Fate/stay night 槍の騎士王と幼い正義の味方 作:ウェズン
今回はこんなタイトルではありますが、別段本家ほどの重さはありません。ていうか書けません。わかっていると思われますが。
なんで気軽に見てください。
では始まります。
あれから数日が経った。
その間、凛に士郎の中にある聖杯の話と何故ギルガメッシュがいたかの話をした。
それからは修行期間となった。無論、士郎の修行だ。
これから戦う相手は魔術王。ならば、万全の状態で挑むためにも士郎は聖杯の魔力を使いこなせるようにならなければいけない。そうでもしなければ負けるのは目に見えているからだ。
そうと決まったからには早速修行だ。士郎は自分の中にある聖杯を無理矢理全てを引き出して、それらを自身の魔力として扱う。だが、その強大な魔力を士郎の、大して本数も多くない魔力回路に全て流し込むのは至難の業だった。一歩間違えれば莫大な魔力が中から出てこようとして爆発しそうになったこともあったからだ。
士郎はこれを越えねばならない。無理矢理にでも聖杯の全てを引き出せねば、それは聖杯を扱うに相応しくないということになる。その為士郎は毎日死と隣り合わせな修行を続けた。
「…ぐっあぁッ…!」
「…今日はここまでだ」
痛みに悶え苦しむ士郎をエミヤは見下ろす。
修行の相手はやはりエミヤだった。魔力の操作とその投影となれば相手ができるのはエミヤしかいないからだ。
これ以上は危ないと思ったエミヤは終了を言い渡し、去っていく。
「…くそっ! なんでだ…! もう少しなのに…!」
士郎は痛む腕で歯を食い縛って道場の床を叩く。
聖杯の魔力を引き出すのはそうそう難しい話ではない。それは今までやっていたことだ。ただ、その魔力を全て通すことができないのだ。
よってエミヤから指示された修行内容は、士郎に聖杯の魔力を通しても大丈夫なように自身の魔力回路を強化しろというものだった。これ以上魔力回路を作るのは才能がいる。だから、全て通すには今ある魔力回路をより強固にしなければいけない。
そのようなことが可能なのか、と言われれば本来は不可能な話だし、前代未聞の試みだろう。だが、聖杯を宿す士郎なら話は別だ。聖杯の魔力でコーティングするように強化を施すことで本来以上の魔力を大量に流しても安全で丈夫な魔力回路に仕上げれる可能性がある。自身の特性と聖杯の力を知っているエミヤだからこそ考え付いた内容だ。
しかし、如何せんここで士郎の不器用さが出てきてしまっている。強化ができてもその侵入口が閉じてしまったり、かといって弱めたら全部を流せるだけの強度にできず、先ほどのような痛みに悶えることになった。この繰り返しだった。
「あ~あ。どうしたらいいんだろ」
少しすると痛みが引き、ごろりと大の字になって寝転がる。
前途多難ではあるが、それでも魔力回路の強化自体はできた。もともとできるかどうか半信半疑から始まったことなのだから、これはいい進歩と言えるだろう。
「どうやら難航しているようですね」
ふと顔に影が差した。
「…アルトリア」
「今日も欠かさず鍛錬お疲れ様です。これをどうぞ。凛からの差し入れです」
寝転がる士郎を覗き込んできたのはアルトリアだ。あの白と青の私服姿でバスケットを持って士郎の様子を見にきたようだ。
「ありがとう。そこに置いといていいよ」
少しだけ起き上がって応える。
アルトリアは言われた通り士郎の側に置くと、士郎の頭付近に座る。すると、
「! ア、アルトリア…?」
アルトリアは士郎の頭を自分の膝に置く。つまり膝枕をしたのだ。
「…シロウはいつも頑張っていますね。とても素晴らしいことだと思います」
アルトリアはそのまま士郎の頭を撫でる。
「…そりゃ、おれはまだまだ弱いし、正義の味方になれていないからな。もっと強くなって、もっと大きくなってみんなを護りたい。そのためにも修行は欠かせない」
アルトリアはそれを聞くとピタリと手の動きを止める。
「…? アルトリア?」
