Fate/stay night 槍の騎士王と幼い正義の味方   作:ウェズン

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どうも、ウェズンです。
Fate/Apocrypha第22話見た感想、
「…………やっば、カルナかっこよすぎね、強すぎね」
でした。やっぱりカルナはFateで一番好きなキャラです。
では始まります。


第三十夜-最終決戦、開幕-

「っ! セイバー…!」

 

「シロウ、貴方は下がって」

 

 一方、士郎はセイバーが現れたことで戦闘体勢に入るが、アルトリアに止められる。

 

「…久方に会ったな。ランサー」

 

「ええ、そうですね、セイバー」

 

 アルトリアは武器を構える。

 

「あの時、貴殿の槍に我が剣は負けた。だが、二度も負けるとは思わない方がいい」

 

「判っています。あの時、貴方はまだ真剣ではなかった。恐らく、様子見として令呪で縛られていたのでしょう」

 

「その通りだ。アーチャーもすまない。俺はあの時本気を出せていなかった」

 

 セイバーはエミヤに向き直す。

 

「…話し合いはここまでにしよう。俺の役目はここで貴殿たちを仕留めること。

 貴殿たちは既に俺を知っている。ならば、名乗ることに躊躇いは要らない――」

 

 ゆっくりと大剣をエミヤとアルトリアに向けて構え直す。すると、

 

「ネーデルランドの遍歴騎士、ジークフリート。推して参る!!」

 

 セイバー、ジークフリートは二人のサーヴァントに襲いかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――以上、これが私の考える方針だ。何か異論があるかい」

 

「まさか。彼の魔術王が考えたことなのだから異論など有ろうか」

 

 柳道寺の居間で三人の男が話し合っていた。

 

「しかし、あの少年と戦わせて欲しいとは」

 

「意外、かな?」

 

「いや失敬。貴方ほどの偉大なる魔術師殿が一人の少年を気にかけるなど思いもしなかったものでね」

 

「フフ…あの少年は特別だよ。なに、君も対峙してみれば判るさ」

 

「…そうですか。ではその時を楽しみにしましょう」

 

 アトラムは魔術王の底を読もうとしているかのように睨み合う。

 

「いつまでも話している余裕は無いぞ。もう敵は山門にいるセイバーと交戦したようだ」

 

 マリスビリーが言うように魔力のぶつかり合いが感じられる。間違いなくサーヴァント同士が戦っているのだろう。

 

「来たね。予想通りだ」

 

「予想もなにも、君の千里眼で見えたのだから確実なことだろう」

 

 それもそうか、魔術王は乾いた笑いをする。

 

「さて、では見たついでにこれも言っておこう。――彼らは、アーチャーの陣営を置いてこちらに来る」

 

「…ほう。何もかも思い通りということか」

 

 マリスビリーの言葉に、そんなことはないさ、と冗談を言っているのかいないのか判らない返事をする。

 

「今回の戦争で初めて判ったことだけど、私の千里眼にも限度がある。その証拠に、未だシロウ君の未来は見えない」

 

 魔術王は今一度士郎の未来を見ようとするが、やはり砂嵐状態で見れない。

 

「…どういうこと何だろうな」

 

「さあ。それはさすがの私でも判らない」

 

「お前が判らないというなら誰にも判らないな」

 

「少し買い被りすぎてない? いつの時代にも上には上がいるものさ」

 

「…お前より上の魔術師がいるなど考えたくもないないが」

 

 そう言ってマリスビリーは額を押さえる。マリスビリーは魔術王こそが魔術師の頂点であってほしいと思う。これ以上のインフレはごめんだということだろう。

 

「まあ、それはよしとしよう。

 マリスビリー、私はそろそろ結界の中で待機しておくよ」

 

 魔術王は立ち上がる。それに判ったとだけ返事すると、魔力の粒子となって消える。

 

(…魔術王ソロモン。やはり侮るわけにはいかないな)

 

