」
そのまま重力に従って倒れようとしたところで、アルトリアが優しく受け止める。
「…シロウ。貴方はとても強くなられたのですね。…貴方が意識のない間、私はずっと貴方が戦う姿を見ていました」
「え…? 見て…いたのか?」
アルトリアはコクリと頷く。
「はい。私はその時奴に倒され意識を失っていました。私は貴方と契約しているため貴方の心象意識に入り込んだんです。
それで私は見ました。貴方がずっと自身の苦痛と苦悩に抗い、みんなを助けたいと戦っていたのを、ずっと…」
そこでアルトリアは士郎を抱き締める。
「…よく、よく頑張りました。貴方がマスターで本当に良かった。私にとって貴方は誇りです…!」
「アルトリア…」
ずっとアルトリアは士郎のことを見守っていた。だからこそ、士郎がどれほど苦しんでいたかを知っている。どれだけ必死にみんなを助けるために抗っていたのかを知っている。それにアルトリアは目一杯の賞賛を贈る。
士郎はそれが褒められたのはとても嬉しかった。何より、アルトリアに褒められたということが嬉しくて、思わず涙が出てしまいそうなほどだった。
「…終わったな」
「ええ。これでイレギュラーは去っていったってことになるのかしら」
エミヤは凛の下に行き凛を労う。
「如何に英雄王とはいえ、流石にあの一撃をくらえばひとたまりもないさ。もう安心してもいいだろう」
「そーね。はぁあ。疲れたー。早く帰って朝ご飯食べたい」
凛は危機は去っていったと判った途端にダラんと体をエミヤに預ける。
「全く。いくら危機が去ったとはいえまだ戦争は続いているのだぞ。そうだらけるな」
「そうは言っても今くらいいーじゃない。こっちだってあんたへの魔力供給で死にかけているんだからねー」
「…そういう割には元気そうだがな。ハァ、仕方ない。今回限りは見過ごそう」
「ふふ。ありがと」
エミヤはそう言ったのち、士郎たちの方を見る。
「ア、アルトリア…おれもう立てるから…」
「ダメです。今シロウは動いてはいけません」
アルトリアは士郎を甲斐甲斐しく抱き上げ、士郎は腕の中に収まっている。
「子供があれだけのことをしてまともに動いていいはずがありません。シロウはしばらく大人しくしてください」
「いやいや! だとしてもせめておんぶにしてほしいっていうか、これだとむ、胸が当たるというか…」
士郎は徐々に声を小さくしながらそう言う。アルトリアは赤子を抱き締めるような持ち方をしているために、士郎の身体全体にダイレクトに当たってしまっているのだ。その胸が。
「…? 最後の方だけ聞こえなかったのですが、なんと言ってのですか?」
そう言われあたふたと顔を赤らめながら「な、なんでもない!」と言って、仕方なくなすがままになる。
「さて…凛、私はまだ少し後片付けがある。ランサー達と先に帰ってくれないか」
「後片付けって、何をするの?」
「…なに、聖杯をな」
凛がそう訊くとエミヤは一瞬悲しそうな表情をして答える。
「…そう。それじゃ、私は先に戻るわ」
その表情からこれ以上理由を聞いてはならないことなのだろうと、エミヤから離れ士郎達の方へ行く。
「それじゃ、あんた達帰るわよー」
凛の呼びかけに士郎とアルトリアは返事を返し、一行は残るエミヤを置いて帰ろうとした。その時、
「……! テメ…!」
「そのまま帰れると思ったか、雑種供ッ!!!!」
いくつもの武器が襲ってきた。
「なッ…!?」
咄嗟にアルトリアが槍を出して一振りで弾く。
「テメェッ…! まだ…!」
士郎は目を剥いて驚く。そこにいたのは鎧がほとんど砕け上半身が裸のギルガメッシュがいた。身体は既に傷だらけでよく立てているなとその執念に敬意を表したくなるほどだ。手にはあの剣が煌々と紅く怪しく煌めいている。
それだけではない。ギルガメッシュの側には心臓を引き抜かれたイリヤスフィールの死体が置いてあった。どうやら心臓にあった聖杯から魔力を補充したようだ。
「逃げ果せると思うなよ…! 貴様らは何人たりとも逃さん…! 今ここで、まとめて始末してくれるわぁッ!!!」
「いかん…!!」
エミヤは焦り出す。ギルガメッシュが持つ剣にはすでに魔力が溜まっている。それも、アインツベルン城を破壊した威力などとは比べ物にならないほどだ。
ギルガメッシュはその剣を掲げる。
「死して報いよッ!!!! 『
刀身が繋ぎ目を境に交互に回転し出す。世界を滅ぼしかねんとするほどのエネルギーが凝縮、圧縮され解き放たれようとしていた。
直感的に判る。あれは、あれだけは無理だ。アルトリアの宝具でもっても相殺させることは不可能だ。
ゾッとする。命の危機を感じた。あれが放たれたら間違いなく死ぬ。この場にいる人、物関係なく全てを破壊し尽くすと予感できる。
(――まずい…!! あれだけは、あれだけは絶対に止めないと…!)