「シロウ…少しよろしいでしょうか」
急に真剣な顔になったアルトリアに士郎は戸惑うが、返事をして待つ。
「…シロウ。私は貴方が正義の味方になりたいと思うその気持ちは素晴らしいと思います。とても真似ができるようなことではありません。…ですから、私は心配、なのです」
アルトリアの表情に影が指す。
「私は…アーチャーがどのような人生を歩んできたのかを聞きました。だから、思うのです。正義の味方を目指すのなら、貴方もいつかアーチャーのような人生を送ることになるのではないかと」
士郎の頭を撫でていた手が震えだす。
「…シロウ。私は、貴方が思うような輝かしい人生を送ってはいません。私の人生はアーチャーと同じです。同じようにして王となって王として戦い、そして最期は…」
それ以上言うことはなかった。アルトリアは悔しそうに口を食いしばっている。
本当はこんなこと言うべきではないとアルトリア自身判っている。だが、仮に士郎もエミヤと同じような末路を辿った場合、計り知れない絶望感と喪失感が襲うだろう。そんなものを士郎に味あわせたくなどないのだ。
士郎は震えるアルトリアの手を握る。
「アルトリア…それでもおれは――」
「――判っています」
士郎が言いかけたところでアルトリアが遮る。
「貴方は…たとえ誰がなんと言おうとも変える気はないのでしょう。ですから、これだけは約束してください」
アルトリアは士郎を止めたい、それは本心だ。だが、それは不可能だと判っている。士郎は既に完膚なきまで叩き落とされたことがあるのだ。
一度それを経験し立ち上がった以上、士郎は最早止まることを知らない。どこまでも突き進むだろう、徐々に徐々に傷を増やしながら。
だから、アルトリアは士郎と約束を交わす。
「―――どうか、どうかせめても生きていて下さい」
ただ生きてほしいと。
「どれだけ傷つくことがあっても、助けれず落ち込んでも生きているのであれば、それでいいんです」
「……………」
士郎はそれに素直に返事はできなかった。正義の味方、そうである以上絶対に死なないなどあり得ない。事実、エミヤは若くして死んでしまっている。そんなエミヤの過去を知っているがゆえに、この約束を必ず守れるとは思えなかった。
それでもアルトリアは士郎が頷くまで納得しないだろう。だから、士郎は首を縦に振る。
「…約束、ですよ」
そう言うと士郎の頭を起こす。
「では、私は先に屋敷の方へ戻ります」
「……うん」
アルトリアは道場から出ていく。
士郎はまた床に寝転がる。そして少し後悔する。できもしない約束をしてしまったなと。
「………はぁ」
士郎は少し落ち込むが、仕方ないと起き上がって瞑想を始める。投影する物を瞬時にイメージできるよう訓練しているのだ。
前回の戦いでギルガメッシュの宝物庫から様々な武器を見ることができた。士郎はあれらを投影できればかなりの戦力になるだろうと思って瞑想を始め、ここ数日間は修行終わりに続けていた。
しかし、
「…あーくそっ! イメージがまとまらない!」
士郎は頭をかきむしる。先程のことが頭の片隅にちらついて集中できないのだ。
(…生きていて、か。そんなの、おれだってなるべくならそうしたいさ。けど、そんな生きることにしがみついていたら正義の味方になれるなんて思えない)
士郎が想像する正義の味方は自己犠牲あってのものだ。そういう考えのもと生きてきたのだから今更変えることもできないし、エミヤとの戦いでそう生きるべきだと確信している。
(…どうすればいいんだろ。正義の味方でありながら生きることができる道なんてあるのだろうか)
そんな都合の良い道が果たしてあるのか。答えは否だろう。正義の味方である以上死は免れない。エミヤがそれを証明している。
士郎はそこまで考えてからため息がでる。そんな死を待つだけのようなものになることが正しいことではないのは判っている。けど、士郎はその道を歩むと誓ったのだ。
黙々と頭の中でその悩みを繰り返し続ける。
◇