 残った二人のマスターの内アトラムはそのようなことを考える。彼は魔術王から底知れない圧巻を感じた。先程睨みあったとき、こちらが底を読もうとしているというのに、何故だかこちらが何もかも読まれそうになった。

 引き込まれるかのような威圧に思わず令呪でセイバーを呼び出してしまいそうだった。

 

(…恐らく、奴は私が考えていることを見透かしている。これは、下手に出るべきではないな)

 

 アトラムは少し後悔する。これはとんでもない人物を味方につけてしまったなと。

 

(まあいい。聖杯さえ手に入れば何も問題はない)

 

 とにかく、今は潜伏しておく時と変に行動はしないよう心がける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハアッ!!」

 

「くっ…!」

 

 ジークフリートの剣が容赦なく降り下ろされる。エミヤはそれを二本の剣で受け止める。だが、そこにジークフリートは更なる追い撃ちを仕掛ける。あの夜見せたジークフリートとは段違いの重さ、速さが感じられる。

 エミヤはジークフリートの剣を紙一重で受け流し、反撃に出るも、剣は鎧に阻まれるばかりで傷一つ入らない。

 そうして相手の攻撃を鎧で受け止めるとその隙を狙ってまた剣を降り下ろす。

 

「…!」

 

 だが、剣は横から雪崩のように入ってきた槍に止められる。

 

「ッ!!」

 

 アルトリアはそのままジークフリートを奥に押し返す。そして、一息で距離を詰めて槍で突く。

 ジークフリートは凄まじい速さで突撃してくる槍を剣で弾くが、続けてくる目にも止まらない速さの二連撃に顔と体を掠め、血が滴る。

 

「…やはり貫くか。どうやら、あの時真剣ではなかったのは貴殿もということか」

 

「……………」

 

 槍は鎧を貫きジークフリートに血を出させた。アルトリアの槍はジークフリートの竜の鎧を貫けるだけの威力を持つようだ。

 前回は共に全力ではなかったが、今回は枷となるものはない。お互い最大出力で戦える。

 その事に喜びを見出だす訳ではないが、遠慮無しに戦えるのであれば思い残すことは無いだろう。

 

「ハアッ!!」

 

 また剣と槍が交差する。アルトリアは全力で突撃するが、そのままの槍ではやはり致命傷となることはない。ジークフリートは相手の槍を剣と鎧両方を使って巧いこと捌く。

 

「避けろ! ランサー!」

 

 エミヤが叫ぶとアルトリアはその場から飛び退く。すると、エミヤが放った矢がジークフリートに命中する。命中と同時に爆発し鎧を僅かに貫き、血が出る。

 

「…!!」

 

 ジークフリートはエミヤの思いにもよらぬ威力に一旦下がるが、アルトリアがそれを許さない。

 

「くっ…! このままでは不味いか」

 

 アルトリアの猛攻にギリギリながら防いでいる。

 現在、こちらはかなり有利だ。敵はジークフリートだけで魔術王が助けに来る気配はない。このままなら多少時間はかかりそうだが、ジークフリートを倒せそうだ。

 だが、それで良いのかと凛は思った。凛は少し変に思っている。何故敵はジークフリートだけ出してきたのか。ジークフリートだってニーベルゲンの歌に出てくる主人公で大英雄だ。ならば、魔術王とジークフリート二人がかりならこちらを圧倒することだって可能だ。それをわざわざしないわけとは一体…。

 

「…まさか」

 

 凛は一つの可能性に思い至った。それは、ジークフリートなどいなくともこちらを全員倒せると、そう言えるだけの準備が既に整っているのではないか、ということ。

 唇を噛む。予想できていたことだ。それでも、まだ隙はあるだろうと思っていた。だが、その望みは消えた。ならば今するべきことは、

 

「…士郎。少しいいかしら」

 

「! どうしたの?」

 

 戦いを必死に見守っていた士郎は振り向く。

 

「――ここは私達に任せて、あなた達は先に行って」

 

「! なっ、りん! なに言って――」

 

「いいから早く行きなさい!」

 