士郎は何かないかと思案するが、当然何も思い付く筈がない。このままではあっけなく倒される。いや、そんなものではすまない。塵一つ残っていればいい方だろう。そう思わせるほど絶大な気配が辺りを支配する。
ギルガメッシュの剣が振るわれる。誰しもが、ここまでかと思った瞬間、
「――――それじゃ、その聖杯を頂こうか、英雄王」
突如、背後からギルガメッシュの胸を貫き手が出てくる。
「!!?」
「なっ…!? きっ、さまは…!!」
「私もこの聖杯が欲しくてね。…英雄王には大変申し訳ないが、君が受肉した魔力もろとも頂くよ」
「貴様ッ…! 魔術…! ガフッ」
ギルガメッシュを貫いた手が引き抜かれていく。それと共にギルガメッシュは血を吐きながら倒れ、その手に吸収されていく。
士郎達は唖然としてそれを見ている他なかった。いつの間にか止めが刺され、呆気なく死んだギルガメッシュは止めを刺した者に吸収されこの世から姿を消す。
「…お前は…!」
士郎は震える瞳でその人物を写す。
「やあ、あの日以来だね。シロウ君に遠坂家当主とそのサーヴァント達」
ギルガメッシュに止めを刺した人物、それは魔術王だった。
「な、なんでお前がここに…!」
「私がここに来た理由かい? それなら至極簡単なことだ。私は頂きに来たんだよ。この聖杯を」
そう言っていつの間にか手に持っている聖杯を士郎達に見せる。
一同は目を見開く。聖杯が魔術王の手に渡ってしまった。とても最悪な事態だ。
「ハァッ!!」
「おっと」
エミヤが第一に斬りかかる。だが、斬れたのは魔術王の幻影だった。
「危ないなあ。まあ、そうしたくなる理由も判るけどね」
魔術王は悠々とまた姿を現す。
「…ッ!」
エミヤは歯を食い縛って魔術王を睨む。
「フフ…流石は未来から来た英霊だ。どうなるか予想がつくんだね。
だから私に聖杯が渡るのは危険と」
「ああ。特に貴様のような得体の知れないキャスターにそれを渡すわけにはいかないのでね」
「…得体が知れない、か。ふむ、ではこう言っておこう。安心していいよ。私は何もこれを使って世界を滅ぼそうなんて考えていないさ…」
エミヤはその言葉が嘘か本当か判断つかないでいる。どうも嘘を言っている様子はない。だが、相手は万能という奇跡を引き起こしたことがある人物だ。その底で何を考えているのか判らない。
「…それでも疑う姿勢は直らないか。まあ当然かな」
魔術王はそれでもいいか、とエミヤへの興味が失せたのか、視線をアルトリアに抱えられている士郎に向ける。士郎はその視線をなんだと見返す。
「…いいね。どうやら私の
「!? 思惑通り…! だって!?」
士郎はその言葉がどういう意味なのか気になる。
「うん。私は君に期待していたんだ。そして、君は私の期待通り…いやそれ以上かもしれないな。とても強くなってくれた」
「…それはどういう意味だ、魔術王」
アルトリアが槍を向けながら魔術王に聞く。アルトリアとしては疑問に思ったのだ。魔術王の今の言い方、その言い方からして魔術王は士郎が強くなることを望んでいたということになる。
それはおかしい。士郎は魔術王からすれば敵だ。なのに、その敵に塩を送るようなことをして魔術王はなにをしたいというのか。
「…私は、聖杯に興味はない。聖杯に期待するほど酔狂じゃないからね。聖杯を求めているのはあくまでも私のマスターさ」
魔術王は急にそのようなことを言う。
「もともと私は欲しいものも、叶えたい悲願もない。何せ、私は万能の存在になったからね。だからただ無いと言うよりは必要が無いと言った方がいいかな」
いつもの淡々とした口調で魔術王はそう言う。士郎達は別段それに驚くことはない。何せ、ここにいる全員が聖杯を求めているわけではないからだ。
「ただ、そんな私にもちょっとした願いが出てきた」
「…! 願いって…?」
誰がともなくそう訊く。それに魔術王は一呼吸おいてから言う。
「私の願いは一つ。私は、"答"を知りたいんだ」
士郎達は疑問符を浮かべる。魔術王は答えを知りたい、と言ったがそれはどんな答なのか。
「私はシロウ君ならその答を教えてくれるのではないかと思った。