「え…明後日戦うって、それ本当かよ!?」
その日の夜、食事中唐突に凛からそんな話を聞いた。
「本当よ。流石にこれ以上時間はかけていられない。相手はキャスター、時間が経てばたつほど有利になるクラスなんだから。その中でも魔術王は特にね」
凛は士郎が作った食事を口に運びながらそう言う。
「それにしたって、おれまだ聖杯の魔力を使いこなしていないのに…」
「判っているわ。けど、これ以上時間をかけてより不利になるのはもっとまずい。
なら、せめても早く行動を開始しなきゃ」
凛が言っていることはもっともだ。相手はキャスタークラスの中でもトップクラスの魔術王。そんなサーヴァント相手にいつまでも時間をくれてやるわけにはいかない。
「だから明日で覚悟を決めなさい。
明日はフリーにするわ。修行等は一切無し。どこか出掛けるなりしなさい」
凛は空になった食器を重ねて台所に持っていく。その際凛は意味深長に頑張りなさい、と士郎にウィンクをしていく。
「…というわけだ。明日は好きに過ごすと良い」
凛のウィンクに士郎は首をかしげていると、霊体化していたエミヤも好きに遊んでこいと言った後、居間からいなくなる。
「……明日は自由にしてろ、か」
「そのようですね。どうしましょうか?」
残った士郎とアルトリアは何をしようかと考える。
(…そう、だな。折角なんだし、どうせならアルトリアと…)
折角今まで戦いか訓練かの日々だったのだ。たまの休みはアルトリアと交流を深めたいと士郎は思う。
「なあ、アルトリア」
「はい、なんでしょうか?」
どこかで美味しいものを食べてみたいとぶつぶつ呟いているアルトリアは士郎に呼ばれ目線を合わせる。
「明日、おれらでどこか行かないか?」
「……………」
(…………あれ?)
少しの沈黙。士郎は誘ってみてから気づいたが、これではまるでデートに誘ってないかと思い始める。年齢差があるので周囲からは判らないが。
そう思うと徐々に顔が熱くなってくる。
「あっ、いや! 無理なら無理って言って――」
「いいですね。行きましょう!」
士郎があたふたと慌て始めると、アルトリアは二つ返事で了承した。
「えっ。い、いいの?」
「ええ。折角のシロウからのお誘い、断る選択肢はありません」
士郎はその言葉が嬉しく赤くなった頬をかく。
「そ、そっか。それじゃどこに行こうか。お金はあるし、行きたいところとかある? って、まず何があるかも判らないか」
「いえ、その心配はありません。この時代にあるものは大体把握しています」
アルトリアはぐっと握った手を見せる。忘れがちではあったが、アルトリアたちサーヴァントは聖杯からこの時代の知識を得ている。どこに行きたいかくらいはすぐに思い付くだろう。
「そっか。それじゃどこに行きたい?」
士郎がそう聞くと、アルトリアは少しだけ考える仕草をしてからバイキングというものをしたいです、と言ってきた。
士郎は思わず吹いてしまう。普段からやたらと食事中おかわりの回数が多いアルトリアらしい選択だからだ。
「むっ、なんですかシロウ」
「いや、なんでもないよ。判った、それじゃ明日はバイキングできるレストランを探そうか」
バイキングと言っても種類はいくつかある。食べ物全てがバイキングで取るもの、一部のサラダやドリンクのみというのもある。恐らくアルトリアの言うバイキングは前者だろう。
士郎はそれがどこにあったかなと考えながら、今日の夜を過ごすのだった。
「ねえねえ、あれ確実にデートに誘っているわよね? ね?」
「…いや、どうだろうな。あれは完全にお互い無自覚だ。小僧の方は途中で気づいたようだがな」
「ふふふ。なんにせよ、計画通りね」
「(小僧はまるで凛の計画など気づいていなかったが)ああ。結果的にはな」
こっそりと部屋に戻るふりをして覗いていた凛はニマニマと小悪魔のような笑顔を浮かべていた。
◇
次の日、士郎達は昼頃冬木の街中に来ていた。無論、アルトリアと二人きりで。
(今日のりん、妙に機嫌がよかったな…なんでだ?)