「なっ…なんで…」

 

「…おかしいでしょ。ここにセイバー一人だけなんて。キャスターはきっとこの先で万全の状態で構えている。ならこんなところで時間食ってられないわ」

 

 凛が今するべきことは、士郎達を先に行かせること。もともと魔術王に対抗できるのは士郎達のみで今回の対抗策でもある。自分達が行ったところで足手まといになるだろう。ならいつまでもここで足止めされてないで先に行かせた方がいい。

 だが、そうすると残った凛達はジークフリートを相手にしなければいけないが。

 

(…相手は大英雄ジークフリート。ランサーの協力無しで勝てるかどうか)

 

 凛は考える。ジークフリート、その逸話は知っている。故に、弱点も今判った。それと同時にエミヤの能力なら弱点をつくことも可能だ。

 それでも、勝てるかどうかは五分五分になると予測できる。

 

(…いいえ。勝てるかどうかじゃない。ここで勝たなきゃ…!)

 

 だが、それで不安になんて思ってはいられない。何故ならば勝たないといけないのだ。今自分にできることを最大限にこなして勝つしかないのだ。そうでなければここへ来た意味が無い。

 

「…私のことは心配要らないわ。だから先に行って。お願い」

 

「…うん。判ったよ。けど、約束してくれ。絶対に生きててくれるって!」

 

 士郎は凛の表情を見て承諾した。

 そして、士郎の約束に凛は口端を曲げて、

 

「当然よっ!!」

 

 力強く頷いた。

 それを見た士郎は凛はもう大丈夫だと、ランサーを呼んで先に行く。

 

「…止めないのね」

 

「…させてはくれないと判断した」

 

 思いの外、あっさりと士郎を抱えたアルトリアはジークフリートの後方へと行けた。そのまま士郎達は柳道寺の門をくぐり抜けると同時に消える。あの先からが魔術王のいる結界内の入り口なのだろう。

 

「さて、凛。君の判断は正しい。私も同じことを考えていたところだ」

 

「ええ。準備はいい、アーチャー? 相手はジークフリートだけど」

 

「フッ。君は一体誰に言っているのかな? 私は君のサーヴァントだ。ならば――負ける通りはない」

 

 赤い主従はお互い不適な笑みで見合う。

 

「…そーね。あんたは私のサーヴァント。なら、絶対に勝ってくれるわよね」

 

「ああ。当然だ」

 

 エミヤは弓を消す。相手は近接武器。ならばこちらも合わせるべきだろう。エミヤは剣を投影しようとして、

 

「待って」

 

 凛に呼び止められる。

 

「何かな、凛――」

 

「――令呪を以て命じる。必ず勝ちなさい」

 

 エミヤが凛に振り向こうとしたら、唐突に令呪による命令が送られる。

 

「――!」

 

「重ねて命じる。必ず勝ちなさい」

 

 そして、それは一度ではなく、

 

「重ねて命じる。…必ず勝って、戻るわよ!」

 

 今まで使うことが無かった三画全てだ。

 

「フッ。了解だ、凛」

 

 エミヤは力強く返事をしたら、改めてジークフリートと向き合う。

 

「……最期の会話は終わったか」

 

「これを最期になどするつもりはない。何せ、戻ってこいとの命令なのでね――!」

 

「……!」

 

 エミヤから大量の魔力が放出される。何が起こるのか判らないジークフリートは剣を構えて警戒する。

 

「君の事は知っている。ドイツより伝わる大英雄にして竜殺し。それほどの大物の相手が私で勤まるかはわからない。

 ―――だからこそ、こちらも出しうる力全てを出させてもらう…!