これは聖杯でも叶えることはできない。いや、真に万能ならできないことはないのだろうけど、それでも聖杯で知った答えと、君から直接教えてくれた答えではまるで価値が違う。
私が知りたいのは真の答。聖杯では偽の答になってしまうだろう。それだけは嫌でね」
「…………」
士郎はやはり疑問符を浮かべる。魔術王が知りたい答を何故士郎が知っていると思っているのか、それすらも判らない。
「君たちは思っているだろうね。何故シロウ君が知っているのかと。それはまだ言えない。先入観を持たせるわけにはいかないからね。
さて、長くなってしまったけど、答を知るにはまだ早いだろう。私が求める答はシロウ君が私と全力で戦ったその先にある。それまでは私も君達と戦うための準備をしておくとするよ」
そう言って魔術王は後ろを振り向く。今この場で戦うつもりはないようだ。
「…ああ、そうそう。言っておこう。アサシンはすでに私が始末した。そしてセイバーは私達と同盟を組んでいる。だから彼らを探す必要はない。私の所へ来ればいいだけだからね」
「…ご親切にどうも」
最後にと急に振り向いた魔術王に一同はビクリとしたが、魔術王はただそれだけを言い残したあとどういたしまして、といなくなる。
いなくなったあと、残った士郎達はじっと立ち尽くしているだけだった。
「…帰ろう」
誰が言っただろうか。その言葉を合図に一同は衛宮邸へと歩き始める。それぞれで思案しながら。
◇
「~つっかれたー! ようやく帰ってこれたって感じ」
「…うん。やっぱ本物の家が一番落ち着くな」
それから士郎達が帰れたのは大分明るくなった頃だった。もう時間的にも7時を回っている頃だろう。
「さて。それでは君たちは休みたまえ。朝食は私が作ろう」
「! ええ、とても楽しみに待っています」
エミヤが食事の準備をすると聞いて真っ先にアルトリアが反応する。
「あんた料理とかできたんだ。家にいたときから掃除とか色々やってくれたけど、料理までできるなんてまるでお母さんみたいね」
「誰がお母さんだ。とにかく、君たちは座って待っているのだな。ああ、あと手洗いはしておくように」
本当に母親が言いそうな台詞を言い残してエミヤは台所へ向かう。
「…全く。あ〜あ、お腹減ったな〜」
凛はエミヤの朝食を待つらしく、居間へ向かう。
残った士郎を抱えているアルトリアも凛についていくのかと思いきや、
「あれ? どこに行くんだ?」
アルトリアは士郎を抱き抱えたまま居間には行かずに別のところへ向かう。
「どこと言われましても、士郎は大分お疲れですから一緒に湯船に浸かってから身体を洗って差し上げようと思ったのですが」
「………!?!?」
それはつまり、浴場へ行こうということだった。それが判った士郎は一瞬頭がフリーズした後顔を赤らめる。
「ちょ、ちょっと待ったぁ! どこにいこうとしているのさ!」
「ですから風呂に入ろうと」
「そうじゃなくて!」
士郎はアルトリアの腕の中でもがく。どうやらアルトリアはまた士郎と風呂に入ろうとしているようだ。
「りーん!! アルトリアが風呂に連れていこうとしているーーー!!」
士郎は必死になって凛に助けを求める。前回も助けてくれたのだから今度も、と思い凛に呼び掛けたものの、
「かってにすれば~」
というだらし気のない声が聞こえてくるだけだった。そうとう疲れているのだろう。その声からはもうどうにでもしろ、と心の声がはっきりと聞こえる。
士郎は嘘だろ、とがくりと項垂れ諦めるしかなかった。士郎も士郎で疲れているために抵抗もほとんど考えられないのだろう。
「では、一緒に入りましょうね、シロウ」
「…なんでさ」
その朝、思った通り士郎とアルトリアは一緒に風呂に入り諸に裸同士でくっついていたそうな。他にもハプニングはあったがこれ以上は二人の秘密だ。
◇
「…さて、本気で殺す気で来るんだよ。シロウ君」
今回はここまで。
すまない、ギルガメッシュ。こんな噛ませ犬ポジみたいな扱いになって。けど安心していいよ! こんな噛ませ犬ポジなギルは多分ここだけだから!
…え? どこだろうと噛ませ犬は嫌だって? そんなこと言ったって、ソロモンをラスボスにするには仕方なかっt(ジュ
ではまた次回で。