二人は妙に明るい表情の凛に留守を頼み外に出て早速、手を繋いで街を目指していた。
(…まあいっか。それよりも、昨日調べた感じだとこの先だよな)
士郎は昨日調べた事を思い出しながら道を選ぶ。
「こっちだよ」
「はい」
士郎はアルトリアを誘導しつつ、少しだけ周囲から聞こえる声に耳を傾ける。すると、すっげー美人だとか綺麗な人が歩いているとか手を繋いでいる子は子供か弟か、など有名人でもやって来たのかというようなざわめき声が耳に入ってくる。
(…予想はしていたけど、やっぱり目立つなあ)
それは仕方ないことだろう。事実アルトリアは背の高い外国人モデル体型の美人だ。更にいうなら、アルトリアからは神性と似たようなカリスマ性を感じさせる。誰しも一度は振り向いて拝みたくなってしまうというものだ。
(…そう思うとやっぱり外に出なくて良かったんだな)
まだ聖杯戦争が始まったばかりの頃は霊体化ができないアルトリアを目立たせないように行動していたが、それは正解だったんだなと士郎は今更ながら思う。
こんなに目立っては次の日噂になっている可能性がとても高い。そうなってしまえば、たちまち情報を嗅ぎ付けた他のマスターたちに奇襲を仕掛けられるところだった。
今現在は奇襲を仕掛けてくるマスターもサーヴァントもいない。いるのはじっと柳道寺で待っているキャスターとセイバーのみ。それ以外はこちらの陣営だ。
これほど安全な日は今までの聖杯戦争でも中々ないだろう。出掛けることができるのは今しかない。
「…よし、着いたな」
そう言って士郎達が足を止めた場所は、とてもレトロな木造の店。とても雰囲気が良く食事をする場としてはとてもいいだろう。
「……あの、つかぬことをお聞きますが、シロウ」
アルトリアはどこか不安そうにその店を眺める。それもそのはずだ。なぜなら、アルトリアはバイキングができるレストランに行きたがっていた。なのに、着いた場所は、
「この店ではバイキングができるのでしょうか」
ただの喫茶店だったからだ。
「…その、ごめん。昨日調べてみたんだけど、バイキングができるレストランは一軒だけあったんだ。けど、そこはこの前謎の爆発が起こって閉店したんだって」
「……………」
謎の爆発。それは十中八九サーヴァントの仕業だろう。まさか、こうも運悪く一軒しかないものが消えてなくなるとは思いもよらなかった。
ただ、それならそれで他のレストランに連れていけばいいものを、何故喫茶店にしたのか。
「もちろん、他のレストランも考えたよ。けど、店長がいまだに意識不明で開店できなかったり、店員のほとんどが体調不良だとかで店がほとんど閉じちゃってて…」
これもサーヴァント絡みだろう。恐らくこれは魔術王の仕業だ。レストランに限らず、大体の店舗は今日は閉店の所が多いだろう。向こうも本番に備えているだろうから。
「…それで、代わりといっちゃなんだけど、ここの店で出してくれる料理は旨いって聞いて選んだんだ。
その、アルトリアの期待を裏切っちゃって悪いけど」
士郎は気まずそうに声が小さくなる。アルトリアは唖然としていた。楽しみにしていた士郎とのバイキングができないことがショックだったようだ。
とはいえ、これは仕方ない。聖杯戦争による被害は毎度凄まじい。本当ならこの町全てが更地になっていてもおかしくないのだ。そんな中生き残っていたのはある意味奇跡といえる。
それに、アルトリアとしてはバイキングを期待していたのは当然だが、何より士郎と心行くまで食事をしたいというのが本心だ。アルトリアはこれがとても貴重な日だということが判っているのだから。
「…そうですか。判りました…入りましょう」
それでも意気消沈しているのは否めない。そんなにショックだったのかと士郎は申し訳なさでいっぱいだった。
二人は暗い雰囲気のまま喫茶店、お洒落な英語でアーネンエルベと書かれている看板が掛かっている店を潜っていく。
「はふっ! はふっ、んぐっんぐっ。あむあむ、ガツガツ」
「…………」
入ってから小一時間が経った頃、アルトリアは落ち込んでいたのが嘘のように頼んだ料理を次々と豪快に頬張る。士郎はそれを呆然と眺めて、頼んだジュースをちびちびと飲んでいた。
「…お腹空いてたの?」
士郎がそう聞くと、はいこのときのために空かしておきました、と口に料理を運びながら応える。
「ご注文はまだありますか? お客さん」
「あっ、えっと、ジュース同じのお願いします」
やたらと特徴的な話し方で士郎を訪ねてくるネコのような士郎より小さいそれは注文を聞くとかしこまりました、と言ってカウンターの奥に消えていく。
(…何だろう、あの店員。普通に接しているけど、どう見ても人間じゃない…よな?)