 ―――I am the bone of my sword.(体は剣で出来ている)

 

「…!」

 

 凛は初めて聞くエミヤの詠唱に驚く。

 

Steel is my body, and fire is my blood.(血潮は鉄で、心は硝子)

 I have created over a thousand blades.(幾たびの戦場を越えて不敗)

 Unknown to Death.(ただの一度も敗走はなく)

 Nor known to Life.(ただの一度も理解されない)

 

 何故なら、エミヤが行おうとしているのは、魔術師の詠唱と同じだからだ。内容はまるで聞いたことがないが、それだけは判る。

 

Have withstood pain to create many weapons.(彼の者は常に独り剣の丘で勝利に酔う)

 Yet, those hands will never hold anything.(故に、その生涯に意味はなく)

 

 ジークフリートはただその言葉をじっと聞いている。この隙に斬りかかるつもりはないようだ。

 

So as I pray,(その体は)―――」

 

 そして、最後の一節が締め括られる。

 

「―――UNLIMITED BLADE WORKS.(きっと剣で出来ていた)

 

「……!」

 

 凛は突然襲いかかってきた炎に目を閉じる。だが、熱は感じられない。そっと目を開ける。すると、

 

「…!! これって…」

 

 凛は目の前に広がる世界を見渡す。この風景を変える魔術は初めて見るが、その名は聞いたことがある。

 

「固有結界…! 魔法に近いと言われている大魔術の一つ…」

 

 何故アーチャーがこのような魔術を…。凛はそう疑問に思った。だが、答えはすぐに出た。いや、もうある程度考えられていたことだ。

 弓兵がちょっとした魔術を扱うのはまだ理解できるが、こんなキャスターでなければできないような大魔術ができる。それはつまり、

 

「…そう。あなた本当は、魔術師だったのね」

 

 誰にも聞こえないように呟く。凛は今ある想像ができた。そして、その想像通りなら、

 

(そっか…今まで半信半疑に思っていたけど、そういうことね)

 

 凛はエミヤの背中を見ながら確信したと同時に改めて敵を見る。

 

「…さて、舞台は整った。今の私はそうそうやられることはないぞ」

 

「…これは、お前の心象風景か。…なるほど、志半ばで死に絶えていったということか」

 

「ああ。まあ、後悔はないがな。

 無駄話はここまでにしよう。今の私は気分がいい。令呪による魔力が三画もあるお陰で幾分か強化された。そして、今の私なら、これが可能だ…」

 

 エミヤは目を閉じ集中力を高めてから投影を始める。バチリと手から魔力が感じられる。 徐々に魔力は大きく膨らみ、大量の魔力を放出し、剣を形成する。

 出すのは二本の剣。ただし、今までの中華刀ではなく、ある同じ剣を二本。それは、

 

「…!」

 

「あの剣は…」

 

「…フッ。やはり紛い物か」

 

 エミヤが出した二本の剣。それは光輝く聖剣、その中でも随一の力を有する星の聖剣。その名も、

 

「『約束されし勝利の剣(エクスカリバー)』。私が出しうる中で最高の剣だ。まあ、偽物だがね」

 

「…素晴らしい剣だ」

 

 ジークフリートはその剣の輝きに思わず感嘆の声をもらす。

 

「彼の大英雄に誉められるとは。私の投影も捨てたものじゃないようだな」

 

「…謙遜する必要はない。その剣は確かに偽物だ。だが、そこに込めた想いは本物だろう」

 

 淡々とした口調にお世辞といったものは感じられない。本心で言っているのだろう。

 エミヤは思わず口元が緩むが、すぐに引き締める。

 

「さあ、そろそろ始めよう」

 

「…ああ」

 

 あの夜からできた奇妙な因縁に決着をつけるべく、お互い構える。武器はそれぞれ魔剣と聖剣。ぶつかり合う運命と言っていい剣を構える。

 そして、両者共に正義の味方を目指し、志半ばで死に絶えた者。

 お互い相手に不足無し。今、まさに―――

 

「……!!!」

 

 衝突する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわっ!」

 

 少し時間は戻り、先に魔術王のもとへと向かった士郎達。

 士郎は柳道寺の門を潜った瞬間、目映い光が夜に馴れた目もあってか刺激が強く目を瞑る。

 徐々に光は収まっていき、目を開けて周囲を見る。そこは間違いなく魔術王の結界の中だ。もともと殺風景だったであろう世界に鮮やかな色をつけたかのような草原に、空には太陽の役割を果たす光の輪が見える。

 

「やあ、こうして会うのは三度目だね」

 

「…!!」

 

 抱えられていた状態から解放してもらうと、唐突にその声は聞こえた。

 

「…キャスター」

 

 玉座を背景に、白髪を風に揺すられながら飾り気無しに佇むその姿には神秘的なものを感じる。

 

「ん、いい目をしている。どうやら何か心変わりがあったようだね。それが何か、は聞かないでおこう」

 

 魔術王は士郎の眼を見る。

 

「フフフ。どうやら、私の想像以上に強くなったようだ。これは嬉しい誤算だね」

 

「…何が嬉しいんだよ」

 

「それはもう少しすれば判ることさ」

 

 相変わらず魔術王には掴み所が見当たらない。のらりくらりと避けられる。

 

「さあ、ここまで来たからには、決着をつけに来たのだろう?」

 

「当然だ。ここで勝って、こんな戦争おわらしてやる」

 

 知らず知らず語尾が強まる。後少しというところまで来たからには、絶対に勝つつもりなのだろう。

 

「…うん。どうやら以前の君とは大分変わったようだ。以前のような臆病なところは感じられない。つまり、君は正しく正義の味方の道を歩んでいるということだ」

 

 魔術王は顎に手を当て考える素振りを見せる。

 

「素晴らしい成長、素晴らしい希望、素晴らしい信念。君はどこまで高みを目指すのだろうな。今から楽しみで仕方ないよ」

 

 僅かに興奮しているようだ。声には熱意が感じられる。だが、それはすぐに潜めることになる。

 

「―――まあ、殺し合うのだからその先は見れないんだけどね」

 

 瞬間、魔術王から殺気が溢れ出す。今まで青かった空が赤く暗く染まる。

 魔術師とは思えない鋭利な殺気。視線だけで殺しかねない眼。冷徹な微笑み。これが彼の本性なのだろう。

 士郎は恐怖心を煽られながらも反射的に構える。

 

「――我はソロモン。イスラエルの王であり、全ての魔神を統括している者」

 

 魔術王から黒い霧が出てくる。

 

「…! なんだ」

 

 黒い霧は徐々に濃さを増していく。

 

「これは…」

 

 そして、霧は一ヶ所に集まり形を成していく。

 

「私のことは遠坂の者から聞いているだろう。ならば、私が出そうとしているものも想像できる筈だよ。

 さあ、まず君の相手をするのは――彼だ」

 

 その姿は、ネコの頭に人間とカエルの手が合わさったような上半身に、巨大な蜘蛛を取り付けたかのような異形の姿。怪物のような姿はまさしく悪魔と言うに相応しいだろう。

 

「―――我が名はバアル。序列一に座する者なり」

 

 そして、意外なことに会話もできるようだ。

 

「さて、まずは小手調べだ。彼を倒して――」

 

 そう言うが否や、魔神バアルは一瞬にして断たれる。

 

「…まだ合図は出していないのに」

 

「貴方のやり方に付き合う必要などない」

 

 アルトリアは瞬間移動したかのように動き、バアルの上半身と下半身を別ける。士郎は一瞬の出来事に目を白黒としていた。

 魔術王は切り裂かれたバアルを見下ろす。体はピクリとも動かない。どうやら、体を切り裂かれただけではなく、魔神の核となるものも一緒に切り裂かれたようだ。

 

「甘く見るな、魔術王。貴様のことだ、私達のことは監視でもしていただろう。ならば、私の実力もわかっているはずだ」

 

 槍の先端を突きつける。

 

「それもそうか。判った。君は一体の魔神では相手にならないようだ」

 

 また黒い霧が出てくる。それも、今度は一体ではない。

 

「お次は三体だよ。

 さあ、おいで――ブエル、ボティス、アスモダイ」

 