突っ込みどころ満載の店員に動揺するが、他の客は何故か疑問を持っている感じはないので、これが普通なのだろう。
(…初めてここに入ったけど、結構良い店だな。料理も旨いし)
ここは喫茶店と言うわりにはメニューが豊富で値段もお手頃だ。おかげでアルトリアはかなり機嫌が良くなった。
ちなみに、士郎が持ち歩いているお金は大河のお父さんが毎月支援してくれる生活費の余りなどを少しずつ貯め集めたものだ。
士郎の性格もあってか、お金は今まで使うことがほぼなかったために大量にある。といっても、十数万しかないのでこれ以上アルトリアが食べ続けてはまずい。人一人が隠れれそうなほど大量に重ねられた皿に追加がくる。
「な、なあ、アルトリア。もうそろそろ終わりにしないか?」
「むっ、そういえばずっと食べてばかりでしたね。そろそろ終わりにしましょう」
そう言ってくれたので、士郎はほっと胸を撫で下ろした。ではこれを最後にします、とアルトリアはデザートのアイスを食べ始める。
「……………」
見通しが甘かった。士郎はもっと早く止めるべきだったと後悔する。
あの後、デザートのアイスは少しで終わるだろうと思われたが、そんなことは全くなくまたデザートだけで幾十皿も積み上げた。
おかげで財布の中身は今まであった分の四分の一しかない。
「ふう。たくさん食べました」
満足そうにお腹を叩くアルトリア。その腹は膨れているが、どう見てもあれだけの量が全部入ったという大きさではない。一体残りはどこへ流れたのか。
(…まあいっか。いつ使うかも判らないでずっと貯めてばっかりだったし。たまには大量に使いきるのも大切だよね)
それに、後数万はあるのでまだ物を買う分には問題ないだろう。
「次はどこへ行きましょうか?」
とってもご機嫌になったアルトリアは楽しくなってきたのか次はどこに行くか嬉々と訪ねる。
「あー、えーと、次はショッピングモールに行こう。色々と売っているし、何か買っていこっか」
「はい!」
また二人は手を繋ぐと歩き出す。
「おお。これは、凄い」
アルトリアは初めて入ることになった大型デパートに感嘆の声をもらす。
「それじゃ、何から見ていこうか」
暗にここで何が買いたいか、とアルトリアに訪ねる。するとアルトリアはそれぞれの階で何があるのか大まかに書かれた掲示板を睨んで悩む。
現代の知識はあっても、やはり体験してみない限りどういうものか一切想像できないものなのだろう。
「…そんなに悩むなら一個づつ見ていく?」
「! よろしいのですか?」
「うん。おれも久しぶりに来たからどうせなら全部見たいなって思っていたしね」
「でしたら是非よろしくお願いします!」
士郎が許可を出せばアルトリアはとても喜び、早速側にある食品売り場から見始める。
「おお。いろんな食材がありますね」
(今日の夕飯どうしようかな。あっあれ安い)
一通り回れば次へと移動する。
「ほっ、ほっ、やっ。むぅ、なかなか難しいですね。シロウ、百円をもう一枚お願いします!」
(ゲーセンとかほとんど行ったことないなあ)
ある程度楽しむとまた次へ、
「シロウにはこの服がお似合いですね」
「…なあ、おれを着せ替え人形にしないでくれっていうかなんで子供用サイズばっかり選んできているのさ」
「…その、私に合うサイズですと男物ばかりで…」
二人の時間を満喫する。
「あの。この人形…」
「え。これ欲しいの?」
「は、はい。その、とても可憐で…」
アルトリアが持ってきた人形はライオンの人形。それもかなりデフォルメチックで可愛らしい人形だ。
アルトリアはその人形をどこか恥ずかしそうに士郎に差し出す。士郎はアルトリアが選んだものが意外でぱちくりとしていたが、
「…うん、判った。買おっか」