 魔神が黒い霧より形成される。

 一体はライオンの頸にヤギの脚が五本も生えた悪魔というよりは妖怪と言った方がそれらしい悪魔。

 もう一体は左側のほとんどが複数の蛇になっている目の無い角が生えた剣士。

 そして最後の一体は、人間の体に牛と羊が混ざったかのような頭と先端が鋭利な針となっている蛇の尻尾を取り付けた姿に黒く醜い形の槍を持った、これまた黒く醜い竜に乗った竜騎士というような姿。

 計三体の魔神が召喚された。

 

「―――我はブエル。序列十に座する者なり」

 

「―――我はボティス。序列十七に座する者なり」

 

「―――我が名はアスモダイ。序列三十二に座する王なり!」

 

「…この三体は強いよ。特に、アスモダイはね」

 

 簡単に説明する。どうやら、本当にバアルは様子見だったのだろう。

 

「…!」

 

 三体の魔神が一斉に襲いかかる。まずは剣士のボティスが蛇の体を伸ばし拘束しようとする。アルトリアは瞬時に反応、蛇の体を切り裂く。それと同時に、剣が振り下ろされる。すぐさま体勢を変えると、槍で守る。その隙に妖怪のようなブエルと竜騎士のようなアスモダイが左右から狙う。

 アルトリアはそれに後ろに引いて回避する。すると、アルトリアが引いたことで崩れたボティスにアスモダイの一撃が当たり、身体が別れる。

 

「………!」

 

「…一体目」

 

 ボティスが倒れるのを見届けるとアルトリアはアスモダイに目をつける。先に一番強いと言われているものを倒した方がいいと考えたからだ。

 アスモダイが襲いかかってくる。凄まじい勢いだ。あのヘラクレスにも勝るとも劣らない勢いだ。

 アルトリアはアスモダイが大きく振りかぶったのをギリギリの所で回避して、カウンターを決める。本体と思われる竜に乗ったアスモダイの首が断たれる。

 

「……!」

 

「二体目」

 

 アルトリアは槍に付いた血を振り払って最後の一体を仕留めようとしたら、

 

「!? なっ…!」

 

 魔神バアル(・・・・・)が突然背後から襲いかかる。

 

「くっ…! 先程倒したはず…!」

 

 咄嗟に振り向いて槍で護るが、何故先程切り裂いたはずの身体が戻って動いているのか。

 士郎も驚いた目でバアルを見ていた。一体どうしてなのかと周囲を見渡すと、ブエルが死んだアスモダイに近づいているのが見えた。よく見れば、ブエルに有ったヤギの脚が減っている。

 

「…! あいつかっ!」

 

 ブエルはアスモダイにヤギの足を当てると、ブエルから脚は切り離されアスモダイに吸収される。するとどういうことか、切り裂かれたアスモダイの首が生えて甦った。

 士郎はこの一連を見ると走り出す。アスモダイがまたアルトリアに襲いかかっていったら、士郎はブエルに投影した剣を飛ばす。

 

「…っ」

 

「ガッハァァアアアァァァァァ…!! イタイイタイイタイ。ナ、オス、ナオス、ナオスナオスナオスナオスナオレナオレナオレナオレ」

 

 剣はまっすぐ飛んでいってブエルに直撃する。だが、ブエルに突き刺さってできた傷はみるみると消えていった。そして、標的をアルトリアから士郎に切り替えて大口を開けて大声を上げながら襲いかかってくる。

 一種の恐怖映像を見ているようだ。士郎はそんなことを思いながらブエルの突撃を避ける。

 士郎はもう一度剣を投影するが、今度は避けていく。歩くことを覚えたばかりの赤子のようなたどたどしい動きなのに、俊敏に動いて士郎に近づく。士郎は剣を大量に飛ばすも、尽く避けられる。

 剣を飛ばしてばかりではダメだと思い、今度は接近戦を仕掛ける。

 

「くっ…! シロウ!」

 

 アルトリアも二体の魔神に手間取る。

 先程のように瞬殺といきたいが、また甦られてはキリがない。それに、この二体、特にアスモダイは徹底して乗せている主人を護ろうと小刻みに動くのだ。高性能な機動力を持った竜のおかげで槍が当たらない。

 

「うぐっ…!」

 

 それに、バアルも油断できない。下半身による蜘蛛で機動力を補い、上半身による怪力を振りかぶってくる。

 アルトリアは槍と鎧で凌ぎながら魔神の攻撃を裁き、自身はドゥン・スタリオンを呼んで機動力を上げる。

 

「ふむ。これでは決定打に欠けるか…さて、どうしようかな」

 

 魔術王は士郎達が苦戦しているのを面白そうに笑いながら観ている。

 

(機動力に関しては魔神の中でも右に出るものはいないアスモダイに、怪力無双を誇るバアル、今は死んだままだけど戦闘技術は一品のボティス、そしてそれらを援護するブエル。なかなかいい組み合わせだとは思うけど、やっぱり一歩及ばないといったところか。

 …おや、シロウ君も乗せたか)

 

 戦況はどんどん変化していく。アルトリアは、投影した剣ごと食われそうになった士郎を間一髪服のドゥン・スタリオンに乗せて駆ける。その後を追いかけるアスモダイとバアルに士郎は迎撃を試みる。その隙に、ブエルはボティスに近づいていく。

 

(…やっぱりもう一体出すべきかな。あんまり出すと疲れるから嫌だけど、そんなこと言ってられないしね)

 

 どうしても決定打に欠けるために魔術王はもう一体の魔神を召喚することにした。黒い霧が出る。

 

「さ、おいでバティン」

 

 ペットでも呼ぶかのような感覚で新しい魔神を呼ぶ。呼ばれたバティンの姿は、上半身は屈強な人間の体で下半身は青い馬になっている、所謂ケンタウロスだ。また、特徴として胸の中央に大きな宝石が埋め込まれている。

 バティンは魔術王に戦うよう命令される。すると、

 

「…っ!?」

 

 バティンはいつの間にか士郎たちの前にいた。

 あまりにも唐突に現れたため、士郎たちが乗るドゥン・スタリオンは暴れてしまう。アルトリアはそれを抑えると、バティンと向き合う。

 

(…突然現れた。今のは瞬間移動?)

 

 追いかけていたアスモダイ達も追いつき挟まれる形になる。後方で控えているブエルを除けば四対一、甘くない相手。

 

(…離れたところにいるあいつが一番重要、だと思う。あいつは死んだあいつらを生き返らせていた。けど、多分だけど無限にってわけじゃない)

 

 士郎はブエルを見る。ブエルにはヤギの脚が五本あったが、今は二本になっている。

 予想は当たっていると思われる。アスモダイを甦らせる時も脚の一本がなくなった。できる回数は限られている。

 士郎は早速それをアルトリアに伝える。アルトリアはそれを聞くと一回頷き、同時に槍を構える。

 

「…そういうことですか。なら、話は簡単です――」

 

「…!」

 

 槍に光が集まってくる。

 

「シロウ! 掴まっていてください!!」

 

 アルトリアがそう叫んだ瞬間に、助走も無しに一息で天高く飛び上がる。

 何をするのか察した魔術王は防護壁を自身の周囲に張り備える。魔神達は各々飛び上がり、アルトリアを追いかける。

 アルトリアは魔神達が追いかけてきているのを尻目に、飛び上がれるだけ上がりきる。そして、

 

「あの再生が外部によるものなら…! まとめて倒します!! ――最果てより光を放て…其は空を裂き、地を繋ぐ! 嵐の錨!! ――『最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)』!!」

 

 聖槍を突き立てながら突進していき、

 

「……!」

 

「……!」

 

「……!」

 

「……!」

 

「……!」

 

 魔神たちを全てその光で包み込んだ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はここまで。
ソロモンとの戦闘開始です。あと、分かる通り魔神“柱”ではありません。なるべく史実通りに近づけた姿にいたしました。
では、またいつか。
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