「! 本当ですか!?」
よほど嬉しいのか目を輝かせる。
(アルトリアってこうしてみると結構子供っぽいというか、なんかまだ大人になりきれてない感じだな)
普段戦う姿ばかりを見ていた士郎はその様子がとても新鮮に感じた。
「…かわいい、な」
「? なにか言いました?」
「いや、なんでもないよ」
士郎はどこか嬉しそうにその人形をレジに持っていくのだった。
◇
あれからしばらく、夕陽が沈もうとする頃には二人はいくつか袋を持って帰ろうとしていた。
「今日は楽しかったですね」
「うん」
二人は横から赤橙色の光を浴びながら改修工事が行われ、ほとんどが修復されたあの橋を渡る。
「……………」
帰る途中、士郎は夕陽を見つつ考え込んでいた。
結果的に、これはほとんどデートと言っていいだろう。ならば、今ここで想いを伝えるべきか否か。
(…どうあっても、これはアルトリアには邪魔でしかないんだろうな)
士郎はあの花の魔術師と名乗る男の言葉を思い出す。彼はアルトリアをとても責任感の強い人と言っていた。ならば、士郎の想いはアルトリアにとってまた新たな負担となる可能性が高い。自分の恋心が想い人にとって負担となるなど死んでも嫌だろう。
(このまま、言わないで隠すべきなのかな)
「シロウ? 先程からどうされました?」
アルトリアに呼ばれはっとなってなんでもない、と慌てぎみに返す。するとアルトリアはそうですか、とフワッとしたどこか少女の面影を残しているような微笑みを見せた。
(…いや、やっぱり言おう。もうどうなってもいいから言うべきだ)
士郎はアルトリアの顔を見て思った。やはり、どうあってもアルトリアが好きだということを覆うことはできないのだ。彼女の大人なのに残っているあどけなさ、戦うときの凛々しい表情、今日の買い物でも見せてくれた嬉しそうに微笑む笑顔。そのどれもが幼い士郎を刺激し、恋してやまないほどの想いを芽吹かせた。
士郎はいずれアルトリアと別れないといけないのは判っている。けど、それでもこの想いだけはしっかり伝えたい。
「…なあ、アルトリア。少しいいか」
顔を引き締め、立ち止まって呼び掛ける。
「はい。なんでしょうか?」
アルトリアは士郎が真剣な表情をしているのを見てどうしたのだろうかと立ち止まる。
「アルトリア、おれさ…おれは―――アルトリアのことが、好きだ」
少しだけ言い淀みはしたが、好きだとはっきり伝えることはできた。士郎は言ったと相手の反応を待つ。
「―――――」
アルトリアからすれば突然の告白。そのためか、一瞬息が止まったかのように静止した。
「――えっ? えっと、シロウ、それはその、好きというのは…」
「もちろん、アルトリアを女の人として好きなんだ、おれは」
予想通りの反応に迷いなくはっきりと言う。そんな純粋無垢な想いを一直線に伝えた士郎にアルトリアは顔を伏せると、どこか悲しげな表情になる。
「…シロウ、ですがそれは――」
「判っているよ。おれたちは、いつか別れなきゃいけない。そんなのは判ってる。けど! おれは、おれは好きなんだアルトリアのことが!」
士郎の真剣な眼差しに射抜かれる。
士郎はこれで全て言い切った。あとはアルトリアが返事をして終わりだ。
アルトリアは俯いている。表情は伺いしれないが、どこか悪い雰囲気は無いように思えた。むしろ夕陽も相まって良い雰囲気といえる。アルトリアは伺いたまま少しだけ戸惑いと躊躇を見せた後、口を開く。
「…すみません、シロウ。貴方の想いに私は、私は応えられ、ません」
今回はここまでです。
これで残すは予定五話。ようやく終わりも近くなって来ました。ここまで見てくださった方々には感謝を伝えます。あともう少しですのでお付き合いの方よろしくお願いします。